遅れました。と言うか難産。レース描写難しすぎるっぴ。気付いたら文量が二倍になってるし。
正直、これが現在の僕の限界です。色々思うところがあると思いますがあたたかい目で見てくださると幸いです。
では、どうぞ。
――目の前にあるゲートが開く。いつもは、トレーナーさんの指示でバ群に呑まれて好きなように走れない。
――でも、今日は……今日からは違う。
――バ郡から抜け出して先頭に立つと同時に開ける視界。前から押し寄せる逆風。視界全部に広がる景色。
――そう、これが――
「先頭の景色……!」
――自分の顔が笑みを浮かべているのがわかる。それ程までに高揚しているのがわかる。前に誰もいない、私だけの世界。
――私が今出せる全力を出そうと脚をより早く動かして強く地面を蹴る。そうする度に、移り行く景色の切り替わる速度が上がっていく。
――どれだけ時間が経ったのか、私には分からない。でも、一つだけ言えることがある。今の私は――
「絶対に、『先頭の景色は譲らない』っ………!」
スキル発動『逃亡者』
領域発動『先頭の景色は譲らない!』
世界が夕暮れの平原に切り替わる。
――――――
「はは……凄いね、コレは…わたしも予想外だよ」
「おいおい、ウソだろ……どんだけ速くなんだよ」
芝2000mの模擬レースが始まってから大体四分の一程の道程が走破されたのを見届ける遥と沖野だったが、二人の視線は未だに先頭で加速を続けるサイレンススズカへと向けられていた。
「ねぇ、ミスタートレーナー」
「ん?どうした?シービー」
「いやね、アタシはもっと走っていたいと思ってね。大体、後八年くらい」
「そうか。調整は俺に任せな」
「へぇ、反対しないんだ」
「当たり前だ。俺はこんなんでもトレーナーなんでな。…………それにしても、どうした?そんなにサイレンススズカにでも興味を持ったのか?」
沖野の言葉にミスターシービーは、沖野を胡散臭そうに見つめてからこう言った。
「分かってる癖に良く聞くね。確かにスズカとやりあうのも楽しそうだ。でも、それと同じくらい。グラス――いや、グラスだけじゃないね。早く、チームアークトゥルスのメンバーとやりあいたいよ」
「取り敢えず、二ヶ月後の模擬レースが本当に楽しみだよ」そう言ったミスターシービーの顔は正に三冠の称号を手にした強者の顔をしていた。
そんな時だった。
「グラスがそろそろ来る頃だよ」
遥の呟きと同時にレースは動き出す。
――――――
――先頭を走るスズカ先輩を見る。後ろ姿からでも分かる程に楽しそうに走っている。
――スズカ先輩をマークするのはもう無理。ならば、次にマークするのはセイちゃんかマックイーンさんでしょう。
――ですが、セイちゃんはスズカさんのペースに合わせることでハイペースな運びをしているから、恐らく一度中段に沈む筈。であれば、マックイーンさんに絞るべきでしょう。
グラスワンダーは、メジロマックイーンの斜め後ろにポジションを取り、その時を待つ。
ここで、現在の順位を見ていこう。先頭はぶっちぎりの一人旅中のサイレンススズカ。二番手が大きく離れてサイレンススズカのペースに乱されないように、かつ自分が勝てるギリギリの速度まで上げてレース(サイレンススズカを除く)をコントロールしているセイウンスカイ、二バ身ほど離れて三番手にメジロマックイーンがおり、その斜め後ろにグラスワンダー。
そこから、一バ身離れてこのハイペースなレースに付いていけないダイワスカーレットとウオッカが歯を食いしばって必死に根性で喰らい付いていく。最後方にて冷静に脚を溜めるスペシャルウィークとなっている。
1000mを通過した時に、事態が動く。
――やはり、予想通りセイちゃんが一度下がり始めましたね。さて、スタミナがあるマックイーンさんが後少しでスパートを掛ける筈ですね。
グラスワンダーは冷静に周囲を観察して考えながら、マークに付いているメジロマックイーンを視界の端から溢さないようにする。
垂れたセイウンスカイに変わってメジロマックイーンが二番手、グラスワンダーが三番手となり、徐々にメジロマックイーンが加速を始める。
――そろそろですね。ですが、恐らくそろそろ来る筈でしょう。最後尾で脚を溜めていたスペちゃんが。
グラスワンダーがそう考えると同時に後ろから圧倒的な存在感が迫ってくる。スペシャルウィークだ。
――残り800mですね。そろそろ私もトリに行きましょうか~。
グラスワンダーは、第四コーナー手前で加速を始め、そのまま止まることなく速度を上げ続ける。
スキル発動『アンストッパブル』
第四コーナーにかかると同時にスパートを掛ける。コーナーでは軽やかなステップを踏むことで息を付き体力を回復させる。
スキル発動『円弧のマエストロ』
更に、回復した体力分を使いきる勢いで激しい足取りで内ラチギリギリを攻めるように走り抜けることで急激に加速する。
スキル発動『弧線のプロフェッサー』
スキル発動『技巧派』
視界の端にメジロマックイーンの姿を捉えたまま、前傾姿勢で内側から抜け出す。
スキル発動『スピードスター』
スキル発動『鍔迫り合い』
――うふふ、一番は私のものですよ~
グラスワンダーから酷く底冷えするような気配が、前方に放たれ前を走るサイレンススズカの肩がピクリと揺れる。
スキル発動『独占力』
重苦しい空気にサイレンススズカの集中力が微かに乱れスピードが落ちる。
――ダメですよ~、スズカ先輩。落ち着かないと、負けてしまいますよ。『精神一到何事か成らざらん』ですからね~。全身全霊で参ります!
