早朝基礎鍛錬、授業中は医学、帰ってからはひたすら修行
中学に上がってもさほど生活が変わるわけではなかった
しいて変わったことがあるとすればテストで満点が取りづらくなった事と、爺さまの口調が完全にうつってしまったことか
出来れば前世の様に渋川口調にしたかったが、残念ながら普通に出てくる言葉がじじい口調になってしまった。これは普段耳に入ってくる言葉が、爺さまの言葉だけだった事に起因する
学校ではほとんど誰とも言葉を交わさず、あっても事務連絡で喋る程度
テレビも飯時に点いていれば見るくらいで進んで見るものでもなかったし、門下生がいるわけでもないから、修行は爺さんとマンツーマン
それを延々12年。そりゃあ言葉もうつる
勉強の方はあれだ、単純に段々と学力が追い付かなくなってきただけだ
元より高校にいくつもりもそんなに無かったし、中学卒業までなら上位に入るくらい何とかなると思うので、授業もこれまで通り他の事に費やす
入学早々色々と絡まれたが、ぶん投げてたら一月ほどで静かになった
中学最初の夏休み、儂は爺さまにある相談をした。
前々から考えてはいたのだが、山籠りがしたかった。自然に身を置き感覚を研ぎ澄ます。自然ならではの修行を己の身に課す。小学生では厳しいだろうからと、中学に上がるまで我慢をしていた
その事を話し、他人に迷惑が掛からないようなちょうどいい山を知らないか聞いてみたところ、爺さまの知り合いに山を持ってる人物がいたので、許可をもらいそこを使わせてもらえることになった
寝袋やナイフなどの必要最低限の荷物を持ち、食料は出来るだけ現地調達。
夏の山は何だかんだで食えるものがある。(非常用に米はある程度持参)
山の中の修行は多岐に及んだ
木々を使ってパルクールじみたフリーラン
岩や木を使っての筋トレ
野生動物との闘い。(猿が意外と強かった)
木に登ってからの自由落下。ぶつかりそうな枝葉を捌いて着地。最初は低い所から、出来るようになったら高度を上げていく
ハチの巣に軽くちょっかいをかけて、襲ってきたハチを叩き落す
瞑想、精神統一をして自分の気配を消す、動物の気配を感じる
等々、前世の記憶を思い起こし、思いつく限り様々な修行を試していった。
出来なければ、出来るようになるまで何度も繰り返す。出来るようになった時の感動がたまらない
飯は基本蛇と鳥、あと山菜。鳥は最初まったく落とせなかったが、繰り返すうちに投擲も上手くなり、コンスタントに狩れるようになった。蛇は見つけづらいが、見つかれば簡単に捕まえられるのでこっちは楽でいい
後はタケノコなり桑の実なりと、食いつなぐだけなら何とかなった
本当ならイノシシや鹿が狩れればよかったのだが遭遇すらしなかった
一度だけだがウサギが狩れた時は思わず狂喜乱舞してしまったよ
もちろんその場で捌くのだが、異形個性対策で人体のほかに様々な動物の構造を勉強してきた儂に抜かりはなかった
そんな修行をしつつ、夏休みも残り10日
その日の修行を終え、座禅を組みながら今日の反省と成功のイメージトレーニングをしている時に、不意に後方から人間の気配を感じた。修行を初めて一月あまり。初めて感じた人の気配に思わず声をかけてしまった
「だれじゃな?」
「ほぅ、我の気配に気が付くか」
目を開けて後ろを向くと、そこには筋骨隆々の偉丈夫が立っておった
ん?男・・・の骨格にしては少しおかしい。どちらかというと女の骨格に近い。しかし、目の前におるのは確実に男。ふむ、そういう個性か?
