不遇=弱いって誰が決めた?   作:よく酔うエンジン

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いやー…お待たせしてすいません…数日間隔が空いてしまった…

新作投稿していないのに、お気に入り登録が増えてくれてて嬉しいです…!


『恐る恐る振り返ると…そこには…』

 …一先ず状況を整理しよう。

 影浦先輩は、スコーピオンを鞭のようにして中距離攻撃をするのを主体とした戦法を行なってくる…この時点でリーチは負けている。

 で、使っているスコーピオンは、レイガストよりも高い回転率で攻撃を行うことができる…で、向こうはよくわからないけど、防御回避に使える…多分反射神経がすごいとかそういうサイドエフェクト持ち…なので、初撃は基本的に防がれて手数で押し負ける…これでインファイトは負ける。

 で、そのサイドエフェクトのせいで不意打ちも基本的に決まらないから咄嗟の思いつきでの戦術とかによる初見殺しや不意打ちも通じない…

 

 

 

 …これどうすんの?

 

 僕これどうやって勝てばいいんだ?

 

 強みが基本潰されている。離れても近づいても不意を突いても防がれて負ける…マジでどうすんだ、これ。

 

 一旦こっちも考える時間が欲しかったので、数分休憩が欲しいと言って、お互い休憩を挟むことになった…で、普通に個室にて待機していた僕は、ずっと悩んでいた。前にも言ったかと思うが、戦闘というのは、いかにして“自分の強みを相手に押し付けられるか”…が鍵になる。個人の意見だけど。で、今現在その強みというのが全て機能しないというわけだ…

 この休憩時間に何とかして対抗策を生み出さなければこっちが負ける…新人王がどうのこうの言ってしまった以上、1対5なんて恥ずかしい成績で負けるわけにはいかない…

 

 とはいえ…どうするべきかな…

 

 そう思っていた時だった。

 

 

「あの…」

 

「はい、何でしょうか…」

 

 

 綺麗な女性の声が聞こえた。女性から声をかけられるなんて、三上さんに寝不足な時に話しかけてもらった時以来な気がする…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ…?ここ、個室だよな…僕以外誰もいないはずなんだけど…ていうか、本来なら人が入れないはずなんだけど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …背筋が凍った。

 

 

「あの…神立さん…」

 

 

 …!?え…何…!?なま…名前を知っている…!?え…何…だ…誰…!?幽霊とか…そういう…!?

 恐る恐る振り返ると…そこには…

 

 

「…聞いていますか?」

 

「ぎゃあああああぁぁぁ!!!??????」

 

 

 目の下に隈ができた女性が立っていた。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「話を…聞いていますか?神立さん…」

 

「いやいやいやいや!!まず…まず誰!?あなたは誰ですか!?何で部屋に入っているんですか!?」

 

「…聞こえていますよね?」

 

「え…E!?」

 

 

 ごめん、本当に怖い。この人誰!?気がついたら自分以外他に誰もいないはずの部屋に知らん女性が立っているんですけど!?しかも名前知られているんですけど!!?え?これ本当に何!?誰!?目に隈もあるようでどこか怖い女性だぞ!?しかも…何だこれ…!!

マジで…マジで怖い…!!あと、なんか向こうの目の焦点が合っていない!?何!?本当に怖い!!

 気がついたら後ろに…様子のおかしい女性が…とか、もう完全にホラー映画のワンシーンじゃねえか!!何?何この状況!?怨恨!?

 

 

「昨日…カゲさん…ああ、影浦雅人さんのことですね…迷惑をかけてしまったカゲさんを厨房に引き戻した者です」

 

「え…ああ…あー…!」

 

 

 思い出した…!あの“かげうら”で影浦先輩にお好み焼き教えてもらった後に急に気づかれずに出てきたあの…!あの人か…!