スキル発動『全身全霊』
領域発動『精神一到何事か成らざらん』
その瞬間、サイレンススズカとグラスワンダー、二人の世界がぶつかった。夕暮れを切り裂くように薙刀が振るわれ、二つの世界による潰し合いで発生したプレッシャーが後方のウマ娘にのしかかった。
――――――
「スゲェなぁ、アンタんとこのウマ娘はよぉ。このゴルシちゃんよりも速ぇんじゃねぇの?」
「かもしれないねー。確か、ゴールドシップって本格化して結構経ってるでしょ?それに、後数ヶ月でメイクデビューだから、それなりに付いていけるとは思うけど、本格化前のグラスにはまだ勝てないんじゃないかな?でも、グラス達の本格化が終わって暫くは勝てると思うよー」
遥は、第四コーナーを曲がり、最終直線に入りサイレンススズカとグラスワンダーの競り合いを眺めながら、サングラスを掛けて真面目な顔をしたゴールドシップの言葉に返事を返した。
「いや、アタシじゃムリだな。アイツら二人とも『領域』出してやがる。『領域』を使えるシービーだったら、勝てるんだろうがな」
「そうだね、グラスとスズカはG1じゃないレースで『領域』を出せる所までの力を持ってるから、まだある程度自由に出すことが出来てないゴルシには荷が重いかもね。アタシも『領域』を縛ったら勝てないかもね」
そのミスターシービーとゴールドシップの言葉に反応したのは、沖野だった。
「なぁ、そんなに『領域』ってのは凄いのか?確かに、効果は絶大だが、正直、ゴルシでもあの二人とはやりあえそうなものなんだが。一応、遥の研究の手伝いで調べたが、そこまで大きな効果はなかったぞ」
「それは違うよー、センパイ。わたし達が調べてるのは飽くまでウマ娘個人個人が持つ『領域』を文章に起こして、他のウマ娘でも使えるようにするもの。それは、ゲームで言うならば強力な『固有技』を適正さえあれば誰でも使える『汎用技』に落とし込むものなんだ。もっと言えば、ウマソウルとか言う神秘の塊を、紙くずと言う凡庸以下なものに格を数段下げるどころか、天から地に落とした、ある意味、世界に喧嘩を売ってるようなものだよ?そんな模造品がそんな凄い効果を持ってる訳ないじゃん」
「そういうもの、なのか?」
「そうだよー。それよりも、あと400だよ」
遥の言葉で一同は最終盤のレースの結末を見守る。
「まだ、速くなるのかよ……て、おい!グラスワンダーが!」
沖野の悲鳴とも取れる叫び声が響いた。その先には、今にも前に倒れそうになっているグラスワンダーがいた。
「いや、大丈夫だよ。センパイ。この勝負はグラスの勝ちだ」
そう言った遥の視線は、変わらずにグラスワンダーへと注がれていた。
――――――
――後ろから足音、それと圧倒的な存在感が迫ってくる。きっと、グラスさんだろう。
――身を切り裂かれるような感覚に陥る程の鋭い気迫。勝利するために障害となり得る全てを叩き潰すかのように感じる圧力。
――このままだと追い付かれる。そう思った。
サイレンススズカは楽しげな表情を不快に歪めながらもその脚を動かし続ける。その脚は彼女の思考に反して速度をどんどんと上げていく。
その事実にサイレンススズカはすぐに気付いた。それと同時に顔も不快なものから歓喜のそれへと変わった。
――まだ、まだ私は走れる。
歓喜の感情はサイレンススズカに残り400mを走り抜ける力に変わり、更に加速する。
――もっと、もっと速く。先頭の景色を……更にその先の景色を見たいから。だから――
「ハァァアアアッ!!」
――私が勝つ!
