現在進行形で体調を崩しているので期間が空いてしまいました。
夕暮れ時の都市を歩く。結局【
帰り道を
悪意を感じた訳ではない。そこに立っていたのは黒髪に少し白の混じった髪の神。気の弱そうな、情けなさを感じながらもどこか、神ヘルメスを彷彿とさせる胡散臭さを醸し出している。
「僕に何か用かな?」
そして、猫を被る仲間をよく知っているからこそ自らを偽っていることはすぐにわかった。だが一体何のために?
「ああ、いえ。俺はリアム・グラキエス。アストレア・ファミリアの冒険者で見回りをしていまして」
元より神の考えることなど、
「アストレア・ファミリア……さっき赤髪の女の子と金髪の女の子にも会ったよ」
アリーゼとリオン。警戒が無意識的に強くなる。それを感じたのか、彼は慌てて弁明するように言葉を続ける。
「僕がひったくりに遭って助けてもらっただけだよ!?」
おおげさな動きでオヨヨ、といかにも情けない反応を見せる彼に心の内で警戒度が上昇する。なんだ、この違和感は。自分を偽っているとはいえ、悪意や敵意を感じるわけではない。それがかえって気持ち悪い。
「それは、彼女たちが近くにいて幸運でしたね。あの二人はうちのファミリア内でも主力を張る実力者だ」
情報を少しでも引き出したい。悪意を感じない以上、この神が
このおおげさで分かりやすい演技が、それを隠すためのデコイやミスリードなのだとすれば。考えられる可能性は一つでも多く潰しておきたい。
「うん、本当に。――そうだ、君に聞いておこうかなあ」
情けない表情から雰囲気が一変する。空気がピリ付き、やはり彼が本性を隠していることを確信した。
「君にとっての【正義】ってなにかな?」
……ああ、きっと。この神が黒幕なのだと、確証はなくともそう感じた。
「正義の女神の眷属だ、君は一体何を正義として行動しているのか参考程度に教えて貰えるかな?」
内心の警戒を悟られないように、彼の目を見据える。先程までとは別人のような真剣な目。それは自らの問いに満足のいく答えを出せるかを見極めるような。
「俺が考える正義は、明確な物はなく人の数だけあるもの」
彼はそれを聞いて興味を失ったように目を閉じた。よく見ていなければ気付かないほどの自然さで。しかし、俺の続けた言葉に彼は再び興味を示すように口角を少しだけ吊り上げる。
「人々が各々持つ目的、それに至るための理想論。その過程と結末が善と感じるか悪と感じるかは人それぞれだ。正義の反対はまた別の正義、と言うでしょう?」
正義とは理想である。そして、理想は人の数だけ存在する。
そして、そもそも何を持って是とするのか、非とするのか。
人の価値観によって変化するその感じ方に意味を追求することに意味はないと俺は思う。
「同感だよ、正義とは『理想』であると僕も思う。答えは同じでも、考え方は違うみたいだけどね。…………でも、人によって善悪の価値観が違うと考えるのなら、君は一体何を振りかざして正義を名乗るんだい?」
もっともな問いだ。善悪の価値観が人それぞれだということに気付きながら、俺は自らそれを否定する行動を取っていることになる。否定のしようもない矛盾を孕んだ正義。
「秩序のため。俺の考える正義と、実際に掲げる正義は違う。この都市を脅かし得る脅威――
正義とはなにか。それは難しい問いだ。俺の考える正義とは彼に語った通り無数に存在する=答えのないことが答えになる。
ならば、正義を実践するための別の理由が必要になる。
それが秩序。社会や集団が望ましい状態を保つための決まりをまもること。
「そっかあ、そうだねえ……うん、ありがとう。色々と参考になったよ。用があるから、この辺りで失礼するね」
満足気に一人で頷き、踵を返して夕暮れに消えていこうとする彼を呼び止める。
「最後に、あなたのお名前を聞いても?」
「――――エレン。ヘルメスの友人とでも言っておくよ」
神エレン。神ヘルメスの友人。どおりで、胡散臭さを感じると思った。今度こそ失礼するよ、と神エレンは歩き出す。
