「おっはよー!今日も一日、頑張ろうね!」
見慣れた後ろ姿に、ボクはすぐに声をかけた。え?後ろ姿を見ただけで話しかけるのかって?
だいじょーぶ。顔が見えなくても、この人のことだけは絶対に間違えないもん。
「おはよう………まあ、まだ日の出前だけど。いつも早起きだね、テイオーは」
ボクに気付いて、こっちに振り向きながらそんなことを言うのは………ほら、やっぱりボクのトレーナーだ。
「にしても、今日は特に早いね。何か理由でもあるの?」
「ふふふー。カイチョーが言ってたんだ。『早起きはサンモンの得』って。だからトレーナー、ボクにもサンモンをちょーだい!」
サンモン、っていうのが何かは分かんないけどきっと良いものなんだよね。だってカイチョーが早起きしてる理由も『サンモンの得』なんだもん。
でも、ご褒美のサンモンを期待していたボクに返ってきた言葉は、すっごくつまらないものだった。
「テイオー、早起きは三文の徳っていうのはね、早起きすると良いことがあるって意味なんだ。本当に三文貰えるわけじゃないよ」
「エーーーーッ!やだやだ、ボクサンモンが欲しいのっ!」
「三文って、今で言ったら数十円くらいの価値でしか無いんだけど………」
「じゃあサンモン要らない!でも、なんかちょーだい!」
それじゃあ、わざわざ目覚まし時計を何個もかけてまで早起きした意味がないじゃん。そんなのあんまりだよ。あーあ、こんなことならまだ寝てれば良かったなー。
そんなことを考えていると、トレーナーがお財布からお札を取り出してボクに渡した。
「よーし、じゃあ、早起きのご褒美としてはちみー奢るから好きなの頼んで良いよ。言っておくけど、今日だけの特別だからね」
………前言撤回。ボク、毎日この時間に起きようかな。
「ねえ、テイオー先輩っていつもあんな感じなの?」
「放っておきなさい。こっちには何の害もないんだから」
「にしたって、テイオーだけで良かったでしょ………お金渡したんだから、それで好きなの頼めば良いのに」
「だーめ。トレーナーも一緒に飲もうよー!はちみー、すっごく甘くて美味しいんだよ~」
「いや、甘いものはあまり好きじゃないし………いてっ!」
あんまりなことを言うものだから、トレーナーの足を軽く踏んづけて静かにしてもらう。何で、はちみーのキッチンカーの目の前でそんなことを言っちゃうかなー。店員さんもこっちを変な目で見てるよ。まったくもー。
しょうがないので、すぐに注文を済ませてここを去ることにする。ボクだって、ちゃーんと空気を読んで配慮することも出来るのだ。
「はちみー、固め濃いめダブルマシマシのカップルサイズで!」
ボクの注文に、トレーナーも店員さんもぎょっとした表情でこちらを見つめてくる。
「カ、カップルサイズですか?しかし………それは………恋人同士のお二人のお客様限定商品でして………」
「て、テイオー。カップルっていうのは、お互いのことを大好きな男女が…」
「良いから良いから♪はい、お代はこれで足りますか?」
トレーナーから貰ったお札を渡すと、はちみーはすぐに来た。おつりと一緒にパッと受け取ってパッと移動する。これ以上店員さんからの変な人を見る目で見られたくなかったからね。さてと、はちみーどこで飲もっかな~♪
………よーし、そこのベンチで飲んじゃおっと。
「トレーナー、そこのベンチに座って一緒に飲もっ♪」
そんな風に話しかけても、トレーナーからの反応が無い。どうしたんだろ、トレーナー。
「テイオーがカップル用のはちみーを頼もうとトレーナーと生徒という健全な関係自体は変わらないものでカップルになるわけじゃない、落ち着け、落ち着け、落ち着け………」
………まーだそんなこと言ってるんだ。トレーナーって、凄く鈍いなあ。
「ボクは、トレーナーと本当のカップルになっても良いけどなあ」
「え゛」
にしし。トレーナー、照れてる照れてる♪
「えぇぇ、カップルサイズ頼んじゃうんだ………」
「テイオーさんの噂、本当だったんだね。ちょっと近寄りがたいかも」
周囲から、そんな声が聞こえてくる。ボクとトレーナーの噂、結構広まっちゃってるんだ。コマッタナー()
あの後、トレセン学園に帰って朝のトレーニングを済ませたボクは、トレーナーに甘えていた。
「にしし、もーっとボクを撫でても良いんだよー?」
「はいはい、ちゃんと撫でてあげるから。相変わらず、テイオーは甘えん坊さんだなあ」
その後は、ぎゅーってしてもらったり、頭を撫ででもらったり、ソファの上で膝枕をしてもらったり。しかも、しっぽを梳かしてもらっちゃった。
………トレーナーの太もも、ソファと遜色ないくらい柔らかかったなあ。
ともかく、ボクはトレーナーにいっぱい甘えた。それはもうとろとろに溶かされちゃうくらいに。
でも、何でだろう。不思議とボクは全然満たされなかった。決定的に何かが足りていないんだよね。それが何かはよく分かんないけれど。
それでも。一つだけ、言えることはあった。
「ねえ、トレーナー」
返事を返してくれなくても良い。そこに、
「ボク、トレーナーのこと大好きだよ。トレーナーが居なきゃ、ボクのテイオー伝説は始まらないくらいには」
ひょっとしたら、ボクはトレーナーに依存しているのかもしれない。
「だからね。トレーナーのこと、今度こそ絶対に離さないよ。だから………その、さ………」
それでも良い。ボクの、この思いをトレーナーに伝えられれば。ちょっと、恥ずかしいけどね。
「ずぅーっとボクと一緒に居てね♪トレーナー♪」
言葉にして、改めて実感する。大好きなトレーナーと一緒に過ごす日々。
それは、ボクにとって夢みたいに楽しい宝物だったのだ。
「マックイーン。テイオーは、まだあの状態のままなのか?」
「ええ、そのようですわ、会長………もう、あの日から三か月は経っているのですが」
「仕方ないさ。突然のことだ、受け入れるには時間がかかるのだろう」
「そうは言いましても。テイオーのトレーナーさんはもう………」