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「なんで......?らく、ろう、君?」
鼓動が激しさを増す。振動だけであばらを砕けるのではと思うほどに。
彼の隣に女性が並んでいた。その人物を私は知っている。彼の親戚である美依奈さん。髪型こそ前とは違うとはいえ、そのどこかで見たような顔は忘れることはなかった。
彼が自分以外の女性と並んでいることがおかしいと思っているわけではない。彼にだって独自のコミュニティや関係を持っているというのは理解しているつもりだ。
なのに、
なのに、
どうしてこんなにも胸が苦しいのだろう
「――――っ......!!」
駄目だ、本当に。立っているのが奇跡と思えるくらいに視界がおかしい。
そこには私が居たかった。でもいつまで経っても私にはできなかった。そんな場所に彼女はいとも容易くいる。
おかしくなりそうだ。
そして私は、足を動かした。
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瑠美がチケットを買って戻ってきた。なぜか変にニヤニヤしているがいいことでもあったのだろうか。
「おまたせ~。こっちがサイナちゃんでこっちがお兄ちゃんね」
渡されたチケットを受け取って礼を言う。つーか一番後ろの席かよ、少なくとも俺にとっては最高の席だ。
「それじゃあ早いけど行こうか」
そういう瑠美に従って劇場に入る。つまずかないよう足元に気をつけながら階段を上り、上半分側の席に通じる階段上がって、真ん中の列で曲がって、
「ちょっと待て」
「ん?」
「俺とサイナのチケットには一番後ろの席が書いてあるんだが?」
「そうだね」
いや「そうだね」ってお前、
「あ、私の席はこれね」
そう言ってチケットを見せてくる瑠美。そこに記されている席の列は.....上半分の中央の列。
「なんでお前だけ違うんだよ?!」
「だってわたしまんなかのほうがいいしー、じゃましたらわるいしー」
スーパー棒読みじゃねぇか。見た目は服でごまかせても開いた口は正直だな。
「それじゃ、あとで会おうね!」
そう言って自分の席へ去っていく瑠美。そして取り残される俺とサイナ。
「......とりあえず席に行くぞ」
「はい......」
そして席に座る俺たち。もちろん席は隣同士。そして今のところ俺ら以外にこの列に人はいない。
ちくしょう瑠美の奴これが狙いか!!あんの
「あのー」
「ん?」
「もし迷惑だったりするならば、空いている席に移りますが......」
そんなことを言い出すサイナに頭が痛くなる思いで瑠美を睨む。帰ったら覚悟しとけよあんにゃろー。
「いい。馬鹿なこと考えてないで俺の隣にいろ」
「ですが、」
「それともなんだ?俺が隣だと不服か?」
「い、いえ、そうでは......」
なら問題はないとサイナをとどめておく。そうだ、俺が文句や不満を抱いたらこいつに対して失礼だ。自然体でいろ。どうせしばらくの間は広告ばかりなんだから。多少気まずく感じるのもそれは気のせいだしこんなことで気まずく思っていては幕末で天誅したりされたりした相手と再会したときなんかもっと気まずくなってしまう......―――ホントダヨ、マツリバヤシサンウソツカナイ。
そして映画が始まる。作戦を立て、ターゲットに接触する主人公。数多の困難やセキュリティを突破し、目標に近づくもたどり着いた先でヒロインを人質に取られてしまう。思わず見入ってしまうような作品だったが次の決死の戦闘でヒロインを救出するも、主人公が被弾してしまい床に伏してしまうシーンになった瞬間、左手に何かの感触が来た。
驚いて左手を見ると俺の手を握り締めている一つの手。その主を見てみれば、映画に見入るサイナがいた。
それを見た俺は―――なんだかもやもやした気持ちになった。
あったりまえだろうが、自分から手を握っておいて当の本人はこっちのことなんか眼中にないなんて俺も随分とコケにされたもんじゃねぇか!!
悪いが反撃させてもらおう。やられたらやり返すのが俺の
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「っ?!」
映画に見入っていたワタシの右手が何か別の感触を感じる。そちらのほうを見てみれば......
一体どういうことでしょうか。今までそんな素振りなどこれまで一度たりとも見せなかったというのになぜ......?