 

 

「名乗っていませんでしたね…私は“朝宮帆乃”と申します…一応、影浦雅人さんとは昔からの知り合いです…以後お見知り置きを…」

 

「あ、はい」

 

 

 状況が急すぎてまともに受け答えできない…いやあのね、さっきの恐怖がまだ体に8割くらい残っているのよ…この人はただの人だし(?)、何も悪くないんだけど、こっちが正常な状態に戻っていない。

 

 

「…な…何で僕の名前知っているんです?しかも、勝手に部屋に入ってきているし…どうやって入ってきたんですか?」

 

「ああ、名前を知っているのはあなたが有名人だからですよ…前シーズンの新人王の名前くらい把握しておいて当然でしょう?ボーダー内の掲示板にも張り出されるほどですし…」

 

「ああ…な、なるほど…で、何で部屋に…」

 

「ちなみに、ドアの鍵が空いていたので、勝手に入っていいものなのかな…と」

 

 

 …いやだめでしょ。それ場所違えば空き巣だよね…!?え?これ冗談…冗談だよな!?これもしかして素で言っているのか!?ていうか、何で僕ドアの開閉音とか気づかなかったんだ…だって、四戦目の後には入ってきていなかったはずだから、ちょっと前に入ってきたってことだよな…それでなんで僕視認できなかったんだ?

 ていうか、さっきから返答の仕方にどこか違和感ある気がするんだが…まあ、いいや、そんなことより目の前の朝宮さんが怖くてたまらない。

 

 

「ここに来たのは、カゲさんの“サイドエフェクト”について説明しようかと思いまして…」

 

「え?」

 

「あの人、ブースのモニターで見ていたのですが、自分の説明もなしにランク戦を始めて、初見の相手に騙すようにして勝っているように見えたので…流石に説明した方がいいかなって思いまして…まあ、向こうには許可とっていないのですが」

 

「は、はあ?」

 

「ああ…あの人、多分素で説明しないで戦っているだけなので…恨まないであげてくださいね?」

 

「……」

 

 

 いや、別に恨んでいないんだけど。僕も初見殺しは多用しているから別にお互い様な気がするんだけど…むしろ、情報を知らなかったこっちの方に問題があるように思えるんだけど…

 

 

「いや…僕も初見殺しよく多用したりしているし…情報も、重要な武器なわけですから…それに、これも戦いの醍醐味の一つですし、向こうに許可とっていないんだったらそんなことしなくても…」

 

「いいですか?カゲさんのサイドエフェクトは『感情受信体質』という体質なんです」

 

 

 …こいつ、話聞かねえ。後色々勝手だな…!部屋勝手に入ってきたし、話も聞いてくれないし…!ていうか、なんか受け答えもどこか違和感あるし…!こういうタイプの人は下手に止めるんじゃなくて、もう勝手にさせておくのがいいのだ。僕はもう聞き役に徹して定期的に反応を示して相手が不機嫌にならないようにする。

 

 にしても…“感情受信体質”だと?聞いたところ、反射神経がどうという感じのサイドエフェクトではなさそうに聞こえるが…

 

 

「感情受信ってことは、心を読むとか、そういうサイドエフェクトですか?相手の心を意図せずにわかってしまうサイドエフェクト…みたいな」

 

「すごい簡単にいうと、“自分に向けられた他人の意識や感情を肌で感じることができる”サイドエフェクト何ですよ…ただ、感覚としては肌にチクチク刺さるような感じがするらしいんです」

 

「はあ…」

 

「でもそのサイドエフェクト、嬉しさや悲しさなど、感情ごとに刺さり方が違うんですよ…で、恨みとか悲しさとかそういう負の感情ほど不快に感じる刺さり方をするんです。で、体の部位ごとにしっかり感情が刺さるんです」

 

「へ…へえ…」

 

 

…まって?それって要は、殺意とかもわかるってこと?

 

 

「このサイドエフェクト、日常生活にはとても不向きですけど、戦闘ではとても有利なんですよ。何せ、死角や離れた場所に居ても攻撃を察知できるから、不意打ちとかするのも難しいんです…勿論、ある程度なら相手が攻撃しようとしている場所もわかります」

 

「…うっわ…それは強いな…」

 

 

 日常生活じゃあメチャクチャ気が散るいやなサイドエフェクトだと思うが、戦闘に関しては初見殺し要素が滅茶苦茶強いな…相手が攻撃しようとしている場所もわかる。フェイントもわかる。不意打ちの場所もわかる…なるほど、全部合点がいった。

 あれは反射神経を応用して回避したり対応したりしているのではなく、向こうの感情がわかるから、どこから攻撃が飛んでくるか事前に把握しているから対応できたということか…

 

 

「すみません…()()()()()()()()で一方的に語るような形となってしまいましたが、これなら多分ある程度は公平になったのではないかと思います…では」

 

 

 そう言って、朝宮さんは出ていってしまった…ん?一方的に話しているように見えたのってあれわざとじゃなくてなんか理由あったの?体の都合…?まさか、あの人も…?

