初めまして。タニコウです。
思い付きで書きました。いつまで続くかの予定は未定です。
拙文ですので、誤字脱字等あると思いますが温かい目で見てくださると幸いです。
#1 入学式
ここは府中にある『中央トレセン学園』。4月を迎えて少し経った今日は、新入生が各々の夢を抱えて学園の敷居を跨ぐ初めての日。
一際大きな体育館にて現在行われている入学式。輝かしい笑顔を浮かべるウマ娘や逆に緊張で強張った顔を浮かべるウマ娘の新入生を職員や参加人数こそ少ないが参列している在校生が温かい目で見守るかのようにして行われる筈だった入学式。
それが今どんな状況かというと、
「「「「……………」」」」
まるでお通夜のように冷えた空気を醸し出していた。
全員の視線が集まるのは、正面の壇上から先程下りて悠々と歩いている一人の少女だった。少女の見た目は、明るい茶髪に前髪が一束だけ白くなっている。目はまるでサファイアを嵌め込んだかのように綺麗な蒼い瞳をしている。そして、身長はかなり小柄な所謂、幼児体型であった。
ここまで聞くと、ここ『中央トレセン学園』の幼い理事長で有名な秋川 やよい女史を思い浮かべた者が多いことだろう。
ただ、件のやよいはと言うと、
「納得…やはり、こうなってしまったか…」
体育館の脇に用意された椅子に項垂れるように座りながら眉間に手を添えて天を見上げていた。
「さ、流石に私は予想出来ませんでしたよ…理事長…」
天を仰ぐやよいの横で、苦笑いを浮かべながらそう呟いた全身緑の服装で揃えた黒髪のスーパーウーマンは、理事長秘書こと駿川 たづな女史その人である。
そう、壇上の少女はこの学園の理事長ではない。ここで壇上の少女が登壇してからの事を話すとしよう。
――――――――――
遡ること数分前、状況は新入生の入学式と同時に行われる、新人トレーナーや職員の新任者の紹介での場のことだった。
「○○トレーナー、ありがとうございました。続いては―――」
理事長秘書のたづなの声で会は進行していた。名前を呼ばれた新任者は、登壇して自己紹介などをする至って普通のものだった。
この女が呼ばれるまでは。
「△△教官ありがとうございました。続いては、新任トレーナーの秋川 遥トレーナー。よろしくお願いします」
たづなの言葉にやよいとよく似た少女――秋川 遥が立つ。その姿を見た者からざわざわと騒めきが広がった。この騒めき自体は言わずもがな理事長と瓜二つな容姿に、理事長と同じ苗字。これらが表すことは馬鹿でも分かることだろう。
ただ、遥が壇上に立った瞬間に騒めきの声質が大きく変わった。その理由は、彼女の服装だった。
本来であれば、新しいスーツに身を包み、これまた新品の革靴を鳴らして登壇する。その筈だったし、先程までの新任者達はそうしていた。
だが、この女だけは違った。真っ白な布地にデカデカと前には「昼寝ラブ♡」、後ろには「怠惰に生きたい!」と見事までの達筆で書かれたパッと見ただけで二回りは大きいと思わせる程のダボダボな半袖シャツに高校生の頃に使っていただろうと思われるジャージの短パンを履いて、革靴ではなくサンダルをぱたぱたと鳴らして登壇したのだった。
そんな彼女の姿に観衆が騒つくのは当然の結果だと言っても問題ないだろう。
一部を除く全ての者が困惑する中、そんなの知ったことか。と、言わんばかりに遥は話し始めた。
「えーっと、今紹介に預かった秋川 遥でーす。学園での立ち位置はー、ふゎー、えーっと、トレーナーと、生活指導とー、担当が少ない間はー、面倒くさいことに教官もやらされることになりましたー。三つほどいらない役職を押し付けられましたー」
欠伸混じりにカンペを態々持ち上げてガン見し、愚痴をこぼしながら話し始めた遥。殆どの生徒がドン引きし、教師の大半は「やらかしやがって」と天を仰いでいる。とある生徒は青筋を立て、やよいはまだ余裕があるのか笑みを浮かべている。その口元が若干引くついている気がしないでもないが、きっと気のせいなのだろう。既に問題点だらけなのだが、やよい的にはまだ想定内だったのだ。
「えーっと、後は今後の抱負と新入生に向けての一言かー。抱負はー、仕事を出来るだけ少なくするようにやよちゃ「姉上ッ!」やよい理事長を説得して業務をゼロにすることでーす。新入生に伝えたいことはー、やよい理事長に生徒指導を押し付けられたのでー、問題を起こしてわたしのお昼寝やゲームする時間を減らさないでねー。もし問題を起こしたら覚悟しといてねー♪わたしの話はおわりでーす」
そう言って、遥が足早に立ち去ろうとした時のことだった。
――ゾワリ
体育館にいる遥以外の者が同時に感じた強烈な殺気。それは、体育館の後ろ側、在校生の中等部3年生がいる辺りだった。そこにいたのは、覆面を被ったウマ娘――エルコンドルパサーの顔色が急激に悪化し、高笑いが似合いそうな一流のウマ娘――キングヘイローも顔色が蒼を通り越して真っ白になっていた。そんな二人に挟まれる形で殺気が放たれてる原因がいた。ニコニコと笑顔を浮かべながら頬に手を添えて遥を見つめるアメリカから来た大和撫子な栗毛のウマ娘ことグラスワンダーがいた。
ニコニコと浮かべる口元とは対照的に額には青筋が何本も立ち、耳はきつく絞られ、尻尾は天を衝くように逆立っていた。そんなグラスワンダーは小さく、だが、その声は静まり返った体育館で綺麗に響き渡った。
「何を言ってるのかしら~?ハルちゃん?」
この言葉からグラスワンダーと遥は既知の仲であることは察しが付くだろう。
諸君はこんな言葉をご存じだろうか?
――『親しき中にも礼儀あり』
グラスワンダーは遥が
マイクに「何でグラス怒ってるんだろう」などと戯けたことを抜かしながら、壇上に掲げられた日本を代表する日の丸国旗に礼もすることなく壇上から下りて行ったのだった。当然、グラスワンダーからの殺気は増すのだった。
―――――――――――
そんなことがあり、見事、お通夜ムードを作り上げたバカは、自身のために用意された椅子にぱたぱたと鳴らしながら戻ると、椅子の下に置いてあった二つの物を取り出した。
「「「「…………………………」」」」
それは、黒い目隠し――アイマスクと縦長のクッション――抱き枕だった。この時、式場の参加者の心の声は一致していた。
『何で、あんな圧を掛けられて暢気に寝る準備してんの!? それに、今は式中なんですけど!?』
そんな彼らの疑問の一つは遥の行動で解消した。遥がアイマスクをするために長い髪の毛を掻き分けて、ヒトミミを出した時にそれは見えた。
それは、シリコン製の耳栓だった。これのお陰でグラスワンダーの怒りの言葉が聞こえなかったのだろう。遥は、周囲の視線やら何やらを一切気にせずにアイマスクを付けると、抱き枕を抱き締めて目を閉じる。
そのまま、数秒経つと静かな体育館には彼女の安らかな寝息のみが聞こえるのだった。そして、入学式は進んでいく。
お通夜ムードのまま。
因みに、遥が耳栓を露わにした時や寝付いた時にグラスワンダーから放たれる殺気はドンドンと増えていき、式中は生きた心地がしなかったと新入生の演歌が上手いあほの子は語った。