やっとの思いで受験を終え、勉強地獄から逃れた儂は我が世の春を謳歌していた
朝起きて鍛錬、学校で人体学、帰って鍛錬。誰にも邪魔されずに思う存分修行に精を出す、こんな素晴らしい事はない。当たり前の事は無くなってから大切なことに気づくんじゃ、それがやっと帰ってきてくれた。今の儂はその当たり前の価値を知っておる。もう離さんぞ、グフフフフ・・・
そんな充実した日々を送る事一週間。じい様が雄英からの封筒を持って道場にあらわれた
「四五六~、雄英からなんか届いたぞい?」
「おぉすまぬ、合否の通知かの?」
「ほぅ、合否通知か。どれ儂も一緒に確認しようかの」
「どんな結果でも文句は言わんでくれよ?儂はやるだけやったんじゃからな?」
「分かっとるわい、ほれ早う開けんかい」
封筒を開けると説明書と手のひらに乗る程度の機械が出てきた
説明書に従い道場を薄暗くし、機械を操作して床に置いた
すると機械が動き出し、画面が空中に投影され始めた
『やあっ!僕がいきなり投影されたよ!驚いてくれたかな?初めまして渋沢くん、僕が君の合否の発表をするよ!
ん?僕が誰かって?ネズミなのか犬なのか熊なのか、かくしてその正体は----雄英高校の校長先生さ!』
やたらとテンションの高いネズミが現れて話し始める。これはホログラムでいいのか?こういうのを見るとやはり未来だと感じる。巨大ロボなんてなかった
『じゃあ順番に発表していく事しよう。まず実技試験だね。ヴィランポイント50点!これはTOP3に入る結果だよ、よく頑張ったね!
でもね、実技試験で見ていたのは実はそれだけではないのさ。隠されたポイントとしてレスキューポイントが設定されていたのさ!ヒーローは確かに戦うものだよ、ではなぜ戦うのか?それは誰かを助ける為なのさ!実技試験ではそう言った部分も見てたのさ
レスキューポイント10点、トータルで60点!君の実技試験の順位は7位だよ!レスキューポイントが足を引っ張った形になってしまったね、それでも好成績さ!
そして筆記の方だ。・・・こっちは合格基準点に10点足りなかったみたいだね。
・・・渋沢くん、残念だけど不合格だよ・・・』
「・・・。」
「・・・。」
気まずい沈黙がその場に流れる。じい様の沈黙が少々怖いが、私立の方は受かっとる。堂々としろ儂!
『ただね、僕はこれで終わらせるつもりはないんだ。実技試験で素晴らしい結果を残した才能、切り捨てるにはあまりにも勿体ないと思うんだ。筆記の方は確かに合格点に届かなかったけど、それもわずかに10点。これくらいなら充分取り戻せると思う。だから僕は君の可能性に期待してみようと思うんだ!
渋沢四五六くん。特別枠で合格だよ、おめでとう!』
「「おぉっ!!!」」
『・・・実はね、グラントリノから事前に君がどんな人物か話を聞いていたのさ。それでね、もしかしたら君は戦う事に囚われてレスキューポイントが0点なんじゃないかと心配していたんだ。
しかし君は困っている受験生を助けてみせた。僕はそこにヒーローの輝きを見たのさ!確かに今はまだ小さな光かも知れない。だからこそ君には雄英でヒーローとしての心を磨いてほしいのさ!もちろん勉強も頑張ってもらうけどね。
これから成長していく君の輝きをみんなに見せてもらいたい!
だから待ってるよ、ここが君のヒーローアカデミアさ!!!』
「じい様よ受かったようじゃぞ?ギリギリっぽいがの」
「見ておったわい。さすが儂の孫じゃ、ようやったわい!」
その後、改めて学校の入学資料が送られてきたので諸々と準備を進める。
それで出てきたのが住居の問題
通学で新幹線を使えば片道1時間半、往復で3時間。これは通えない範囲ではない。しかし一日のうち修行の時間を3時間も削られるのは頂けない
しかし引っ越すという事は道場が使えなくなるという事。それは大問題じゃ
理想を言ってしまえば学校の近くに道場があって、そこに下宿が出来れば満点なのじゃがそんな都合のいい事にはならん
どこか少しでも条件の良い所は無いかと探すと、海にほど近い場所にあるアパートに目が留まった
ここならば近くに大きめの海浜公園があるし、砂浜や海も自由に使える。学校までもバスで30分なら走っていけばこれもいい鍛錬になる。・・・アリじゃな
引っ越し先も決まり、卒業と修行と準備に追われ、いざ引っ越しの日
儂は道場でじい様と向かい合っておった
「じい様よ、しばらくの間直接手合わせが出来なくなるわけじゃ。なのでの、引っ越し祝いの一つでも貰っていこうと思っとる!」
道着を正して、気を膨らます
「かっかっか、抜かしおる。そう簡単にくれてやると思うなよ?」
それをじい様の凪のような静かな気に受け流される
毎日の様に手合わせをしているが、基本じい様からは攻めてこない。これはいつもの事
制限時間は4分。儂が攻め続けそれをしのぎ切るか、儂が投げられればじい様の勝ち。じい様を投げれば儂の勝ち。いつの頃からか決まったルールじゃが未だに勝てた試しがない。今日こそは勝って花道を飾り、気持ちよく引っ越ししてやるんじゃ
ゆっくりと間合いを詰め、じい様の左手を素早く掴み崩しにかかるも簡単に外される。ここで動きを止めると逆に仕掛けられるので、即座にあきらめ素早く手を放す
これを何度か繰り返すも手ごたえなし。仕切り直しの為に間合いを離す
くそ、相変わらずガードが堅い
いつもこの流れで最終的に逃げられるんじゃ。ならばとゴキブリダッシュで一気に間合いを詰める。そのまま奥襟を取って勢いで倒そうと攻撃を仕掛けにいく。どうじゃ?これに付いてこれるかっ?
っ!?合気で跳ね飛ばされたっ!?壁っ、近っ、いやまだっ!ギュンと体勢を立て直しなんとか壁に着地し床に降りる
ふぅ、さすがじい様じゃ今のに反応しよるか。と言うかじい様、下手したら儂より合気の使い方上手くなっとらんか?
「じい様よ、孫に花の一つも持たせられんのか?」
「甘えるでないわい、ほれもう半分過ぎたぞ?もうええのか?」
くっ、しかしここで焦ってもろくな結果にならん
我武者羅に攻めても崩せるイメージは湧かん。ならば動きを読み切るしかない
今までやられた事を頭で反芻し動きを掴む。一つ一つ可能性を消していく
残ったものを汲み上げていざ実行!
ゆっくりと間合いを詰め、右で左袖を掴みに行くフェイントをかける。その陰に隠れるように右の足払いを仕掛ける。が、左足を素早く引き躱され、右足の裏で止められる
掛かったっ!足に力を籠めそのままじい様を上に蹴り飛ばす。
このまま浮かして、身動きの取れないところを攻め込む。これで詰みじゃ!
蹴り上げたはずの右足に蹴った感触が無いっ?自分で跳んだっ?いや飛んではおらん。力を完全に受け流された?右足のみの消力っ?
虚を突かれた隙に、気づいたら体が半回転していてそのまま押し倒された
「儂の勝ちじゃ」
「・・・まだ勝てぬか・・・」
ゆっくり立ち上がり道着を正す
「四五六よ、強くなって来い。色々とな」
「うむ、まとまった休みには帰ってくる。その時こそ勝たせてもらうぞ!」
「ああ、楽しみにしとるよ」
じい様に一礼、道場に一礼し道場を後にした