「神、エレン…………要注意
姿が見えなくなるまで彼の背中を目で追い、俺も
警戒するに越したことはないと自分に言い聞かせて星屑の館の扉を潜る。本拠に帰っても、いつも通りのこちらは喧騒が繰り広げられているようだ。いつも通り言い争いを無視して傍らで笑うアリーゼに話しかける。
「アリーゼ、神エレンと会ったそうだな」
「ええ、会ったけどどうしてそれを?」
「俺も会ったよ。俺が正体を明かしたら君とリオンと会ったって言ってたからさ」
「なるほどね、あの神様が持ってた全財産の444ヴァリスをひったくられちゃったところに遭遇したの」
結局アーディが捕まえたあとに二度としないことを条件に許して解放してあげたんだけどね、と続ける。まったく、アーディらしい行動だ。許すことも彼女の中では正義らしい。だが、俺が聞きたいことはそんなことではない。
「それで、どんな会話をした?」
「大した会話はなかったと思うけど……私たちが正義はなにか考えてるところが素晴らしいって。あとはリオンが潔癖で純粋だから気にいったとかなんとか。それが何かあったの?」
どうやらリオンが面倒な神に気に入られたらしい。それにしても特に情報はないようだ。正義の眷属の正義を問う行動。確かに気になることではあるかもしれないが、わざわざ実際に聞くとなると少し引っかかる。少し考えれば秩序のためだとわかるはず。
「いや、まだ不確定要素だからなんでもない。ありがとう、先に風呂行ってくる」
神エレンの考えることはわからない。目的もその動機もそして本性を隠す理由も。偽名を使っている可能性すらある。アリーゼたちにも注意喚起くらいはしておくべきかもしれないが、下手打って俺が警戒していることを勘づかれても厄介。
裏で糸を引く黒幕でなくとも、彼がなにかを企んでいるのは確定といっていいだろう。念には念を。ロキ・ファミリアには共有しておくとしよう。
風呂をあがり、今日は皆と共に食卓を囲む。
食事が終わったあとに、情報整理を呼びかける。神エレンを警戒するということを除いて得た情報の交換会だ。
まずは俺から。
「フィンから
皆が頷き、次にアリーゼが口を開く。
「18階層で冒険者狩りが現れたわ。恐らく
冒険者狩り。それもこの三人が取り押さえられなかったとなると相当な手馴れだな。見たことの無い顔の男。『顔無し』と呼ばれ、部下からはヴィトーと呼ばれていたようだ。
確かに聞き覚えのない名前だ。だが、要注意人物なことに変わりは無い。警戒しておこう。
「あとは神エレンね。さっきのリアの話じゃないけど、特筆してなにかあるって訳じゃないけど一応気をつけて。多分あの神様は『フヒヒ』とか笑い出す変態だから!」
同意しようとして首を傾げる。そんな雰囲気あったか? いやまあ、男一人より女二人の方がそういった反応はするか確かに。俺にされてもそれこそ気持ち悪い。
「あとはそうですねえ……もしも私たちが命を失った際は18階層の例の場所に墓を立てようという話が」
「いいんじゃないか? あそこなら安らかに眠れそうだ」
18階層の森の中を進んだ先にある、大森林の中でも開けた一角。木々の木漏れ日が差し込む水晶の森。俺もそれには賛成する。まだ死ぬ訳にはいかないが、もしもの時は確かにあそこに眠るのは悪くない。リオンが口を開きかけてやめる。おそらく「私は皆に死んでほしくない」なんて言って皆に散々いじられたのだろう。容易に想像出来るその状況に口角が緩んだ。
その後も情報交換という名の世間話やいつも通りの言い争いなどが交えられながら、夜も更けていき解散となった。
大抗争まで、あと八日――――。
*
翌々日。【
力任せに
Lv.6以上の冒険者。つまり、迷宮都市内に現在いないと思われる、外部からの
「あまり考えたくはないが……生き残りか?」
「可能性はあるね。なにせ現在のところこのオラリオでLv.6以上の冒険者はオッタルだけだ」
かつて迷宮都市の最強派閥と呼ばれた二つのファミリア。
ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリア。隻眼の黒竜との戦いで全滅したと語られる存在。仮に生きていたとして、何故
「ちっ、何も分からないってのに追加で厄介事ばかり舞い込んできやがる……ありがとう、フィン」
「ああ、だけど気をつけてくれ。僕の勘が正しければ、まだなにかある」
「…………その勘は当たるだろうな」
片手を上げて黄昏の館を後にする。18階層でアリーゼたちが遭遇した『顔無し』。
どうやら事態は想定していたより深刻らしい。
その夜、輝夜とライラとリオンが神エレンと遭遇したようで一昨日俺に聞いてきたように、正義とはなにかと問われたらしい。
問われたリオンは輝夜とライラの制止を無視して『無償に基づく善行』『いついかなる時も揺るがない唯一無二の価値』『そして悪を斬り、悪を討つ』と。それは、正しいのだろう。
しかし神はそれを『力ずくの正義』だと言い切り、『悪が同じ論法を展開した時どうなるのか』と三日月を描いた唇を開いた。
恩の押し売り、暴力を以て制する。確かに彼の言うことも間違っていない。アーディの『赦す正義』と対に位置するであろうリオンの正義は、確かに『悪』と相似する点を持ち合わせている。
それはそれとして、僅かに疑惑に位置していた神エレンに対する認識が確信に変わる。タイミングが出来すぎている。
魔石製品工場の襲撃の本来の目的の判明、神エレンの出現、18階層での『顔無し』との遭遇、
明らかに動き出している。
そして、フィンの勘。ああまだ終わらない。きっと今日にもまた何かが動くのだろう。
「…………出るか」
壁に立てかけた剣を取る。
「ちっ――遅かったか!」
すぐに音の発生源へと向かう。オラリオの北西、第七区画。居住区の中に存在感を示すように建つ人々の記憶から忘れ去られた教会。その中に、気を失ったガネーシャ・ファミリアが横たわっていた。足元がおぼつかない様子で立つ二人――シャクティとアーディに状況を説明してもらう。
「ローブを纏った女に一撃で蹴散らされた。Lv.4の私やLv.3を含む20人が一言で発動した魔法で、だ」
嫌な汗が流れる。一言で発動するLv.4のシャクティをも一撃で戦闘不能にし得る魔法。俺は
「まるで魔女みたいだったよ? 長い灰色の髪だったと思う」
「そう、か。一つだけ聞いておきたい」
最後の確認をするように、可能性を潰すために。
「その女の使った魔法は、音か?」
「わからん、だが真空波のようなものだった。鼓膜や三半規管にまで損傷を与えてきた」
最悪の事態が続く。もしも、彼女らを襲った女の正体が彼女なのだとすれば。
「そうか、ありがとう。俺は考えたいことがあるから失礼するよ、気をつけて」
「ああ、お前も気をつけて帰れ」
「またね、リアム」
手を振るアーディに手を振り返し、星屑の館に帰る。収穫自体はあった。同時に頭を抱える種も増えてしまったが。
灰色の長髪の女。真空波の類の魔法――つまり、真空がもたらす衝撃波と推測される。俺が知る、犯人と思わしき女が行使する魔法は音を振動させるもの。類似している。いや――音で真空を振動させ、衝撃波を起こしたのか。
だとすれば。オラリオはかつてない危機に瀕している。
Lv.7――【静寂】。おそらく今回シャクティたちを襲ったのは彼女だ。ヘラ・ファミリアの生き残り、そして…………。
となると、『規格外』の方はゼウス・ファミリアの冒険者である可能性が高い。それもLv.6以上。Lv.7以上と考えるべきか。
「これはフィンに共有しないとな……」
確証はない。確信もない。正しくあって欲しくないが、おそらく正しい。真偽はともかく、伝えておくべきだろう。
その後も【静寂】なのだとして、本当に何故
大抗争まで、あと六日――――。
リアムと【静寂】の関係はまだ先に。
リアムの正義のくだりの描写は不安。
そう言えばリアムの容姿を描写してない気がする。
髪はほんの少しだけグレーがかった白髪、目は金色。武器種は片手剣。
次回辺りビジュアルのイラスト載せようと思います。
では( .. )