結果から言ってしまえば、儂はファイトクラブにのめり込んだ
5月からの参加になったが、学校のある平日以外の日には必ず顔を出し、夏休みも今年は山籠もりに行かずに、ほぼ毎日ファイトクラブに通い詰めた
ファイトクラブでの日々は、本当に得るものが多く儂を大いに成長させた
まず、多くの試合を観戦したり、多くの対戦者と対峙したことにより『起こり』の把握がほぼ完璧になった。これは以前からもある程度出来ていたが、実際に攻撃に移る前の予備動作や筋肉の動きを多数生で見たことにより、ことファイトクラブ内においては、相手の動きが手に取る様に分かるようになった
それを以て消力や合気などの完成度を高めた
次に打撃技のほとんどが仕上がった
今迄は庭に突き立てた丸太に向かって打ち続けるだけだったが、実際に動く人間相手に打ち込む事で技を使うイメージが完璧に出来上がった
結果、使い熟す迄は行かないものの、使うだけなら問題無く出来る様になった
また、分かった事もある
『熊』の異形型個性を持つ相手と対戦した時、思い切り剛体術を打ち込んだら相手の肋骨が何本か折れ、肺に突き刺さり血反吐と昼に食べたであろうラーメンを吐いて倒れ込んで動かなくなってしまった
危うく一命は取り留めたものの、勝負の上とは言え殺人を犯す所だった。この時ばかりは己の攻撃力の高さに恐怖した。とゆうか『熊』が相手で良かった。普通の人間だったら、何をとは言わんが突き破って殺しとった
最後に、多種多様な相手との対戦そのもの。これに勝るものはない
例えば『バネ』の奴は闘技場内を所狭しと物凄い速さで飛び跳ねて捉えづらかったし、無個性ながらも日本刀を振り回す奴は程よい緊迫感を味わえた
『多関節』の異形や『ミミズ』の異形はそのバランスの悪さから、合気をかけるのに苦労した
中にはただ水弾をぶつけてくるだけとか、髪の毛をショットガンのように打ってくるだけと言った、箸にも棒にも掛からんようなつまらん奴もおったが、全ての試合その一戦一戦が儂を強くしていった
ただ、勝ち続けて有名になってくると面倒くさい勧誘も増えてくる
大体は語気を強めて断れば二度と近づいては来なくなるんじゃが、ペストマスクって言うんかいの?鳥みたいなマスクをつけた奴がしつこく何度も勧誘に来おった。不意に掴んで来ようとしたから、その手を取って力が入らない様に技をかまし、壁に強めに叩きつけたら次の日から来なくなった
やはり大概の事は力づくでなんとかなるもんじゃ
そんなこんなで夏休みも残り5日
現在54戦無敗。ファイトマネーの総額も1000万円を越えた
そんなファイトクラブを今日を持って卒業する
何故かって?
じい様にバレた
なんでも出稽古の際に、警察の内部調査の映像を見せられてすぐに分かったそうだ
ファイトクラブから帰った儂に盛大に怒鳴り散らし、残りの夏休みは部屋で謹慎。その間一切の鍛錬を禁止にされた
物心ついてからこっち、一日とて休んだ事のない稽古を禁止するとか辛すぎる。何度も赦しを請うたが結局頭を縦に振ってくれる事は無かった
流石じい様、儂の弱い所を的確に責めてくる
部屋で大人しく座禅を組みつつ、謹慎明けを待つ事夏休みの最終日。じい様に居間に呼び出された
期間延長とか言い出さんよな?と、内心ガクガクになりながら居間に向かう。
「来たか、黙って突っ立っておらんで座らんか」
促されるままに正座して、じい様の発言を待つ
「四五六よ、お主将来の事はどう考えとる」
「それは昔から変わっておらん、儂は武術家になりたいと考えておる」
「確かに儂もお前には武の道を進んでほしいと思っておる。しかし今はそういった話ではない。武術家になって何を成すつもりなのかを聞いておるのじゃ」
ふむ、差し当たり強くなる、強い奴と闘うくらいしか考えておらんかった。道場を開いたところで、門下生などの望むべくもないじゃろうしの。そう考えると確かに先の事などまともに考えてはおらんかったか
「どうせお前の事じゃ、強い奴と闘いたいくらいしか考えておらんじゃろう」
「うぐっ!・・・」
「そこでじゃ。・・・儂が一つ、明確な目標を作ってやろうと思っとる」
「明確な目標・・・」
「そうじゃ。四五六よ、お主は今の格闘技が廃れたこの世の中どう思っておる。儂はな悔しいと感じておるよ。派手な振る舞いや装いに魅せられて、子ども達は挙ってヒーローに憧れを抱くばかり。せめてその中の五分の一でも格闘技に憧れてくれればと思わん日はない。じゃがその子らも武術が強いと分かればきっと憧れてくれるじゃろう。
そこでじゃ四五六!お主が今の世に武を取り戻すのじゃ!お主がヒーローになって武道を世に広めるのじゃ!武道とはこんなにも素晴らしいと世に気づかせれば、自ずと武道を始める人口も増えるじゃろう!年の行った儂では出来ん、若いお前だから出来るんじゃ!