「汝が渋沢先生の孫で間違いないか?」
色々考えてるとさらに話を続けてきたので、返事を返す
「うむ、わしは渋沢三四郎の孫の渋沢四五六と申すものじゃ、してそちらはどなた様じゃな」
「我か?我の名は虎。ワイルドワイルドプッシーキャッツというチームでヒーローをしている。あとここは我の山だ」
「なるほど、そうじゃったか!それは挨拶が遅れてしまい申し訳ない。何分そちらの連絡先を聞いておらかったもんでのぉ。にしても虎殿よ、この山はとても良い所じゃのぉ、山籠もりにはうってつけの場所じゃ、使わせてもろうて感謝する。今更じゃがよろしく頼む」
改めて、虎殿を観察する。
強い、そう感じた。
いったん不思議骨格の事は置いておくとして、この距離に近づくまで気配も足音もさせない技術。体バランスもとてもいい、手技足技投げ技とおそらくなんでもできるだろう。しかもどのような攻撃に対しても即座に反応できるように気も張っておる。おそらく見た目通り力も強いだろう。
なるほどこれがプロヒーローか。爺さま以外で勝てぬと思わされたのは初めてじゃ。面白い。面白いのぉ。
「先生から話を聞いたときは耳を疑ったもんだよ、中学生が山でキャンプをするのではなく山籠もりで荒稽古するなどと。しかもとっくに逃げ帰っているかと思ったら、帰ったという連絡もない。心配になって見に来てみれば、まぁどう見ても余裕そうではないか」
「・・・のぅ、虎殿よ。」
ゆらりと立ち上がって虎に話しかける
「いきなりで不躾じゃが、儂とひとつ手合わせしてもらえんか」
「ほう!自ら我に挑むと申すか。はっはっはっ、いいだろう思う存分胸を貸してやろう」
「感謝するぞ虎殿!」
こちらが構えると、虎も構えをとる
虎の構えは両の拳を握って胸脇に置く変形のボクサースタイル。重心を落としてるから投げ技もあるかもしれん。タックルには注意だな
対するこちらは合気柔術おなじみの両の手を開き胸の前に置くオーソドックススタイル。構えない方が立ち回りに幅ができるのだが、いかんせんそこまでの域に達しておらん
さて、どう動く
互いの距離はおおよそ5メートル。吹っ掛けた手前こちらから動くべきなのだろうが、おそらく相手は格上。下手に動くとあっさりやられかねん。相手の動きを想定しそれにどう合わせるかを明確に想定しておく
こちらから攻める場合はどうする?おそらく向こうは柔道を想定しておるはず。ならば掴みに行って、それを抑えるのに手を出してきたところにさらにカウンターを取るべきか。ならば相手の手が出やすいように掴みに行くには・・・
「来ぬのか、ならば我から行ってやろうっ!」
早いっ!虎がさらに重心を落とし獣のごとく一気に距離を詰めてくる
やはり初手はタックルか、いや違うっフェイント!
儂の目の前で体を躱し、右の死角に入り込んでからの流れるような左フック。
なんとも合わせづらいが、少し体を開いて死角を消す。ここだっ!
