減った後のラッキーナンバー   作:転亡

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超絶お久しぶりです。リアルがとにかく忙しかったです……


0×3÷7+1=1

「ただいま......。」

 

「おかえり......なんで髪の毛湿ってるの......?」

 

トイレから戻ってきた俺。水を顔面にぶっかけて熱くなった(赤くなった)顔を冷まそうとしたしたわけだが......なんでサイナもダウンしてるんだ?

 

「あ......おかえりなさいませ楽郎さん......。」

 

「ただいま。俺がいない間にもいろいろ着替えてたみたいだな。」

 

さっきのチャイナ服は既にたとまれており、瑠美が買うものとしてまとめられていた。

それはいい。それはいいんだが......。

 

「お前....それは....。」

 

「......変、でしょうか?」

 

今のサイナの姿を一言で表すならば......あぁ躊躇わずに言おう。「お嫁さん」という表現が一番しっくりくるものだった。

普段の姿とは大きくイメージが異なる飾り気のない、淡いベージュのセーターに緩い水色のズボン。そしてそれらの色の淡さをより際立てる白いエプロン。さらに髪は後ろのほうでお団子状に纏められていた。料理をするときは脂が跳ねたりすることもあるから割と髪を纏める人は多いというのは聞いたことがあるが......。

 

「....いや、似合ってるとは思う、ぞ。その、普段の印象とはだいぶかけ離れてて少し驚いたというか。」

 

「最近はともかく、最初の頃のサイナちゃんはアイドルみたいだったもんね。今でもたまーに着てるけど。」

 

なら着とるやないかい。と心の中で揚げ足をとる。そうでもしないと冷静さを欠きそうだった。しゃーないだろチャイナドレスの時と同じようにうなじが見えてんだよ......!

 

「ところで楽郎さん。」

 

「んぇ?」

 

「ふと思ったのですが、あなたの服は選ばないのでしょうか?」

 

ピシリ、と体が固まる。お前、それは......!

 

「あー....確かに。いい機会だしまともな服を持たないお兄ちゃんのために選ぶ?」

 

「ハハハ、お兄ちゃんのためを思ってくれるのは嬉しいんだけど気持ちだけ受け取っておこうか。」

 

「となるとお店を変えないといけませんね。ところで、瑠美さんはメンズの衣類も選べるのでしょうか?」

 

おいこらポンコツ。

 

「んー....あまり選ぶことはないんだけど....でもファッションの根っこは性別なんて関係ないからね。その人の特徴を見てそれを前面に出せるコーデを選べばいいわけで。」

 

「ふむ、頼りになりますね。」

 

頼りにすんな止めろ馬鹿。タンスの肥やしが増えるだけに決まってんだろ?!つーか瑠美もわかってるよな?!

 

「身内が恥ずかしい姿してたらこっちが嫌になるじゃん。」

 

「同感です。」

 

しれっと人の思考を(以下略)

こちとらゲーマーだ。外に出ることなんてコンビニとゲームを買いに行くとき以外ほとんどない。そりゃ、いつかはまな板手に入れるために県外に出たりはしたが....それでも立派な余所行きの服なんてほとんど着ることは無い。せいぜい家族旅行に行く時ぐらいだ。

 

「そもそも俺が一緒に外出すること自体滅多にないだろ。」

 

「....まぁ確かに。」

 

よし勝った。そう簡単に俺のタンスに餌を与えられると思うなよ。

 

「ですが私のメンテナンスに行くためにはどちらにせよ着替える必要があるのでは?」

 

「お前1人で行けるだろ。」

 

「不調があったときに備えてすぐそばで支えてくれる存在は必要です。」

 

この一ヶ月ついてきたことねーだろ。今更不安になることなんかあるか?

