天に輝くは黄金の北極星   作:帝月

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タイトルが何処かのCMの台詞みたいになってしまいましたが、気にしないでほしいです

そして神父救済回?


『そこに愛はあるのか』

遠坂邸での出来事から一夜明け、我はアイを連れて教会へと足を運んでいた。

 

「王さま、教会に何か用事があるの?」

 

不思議そうに我を見つめるアイ、本来ならば連れて来るべきでは無かったのかもしれんが…また勝手な行動を取られてはかなわん故に連れ出した。

 

それに…『あの男』と話す場面は此奴にとっても糧になるであろうからな。

 

「あぁ…なに…くだらぬ野暮用ではあるがな…」

 

一度壊れたものは2度と治らん…それは人も物も変わらん。

 

例えば…砕けたガラス細工をどれだけ精巧に直そうとも元のものでは無い様に、壊れた人の心が治る事はありえん。

 

創作物によくある、地獄を味わった事で心を壊した者がおり、そこから立ち直った…などと如何にもな綺麗事で描かれるが…その実、其奴らの心は治ってなどおらん。

 

あれは治ったのでは無く変化したに過ぎない…『あの時』にこの小娘(アイ)の心は一度砕け、さらに駄女神の横槍が入った事で…母親との別れを体験し、壊れた心に変化が現れ…今に至る。

 

そしてこの世界にて出会った、己よりも小さな小娘共との触れ合いにて傷が少しづつ塞がろうとしている。

 

それはまるでバラバラになったパズルを組み立て行くかの様に…

 

そして…幼い故に未来は…可能性は無数に存在し、その有様は幾重にも変化を見せる。

 

だからこそ綺麗なものだけでも、汚れたものだけを見せてもダメであり、バランスを保ちつつも様々なものを見せてやらねばならん。

 

我のものであろうとするならば、ただの人形なぞいらん…『◾️◾️◾️◾️◾️』の様に魂を研磨し、己の色を、あり方を磨き、己の真に欲するものを見出したその時こそ我のものになるに相応しい。

 

「さて…邪魔するぞ」

 

我は教会の分厚い木製の扉を開き、薄暗い礼拝堂へと入る。

 

「ようこそ…とでも言えば良いのか…異世界の英雄王よ」

 

その中にいたのは…黒一色のカソックと呼ばれる服に身を包んだ、まるで死んだ魚を彷彿とさせる目をした長身の男…言峰綺礼であった。

 

「ふむ…出迎えご苦労…ではまずは腰を下ろせる場所へと疾く案内するが良い」

 

我の言に一瞬眉を顰める言峰であったが、何かを諦めたかの様な顔で先導を始める。

 

「ふん…少々埃っぽいがまぁ良いだろう」

 

ギルガメッシュはまるで我こそが部屋の主であると言わんばかりに、誰に憚る事も無く部屋に備え付けてあるソファーへと腰を降ろし、隣にアイを座らせ侍らせる。

 

「貴様も座るが良い」

 

部屋の本来の主たる言峰であるが、何かを言えばまた面倒になりそうであったが故に口を噤みながらすぐ近くの椅子に座る。

 

「アサシンからの伝言は既に聞いた…貴様が私に話があるとな…」

 

「ふむ…だがまぁ…その前にこの様な殺風景な部屋では興が乗らん…とりあえずは飲み物とツマミが必要だな」

 

我は宝物庫から『北風のテーブルかけ』を取り出し、適当な酒とツマミそしてアイがいる故にジュースとちょっとした菓子を出す。

 

「さて…まず我の目的は貴様が使役するアサシンを手に入れる事だ」

 

百貌のハサンは間諜にはもってこいだからな。

 

「その対価として、貴様の願いを叶えてやろう。 何事にも対価が必要であろう?」

 

「私の願い…だと…」

 

我の言葉に反応し、言峰は僅かに身体を震わせる。

 

「無いとは言わせんぞ」

 

「私の願い…」

 

傲岸不遜にして、傍若無人な振る舞いに顔をしかめる綺礼。しかし…しかしである…

 

もしかすれば…この全てにおいて規格外なこの男ならば、未だに己を蝕む苦悩を少なからず理解してくれるという可能性が無いわけではなかった。

 