 ていうか、この話、影浦先輩の戦略だったりしないだろうな…?さっきも言ったが、情報は武器だ…こういう戦略もあっておかしくない。向こうも強引だったし…

 

 

『おい!神立!テメーいつまで待たせんだ!いくら休憩するにしても、もう十分休んだだろ!』

 

「あ、影浦先輩!?すいません!考え事してました!」

 

 

 端末から怒号が飛ぶ。しまった、話聞くのに夢中になりすぎて約束していた休憩時間が過ぎていたことに気がついていなかった…

 

 いや…声を聞いて改めて思ったけど、影浦さんはそういう狡い手を使うような人間ではないはずだ。さっきの戦いで、リーチを捨てて“面白くないから”と言って距離を詰めてきたりしたあたり、多分、この人は、戦いを楽しむバトルジャンキー気質があるいい意味で裏表のないいい人だ。まあ、これも勘だけど…

 正直、さっきから戦っていた者として言うには、彼はそんな狡い手を使うような人ではないはずだ…僕の国語とかでよくやる深読みしすぎる癖が出たな。

 

 

(感情…受信体質か…)

 

「先輩!休憩はもう十分とったので、今すぐ行きます!」

 

「ったく…ホノといい、何でこう行動が逐一遅いやつしかいねえんだ…ていうか、あいつ未だに来ねえしよ…!」

 

 

 マジでごめんなさい…て言うか、さっき影浦先輩がまっていた人って朝宮さんのことだったのか…?あの人、なんで悠々とこっちに来てるんだ…?あと、先輩…ガチの体育会系の怖い教師みたいなこと言わないでください…色々トラウマが蘇るから!

 

 

◆◇◆◇

 

 

『第六戦、開始』

 

「ようやっと来たな…待ちくたびれたぜっ!」

 

「おっと!!」

 

「さあ…楽しもうぜ!」

 

 

 転送されて、試合が開始されると同時に、鞭状のスコーピオンが飛んでくる。安定の如く盾モードのレイガストで防ぐが、向こうのサイドエフェクトの詳細がわかったとはいえ、攻略方法が見出せない。

 

 

「どうした!後一敗したら負けだぞ!新人王!」

 

「クッソ…相変わらず早いですね…」

 

 

 朝宮さんの話を聞く限り、感情に反応すると言うことは、感情を消したりでもできればいいのだが、そんな殺し屋みたいなスキル…まあ、無理な気がする…

 

 一個考えたのは、何も考えずに武器を振り回してダメージを与えるという戦術だが、多分無闇にインファイトに持ち込んでそんなことしたら普通に負ける。向こうのインファイト能力はサイドエフェクトがなくても強いからな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、待てよ…?

 

 

(アレを…連想すれば…)

 

 

 影浦先輩って、すっげえ怖い人だけど…お好み焼きの焼き方教えてくれるいい人で…強くて…しかも、目に隈があって若干不気味だけど、綺麗な女性が幼馴染がいる…ふう…ははは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ははは…!!!

 

 

◆◇◆◇

 

 

(なんだ…!?)

 

 

 影浦雅人は、目の前にいる自分の相手に、不気味な感覚を覚えていた。

 新人王と言うから、強いのだろうと踏んで、お好み焼きの焼き方を教えたお礼として申し込ませてもらった個人ランク戦。

 動きや技術は、自分が今まで戦ってきた相手よりも高いし、かなり意表をつかれるような戦術をさっきから展開しているので、かなり面白い奴だとは思っていたが、反面、自分のサイドエフェクトや、鞭状のスコーピオンである“マンティス”に反応できずに翻弄されている様を見て、どこか、他の奴らと一緒なんだな…と落ち込むような心で戦っていた個人ランク戦。

 

 正直、わざわざお礼を言いに来たり、自分の厄介な体質を追い越して、予測していない攻め方をしてくる神立武治という男を既に気に入っていた彼だが、後一勝で自分の勝利が確定するという戦いの中、急に彼の様子が変わったことに驚きを隠せなかった…

 

 

(コイツ…感情が…刺さってこねえ…!?)