だがまぁ、サイナの言うことも一理ある。あるのだが....。

 

「やっぱ箪笥の肥やしになりそうなんだよなぁ。」

 

「サイナちゃんのメンテって一週間に一回でしょ?それなら肥やしになることは無いでしょ」

 

む。

 

「その通りです。それに、楽郎さん(半裸(デフォルト))にはわからないでしょうが、服というのは人類が進化の過程で獲得した他の生命体にはない種としてのアイデンティティなのです。つまり己を着飾る衣類に拘ること、これ即ち――」

 

「「インテリジェンス」」

 

衣服片手にドヤ顔をキメる2人を前にため息をつく。目の前のインテリジェンス(ポンコツ)邪教徒へと変貌してしまった妹を見て後でサイナを問い詰めることを確定させつつ、これ以上グダグダ言われても面倒なので大人しく服を選ぶことにした。

まぁ適当にパパッと選べばいい。「自分の趣味を無理に他人に押し付けない」というのは我が家、というか人として常識だ。瑠美がそこをわかっていないとは思えないし、案外スルッと終わるだろう。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そんな甘い考えでいた時期が俺にもありました。

 

「......サイナ?」

 

「どうしましたか?」

 

「俺の感覚がイカれてないんだったら既に10コーデくらい試したと思うんだが......。」

 

「正確には11コーデですね。」

 

10だろうが11だろうが大した違いではない。いや自分にとってはそこそこ違うが問題はそこでは無い。

 

「......もう良くない?」

 

「ですがこの前の写真集の一件でアーサー・ペンシルゴンは一月のコーデなら最低30と発言しておりましたが?」

 

俺はモデルじゃないんだよなぁ....。

 

嬉々とした表情で俺の服を選んでいるのは瑠美ではなくサイナ。最初は「お兄ちゃんのセンスなんて信用できるわけがない」という瑠美の一言により、サイナと瑠美の2人で一緒に俺の服を選ぶ手筈だったが......「どうせならサイナちゃんのセンスも見てみたい」という妹の更なるリクエストをサイナが受理。その結果着せ替え人形のごとくめちゃくちゃにコーデを着せられることになった。

まず事の発端となったサイナの質問は「楽郎さんは服を選ばないんですか?」だったはずなのになぜ俺に選択権が無いんだ?いやセンスが妹より無いのは認めるけども。

 

「パーカー....ふむ、安牌ではありますが少し面白みにかけますね。ではジャケット....その場合インナーをどうしましょうか....。革ジャン......保留ですね。後は......」

 

ブツブツと独り言を呟きながら吸い込まれるように次々とサイナの手に服が取られていく。

本音を言うとだいぶ退屈だ。ゲームではそこまで苦にならなかった着せ替え人形化だが、やはりリアルとゲームではこういうことに対して抱く感覚が違うというか......。

うーむ、こうしてみるとサイナのお着替えは割と楽しんでいたんだな、俺。自分が着替える側になるより他人のを見ている方が俺は性にあう。

 

「では楽郎さん。次はこちらを。」

 

「お、おう......。」

 

マジで30も試すつもりならここで一言言ったほうが良いのかもしれない。そう思って服を受け取り......そこでふと気づく。

――笑っていた。

小さな、本当によく観察しないと気づけない程度のものだったが、確かにサイナは笑っていた。

まるで今、俺の服を選んでいるこの瞬間が楽しくて仕方ないといった感じで。

 

「......そりゃズルだろ。」

 

「え?何が?」

 

そんな顔を見せられては止めようにも止められない。だってそうだろう。サイナがあんな顔をして何かに自分から取り組むことなんて、少なくとも俺は今まで見たことが無い。それを止めようとするなんてのはあまりに無粋なことであるし、

――何より、そんなサイナの姿を俺自身が一番楽しんで見ていたのだから。

 

「楽郎さん?まだ着替えてなかったのですか?」

 

「え?あ、あぁ悪い。すぐ着替える。」

 

サイナにせっつかれて慌ててショーケースのカーテンを閉める。

――不思議と、それからのサイナ主導による俺のファッションショーは苦にはならなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おっも......。」

 

「片方持ちましょうか?」

 

「悪い、助かる。」

 

あの後瑠美からの「家にある服の中にいくらか使えそうな服があるかもしれないから今回は少し絞って買おう」という進言に従い、サイナはコーデを4セットといくつかのいろんな服装に組み合わせられそうな(サイナ曰く、どんなコーデにも合うインテリジェンスなウェア)服を数着買い、そしておやつタイムに突入。父と母への簡単なお土産を買ってショッピングモールを後にした。