重苦しい雰囲気をその身より出しながら言峰は堅く閉じられた口を開く。

 

「私は…」

 

気がつけば…言峰はギルガメッシュにすべてを打ち明けていた。

 

これは意外というべきか、ギルガメッシュが聞き上手だったことも関係しているのだろう。

 

まるで熟練のマジシャンが如き手腕をもって、時に相槌を打ち、時には言葉に詰まる綺礼からするすると話を引き出し要点を纏めて見せたのだ。

 

万人の謳う美しさを理解できぬ破綻者であり、誰かを愛する事も叶わず…妻を無意味に死なせた愚か者…自分が捧げるに足る理念も目的も見つけられぬ空虚な人の形をした何か。

 

そんな醜い己の本質を再確認する度に己の心は暗雲に覆われていった。

 

「ふむ…言峰よ…貴様は己が歪であると言うが、何故そう思う?」

 

「私は…万民が美しいと思うモノを醜いものと捉え、ソレに共感出来無い…」

 

私は万人が美しいと思うものを同様に感じる事ができない…

 

尊敬する父は厳格な神父であり、私も父に倣い…正しくあろうと…その認識を正そうと幼少より一神教の敬虔な信徒であった…ハズである…少し前までは…

 

しかし…この聖杯戦争において起こった『ある』出来事で己の中に潜む歪みに気付いてしまった。

 

その歪みというのは、自身の上司である時臣氏があの港での戦いの際にアーチャーを制御出来ず、貴重な令呪を切るという大失敗を犯した際、懊悩(おうのう)している様を見て哀れむどころか滑稽で、愉しいと思ってしまった。

 

人の不幸を愉しむ…などという嗜好は、神父として清く正しく生きてきたつもりである自分には到底受け入れる事はできなかった。

 

だがしかし…いくら頭で何度否定しようとも、その時に自身を襲った心の沸き立つような感覚は未だ頭から離れてくれない。

 

ましてや…自分がこのように罪深い性癖だなどと、厳格な父には口が裂けても言えはしない。

 

「貴様は自分が歪で他者とは違うと考えているようだが…そもそもな話、貴様は正常な人と言うものがどういった存在であると考えているのだ?」

 

正常…言葉で表せばたったの2文字でしか無いが、その実態は有って無い様なもの。

 

見方を変えれば俗にサイコパスと言われる者達ですら正常と見做されてしまう。

 

「『万人』の共通認識に沿う価値観を持ち、美しいものを愛する者だ。」

 

さもそれこそが正しい答えだと言わんばかりに言峰は告げる。

 

「ほう?…では…貴様が言う『万人』が定義する美しさとはなんだ?」

 

万民…また大層な事を言うものよな。

 

「それ、は…穢れなきもの…だ。」

 

「フハハハハハ! 穢れなきものと来たか! これはまた随分な珍回答であるな! まぁ…強ち間違いという訳でもないがな。」

 

穢れなきものなぁ…その様な最初(ハナ)から存在しないものを対象にするか。

 

「どういう事だ?」

 

「なに…こと『美』に対する定義なぞ我にも分からん。結局のところ『美』を見出すのはそれぞれの感性。突き詰まるところ、言ってしまえば、美しさとは主観だ。それを言峰…貴様はわざわざ『万人』の等という無駄に壮大な客観性を付け加えるから面倒なことになるのだ」

 

人の感性など曖昧で時と場所次第では幾重にも変化を見せるものである。

 

「例えばだな…我はピカソの絵を好まぬ、確かゲルニカだったか? 戦争の悲惨さを描いた作品らしいが、あんなもの所詮は本当の戦を知らぬ者が想像で描いた駄作に過ぎん、それならばゴッホの描く、己の狂気を込めて描かれた作品の方にこそ価値を見出すぞ」

 

「しかし…それでは…」

 

美しさの基準というのは確かに人それぞれ異なるだろう。しかし…それはあくまでも細かい話だ。問題は自分(言峰綺礼)という男の持つ価値観がこの世界に生まれてはならないものであったことだ。

 