 

 

 長めの休憩の後始まったこの戦いにて、急に自分に向けての神立からの感情が刺さってこなくなってきたことに、彼は驚きを隠せなかった。自分への感情受信を防ぐ術を持つ人間など、“彼の幼馴染”くらいしか思い当たる節がなかった。

 

 

(面白え…窮地に追い込まれて覚醒でもしたのか?)

 

 

 彼の顔からは、思わず笑みが溢れてしまった。

 当たり前だ。自分の厄介なサイドエフェクトを無視して行う戦闘の駆け引き…“あの女”以外での感情が刺さらない相手とのまともな“普通の戦い”…彼にとって、あまりにも新鮮で…

 

 

(最高じゃねえか…神立…!)

 

 

 熱狂させるものだった。

 最近戦った“北添”とかいう男意外で、久しぶりに最高の遊び相手が見つかった…感情が刺さることのない、当たり前の“普通の戦い”はバトルジャンキー気質のある彼にとって、興奮を隠すことなどできなかった。

 

 

(どういうカラクリか知らねーが…俺を楽しませろよ!神立!)

 

「リーチは捨ててやる…そうすれば、この“普通の戦闘”はもっと面白くなるよなぁ…!」

 

 

 そう言って、マンティスを一旦しまい、彼は神立と言う新たに見つけた“好敵手(遊び相手)”に向けて駆け出す。

 今までの自分は、どこに攻撃が飛んでくるのかわかってしまうせいで、有利ではあるがどこかつまらないと思っていた…が、今は違う。どこに攻撃が飛んでくるのか…相手はどう動こうとしているのか…全くわからないからこそ予測を立てて戦う“普通の戦闘”。これができることに彼は感動していた。

 感情が刺さらない人間なら会ったことあるが、その人間とまともに戦ったことはなかった。

 

 

(さあ来いよ…神立…!テメエはこんなんじゃ終わらねえだろ…!)

 

 

 そう思いながら、彼は鋭利なスコーピオンの刃を神立に向けて振るう。

 相手は、言葉を一言も発しないが、盾モードにしたレイガストで正確に受けてくる…どこに振っても相手は正確に防御してくる…流石、自分の最高の好敵手(遊び相手)だと思いながら、その刃を止めはしない。

 

 

「どうした!受けだけじゃあさっきと同じだぜ!」

 

「……」

 

 

 軽い問答もしないようだ…それほど集中しているということだろうか…

 

 

(面白え…今度はどう来やがる…“武治”!)

 

 

 そう思った瞬間だった…レイガストを握っていない方の彼の腕が自分に向けて伸びてきた。

 

 

(っ…!?なんだ…!?)

 

 

 感情受信体質が働かないので、全く予測していなかった彼は、慌ててその腕を斬ろうとする…コイツほどの男が、今更隙を晒しに来た訳では無いはず…何か企んでいるに違いないと感じながら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(っ!?)

 

 

 神立の手が自分の体に触れた瞬間()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 胴体は勿論、腕や、足の裏まで隅々にエスクードが生えてきている。下は硬いアスファルトのようなもので出来た道路だったので、地面に突き刺さったりなどはしなかったが、足裏から生えたエスクードのせいで、押し出されてバランスが崩される…

 

 

(クソがっ…!)

 

 

 慌ててマンティスで自分に生えているエスクードを切り払おうとするが…

 

 

(…チッ…腕に生えている壁が邪魔でマンティスが振り回せねえ…!)

 

 

 エスクードが硬いことは前の戦闘でわかっている…切り裂くには、しっかり腕などを使って、フルパワーでマンティスを振り回さなければならないのに、自分の体から生えている壁が干渉し合ってうまく腕が振り回せない…

 

 

「スラスター…起動!」

 

 

 自分の首付近にチクリと突き刺さる感覚が出てきた…この感覚…神立がスラスターを起動して首を狙ってきているのは明白だった…が。

 

 

(壁共が邪魔だっ…クソッタレ…!)