どうじゃ、やってみんか!」
途中から立ち上がり熱い眼で語りかけてくる
「じい様よ、ひとつ言わせてくれ。・・・途中からだいぶ無理が無いか?そもそもどっからヒーローになるなんて出てくるんじゃ?さすがに訳が分からんぞ」
じい様は、ふぅ。と一息つき腰を落ち着けながら話を続ける
「・・・。まぁ多少話の持って行き方が強引だったのは認めるわい。じゃがな、世の中に武を取り戻したいのは本当じゃ。ならばどうする、目立つしかなかろう?で、一番目立つ職業はなんじゃ?ヒーローじゃろうが。お前に政治家や芸能人など無理じゃろう?」
「確かにそうじゃが・・・」
「それにの。このまま放っておくと闘うためなら悪い事でも平気でやらかしそうで怖いんじゃよお主は。身に覚えが無いとは言わさんぞ」
「ぐっ、それを言われるとキツいわい・・・」
「『弱きを助け強きを挫く』。お主には武術だけではなく、武道も学んでほしいと思っとる。ヒーローは打ってつけの教材よ。行って心を学んで来い。」
「なるほど、心のぉ・・・」
「というわけでの、お前の受ける学校はもう決めてある。『国立雄英高等学校』のヒーロー科じゃ。ヒーローの名門じゃぞ?」
じい様がパンフレットを出してこちらに渡してくる。
「ちょっと待て、なんで儂が高校に行く流れになっとるんじゃ?よしんばヒーローになるのは良しとしても、高校になんぞ行く気は無いぞ?」
「だまらっしゃいっ!何も学ばんでヒーローになれると思っておるのか!甘ったれた事言うんじゃないわい」
じい様の寄越したパンフレットを見やる・・・
「・・・おい、なんじゃこれ・・・なんじゃ倍率300倍って!しかもなんじゃ偏差値79って!逆に頭悪く見えるわい!」
「お主なら問題なかろう、勉強せずとも良い点を取れておるんじゃ。勉強すれば余裕じゃろう」
「限度があるわいっ!」
「何にもやらん内から、出来んなどと腑抜けたことを言うような育て方はした覚えが無いぞ?良いな、ここを受けるのは決定じゃ」
「くそっ、たばかりおったなっ!ご丁寧にパンフレットまで用意して、最初からこうなるように決めておったんではないかっ!ぐぐぐぐっ、ええぃじい様今すぐ道場じゃ!今日こそ決着付けてやる!引導渡してやるわいっ!」
「あほう、お主はまだ謹慎中じゃ。部屋に戻って勉強でもしておれ」
「ぬぐぅ・・・」
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最近四五六の生活リズムが変わった
今まで休みの日は朝から晩まで稽古をしておったのに、最近は朝晩は稽古をするものの昼間は外へ出かけるようになった。友達でも出来たか?
夏休みに入ってからは毎日のように遊びに出かけておる。出掛けなかったのは盆の墓参りの時くらいか。今まであ奴は己に厳しすぎた。願わくば中学最後の夏休み、心置きなく遊んで欲しいものじゃ
それに心にゆとりが出来たせいか、日に日に技が鋭くなってきておる。これはそろそろ負けを覚悟せにゃならんかのぉ。ほっほっほっ先が楽しみじゃ
そんな夏休みも残り僅かとなったある日
いつもの様に警察署に出稽古に行き、稽古を終え帰り支度をしている時じゃった
「渋沢先生、今少しお時間よろしいですか」
「構わんよ、どうしたんじゃ?」
「実は先生にお伺いしたいことがありまして・・・」
警察官が直立不動で、神妙に話しかけてきた
「なんじゃい。そう緊張するでない、なんもいきなり投げたりせんわい」
「いえ、そう言う訳ではないんです、すみません。あの一つ確認をしたいんですが。先生。つかぬ事をお伺いしますがファイトクラブに出入りしたりはしていませんか?」
「なんじゃ、そのファイトクラブっちゅうんは?新手の道場か?」
「あぁ良かった、ご存じないのならば結構です。それが一番ですので!では失礼いたします、お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。」
「これ待たんか、引っかかる言い方をしよってからに。儂が何かに関係しとるかも知れんと思って話しかけたんじゃろう?ほれ続きを話してみんか。」
「はぁ・・・、内緒でお願いしますよ?」
そう言って、手に持っていたタブレットを見せながら話を続ける。
「実は今、とあるヤクザが運営しているファイトクラブの内部調査をしていまして。あぁファイトクラブというのは簡単に言うと個性を使って対人戦をするような場所だと思っていただければ結構です。
で、そこの対戦者に小柄で柔道着を着た奴がいたので、ひょっとしたら先生かもと・・・。
はっはっはっ、そんな訳ありませんよね。いや本当に失礼を致しました。」
タブレットを見ると顔は覆面をしていて分からなかったが、柔道着の男が対戦相手をマットに叩きつけておった。ご丁寧に合気まで使って
間違いない、四五六じゃ。最近出かけておると思ったらこんなうらやまゲフンゲフン、こんないかがわしい場所に出入りしとったとは!なんとけしからんっ!儂にも紹介せゲフンゲフン、みっちり説教をしなくてはイカンっ!