「そもそもだ…貴様の言う穢れ無きものとは何を持ってして『穢れ』が無いと宣う? 」

 

この世は穢れに満ちておるというのにな…

 

「そ…それは…」

 

ギルガメッシュの問に対して言葉を詰まらせた言峰はふと、ギルガメッシュの隣にて不思議そうに自分を見つめる見た目の整った少女を見やる。

 

「こ、子供だ…無垢な子供の姿は誰もが嘱望するものであろう!?」

 

詭弁であるのは理解(わか)っている…だがそうであってくれとばかりに、縋るかの様に少女の姿を見つめてしまう。

 

見つめた先に映るその姿は、少女の年としては整い過ぎている様にも見え、歪んでいる己の感性ですら、『美しい』と思えた…特にその『瞳』に…

 

美しい? この歪んだ感性しか持ち合わせていない自分が?

 

「ふ、フハハハッ! 中々目敏いではないか! 貴様にも理解出来るか! 此奴の歪さが醸し出す『美』を!」

 

何故だ…私は…この少女の『瞳』から目を離せない…確かに美しい星を宿したかの様な『瞳』ではあるが…それだけでは無い…何故だ? 何故…この少女から私に似た『ナニカ』を感じるのだ!?

 

「アイよ…見せてやれ…お前が『隠しているモノ』を…」

 

「王さま…何で…」

 

少女…アイは普段からひた隠しにし、心の最奥に隠していた『闇』を…幼い心に刻まれた、未だ癒えぬ疵痕を見抜かれていた事に驚愕する。

 

そして…先程まで星の如く美しい輝きに満ちていたハズの『瞳』は、輝きはそのままに突如、闇を纏ったかの様な…黒く輝く宝石の様なモノへと変貌を遂げる。

 

「そうか…この娘もまた壊れているのか…」

 

私とは性質が違うが…この小さな娘もまた…壊れ…歪な存在となっているのだな…

 

『あの娘』と然程変わらぬ歳だというのに…無垢な子供の姿と闇を抱えたその歪な姿は確かに美しい…

 

「王さま…」

 

バレてた…私の隠し事…今までずっと『普通の子供』でいたのに…嫌だ…汚い私を見ないで…

 

「戯け…貴様如き小娘が、この我に隠し事など出来ると思うな。 星を宿したその瞳も、闇を孕んだ瞳も、その幼心に刻まれた疵痕も含め貴様の全ては我のものぞ!」

 

「ッ!?」

 

「貴様は大人しく我の側にて侍れば良い!」

 

「うんッ!」

 

そう言うと、アイは大人しく我の側に座り静かになる。

 

「さて…話がズレたが、言峰よ…忘れてはおらんか? 人という生き物はな、誰しもが女の腹に宿り…生まれて来る時には必ず『血』(穢れ)に塗れているという事を」

 

それこそ貴様らの崇める救世主すら、生まれ出て来る際は血に濡れておったのだぞ?

 

「本題に戻るが、言峰よ…貴様がその心に抱く悪性は現世において、そぐわぬものとでも考えているのか?」

 

我の問に対し調子を戻したのか、再び仏頂面で言峰は答える。

 

「当然だろう…それは許されざるものだ! 少なくとも私が歩む信仰の道においてはな!」

 

幼少の頃から何年、何十年もの間、苦悩と共に積み上げてきた信仰の道。いつの間にかそれは人生の大半を占め、艱難辛苦の末に鍛え上げた鋼の肉体と同様に己という存在を構成する重要な要素となっていた。

 

柱の様に揺るぎない信仰心を垣間見てか、ギルガメッシュも何かを見定めるように見つめ、そして何かに納得したように目を閉じて吐息を漏らした。

 

「ふむ…どうやらその信仰心に嘘偽りは無さそうだ。しかし…まぁ…なんとも難儀で不器用な男よなぁ…それではさぞかし世渡りに苦労したであろう?」

 

「今更だが…生きにくいからこそ…こうして藁にもすがる気持ちで貴様に打ち明けているのだ…」

 

生きている事に苦痛を感じ続ける、この状態から抜け出せる事を僅かに期待しながらな。

 