 

「どうだったサイナちゃん?今日一日楽しかった?」

 

「はい。とても充実した1日となりました。本当にありがとうございます。」

 

「ふふっ、それならよかった。」

 

「楽郎さんも。今日は付き合っていただき、ありがとうございました。」

 

「いいって。俺も楽しんだしな。」

 

欲を言えばせっかく遠出したんだから少しだけゲームショップとか見たかったが......。とはいえ今日はサイナのための1日である。たまにはこういうのも悪くないだろう。

正直「フェアカスとのクソみたいなデートイベと比べたら圧倒的にマシじゃないか?」という思考がよぎったりもしたが、あのアバズレとこの2人を比べるなんて最大級の侮辱と言っても過言では無いのでやめておいた。

そしてそのまま他愛のない会話を交わしながら駅へと向かった......。

 

 

 

「「3時間の遅延?!」」

 

駅に入った俺たちを待っていたのは「ルート上のレールに熊が出没し、それを轢いてしまったことによる運行の一時停止及び3時間の遅延」というにわかには信じられない情報だった。

 

「いや待て待て!!電車のレール上とかなら分かるけどモノレールだぞ?!あんな細いところに熊がどうやって入り込むんだよ!!」

 

「いや待ってお兄ちゃん......。言われてみれば確かにすぐそばに山があるレールあったよ。しかもあそこって確かレールとレールの間と横側に人とかが立てるようなスペースあったよね......?」

 

嘘だろマジで?うわマジやんけ。えー本当に事故ってんじゃん怖......。

 

「ちなみにですが過去には新幹線のレールに出てきた熊が新幹線に跳ね飛ばされて遅延が起きたことがありますね。」

 

「嘘でしょ。」

 

「ちなみにその熊は即死ではなかったのか現場には血痕だけが残されていたらしいです。恐らく逃亡したものだと思われますね。」

 

「嘘だろ?!」

 

怖っ!熊怖っ!新幹線ってあれ時速300kmくらいなかったっけ?なんで生きてんの......?

 

「どうしよう......お父さんって今日釣り行ってるんだっけ?」

 

「行ってるな......なんなら俺たちと逆方向だ。」

 

「車無いかぁ......。どうしよう......。」

 

現在の時刻は夜の7時過ぎ。明日はもちろん学校があるので今日中に帰りたいところだが......。

 

「......確か、楽郎さんは8時5分までに、瑠美さんは8時10分までに校門をくぐれば遅刻にはならない......そうでしたね?」

 

「?」

 

「まぁ、そうだな。」

 

突然サイナがそんなことを聞いてきた。意図がわからない俺たちはとりあえずそれに答える。

 

「このまま運行再開まで待つというのも可能ではあります。今から3時間は大体10時頃......ここの終電は12時台ですし、今日中に帰ることは可能です。」

 

しかし、とサイナは続ける。

 

「しかしながら3時間も待機できる場所など限られているうえにそもそもそのような場所が夜の10時まで開いているとは考えづらいです。何より瑠美さんの立場を考えるとそんな夜まで外にいるというのは大変危険です。」

 

「なるほど。」

 

サイナの言う通りだ。「帰れはするがいろいろ不都合」、これが今の俺たちの状態だ。そして何より瑠美は中学生。夜遅くまで外にいるのは条例云々の問題もあるし何より怪しい連中に目をつけられるといろいろ怖いという問題がある。

 

「そこでワタシから1つ提案があります。」

 

「聞こうか。」

 

「では......」

 

この八方塞がりな状況においてはもはやどんな案であろうと一考に値する。0を1に変えるのは時に1を100に変えるのと同じだけの価値を持つのだから。

 

「本日は宿に泊まり、明日の始発で帰宅します。」

 

問題はその1にする過程でわけわからん途中式が出てくることなのだが。




別に瑠美もサイナも「デート」なんて単語は使ってないのになんでこのクソゲーマーは「デートイベント」を引き合いに出したんでしょうねぇ……
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