「取ったぁ~っっ!!!」
虎の拳が当たる直前、手首を取って技を仕掛ける。折れないように関節を極め、拳の勢いを利用してそのまま地面にたたきつける。しかし虎殿も猫の様に半身をひるがえし、たたきつけられないように受け身を取る。だが受け身が浅い。
そのまま決めるつもりで踏みつけに行ったが、やはり猫の様に身を躱されて距離を取られてしまう。なんとしなやか、しかし力強い。なるほど虎とはよく言ったものだ
「何をした」
「ただの投げ技よ、爺さまのとは少し違うかもしれんがのぅ」
「そうじゃない。我の個性は『軟体』、基本我には関節技が通じぬはず」
「あぁ、そういう事か。すまぬ言うておらなんだ。儂の個性は『無効』。儂に個性由来のものは効かぬし、儂に触れられたものはすべての個性を失う」
「なるほどイレイザーヘッドと同様の類か、しかし今は問題がない。離れれば使えるという事か。ならば攻め方を変える、ついて来いよ!」
そう言うと虎がまた距離を詰めてくる。さて今度はどう立ち回る
初手フェイント、そのままフェイント連打からの唐突なタックル
タックルに技を合わせに行くと、人体構造上ありえないほど虎の体が後ろに曲がり攻撃をよける。なるほどこれが個性持ちとの闘い。なんともやりづらい
虎はよけた体勢から鋭い蹴り上げ。かろうじて捌くも技は取れず
後は似たような攻防が何度か続き、遂に被弾。そのまま試合は傾き被弾回数が増え、最終的には一方的に殴られ、良い所無く負けて気絶した
気が付いた時には知らない部屋で寝ておった
そうか負けたか。勝てるとは思っておらなんだが、それでもやはり負けると悔しい
近くにいた虎殿に話しかける
「虎殿。試合を受けてくれた事、感謝する」
「目を覚ましたか、ここは我のやってる宿だ。今日はうちでゆっくり療養してくといい、温泉もあるし飯も出すぞ」
「かたじけない、世話になる」
「では早速風呂に行くか、ずっと山籠もりをしていたせいか、汝はちょっと匂う」
「ぐっ、水浴びは毎日しておったんじゃがのぅ・・・」
虎殿に連れられて一緒に温泉に、そこで虎殿の裸を見てようやく確信に至った
「虎殿、つかぬ事を聞くが、お主女性ではないのか?」
「・・・よくわかったな」
「体の肉付きや骨格は噓をつかん。服の上から見てもしやと思うたが、裸を見て確信に変わった。よいのか、一緒に風呂に入って」
「問題ない、今の我は身も心も立派な雄よ。気にすることなど一つもない」
「まぁ虎殿が良ければ、それでよいが」
体を念入りに洗って湯につかる。あぁ、沁みる・・・
一ヶ月ぶりに入る風呂は格別だった。すべての疲れがお湯に溶け出していく感覚に襲われる。気を抜くとこのまま寝入ってしまいそうだ
「四五六よ、汝は打撃はしないのか?」
虎殿が話しかけてきたので何とか意識を持ち直す
「打撃か、今のところ考えてはおらぬかのぉ」
「そうか。だがもし今より強くなりたいのであれば、我は打撃を覚える事を勧める。出来ぬとやらぬは違う。覚えても気に入らなければ使わなければいいだけだし、打撃を使う相手の考えもより見えてくる。」
「なるほど、そういう考えもあるか。ところで虎殿が使っていた格闘技は何だったんじゃ?ボクシングのような突きやカポエラのような蹴り。おそらく投げ技もあるんじゃろう、何とも捉えづらかった」
「あれは様々な格闘技と猫の動きを組み合わせて、我専用に作り上げたキャットコンバットよ。昔からの言葉に『柔よく剛を制す』『剛よく柔を断つ』とあるだろう。我のモットーは『柔且つ剛』どっちも出来れば強くなる事請け合いよ」
「『柔且つ剛』のぅ、なるほど参考になる」
結局夏休みの残りはそのまま宿に居つくことになり、虎殿に打撃を教わりつつ何度も試合を挑んだが、結局勝つことはなくそのまま山籠もりを終えた。
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我は茶虎柔。ワイルドワイルドプッシーキャッツというチームで虎というヒーローネームでヒーローをやっている。
夏も近づいてきたある日、昔柔道を教わっていた先生から電話があった。
『もしもし茶虎か、儂じゃ渋沢じゃ、久しぶりじゃのう覚えておるか?』