 

 

 壁が干渉し合って動けない。つまり、回避も迎撃もできない。かろうじてシールドを首付近に貼るが、スラスターの加速を利用した斬撃には、無意味だった。

 

 

『戦闘体活動限界』

 

 

 機械音声が、自分の敗北を告げた。視界が宙を待っている…首を切られたのは明白だった。

 これにて、4対2…神立が盛り返してきた瞬間だった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 そして、急に感情が刺さるようになったカラクリが理解できぬまま、いつもと違う戦闘の空気に慣れていなかった影浦は、“普通の戦闘”の駆け引きに競り負けてしまい、そのまま2度新たな敗北を積み重ねることになった…

 

 

 七戦目は、スラスターでインファイトに持ち込まれて敗北。

 

 八戦目は、六戦目でやられた全身にエスクードを生やす技で再度バランスを崩されて敗北…

 

 どちらも、六戦目以前は勝っていたインファイト勝負だったのだが、自分が経験したことのない“相手の考えがわからない”戦場での駆け引きに競り負けて斬られることが多かった。一手一手予測しあって戦う“普通の戦い”において、彼はあまりに経験不足であり、三戦とも神立に勝利を譲る大きな要因になっていた。

 

 

(4対4…追いつかれちまったな…!)

 

 

 お互いに勝利が目前となった。だが、焦りの感情は彼にはなかった。

 あるのは、勝利を求める貪欲な“欲望”と、神立武治という男と初めて行った“普通の戦闘”による“楽しさ”だけだった。

 しかし、彼には一つ引っ掛かる点があった。

 

 

(…あの時、なんで急に感情が刺さってきたんだ…?)

 

 

 6戦目の最後…いや、自分が6戦目からのトドメを刺される瞬間…あの時に、なぜか神立からの自分に向けての感情が復活するのだ…いや、それよりもまず、なぜ感情が刺さってこないのか…それが気になっていた。

 

 

「なあ、急にどうしたんだ、神立…急に意識が抜けちまったみてえによ…」

 

「……」

 

(返答なしか…って待てよ?コイツ、俺のこのクソサイドエフェクトについて話したか

?)

 

 

 彼は、ようやく自分がそのことについて話していないことに気がついたが、すぐにそのことについて忘れた。なぜなら…

 

 

『第九戦、開始』

 

「シッ…」

 

「…!」

 

 

 戦闘開始の合図が聞こえたからだ。マンティスを神立に向けて放つが、レイガストで防がれる。もうここまでパターン化してきたと言ってもいいほど二人にとっては見慣れた光景になっていた。

 ブレード同士がぶつかり合い、ブレードがぶつかり合って目ではわからないほど少し欠けることで出来るトリオンの粒がまるで火花のように何度も飛び交うが、状況はほとんど変わっていなかった。

 

 

(流石に…もう突っ込みはしねえ……こっちがリーチで攻め続ければコイツが勝てるってことはねえはずだ…)

 

 

 もう“楽しさ”を求めて戦う気はなかった。いや、厳密にいえばこの戦いの中に“楽しみ”を見出しているが、そういう楽しさじゃない。貪欲に“勝利”のみを求めて彼は刃を振るっていた。その勝利を求めて、駆け引きを行って戦うことによる“楽しさ”…それを彼は求めていた。相手に塩を送ってスリルを味わったりする際に生じる“楽しさ”ではない。初めての好敵手、初めての“普通の戦い”。本気で戦わなければ相手に失礼だと、彼は無意識ながら感じ始めていた。

 

 

(さあ…どうすんだ?武治…テメエは直接このリーチの差を完璧に攻略できていただけじゃねえだろ?)

 

 

 不敵に笑いながら、マンティスをふるい続けるが、向こうの様子は変わらない…今度はもう距離を詰めさせないし、詰められても逃げる算段を立てながら、彼は相手の様子を観察していた。

 

 

(…顔に焦りの表情もねえ…コイツ…何かあるな…)

 

 

 そう思った瞬間、神立に動きがあった。

 

 

 なんと、彼が()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

(何っ!?)

