二学期が始まってから儂の生活は一変した
朝の鍛錬は今まで通りじゃが学校に行っては真面目に授業、帰ってからは強制的に勉強を三時間。稽古はそれが終わってから。修行の時間を減らされるのはつらい。あと勉強もつらい
いくら前世の知識があるとは言え、それを思い出す作業も一苦労じゃ
しかしやらんと言う選択肢もない。一方的だったとは言え、じい様の言う事には確かに説得力があった。確かにこのまま行けば、儂は闘う為だけに生きる人生を送ることになるじゃろう。下手をすれば犯罪を犯すかもしれん
武の再興。確かに明確な目標じゃ。そしてそれは儂の望むところでもある。是非とも強い奴に出てきてほしいもんじゃ
しかしいくら中学校までの範囲だけとはいえ、偏差値79とかまったくもって現実的ではない。合格出来る気がせん。念の為、地元のヒーロー科のある高校も併願用に調べておくとしよう
二学期に入って最初の日曜日
なんでもじい様の友達が過去に雄英の先生をやっていて、その人が儂に会いたいと言うとるらしい
正直いやな予感しかせぬが、ここで逆らってもいい事はないので促されるままその場所を尋ねる事にした
じい様に言われた通りに駅前でたい焼きを買ってから、教えられた雑居ビルまでやってくる
ボロい。建物の周りには立ち入り禁止の工事用の柵まで張ってある。住所合っとるよな、人住んどるんかこれ?
間違いだったら帰ればよいかと、入り口の扉をノックする
「すまぬ、酉野殿はご在宅じゃろうか?」
「おぉ、開いてるから入ってきなさい」
声に従って中に入ると、ソファーに派手な格好をした小さな老人が腰を掛けていた
ふむヒーローか。そりゃヒーロー科の先生じゃし当たり前か
「よく来たの」
「うむ初めましてじゃ。儂は渋沢三四郎の孫の四五六と申す者じゃ、よろしく頼む。あぁこれは土産じゃ、収めてくだされ」
「かぁ~、喋り方があいつにそっくりじゃねぇか」
老人は顔をしかめるも、土産のたい焼きを受け取ると一変笑顔になる。
「おぉ、ありがたい。あの野郎の差し金か?こういうのはどんどん持ってきなさい」
「次の機会があれば覚えておきますわい。して酉野殿、本日は如何用じゃな?儂はなにも聞かされてはおらんのじゃが」
「何にも聞いてないのか・・・。実はな、今日は俺と手合わせしてもらおうと思ってお前を呼んだんだ」
酉野殿が杖を突きながらヨボヨボと立ち上がる。ふむ、ありゃブラフじゃな。その程度で儂はごまかせん
しかし小さい。いくつじゃ?130㎝はないと思う、くそっ低いと逆に分からん
年の割には筋肉はある方だとは思うが。それにしてもなんじゃあの四肢は?前腕部から手にかけてと、ひざ下から足にかけてが異様に太い。装備のせいかとも思うがそれにしてもどうじゃ。握力が強い?それとも直接攻撃?殴りつけるにしても、肩回りを見る限りその可能性も低そうじゃ・・・。
何かの異形か?ならば何の異形じゃ?読めん、全く読めん。さすがじい様の友達じゃ、おかしな輩が多い
「お前がヒーローを目指すのに相応しいか俺が直接見極めてやる。
・・・ってのは、建前だ。あのクソジジイが育てたって言うお前の実力を見せてみろ。」
「それは願ってもない事じゃが、酉野殿は大丈夫なのか?」
「今の俺は酉野空彦じゃねぇ、こいつを着てる時はグラントリノだ。うだうだ言ってないで遠慮なくかかってきな」
グラントリノの気が膨らんで、その場から勢い良くはじけ跳ぶ
そのまま室内を縦横無尽に跳び回る、よく見ると壁や天井を蹴って跳んでいるだけではなく、足から火を噴いて空中でも方向転換しとる。なるほどそういう個性か
それに体捌きが巧みじゃ。流れるように体をコントロールして繋ぎを消し、すべての動作を一つにまとめておる
確かに巧い、おまけに早いが・・・
「どうした?突っ立ってるだけか?来ないのならこちらから行くぞ?」
グラントリノが気をまじえたフェイントを出してくる
こちらに手を出させて隙を作るつもりか
これは偽物、これも偽物、これも、これも、これも。偽物ばっかりじゃ
本命は・・・
「これじゃ!」
背後からの跳び蹴りを手で合気をかけながら弾き、その場で一回転させ脇を挟むようにして両手で持ち上げる。そのままそっと下ろす
「まだ続けるかの」
「・・・いや、充分だ」
「そりゃ良かったわい、さすがに老人相手に攻撃するのは気が引けとったんじゃ」
「確かに強ぇな。だがまだ半分だ、今度は表で俺と追いかけっこだ」
「それはいくら何でも大人げなくないかのぉ、さっきの動きをするグラントリノ殿を捕まえられる自信は無いんじゃが・・・」
「んな事は最初から分かってる。どこまで出来るか見るだけだ。先に表行って待ってろ」
指示を受け、表に出ようと扉に向かうために振り向き進む
おぉ、おぉ。グラントリノの気配が強くなっとる。不意打ちする気満々じゃな