「もちろんです先生、お久しぶりです。お元気にしておられましたか?」
『もちろんじゃとも、御年70。まだまだ現役よ』
「それはよかった、それで今日はどういったご用件で」
『それがの、今年中学生になったうちの孫が山籠もりをしたいと言い出しての。それでお主がいくつか山を持ってたこと思い出したんじゃよ、すまんが夏休みの間少し使わせてはもらえんかのぉ』
「それは構いませんが、さすがに職業上個性の無断使用は見過ごせませんよ?」
『あぁ、そこは問題ない。孫の個性は常時発動型でな、物や他人に害をなす様なものではないから安心せい。純粋に柔道の荒稽古じゃよ』
「そうでしたか、我も仕事がありますのであまり面倒は見れませんがよろしいですか?」
『面倒など見ずとも放っておいてよい。あれはすべて自分でやるつもりらしいからのぉ、それも山籠もりの一貫よ』
「ならば問題ありません、後ほど使用していい場所の地図をお送りさせていただきます」
『そうか、無理言ってすまんが世話になるぞい。変更があったらまた連絡するからの』
「わかりました。では失礼いたします」
夏の間山の一部を貸すことをメンバーに報告し日常に戻る
8月も半ばを過ぎたあたりで、ピクシーボブが山の貸し出し状況を気にしだしので先生に確認の連絡を入れてみた
「先生あれから山籠もりの方はどうなりましたか」
『うむ、何の連絡もないから鋭意山籠もり続行中じゃろうて』
「そうでしたか、人を襲うような動物はあらかじめ遠ざけてはおりますが、念のため確認に行こうと思っております。よろしいですか」
『特に心配はしておらんが、まぁいいじゃろう。そうじゃ、見に行ったついででえぇんじゃが、四五六に少し稽古を付けてやってはもらえんか』
「稽古ですか?」
『うむ、柔道のみならず打撃も存分に使ってやってくれてよい』
「・・・大丈夫ですか?」
『まぁ、あ奴なら問題なかろうて。じゃがなめてかかるなよ。下手するとお主負けるぞ』
「はっはっはっ、また悪い冗談を。わかりました。ではお孫さんの事見てきます」
『よろしく頼むぞい』
地図を渡した場所に行きそこにいた少年に話しかけ、約束通り稽古を付ける
見た感じこちらが想定していたよりずいぶん実力が高い。流石先生の孫といったところか
探っているのか緊張しているのか動く気配がない。ならばとこちらから仕掛けたらあっさり投げられた。個性を使って回避しようとしたが個性が発動しない。慌てて体捌きでその場をしのいだが受け身が完全には間に合わず、いいダメージを貰ってしまった
なるほど、悪い冗談だ
気を引き締めなおし相手をしたら、多少危ういところもあったが問題なく倒せはした。しかしこれで中一か。末恐ろしい
気絶するまで痛めつけてしまったので、宿に連れて帰る。ゆっくり休ませてやろう
宿に付くと入り口でマンダレイが待っていた。帰りが遅くなったので確認の為待っていてくれたらしい。相変わらず優しい奴だ
「おかえりなさい、その子が虎が言ってた先生の孫って子?ずいぶんボロボロだけどどうしたの?」
「稽古を付けたら少し熱くなってな、少々やりすぎた」
「なにやってるの!ヒーローともあろうものがそんな小さな子に、あ~何やってるのよもう」
「小さいというけどな四五六はこれでも中一だぞ。それにマンダレイ。下手するとこの子、お前より強いぞ」
「・・・噓でしょ?」
「いや事実だ。実際我もダメージを負わされた。お前はまだわからんが、ピクシーボブやラグドールよりかは確実に強い」
「そんな強いのその子?」
「あぁ、さすがは先生の孫よ」
「先生ってあれよね、前に柔道を教わったていう」
「そう、我がキャットコンバットを完成させる為、いろんな格闘家の元を渡り歩いていた時に出会った方だ。そして当時の我では一度も勝てなかった」
「はぁ、在野にはそんな格闘家もいるものなのねぇ。しかも無個性なんでしょ」
「あぁ。おそらく最強の無個性だろう」
「そんな人の孫か、なるほど強いんでしょうね」
「うむ、四五六はまだまだ強くなる。楽しみだ」
やっと出てきた初の原作キャラがまさかの虎。
そして虎の口調が意外と難しい。我とか言うくせに言葉の中に女性らしさがたまに出る。
多少不自然でもスルー案件でお願いします。