 

 

 この行動は、彼にとって大きな疑問を招くことになった…何せ、リーチの差という大きな弱点を、さらに大きくすることになるからだ…僅かながらでも防御をしつつ近づいてきた彼の努力を無駄にするこの展開に、彼の思考は理解が追いついていなかった。

 

 

「チッ!待ちやがれ!!」

 

 

 いくらリーチを持つ“マンティス”だろうと、流石に射程距離には限界がある。あまりにも距離を離されすぎたらこちらも攻撃できない。トリオン体で肉体が強化されているとはいえ、足の長さなどから考えると、平面上での機動力では自分の方が上だ…そう考えて、無我夢中で追いかける。

 そして、市街地内での追いかけっこの中、彼が曲がり角に曲がった瞬間だった。

 

 

(クッソ…ここで見逃すわけにはいかねえ…!)

 

 

 そう思って彼が曲がり角の先を覗いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(なっ…!?)

 

 

 彼が、何かに躓いた…

 目視では、段差や小石など、躓かせる可能性があるものなどなかったはずなのにだ。

 

 

(しまった…バランスが…!)

 

「スラスター…起動…!」

 

 

 体に刺さる攻撃の意思を持った感情が、自分に警鐘を鳴らすが、もう遅かった。

 躓いたことでバランスを崩して転びかけた影浦が、最後に見た光景は、大剣を構えて突っ込んでくる青年の姿であった。

 

 

『戦闘体活動限界』

 

 

 大きく体を斬られて、自分の敗北が確定する…思わず斬られた自分の足元に目を向けると、小さな“壁”があった。

 

 

(あいつ…隠れて俺の足元に小さな壁を生やして…俺を躓かせたっていうのか…?)

 

 

 曲がり角に曲がって、一瞬神立が見切れてしまったことで、彼がエスクードの発生モーションに入っていることに気がついていなかった…いや、しっかり地面に注目すれば、壁を生やすポイントに発生する、トリオンの光の線などを目視できたのだろうが、無我夢中で神立を追いかけていたせいで、全く気にしていなかった。

 完全なる“不意打ち”だった。

 

 

(チクショウ…この戦いで生まれて初めて“マトモ”な不意打ち喰らったかもな…)

 

『5本先取勝負終了。勝者、神立武治』

 

 

 この5本勝負は、どれも自身のサイドエフェクトを封じられ、神立の得意とする初見殺しや不意打ちを利用したことで盛り返されたも同義だった。この5本勝負が、まともに彼が初めて不意打ちをくらった試合だった…

 ともあれ、劣勢を覆し、サイドエフェクトに関する情報をもらうズル(?)はあったものの、勝ったのは神立武治であった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 …危ない、なんとか勝てた…本当にギリギリの勝負だった…“この方法”が影浦先輩のサイドエフェクト封じに通用するかどうかも不明な中、ぶっつけ本番でやることになったが、なんとかうまくいった。

 

 

『思った以上にやるじゃねえか…後半は特にしてやられたぜ…流石新人王ってか?』

 

「ああ…いや…こっちもこっちでぶっつけ本番の賭けだったので、正直勝てたのは運が良かったからとしか…」

 

『その賭けっつーのは、俺のサイドエフェクト封じの戦術か?』

 

「ああ、まあそうですね…」

 

『急に感情が刺さらなくなって驚いたぜ…武治、あれなんだ?テメー急に殺気が消えたもんだから虫にでもなったのかと思ったぜ…』

 

「あれは、詳しい仕組みは言いたくないんですけど、擬似的に感情を消したんですよ…」

 

『それが気になるっつってんだよ』

 

「いや…言いたくないです」

 

『ッチ…連れねえな…』

 

 

 影浦先輩…申し訳ないんだけど、これ、やり方が死ぬほど情けないし、失礼だから言いたくないんだよな…まあ、ここだけの話、すごいざっくりいうと、『感情を“ある一つ”の感情に絞って、ずっとその感情でい続けつつ、その感情を隠すように立ち回った』…ということだ…まあ、何言っているかわからないだろうし、詳細を話すとだな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう…あれは一年前のクリスマスの日だったはずだ…

