「本気で言ってる?」
サイナから提案されたこのピンチを打破する方法....それはまさかの「宿泊」であった。
「もちろんです。確かに多少リスキー且つ慌ただしく動くことにはなりますが、安全面を考えた場合一番良いのはこれかと。」
うーむ、サイナの言うことももっともではあるが....。
宿泊、宿泊かぁ....。いや別にサイナの案が悪いというわけではない。強いて言うなら帰った後に宿泊費が若干不安ということぐらいである。
俺が悩んでいるのはではなくそこではなく......
「まぁ確かに。ずっと外で待つくらいならホテルに泊まって明日朝イチで動いたほうが良いのかも。」
「瑠美さんは賛成、と。楽郎さんはどうしますか?」
何か問題があるのか?いいや全く。
ホテルについてわからないことがあるかも?確かにあるだろうがそれは俺達が手取り足取り教えればいい。
こいつがヒューマノイドだということがバレるかもという恐れがあるから?無いとは言わないが今日一日外で活動していて何も言われなかったのならそこまで不安に思うことではないだろう。
あれじゃない、これじゃない、と自問自答を繰り返しながら胸の中で燻るこのモヤモヤの原因を探る。そうしていると不意に頭に軽い衝撃と痛みが走る。何ごとかと顔を上げると――
「楽郎さん?聞いていますか?」
「なんーーうおっビックリした。」
「答えてください。楽郎さんはどうするのですか?」
そこにあったのは目の前まで近づいてきていたサイナの顔。そしてそれよりさらに目の前にあるのはサイナの手。指の形を見る限りデコピンをした後らしい。
その近さに慌てて後ずさりながら思考をフル回転させ、サイナからの質問とやらを推測する。
「えーーっと......確か泊まるか泊まらないかだったよな?
まぁ、瑠美が止まったほうがいいって言うんなら俺もそれでいいよ。」
まだスッキリしたわけでは無いが、断る理由も特に無いため承諾することにした。
まぁ....少なくとも嫌な予感って感じではないのだ。少し気にかかるというくらいのものだし、そこまで気にするほどのことではないだろう。
「ではワタシは栄華さんに事の次第を報告してきます。お二人には宿の確保を任せてもよろしいでしょうか?」
「任せてー。」
「そっちは頼んだぞ。」
サイナに母さんへの連絡を任せ、こっちで宿を選ぶ。
とはいえ、買い物でお金を使った手前、あまり良い宿を選ぶことなどはできない。そこそこの条件で検索を掛け、出てきた宿を瑠美が選別することで泊まる宿を決めた。特になんてことは無い普通のビジネスホテルだ。
「それじゃあ部屋割は....」
三人部屋が無かったので二人部屋と一人部屋を借りることになった。まぁここは特に考える必要は無いだろう。順当に考えて男女で別れるのが正解「私が一人部屋でお兄ちゃんとサイナちゃんが二人部屋でいっか。」
「ちょっと待てい!!」
今なんて言ったこの妹は?!
「何?」
「ここは男女に別れるのが普通じゃないのか?!なんで俺とサイナが一緒の部屋なんだよ?!」
「嫌なの?」
「いや別にそんなんじゃないけど......でもそっちの方がよくないか?ほら、サイナだって同性の方が安心する的な?」
「なら聞いてみよっか。おーいサイナちゃーん。」
ちょうど連絡を終えたのかこちらに戻ってきていたサイナが瑠美からの声を聞きつけて駆け足でこいらに寄ってくる。
「サイナちゃんは部屋割りどんなのがいい?」
「......?特に希望はありませんが......。」
そこは「男女で別れるのが無難だと思います」まで言うんだよ!!と心の中であのポンコツにツッコミを入れつつ、「計画通り」という心中を表したかのような瑠美の表情に危機感を募らせる。ええい俺も黙って見ているわけにはいかない!
「それならサイナ、ここは男女で別れる、ってのはどうだ?分け方としては結構無難だと思うんだが......。」
これは実質サイナの取り合い!いわば「デベリオン」の超マイルド版!アレと比べると取り合う対象の人数が比べ物にならないくらい少ないし何も罪悪感を負うような要素もないがな。そもそもあんな筆舌に尽くしがたいクリエイターの
「でもさぁ、サイナちゃん。私、今日買った服の仕分けとかもあるし、できれば一人部屋のほうが良いんだよねぇ......。」
あざと過ぎる。漫画なら「きゃるる〜ん♡」みたいな効果音がついてそうな声だ。ちなみにそういう謎の効果音を口頭で言うノベルゲーは実際ある。予算の問題かな?
「ふむ....しかし、それならなおさら手伝いが必要なのでは?」
もちろんうちのサイナがそんなことを意に介するはずもなく、そしてその隙を見逃すほど俺も甘くはない。
「そうだぞ瑠美。今日はサイナのに加えて俺の服まで買ったんだから結構な量あるだろ。明日は早いんだからサイナに手伝ってもらってさっさと寝とけ。」
「いつも不健康な時間に寝てるお兄ちゃんが言うと説得力が違うね!」
やかましいわ。ゲーマーなんて大体そんなもんだ。そしてVRゲーマーはある程度健康な体でプレイすることを前提としている。つまり俺の生活に問題は一切ないといえるだろう。
それはさておき、今の俺の言葉にサイナも頷いているのを見るに状況は俺有利に傾いた。なぜ瑠美が一人部屋を取りたいのかわからないがまぁ、一人で部屋をゆったり使いたいとかそんなところだろう。だが俺にだって譲れない理由はある。サイナと相部屋と聞いた時からより激しく広がり始めたこの原因も形容の仕方も不明な思考のもやもやをこれ以上広げないためにも俺は下がるわけにはいかないのだ。
妹とはいえ手加減はしない。サイナが口を開く。いいぞ、そのままトドメを刺してしまえ!