「どうです、何かわかりますか?」
「ふむ、もしかしたら知り合いかもしれんし違うかもしれん。今度儂の方でも確かめてみるわい」
「そうですか。何かわかりましたら必ずご連絡下さい」
家に帰って四五六を問い詰めたらあっさり吐きよった。そのまま正座で3時間お説教アンド稽古禁止の刑じゃ
あ奴には稽古禁止が一番効くじゃろう
自室で一人になり四五六の事を考える
確かに四五六はかわいい。たとえ修羅の道に落ちたとしても儂は孫を愛することをやめんじゃろう
だが、出来るのであれば孫には真っ当な人生を歩んでほしい。そしてその道中で己を満足させるような何かと出会ってほしい
ならばどうする?あ奴の欲する物はなんじゃ?強敵じゃ!合法的に強い相手と闘うためには・・・
そうして考えて、答えが出てからの儂の動きは早かった
「もしもし、空彦か?儂じゃ、渋沢じゃ。久しぶりじゃのう、まだ生きとったか」
『うるせえぞ、このくたばり損ないが。てめえもまだ生きていやがったのか』
「かっかっか、儂は生涯現役よ!まだピンピンしとるわい」
『で、今日は何の用だ?お前ぇの事だ、どうせまた面倒くさい事なんだろ?』
「おぉそうじゃ。空彦よ、確かお主けっこう前に雄英で教師やっとったろ?」
『一年だけな。もう何十年も前の話だぞ、それがどうした?』
「うちの孫おるじゃろ?あ奴を雄英に入れたい」
『何年か前に拾ったって言ってたな。好きにすればいいじゃねぇか』
「いや実はの・・・。実力は申し分ないじゃが学力の方が少しの。そこでお前から少し口利きをして欲しいのじゃ」
『おいジジィ、ついにボケたか。俺に裏口の片棒担がせる気か?相手見て話しやがれ』
「そう取られても仕方がないとは思っとるんじゃが、これには訳があっての少し話を聞いてはくれんか。」
『くだらねぇ内容だったらすぐに切るからな!』
「恩に着るわい」
儂は四五六が生まれてから昨日までの事を出来るだけ簡潔に話した
「と言う訳でこのままじゃと下手するとヴィランになってしまうかも知れないんじゃ。頼む空彦、孫にまっとうな道を歩くチャンスを作ってやってはもらえんか」
『話は分かったが、そりゃヒーロー云々の前にお前ぇの躾けの問題じゃねぇか。甘やかしやがって』
「むぅ、いちいち正論をはきおってからに」
『それにいくら強ぇって言っても中3のガキだろ?力づくで矯正でもしやがれ』
「強さか。ふむ、そうさのぉ。あれじゃ、オールマイトおるじゃろ?確か八木じゃったか、お前の教え子の。今の時点であ奴と孫が戦えば、おそらくうちの孫が完封勝ちしよる。これでもまだ動かんか?」
『・・・は?やっぱりボケたなクソジジィ。あいつは腐ってもナンバーワンだぞ?』
「こないだテレビで見たわい。あ奴内臓がいくつか無いじゃろ?軸がブレブレじゃ。全盛期なら分からんが今ならうちの孫がほぼ確実に勝つ」
『本気で言ってんのか?』
「儂はこの手の嘘はつかんよ」
『・・・マジだな・・・。はぁ、で?そんな奴がヴィランになるかも知んねぇと?』
「だから頼む空彦よ、協力してはくれんか?」
『・・・話だけは通しといてやる。勘違いするなよ?間違っても合格させろなんて事は言わねえからな。ただこんな奴が受けるから注意して見とけって話をするだけだ。あとは向こうに判断させる。それでいいな』
「おぉっ!すまんっ恩に着るわい」
『それとっ、今から死ぬ気で勉強させろっ!こんな回りくどいことしてねえで自力で合格させろ。それも親の務めだろうが、甘やかしてんじゃねぇぞ』
「うむ全くその通りじゃ。この渋沢、今日より柔道の鬼改め勉強の鬼となって四五六をしごいてやるわい!」
『用件はそれだけだな?じゃあ切るぞ?』
「うむ、今回は世話になった。今度甘味でもおごるわい。」
上手い事話がまとまり、この先の事を考えながら電話を切る
『・・・あぁ渋沢ちょっと待て。』
「ん、なんじゃ?」
『一度孫に会わせろ。テストしてやる』
ファイトクラブはモノローグで消化することにしました。
なんか書いてたら10話とか越えそうだったので。