 

 

◆◇◆◇

 

 

「ねえ…」

 

「ん?どうしたんだい?」

 

「あの子…誰かわかる…?」

 

「いや、わからないな…でも…なんというか、すごい存在感ある子だね…」

 

「一人でこんなところに座って…寒くないのかな…」

 

 

 クリスマス…一年の中でも特にカップル達が賑わう特別な日…侵攻後だというのに、この辺りはまだ人が賑わっている…みんながみんな、笑顔で互いの想い人に愛を伝え合って、共に夜を過ごして愛を深めあう聖なる日…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだろうな!普通の人にとっては!!

 

 

 どこを見回してもリア充リア充リア充リア充…人生成功している男共と女共(?)しかいねえ…!だめだ…無意識に殺気が湧き出てきてしまう…!

 

 僕を見ろ…見やがれ…!クラスのクリスマスパーティー的な催し物にも、“侵攻で親がいなくなって忙しそうだし、大変だろうから”とか勝手な偏見で省かれたり、侵攻のストレスで白髪になってしまうも気持ち悪がられて彼女の一人さえ居ることないこの僕を…見ろよ…見やがれよ…!クソッタレがあああああ!!!!!

 

 祖父母は友達宅で過ごし、妹はクラスメイトの催し物へ…残された僕は、一人コーンポタージュ缶片手に街でぶらぶら家族へのプレゼント探し…しようと思ったら、妹は、“キモいから”という変な理由で買う前に拒否する連絡が届いて、祖父母は、僕の財布事情を考えてくれて、買わなくていいと言ってきた…そんな予定もない、友達もいない男は、もうベンチに座ってクリスマスの雰囲気でも楽しむしかねえんだよ…!ああ…もう…ふざけやがって…!(個人の意見です)

 

 

「ねえ…あの子、なんか怖いよ…さっきからこっちのことすごい目で睨んでくるし…」

 

「ああ…もしかしたら、侵攻で家族を失ったりとかしてこっちのことが羨ましいのかもな…」

 

「だとしたら、私たちここにいるの失礼だよ…こんな良い日にそんなこと思わせたら可哀想だもん…ここから離れた方が…」

 

「じゃあ、この後、君さえ良ければ一緒にホテルにでも…」

 

「うん…///」

 

 

 おいそこ!勝手に変な良い雰囲気作り出してんじゃねえ!僕を敵にして好感度アップってか!?ふざけやがって…

 くそ…ただ座って、殺気を飛ばしているだけなのに…なんでこんなに引かれなきゃいけないんだ…!これだと、クラスメイトどころか何も知らないはずの一般人にすら無意識に避けられてしまうではないか…!

 いや…殺気を飛ばさなければ済む話なんだろうが、申し訳ないが、無意識に羨まし…じゃなくて殺してやりたいという気持ちが湧き出てきてしまう…!

 しかも、なんで同情されなきゃいけないんだ!真実だけど、こっちのことなんも知らないくせにさあ…!

 

 

(くそう…だが、周りに引かれるのはメンタルに来るものがある…それに、明らかに迷惑をかけているし…どうにかして殺気を消さなければ…)

 

 

 そんなこんなで、僕は、殺気を消す技術というものを身につける訓練をし始めた…引かれて人が離れていかないようにするために…

 

 目の前にカップルが現れても、羨ましいという感情を押し殺して、表に出さないようにする特訓…ハラワタが文字通り煮え繰り返りそうになった時もあったし、涙を流したくなる時もあった…だが、僕は、その感情を押し殺して、平常でいられるように日々鍛錬を積み重ねた…数ヶ月くらい、その特訓を繰り返していくうちに、僕はリア充を見ても、若干胸が痛くなるだけで何も感じなくなっていった…

 

 

 そう、殺気を隠すことができるようになったのだ…!

 

 

 即ち!リア充の前では、何も感情を感じさせない“無我の境地”に至ることが可能となったのだ…!