「ふぅむ…貴様の歪な在り様をこの時代の言葉で説明すると…うむ…貴様はあれだ、所謂ドSと呼ばれるものだな」

 

「はっ?」

 

突如発せられた性癖の話に言峰は一瞬固まり、そして一気に頭へと血が上っていくのを感じた。

 

「ふざけるな! 原初の王だか何だか知らないが、私を玩具にして楽しいのか!」

 

「戯け! 巫山戯てなどおらんわ! 実際にその通りだろう? 貴様は人の苦痛や嘆き、不幸に快楽を見出す者だ」

 

「グッ!」

 

「その(さが)と世間との乖離に苦しんでおるようだが、貴様のような趣向の持ち主はその実、かなりの数で存在する。その証拠にそこらの本屋にでも行けばその手の本…他人の苦痛を描いた本はたんまりと置いてあるであろう?」

 

事実現実では表に出さぬもの故に、映像媒体や紙媒体のものとして作られているわけであるが、存在する数だけその性癖の持ち主がおるという事の証左よなぁ?

 

「私をあんなものと一緒にするな! 確かに人の不幸に愉悦を見出していることは遺憾ながら認めよう。しかし…しかしだな! そんなものを断じて認めない!私は…」

 

「造られた偽物程度では満足できぬ…違うか?」

 

「ッ!?」

 

「それが貴様の質の悪いところであろうな。言峰…貴様はな…確かに歪だ…しかしだな…その実、心の奥底では人を深く愛し、尊いものであると理解(わか)っているが故にあのような作り物如きでは満足できぬのだ。もっとリアルな…魂と魂のぶつかり合いにこそ真の美を…悦楽を見出せる。」

 

「私が…人を…深く…愛している?」

 

己に『愛』などと言う感情がある事に否定的であった故に、英雄王のその言葉に言峰は驚愕を隠せない。

 

「無論だ…『好きの反対は嫌いでは無く無関心』と言うであろう? 正にその通りだ。事実…貴様は作り物程度では、真の愉悦を感じられぬのだろう? 二次的な創作物を俗物と切り捨てるその有様を見ればわかる」

 

「しかし…しかしだ…私が人を深く愛していたとしても…それは許されざる悪徳だ…」

 

他者を傷つけ、その苦痛に喘ぐ姿に快楽を見出すなど…神職に就く者としては許されざる性癖に他ならない。

 

「自身の性癖が許されざるものだからと言って苦悩する必要はない。何故ならば、この世において真に許されざるものなど存在しないからだ。貴様が必要性を感じている『許し』とはな、人類の歴史が積み重なる中でその時代において、需要が無いからと、遠ざける行為。要はな…人は己の汚い部分に対して見て見ぬ振りをしているだけだ。」

 

「ただ臭い物に蓋をしているだけだとでも言いたいのか?」

 

「その通りだ。しかし…それでもまだ需要が多少なりとも残っている故に、本屋や有明の某会場にて行われる祭りにああも人が群がるのだ。」

 

「いや…その例えは流石に…どうかと思うのだが…」

 

例えが悪かったかと英雄王は頭を搔き、乾いた喉を潤す為に酒を煽る。

 

だがしかし…英雄王の話は…自分という存在を許容し、あっさりと存在を許されたように感じ、沈んでいた気持ちが楽になった。しかし…

 

「英雄王…私には分からないのだ…何故…私のような者が生きているのかが、そしてどうすればいいのかが…」

 

どうしてもその答えだけが分からない。自身の歪さは認めよう…そしてそれが人への愛とやらから来るというのも、何となく理解はできないが納得はした。

 

しかし、だからこそ…どうしてその愛が、人の苦しみを求める事に繋がるかが分からないのだ。

 

そして…ソレが愛だと言うのならば…何故…私は『彼女』を愛してやれなかったのだ…

 

「ふむ…察するに己の性癖は認めたがそこどまりか? 先ほど貴様は『許されざる悪徳だ』と言ったな。そもそも『悪』とはなんだ?」

 

「悪とは…?」

 

悪とは…一般的な見方であれば正義に討ち倒されるモノ…だが何を持って悪とするかに対して考える。聖書を、世の定理を思い出す。

 