――目の前にまで迫った背中が再び遠くなる。
グラスワンダーは、少しだけ再び開いたサイレンススズカとの距離を確かに感じながら脚をひたすら前へ前へと動かす。
――このまま行ければ勝てる。そう思った。
――届かないかもしれない。初めてそう思った。脚は重く、視界はチカチカと明滅し、肺は針で刺されたかのように痛い。
グラスワンダーは、口から重苦しい吐息を漏らした。そして、大きく息を吸うために口を開ける。
――息を大きく吸って肺を空気で満たす。取り込んだ酸素が脳や手足の痺れから解放してくれる。
――まだ走れる。私はまだ立ち止まっていられない。もっと……もっと先へ、こんなところでは――
「負けていられません!」
――私は脚を動かす。前に前に、先頭を走るスズカ先輩を負かす為に。
――ゴールまで後200も残ってる。スズカ先輩との距離はせいぜい一バ身。ならば、ハルちゃんと交わした大事な約束。『
――このレースはその一歩。そう考えたら
――負ける気がしない。
途端、グラスワンダーの姿勢が前のめりになった。
否、グラスワンダーが自身の姿勢を前のめりにした。地面と並行になるのではと感じる程に低くした姿勢で駆ける。まるで、四足で駆ける獣のように。
――身体が熱い。骨が軋みを上げ、筋肉が引きちぎられそうになる。でも、その痛みを差し引いてなお、走るのが楽しい。もっと、もっと先へ、もっと速く、誰よりも先へ……。
「届いた……」
その呟きは、果たして誰が発したのかは分からない。
狂ったように加速を続けるグラスワンダーは残り50メートルでサイレンススズカに追い付き、互いに譲ることなく、両者ともに加速を続ける。
「ハァァアアアッ!!」
「ヤァァアアアッ!!」
そして、二人は並んだままゴール板を駆け抜けた。
――――――
「いやー、お疲れー。凄かったねー、二人とも」
レースを終えて息を整えながら遥に近寄ってきたグラスワンダーとサイレンススズカに、こちらからも近寄る遥。
「はぁ……はぁ……ハルちゃん、批評を、貰えますか?」
グラスワンダーの言葉に遥はうーん、と唸っている。因みに、二人以外のウマ娘達は二人がゴールしてから数十秒後にゴールし、ゴール板の先で死体のようになって転がっている。
「そうだねー、正直二人に関してはないかなー。スズカの走りなんて最高に見てて楽しかったし、グラスのラストの前傾とか凄かったよー」
と、そこまで言った遥は、途端に真剣な顔つきをしてグラスワンダーの脚を触りだす。
「痛いところはない?大分ムリしたね?」
「少し、腿が痛みますね」
「うーん、後でマッサージと針刺すよ。それと、一週間の全力は禁止ね。次、スズカも触るね。痛いとこは?」
「えっと…ないです…」
「一応、マッサージをやるのと、疲れも溜まってるから今日はもう走らないこと」
二人の簡単な問診と触診を終わらせて、水分補給を取ってクールダウンも済ませるように伝えてから、遥は二人を置いて死屍累々と化した他のウマ娘の元へ向かう。
「セイちゃん。逃げはどうだった?