 

 

◆◇◆◇

 

 

 そうして、僕はその殺気を隠す技術を戦闘に応用したのだ…

 だが、僕は無条件に殺気を殺して立ち回れるわけではない…僕が殺気を消して、“無我の境地”に至れるのは、リア充を前にした時のみだ…

 普通の戦闘において、殺気を殺して戦うなんて、もう歴戦の戦士とかじゃなきゃやっていられないような神業である…

 

 だが、一個、ここで考えて欲しい。

 

 影浦先輩には、朝宮さんがいる。

 

 彼女は、先輩の幼馴染らしく…とても美人…

 

 そう考えた瞬間、僕の中は殺気で満たされた。そう、影浦先輩を無理矢理リア充だとこじつけて考えたのだ…!

 別に、彼らは交際関係にないのかもしれないし、あまり交友のない先輩にそんなことを勝手に思うのは失礼極まりない行為だと思うが、勝つために手段を選ばなかった…

 そんなこと、お世話になった先輩に言えるだろうか…無理だろう?なあ…

 

 

 で、僕は、そのカップルに対する殺気を隠す方法ならば会得しているので、“殺気”で自分の感情を満たした後に、無理矢理その殺気を押し隠すようにして立ち回ることで、影浦先輩の感情受信体質を破ったのだった。

 

 

『い…おい!武治!聞いてんのかテメー!』

 

「え?あ、はい!!」

 

 

 しまった、考えるのに集中しすぎた…耳が影浦先輩の声を拾い、思考を現実に戻した僕は慌てて影浦先輩の声に応える。

 っていか、なんか向こう名前呼びしてない?あれ…まって、なんかすごい新鮮で嬉しい…!

 

 

『今回は、俺のクソみたいな体質を破られた上で遊ばれたおかげで、翻弄されちまったが、次は負けねえ…今、ホノから連絡が来て知ったが、テメー俺のサイドエフェクトのこと聞いたんだってな…まあ、聞く聞かねえは勝手だが、聞いてなけりゃ勝っていたのはこっちだ』

 

「…そうっすね」

 

 

 これはガチだ。何せ、殺気を隠す戦術をする前は、初見殺しもインファイトもリーチも何もかも負けていて、普通に追い込まれていたからな…こっちが普通に負けていた試合だったはずだ…正直、勝てたのは、影浦先輩が、サイドエフェクトなしの戦いに慣れていなかったから…というのも大きいし。

 

 

『だが、テメーとのバトルはなかなか面白かったぜ。また今度やらせろよ』

 

「…はい!」

 

 

 お好み焼きから始まった僕らのランク戦は、こうして幕を閉じたのだった…




はい、ということで、新たに考えたエスクード戦術、“相手に触れた時に体に生やしまくってバランスを崩させる”と、“意識外のところに障害物として生やしてつまづかせる”でした…!うぜえ…なんだこの戦術…!


-なんで急に名前呼び?
-いや、自分が嫌に思っている感覚なしに行う初めての戦いに興奮したらこうなるんじゃないかなっていう妄想です。まあ、彼も今15歳とかそこらの歳な訳ですし…

-トリオン体にエスクードって生やせるの?
-B級ランク戦ラウンド7参照

-主人公クズじゃない?
-まあ、内面は汚い。卑怯。ただ、友達や仲間相手は話は別。あと、失礼だと自覚はしているから、そんじょそこらのクズとは違う。

-ランク戦って、別にトリオン体修復とかの時間ないと思うよ?何せ、あくまで仮想空間内で“再現”しているだけだから(略)(感想より頂いたご指摘)
-これに関しては、こちらが把握漏れしていました。トリオン体修復を待つ時間から、普通の休憩時間に変更させてもらいました。


あと、主人公以外のオリキャラの名前登場記念に、この後に登場する予定のあるオリジナル隊のエンブレムの内一つを公開します。
(その隊がA級になるかどうか未定ですが、隊のコンセプトがまとめられた図なので、暇な時にでもどんな隊なのか考察してくれたりしたら嬉しいです)



【挿絵表示】



感想、評価お待ちしております。

バイパーって不遇トリガーだと思う?

  • 他三つに比べて使い手少ないし、不遇!
  • いやー…活躍はしてるから不遇じゃなくね?
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