「では間を取ってワタシと楽郎さんが同室となって服の整理の時にワタシが手伝いに行くというのはどうでしょう?」
さんらく は たおれた!
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やぁ俺だよ。グレイテスト・プロフェッサー・サンラク改め陽務楽郎だよ。サイナという勝利のためのフラッグを奪い合う戦いでフラッグが自主的に動いたせいで負けたあまりに不憫過ぎる教授だよ。誰が乱数の敗北者だフェアクソプレイの刑に処す。
あの後瑠美がサイナの案に賛成したことで俺とサイナの相部屋が確定したわけだが....くっ、誰かと一緒の部屋に泊まるとか久しぶりすぎて変に緊張する。サイナは初めてのホテルに興味津々みたいだし瑠美はなんかウキウキだし....。心労に翻弄されてるのは俺だけか?!
「はいルームキー。」
「おう....。」
瑠美から部屋の鍵であるキーカードを受け取りながらエレベーターで移動する。下の階は埋まっていたが辛うじて上層階の部屋が空いていた。移動は少し面倒だが今夜の寝床として利用するだけだ、そこまで気にすることはない。景色が綺麗といういいところもあるわけだしな。
部屋に入り、手を洗い、荷物を置いて、
「あーーーーーーーふかふか」
ベッドにダイブ。
呆れたような目でサイナがこちらを見てくるが関係ない。ホテルについたならやっぱやるのはこれだろう。流石にGGCの時ほどでかくはないが、それでも家のベッドに比べればデカいのだ。
「覚えておけサイナ。これが洋室ホテルに泊まるときの
「身投げが上手いのはこちらでも同じなのですね。」
「だれが死に急いでいるって?」
失礼な。ゲームでの身投げは効率を求めるためのものであってこっちでの身投げは休息を求めるためのものだ。つーか身投げって言うな。ダイブといえダイブと。
「つーか瑠美のところに行かなくていいのかよ。」
「そうですね、それでは失礼します。」
サイナが部屋を出るのを確認し、ベッドから起き上がってユニットバスへと向かう。お、ラッキー。これ仕切りがカーテンじゃなくてちゃんと扉になってるやつか。
風呂に湯を張り、待ってる間に全身を洗う。どうせここにはVRなんてないのだから久しぶりにゆっくり湯につかることにした。
「ふぅ~~....。」
肩まで湯につかりながらぼんやりと思考を巡らせる。今までの俺なら脳内の新聞は全面ゲームに関する記事一色だったが最近は違う。
大小様々とはいえ、絶対に一つ以上はサイナについてのものがあるのだ。
「いやまぁ、当たり前なことではあるんだけどな....。」
既にサイナがこちらに来てから一ヶ月以上が経っている。もともとのスペックが高いからかこちらでの生活にもかなり慣れてきている。たった一か月でだ。
だがそれでも不安が拭えない。そりゃそうだろう、今生きている時代からいきなり群雄割拠の時代に飛ばされたり某猫型ロボットが作られたような未来に来たりなんてしたらかなり戸惑うだろう。少なくとも俺は順応できる自信がない。
そういった面で見ればサイナの適応力はあまりにも優秀であり、心配する理由など欠片も無いように思える。それでも俺の中で不安が拭えない理由はただ一つ。
「
こっちでのサイナは向こうにいる時と比べてあまりにも大人しい。大人しいっていうかしおらしい。もちろんいつもそうというわけではなく、さっきみたいに俺と二人きりのときは向こうにいるときと似た感じで小言が言えるらしいが....基本的にこちら側で俺と二人きりなんて状況になるのはかなり限られている。
つまり何が言いたいかというと....「サイナにとって
「いつか話したほうがいいと思ってたし、寝る前に話しておくか。」
本当ならメンテの人が聞くことなんだろうが....俺だってサイナをこちらに連れ出した要因の一つだからその分の責任はとるべきだと思っている。そしてそれ以上に....
「
このくらいはしなきゃ、この肩書きに相応しいとは言えないからな。
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「....」
ワタシは今、湯船につかっている。
壊れないのか、という質問はまだまだワタシのことを理解できていない証拠です。ここでのワタシの
そんなことよりも....今ワタシの思考に表示されているのは....ワタシをここまで導いてくれた
結論から言いましょう。ワタシはこちらでの契約者の態度に向こうのものと若干の差を感じており....それに不安の感情を抱いています。
もちろんすべての面において違いを感じているわけではありません。あくまで「若干」といった程度のものであり、普通なら気にするほどのものでもないということも理解しています。
理解はしているのですが....
「....はぁ」
口から漏れるのはそのような些細なことにすら不安を覚えてしまう憐れな
ですが仕方のないことでしょう。現実ではあれだけ意気揚々として私に対しても気楽に接してくれていた契約者が、こちらではどこか距離を空けているような気がする。しかも理由は不明。これでため息をつくなというほうが無理があるというものでしょう。
契約解除などはまだ言われていませんが、それも時間の問題なのでは....という予想すら浮かんでくる始末です。
....いけませんね。熱で思考回路が不調を起こしているのか、ネガティブな考えばかり浮かんできてしまいます。身も清めましたし、そろそろ上がったほうがよいでしょう。
....