扉に手をかけ、ノブを回した瞬間に背後からの跳び蹴り。それを片手で受け止める
「これで良いかの」
「ふん、やるじゃねぇか。今度こそ前半終了だ、ほれ表に行くぞ」
グラントリノ殿に促されビルとビルの間に入っていく
「追い付けとは言わん。ついて来い」
それだけ言うとグラントリノ殿は壁を何度か蹴り屋上まで行ってしまった
ありゃ無理じゃ、どうやっても追いつけん
パルクールとフリークライミングでビルを登っていく。儂これ知ってる。SASUKEってやつじゃ
少し時間をかけ屋上にたどり着くとグラントリノ殿が納得の行かないような顔で話しかけてくる
「お前本気でやってんのか?」
『?・・・どう言う事じゃ?手を抜いたつもりは無いぞ?さすがにグラントリノ殿のような動きを求められても儂には出来んぞ、そんな個性は持っておらんしな』
「どうやら本当に本気でやってたらしいな。柔道家の渋沢じゃさすがに教えられねえか。小僧もう一度下に行くぞ。体の動かし方を教えてやる」
ビルを降りて最初の場所に立ち戻る
「まず基本だ、その場でジャンプしてみろ」
言われるがままにジャンプする。おぉ高い、2メートル以上は確実に跳んどる
「やっぱり体の使い方がなってねぇ、柔道やる分には充分だがヒーローやるには不十分だ
いいか、これから個性を使わないでジャンプしてやる。しっかり見てろ」
そう言うとピョ~ンと7~8メートルほどジャンプして、二階の壁に指を突き立て壁を掴みその場に留まる
そんな事ばかりするからビルがボロボロになってるんじゃなかろうか
「今のが一般的なヒーローの跳び方だ。お前は跳べる力は持ってるのに、一般人の使い方しか出来てねぇからそんなヘッポコなジャンプにしかならねぇんだ。
まずしっかり地面を掴め、これは感覚で構わねぇ。足だけで跳ぼうとするな、足の指の先から胸までの全部の関節をしっかり意識して力を溜めろ、それを一気に解き放つつもりでやってみろ」
興味深い。たしかに前世に引きずられて人間の上限を決めつけていた
この世界のおかしな成長率、今までの鍛錬、目の前で見せられた現実。一つずつ自分の常識という枷を取り払う
関節の意識は得意だ、何度も繰り返した。問題ない儂ならできる
今じゃ、跳ぶっ!
「うおおおぉぉぉぉっ!?」
「ほれ見ろ、やりゃ出来るじゃねぇか」
目線がぐいっと上がりグラントリノ殿を少し越える、今までの感覚とのあまりの違いにバランスを崩すも何とか立て直し着地する
何じゃ今の?跳んだのか?儂が?自分で・・・?くっくっくっく、いかん、気分が高揚する
今の儂なら何でもできる気分になって来る。今ならフリーザ戦でパワーアップして調子に乗ったベジータの気持ちがよくわかる
あっこれアカン奴だ
急ぎ気を静める
その後体の動かし方をいくつか教わり、グラントリノ殿の元を後にした
去り際に受験頑張れと応援までしてもらった
これだけ世話になったのだ。気合も入るというものじゃ、よし受験頑張るか!
はぁ・・・、帰って勉強か・・・・
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「おい渋沢っ、てめぇなんてもん育ててやがる!」
『どうじゃ、強かったじゃろ?』
「あれでまだ中三だと?それでヴィランになるかもだ?ふざけた事抜かすんじゃねぇぞ!」
『まぁ落ち着かんかい。だからそうならんように動いとるんじゃろうが。それに今なら力づくでどうにか出来るしの』
「・・・お前あいつに勝てるのか?」
『うむ、未だあ奴に負けたことは無いぞ?この先はどうなるか分からんがの』
「くそ、ボケても『最強の無個性』か。というかお前ぇまだ強くなってんのか?そうじゃねぇと話が合わねぇぞ」
『確かに四五六に引っ張られて多少強くはなったと思う。新しい技も色々と覚えたしの』
「はぁ・・・、もういい。しっかり責任は取れよ?手が付けられなくなってからじゃ遅いぞ」
『空彦、勘違いしとるようじゃから言っとくが、どうにかするだけなら簡単なんじゃよ』
「あぁ?どういうことだ?」
『あ奴はのぉ、じゃんけんで言うところのチョキなんじゃ』
「それがどうした」
『ヒーローやヴィランがパーで警察や軍隊がグーじゃ。例えばの話、警察が鉄砲やらを完全に装備して取り囲んだとして、お前ならどうじゃ?余裕で勝てるじゃろう。じゃがおそらく四五六には無理じゃ。個性に囚われて目が曇っておるかもしれんが、あ奴はあくまで一般人の延長にしかすぎん。そこは勘違いしてはいかん』
「なるほど、そういう事か」
『うむ、分かってくれたか』
「で、もし警察に取り囲まれてるのがお前ぇだったらどうなるんだ?」
『儂か?・・・・・・何とかなるかもしれんのぉ・・・』
「いいかっ!絶対に手綱は離すなよっ!」
次回から本編突入です。