「そうですねー、まだ慣れてないですけど、確かに
「そっか、楽しかった?」
「いやー、負けたので何とも言えませんなー。でも、『悔しい』とは思いましたよー」
そう言ったセイウンスカイに遥は満面の笑みで言葉を返した。
「なら、次は勝たないとだね!」
「そうですなー」
そこから遥は、グラスワンダー達にやったような軽い診察をして指示を出すと、メジロマックイーンの元へ向かった。
「マックイーンはケガとかないかな?』
「問題ありませんわ」
「一応軽く触るねー…………うん。大丈夫そうだ」
そこまで言うと、遥はメジロマックイーンに視線を投げつつ口を開く。
「正直、今回のマックイーンはレース中の位置取りからスパートのタイミングまでバッチリ百点だよ。でも――」
「能力と技術が足りない、ですわね?」
「うん。それも、圧倒的にね?だからまずは、スペシャルウィークに勝つことから始めよう。そのために、色々とスキルとか教えるからさ」
「分かりましたわ。よろしくお願い致します」
「うん、よろしくー」
そして、他の三人と同じことをやってから、落ち込んでいる三人のウマ娘とそれを宥める沖野の元へ向かった。
「センパイ、診ますねー」
「あぁ、頼む」
遥は最初にスペシャルウィークの元へ向かった。
「じゃ、診るねー」
「はい!よろしくお願いします!」
「はーい…………うーん、問題ないねー。センパイに後で軽ーくマッサージなりして貰って、ケアしてねー?」
「はい!」
じゃ、次ー。と、言って遥はウオッカを呼ぶ。
「はじめましてー。わたしは秋川遥でーす。よろしくねー」
「お、おう。俺は――」
「ウオッカでしょー?知ってるよー」
「あん?もしかして、トレーナーが何か言ったのか?」
そう言ったウオッカは沖野の方を振り返るが、沖野は首を振りながら否定の言葉を口にする。
「ちげぇよ。コイツはトレセンに通ってるウマ娘の名前を文字通り全員分覚えてやがる」
その言葉に、あの入学式であんなことをしてたヤツが?みたいな疑惑の視線で遥のことを見つめる。
「いやー、名前覚えるなんて当たり前のことでしょ?ふつー」
「初対面以前の相手にもそれをやるのは断じて普通じゃねぇ」
「そーいうもんなんだー。ま、わたしは好きにやるけどねー。あ、ウオッカ、ちょーっと脚を触るねー。痛い時は痛いって言ってねー」
「え?あ、お、おう」
「うん、問題はないけど……ちょーっとムリしたのかな?一応、明日一日は激しく動かないこと。ムリして動くと、下手したら骨折するからねー」
「そんなになのか?」
「ウオッカ。遥の診察は本物だ。言うこと聞いとかないとマジでケガすんぞ」
「マジかよ……」
沖野の言葉に少し顔をひきつらせて頷くウオッカ。遥はそのままダイワスカーレットの診察に移ろうと顔を向けて固まる。
「ねー、センパイ」
「あ、あぁ。どうかした、か?」
「いやねー、どうしたじゃないですよー。スッゴい睨まれてませんかー?わたしー」
遥の視線の先には、正に親の敵かとばかりに遥のことを睨み付けるダイワスカーレットの姿がいた。
「ねー、ダイワスカーレット。わたし、何かしたかなー?」
「…………」
「そう。そっちがその気ならわたしはキミに干渉はしない。じゃ、センパイ後は任せましたよ」
「あ、あぁ」
無言を貫くダイワスカーレットに遥はそう告げると、一切振り返ることなく立ち去った。
「アイツ…本当に性格わりぃな…」
沖野は遥の意図を読み取りダイワスカーレットに話し掛ける。
「スカーレット。明日は休み。明後日からあの二人に勝つ練習をするぞ」
「アタシは明日からでもやるわよ」
「ダメだ。身体を休ませるのもそうだが、お前には頭を冷やす時間も必要だ。これは、トレーナー命令だ」
「…………」
沖野はダイワスカーレットの無言を肯定と捉えてから立ち上がり、こう言った。
「取り敢えず、今からメシ食いに行くぞ。俺の奢りだ」
この後、沖野は彼の担当ウマ娘達にバカ食いされて財布がすっからかんになって遥に泣きつくことになるが、それは別のお話。
解説と言う名の余談です。
最後のスカーレットさんに遥ちゃんが干渉しない発言は別にスカーレットさんのことを見捨てたと言うわけではなく、スカーレットさんの機嫌が悪い原因のグラスさんとスズカさんのトレーナーが言っても意味ないことを察して沖野Tに任せると言う意味です。
まぁ、沖野Tがいたからあの態度を取っただけで他のトレーナーだったら諦めずに話し掛けていました。これも、遥ちゃんなりの信頼の証ですね。
さて、気になる結果なんですけど、皆さんのご想像にお任せします。ただ、同着という結果ではないです。
他の順位はこんな感じです。
三着 セイウンスカイ
四着 スペシャルウィーク
五着 メジロマックイーン
六着 ウオッカ
七着 ダイワスカーレット
きっと、スカーレットさんはこの後沖野Tと大樹のウロで叫ぶことでしょう。
それと、前回の後書きで言ってた『領域』の同時発動で互いに削りあってモブちゃんに負けると言いましたが、あれは飽くまで『真の領域』の話です。なので、普通の『領域』では、逆に他のウマ娘にプレッシャーが襲いかかってデバフ擬きになります。
次回は、多分、作中時間が飛びます。
それと、皆さんにお願いがございます。今話は僕の実力不足を実感しました。なので、ここを直せ。とか、批判っぽいのでも何でも構いません。どうか、感想なり意見箱なりで指摘して下さい。よりよい作品にするために協力してくれると助かります。
一応、言っておくと僕は決して罵倒されて喜ぶドMのへんたいふしんしゃさんではないです。
▼質問箱兼意見箱
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