――
悲鳴が瞬く間に断末魔へ。鮮血が血の海となって流動する。
それは
――――【
「あれを倒す。君たちの力を貸してほしい」
瞬く間に壊滅する
「あなたがそう言うってことは……撤退は不可能ってことね? リア」
次いで微かに震える手で剣を握ったのは赤髪の少女――アストレア・ファミリア団長、アリーゼ・ローヴェル。第二級冒険者の彼女も、撤退が不可能なことは察している。それでも、彼がいるなら手はあるのかもしれないと、そう思い確認を取る。
「あの速さだ。出来ると思うならやってみるといい。なるべく時間は稼いでみよう」
何分持つかわからないが、と続けてリアと呼ばれた少年――リアム・グラキエスは口にする。二年前の【大抗争】を経てLv.5に昇華、第一級冒険者に名を連ねた彼がそう言うのだ。きっとその通りなのだろう。
「……勝機は?」
黒髪の
「薄い」
はっきりと、それでいて簡潔に少年は答える。黒髪の少女――ゴジョウノ・輝夜は十分だ、というように刀の柄に手をかけた。
「貴方が犠牲になることはここにいる誰も望まない。もちろんアストレア様も。そして貴方を見捨てることは正義に反する」
金髪の
「みんなで帰るわよ、リア!」
「当然だ」
それぞれがそれぞれの得物を構える。猛烈な死の気配を見て見ぬふりをして、【勝てるか】【勝てないか】ではなく【勝つ】という選択肢を手繰り寄せる。
あの日巨悪が、
「――――来るぞ」
後に、
その火蓋が、ここに切られた。
*
街が燃えている。悲鳴と号哭がこだまし、人々は逃げ惑っていたり、焼け焦げていたりとさまざま。
これは
父と妹を失った
力がなかった。覚悟が足りなかった。そして何よりも、理想が遠かった。すべてが繋がり、お前の未熟が招いた結末だと現実を突き付けられる。
ああ、そうだとも。父に師事し、少し狩りができるようになったくらいで力を得たと過信し、大した覚悟もないままに理想を語った。その
誓った。二度と失わないように。
星屑が彩る、月夜のもとに。
「……い、て……さい、……起きろ!」
誰かの声に、意識が浮上する。全身が痛い。どうやら作戦を終わらせて、やってきたガネーシャ・ファミリアに引き継ぎを頼んだところで力尽きたように眠ってしまっていたらしい。
「輝夜、そっちは終わったのか?」
肩を掴んで揺すっていたのだろう。肩に手を置いたままの少女――ゴジョウノ・輝夜に訊ねる。彼女は他の団員と共に別の場所で起きた魔石製品工場の襲撃に対応してきたはずだが。
「ええ、何事もなく。こんなところで眠り耽っている方がいなければ、今頃ホームに帰っていたでしょうけども」
悪態。わずかに心配を含んだ状態でいつも通りの姿を見せる彼女を見て、思わず笑みがこぼれる。
「悪いな、懐かしい夢を見たんだ」
差し出された手を取って立ち上がる。伸びをして、工場の外を覗けば既に日は落ちていた。確かに、ずいぶんと長い間眠ってしまっていたようだ。
「夢、そういえばいつかに語っていましたね」
輝夜が着物に付いた汚れを払い落としながら言葉を返す。
確かに、このファミリアに入ってすぐくらいに語ったことがあったか。掲げた
「うん、俺のはじまりの夢」
言葉を交わしながら帰路に着く。夜とはいえ、街は世界の中心と呼ばれていると思えないほど静かで、人通りもわずか。
どこか寂しい街を歩けば、今日起こった二つの魔石製品工場の襲撃を企てた
大通りを抜け、街路をいくつか曲がって閑静な住宅街へ出る。
オラリオ北の区画その片隅に建つ瀟洒な白い館。アストレア・ファミリア――つまり俺たちの
扉を開れば、我らが主神が立っていた。
門限を破った子を叱る……のではなく、慈愛に満ちた在り方が彼女にこそ、女神という言葉が相応しいと感じさせる。
「おかえりなさい、リアム、輝夜」
胡桃色の長髪を背に、澄んだ星海のごとき深い藍色の瞳が弧を描いて笑みに変わる。
「遅くなりましたが、ただいま戻りました、アストレア様」
「主神様自らお出迎えさせるなんて、わたくし達も随分偉くなりましたねぇ」
喜びや嬉しさの類いを含みながらも、輝夜はそう続く。確かに、いくら少数精鋭の派閥とはいえ主神が自ら出迎えるなんてのは珍しい。
「そんなことはないわ、輝夜。帰ってきてくれた者の無事を喜ぶ、それに神も子も関係ない」
それでもやはりと言うべきか。誰よりも、誰もが思い描く『女神像』にそぐう存在の彼女――アストレア様は、柔和な微笑みのまま。
「ましてやこんな時代。
一人だけ安否がわからなかったのだから、余計にね。と俺の方を見るアストレア様に、気まずさを隠せずに苦笑を浮かべてしまう。
「さあ、上がって。疲れたでしょう? 皆はいまお風呂だから輝夜も行ってらっしゃい。リアムは先に食事にする?」
「いえ、食事は後ほど皆と」
アストレア様が先頭に、輝夜と共に中に入る。輝夜とアストレア様と別れ、団欒室に幾つも揃えられた
…………ああ、本当に。今日は疲れたな。あっちこっち走り回って、爆弾を手に持った奴から無力化して。それに気付くものだからもう大変だった。投げられた爆弾を凍らせて、無力化しての繰り返し。
終わりの見えない戦いに、少しだけ嫌気がさす。何度血を浴びれば、この戦いは終わるのだろうか。
もちろん相手も無限ではない。それが逆に不安を煽る。後がなくなっていき、失うものがなくなった悪意ほど恐ろしいものはない。きっと強行するだろう。だれもが思い至らない惨劇を。
「俺の、俺たちの未熟な正義で防げるか?」
誰もいない団欒室に、声が霧散する。返事はなく、その時にならなければ分からない問いに頭を抱える。
「……撃鉄装置、か」
輝夜やアリーゼたちが制圧した方で判明した、撃鉄装置が持ち去られていたこと。爆弾や魔剣頼りの、一人一人は統制されていることを除き大したことのない雑兵の集い。
一体、あれだけの数を犠牲にしてまで持ち去った撃鉄装置は何に使われるのだろうか。
一般に魔石灯などに使われる、内部の魔石を起動するスイッチであるそれが、彼らにとってどう価値があるものなのか。
分からない。ずっと、
「【勇者】なら、思い至るか……?」
翌日の予定を確認する。街の
「
書き置きを残して、団欒室を後にする。翌日に【勇者】を訪ねることにした俺は、疲労に屈するような形で自室のベッドに倒れ込んだ。意識は闇に沈み、夢の続きを見ることはなかった。
お風呂から出たアリーゼは、食事を一緒に取らずに寝たことに怒っていた模様。
*
ヒロイン有り無しは未定。
矛盾点とか設定の間違いあれば笑顔で中指を立ててください。
というか設定の間違いはあると思います。頭がアレなので。
まあその辺は置いといて、また次回ノシ