しかし…どこにも真の意味で明確な定義はなく、英雄王を納得させるような言葉は出てこなかった。

 

諦めて首を振る綺礼を見て英雄王が口を開いた。

 

「先ほども言ったであろう。それと同じだ。『悪』とはな…結局のところその時代における客観性によって塗り方固められただけの固定観念に過ぎん…ソレは所詮は人の世を存続させる上で邪魔と見なされた人の一部だ。」

 

透き通った燃える焔が如き真紅の瞳が言峰を見据える。

 

「貴様の問に答えを返そう。何故? という問に答えはない。何故ならば貴様は我のような存在と違い、明確な目的の元作成された個体ではないからだ。その性は貴様の『魂』…即ち、貴様という唯一無二の存在から生まれ落ちたものだ。故に…恐れることはない…悲観することはない…それも貴様だ…ただあるがままを受け入れよ」

 

太古の神々が人と神を繋ぎ止める為の『楔』にして、人々を統べるべき偉大な『王』として設計され尽くして生み出された究極の存在(デザイン・チャイルド)それが『英雄王 ギルガメッシュ』()という存在だ。

 

朗々とした…まるで歌うかの様な心地の良い響きで語られる言葉に、言峰は聞き入っていた…一言一句見逃すものかと耳を立て聞き入っていた。

 

「『愛』とはな…それは突き詰めれば魂と魂の衝突だ。衝突には必ず痛みが、嘆きが生じる。貴様はただ…他人と愛を見る観点が違うだけだ。故に…恐れることはない…悲観することは無い…何故ならば…それもまた愛なのだから…」

 

心という存在に明確なカタチが無い様に、そこから生まれる『愛』もまた無形であり、その形は千差万別である。

 

厳かに…それでいて、歌うかの様にして語られる言葉はどこか子供に言い聞かせるような優し気な声音であった。

 

その声色はまるで不安を取り除くかの様にゆっくりと、しかしハッキリと脳には英雄王の言葉が染み込んでいく。

 

「王さま…誰かを愛する事は…好きになる事は…相手を傷つける事なの?」

 

英雄王の言葉に対し、アイはどこか泣きそうな表情を向けながら問う。

 

「愛とは常に変化をするものだ、それは時に傷つけ合う事もあり、時に抱き寄せ、包み、暖かみを与え、時に癒しも与える…真に他者を愛するというのはな、己の全てを曝け出し、それを受け止め、認め、愛しむ事だ」

 

「わからない…わからないよ…」

 

理解の及ばない事に震えるアイの頭を撫で、

 

「今はそれで良い…これから先において起こる様々なものを…その星を宿した『瞳』で見よ、そして学べ、それがお前に架す試練である」

 

答えを安易にやるのでは無く学べと…自身で探す様に促してやる。

 

「言峰…貴様が求める愛は…その(さが)故に必ずや周りに災厄をもたらす。だがな…我は貴様が、それを理解した上で愛を求めるのであれば止めぬ。 何故なら真に何かを求める者を止める法など…この世の何処にも存在せぬからだ…」

 

英雄王の言う通りだった…言峰綺礼という存在、そして…改めて愛を知った…自覚した時、これまでの人生が、妻の顔が浮かんできたのだ。

 

妻と過ごしたあの日々が…妻の死が…まるで…走馬灯のように流れ、ずっと追い求めていた解答(こたえ)へと駆け寄ろうとする己を堰き止める。

 

「英雄王よ…ならば聞かせて欲しい…私には『妻』がいた…この出来損ないには勿体無いくらいの女性だった…だが…私は彼女に愛を返せなかった…彼女がくれた愛に対して私の心は理解が及ばず…彼女を死なせた…いや…違う…私が彼女を殺したのだ!」

 

信心深いが病弱で、余命わずかな女性

 

男を愛し、男の内に秘める憤怒を誰よりも理解し癒そうとした

 

男からすれば、彼女は『聖女』だったという

 

夢は聖歌隊になる事と…昔…彼女がそう語った事がある。

 

ある異端審問の時、私は神学校を自主退職し、正式な司祭職への道を断念し彼女を妻として娶った。

 

私は誰よりも自分を理解し癒そうとする彼女と、2年間を共に生活した。私は彼女を愛そうと努力した…にも拘らず、自らの欠落は埋まらないと知った私は絶望し…『この様な歪な存在自体が誰かを愛する事自体が間違いだった』と結論づけ…自殺を決めた。

 

最期に『私はお前を愛せなかった』と告白する私に対し、彼女はそれを否定する…

 

逆に彼女自身が自殺することで、私が『人を愛せる心を持つ、生きる価値のある人』だと証明しようとした。

 

しかし…己がその時抱いた感情は…『どうせ死ぬのなら自分の手で殺したかった』というもの。

 

嗚呼…きっとその時の私の顔は嗜虐心に満ちたものであったのだろう。

 

彼女の行動が無価値だったと思いたくはなかった自分は、彼女の記憶から目を背けていった。

 

「おじさん…泣いているの?」

 

少女…アイの言葉にハッとして目元を拭えば、いつの間にか枯れ果てたハズの涙が溢れていた事に驚愕する。

 

「何故…今更…涙など…」

 

他者の不幸を悦び、悲劇を嗤う歪な存在…それが言峰綺礼という存在である…その様な奴が涙など!

 

「おじさんは…その人の事が好きだったんだね…」

 

気がつけば目の前に少女が居り、言葉を発する。

 

「な、何を…」

 

お前の様な幼子に私の何が解る!?

 

この時言峰綺礼の頭の中に浮かんだ感情と言葉がそれである。

 

椅子から立ち上がり、大人気なくも幼子を睨むが、

 

「私…好きって言葉が…わからないの…私は…お母さんに愛してもらえなかった…愛してるって言ってもらってたけど…それは全部嘘だったんだ…でも…私は…お母さんの事を忘れたく無いの…」

 

アイは過去の事を思い出したのか、ただ…静かに涙を流す。

 

何故だ…静かに泣く少女の姿に…何故お前の面影を見てしまうのだ!?

 

「クラウディア…」

 

「おじさんのお嫁さんの名前?」

 

「あぁ…そうだ…私には勿体無い程の良い女だったんだ…」

 

泣いてなどやるものかと、意地を張ってまで堰き止めていた感情は…軛を切るかの様に容易く外れ…

 

「う、うおぉぉぉぉぉっ!」

 

頭の中に彼女と過ごした…僅かな年月であったが、永遠にも感じられる程の時間であったと今更ながら…いや…今だからこそ…思える、あの瞬間が、思い出が、止めど無く溢れてしまう。

 

気がつけば私は両膝を床につけ、只管に泣いていた。

 

そして優しく私の頭は少女によって抱き止められており、その時に見た少女の姿は我らが奉じる聖母の姿を幻視させる。

 

「幸福とは…絶望から遠ければ遠いほどに大きくなる。無上の喜びとはな、苦しみの果てに得られるものなのだ。故に、迷い続けるがいい…そして今は泣くが良い…我が宝…特別に貸してやろう。言峰綺礼…貴様がこれから歩む苦難の先に貴様だけの答えがある」

 

1人の壊れた男の鳴き声だけが、しんと静まり返る教会内にて、木霊する。




皆んな大好き言峰綺礼

ただ今少女の腕の中にて大号泣!

絵面だけだと事案かな?

変に覚醒しなければ神父のままでいれたんですかね?

次の更新も頑張ります!

遠坂時臣はどうする?

  • 顎髭を引っこ抜く
  • アッー!(笑)
  • 傀儡化
  • 時/臣になる
  • 賢い時臣は逆転の秘策を思いつく
  • 残念!だが現実は非情である
  • 処す?処す?
  • 英雄王に裏切られる
  • まぁ…そうなるな
  • 嫁の怒り炸裂!
  • 時臣離婚の危機!?
  • 雁夜と肉弾戦
  • からのキン肉バスター!
  • またもやうっかりをやらかす!
  • ヤローオブクラッシャー!
  • 優雅たれ(服が破ける)
  • 時臣アウト〜
  • タイキックッ!
  • それでも私は
  • 神砂嵐ッ!
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