そんなことを考えながら頭を混乱させる。もはや映画のことなんて頭にはなく、今の状況についてただ考えることしかできなかった。
だがしばらくたってから一つ、気づかなければよかったことに気づいてしまった。
自分の腕が、彼の上にあったのだ。
これが指すことはつまり、
さて、ここまで変に思考を巡らせていましたが、ワタシはどう返せばいいのでしょうか。
「......」
一つの決心をする。こんなときどうすればいいか、ワタシにはわかりません。ですが何かに倣うことくらいならワタシにもできるのです。
すなわち、「握り返す」と。
「―――っ......!!」
まずい。非常にまずい。反撃したはいいもののこれはこれで緊張しますねぇ、えぇ。あああああ
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握り返したら握り返されたので更に握り返した今度はうつむき始めてプルプル震えだして......何やってんだこの
しかしまぁ、機械とは思えないくらい温かい手だ。人の温もりと何ら変わらないように感じる。思い返してみればこいつとは抱きかかえたり手を合わせたりはしたけど、手を握るっていうのはあまりしたことが無かったな。一応ちゃんと手を繋いだのはこいつがこっち側に来た日にうちへ一緒に帰った時くらいか?とはいえ、出会ってまだ一年どころか半年もたっていないのだしそもそも手を握る必要があまりなかったというのもあるんだろうが。
「おーい、サイナ―?大丈夫か?」
「..........手を......離して、もらえませんか」
「位置的にお前が離さないと無理なんだが」
「―――はい」
今の謎の「間」はなんだよ。
離された手をサイナの手とシートの肘置きから抜き取る。さっきまで人肌に触れてたからか少し寒く感じるな。
そうこうしているうちに映画は終わり、エンドロールになる。正直な話、ゲームのエンドロールと違って知ってる人も特別なムービーなんかがあるわけでもないので退屈なのだが、ここで立ち上がって外に出てもそれはそれでやることが無いので座っておくか......と、瑠美からメールだ。
瑠美:もう出ようか
おっ、ラッキー。あんまり退屈なのは好きじゃないから大義名分があるのは助かる。
「サイナ、もう出るか?」
一応確認。まぁどうせこいつもyesと答えるだろうが
「......もう少しだけ、一緒にいませんか?」
待て。
「え?」
「いえ、初めて見る映画なので最後までみとどけようと」
ムムム、言いたいことはわからんじゃない。俺にとっては退屈でもこいつにとっては初めての経験なのだ。ならばそれに付き合ってやるのは日頃世話になってる俺の役目だろう。
「わかった。なら俺も残るよ」
そして再び席に座る。不思議と、サイナのためだと思うとそこまで苦ではなくなっていた。
そしてエンドロールが終わる。これでおしまいかと席を立とうとした瞬間、サイナにまた手を握られ、スクリーンの方を指さされる。そのままスクリーンへ再び目を向ければ、今回の物語の後日談を描いたムービーが流れていた。まるで最後まで残ってくれた視聴者に送られた感謝とご褒美を込めたかのような印象を、その短いムービーから感じられた。
「オルケストラとの戦いを思い出しますね。あの時楽郎さんはすぐに終わらせようとするのではなく最後まで待っていましたので。ならワタシも最後まで待ってみようと思いまして」
さっき言ってたことと違う気もするが両方とも本音なのだろう。
そして言われて思い出す。そういやあの時は確かに待っていたが、あれはあくまで答え合わせのためだった。だがこいつはそれから学んで今回最後まで残ったのだ。
俺の行動がこいつに影響を与えている。そう思うとなぜか心が引き締められる感じがした。こいつが見習うのに少しでもふさわしい
そんな感じで予想外の学びを得た俺はサイナと一緒に劇場を後にした。
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「あ、出てきた」
「悪かったな瑠美。エンドロールまで見てたら遅くなっちまった」
「我儘を言ってしまい申し訳ありませ――」
そこで止まったサイナはゴホン、と一つ咳ばらいをして言い直す。
「我儘を聞いてくださってありがとうございました」
「......おう」
なるほど。前に俺が謝罪するより感謝をしたほうが良いというのをしっかり覚えてたのか。いやお前そんなキャラだったか?そういやさっき「こいつは俺の言動から学ぶ」って知ったばっかだったわ。俺より学習能力あるんじゃねぇの?
「ふーん、まぁいいや。それじゃあもう一回服選びに行こうよ。さっきの映画見てサイナちゃんに着せたい服がいろいろできたんだよね」
おっとお兄ちゃんはもう結構疲れてるんだが?そろそろ帰ってログインしときたいんだが?
つーか荷物これ以上多くなんの?これ持つの俺だよね?
「おい瑠美――」
だが二人のほうを向けば楽しそうにこれからのことを話し合う二人の姿。
今、この時ほど目の前の二人があの外道だったならと、思わずにはいられない状況はこの先なかなか無いだろう。
なにせ、あんな楽しみな表情を見せられてしまえばこちらも楽しみだと思わずにはいられないからだ。
「おにいちゃーん、早く―」
「はいはい。今行く」
―――今日はまだまだ続きそうだ。
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「......ははは」
口を開けばそこから漏れるのは乾いた笑い。さっきから何かをしゃべろうとしてもこれしか出てこない。
楽郎君を見かけた私は足を動かした。――劇場の方へと。
彼は一番後ろの席に座った。私は隣に行こうと思いましたがそんな勇気はなく、彼らが座っている席の前の列に座りました。
そして上映が開始される。でも私の目にはスクリーンなど入っておらず、ただ一人の男の人しか映っていなかった。
彼の様子を見ながら私はこう思う。
―――あぁ、こんな形で貴方と一緒に映画を見たくなかった。
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「さぁさぁサイナちゃん、次はこれ!」
「なぜでしょうか、とても既視感がある服なんですが......」
そりゃあそうだろうな。なにせ今瑠美が選んできた服はさっきの映画の登場人物たちが身に纏っていたものと同じものばかりなのだから。それでいて色とか装飾なんかの細かいところはサイナに合いそうなものを選んでいる。流石は
「どう......でしょうか」
「......いや、似合っているとは思うぞ......うん」
だが妹よ、一言言わせてほしい。チャイナドレスを持ってくる必要はなかったのでは?つーかなんでそんなもんがあるとこ知ってんだよおかしいだろ。
しかも積まれている服を見た感じいくらかそういった服がまだあるみたいなんだが。
『やっぱりサンラク君も男の子なんだぁ......。いいんじゃないかな?ラブドールとかあるわけだし――』
シャラーーーーップ!!!!失せろ消えろ祓われろ!!!!俺はサイナにそんな意識を向けたことなどない!明らかに胸元が見えてるような今の衣装にも俺はそんな気は起こさないぞーーーっ!!!!!!!!
「あの、楽郎さん?どうかされましたか?」
「センス皆無なお兄ちゃんでもサイナちゃんが綺麗すぎて感動した?」
「ソーダネ。トッテモニアウト、オモウヨ」
そうだ、落ち着け。こんな衣装は今までのゲームでいくらでも見てきた。くっくっくっ、残念だったなディプスロミーム、俺の今までの経験にかかればこの程度凪の如き心で流せ
(衣装に似合うからとシニョンにまとめられた髪型のせいで普段見えないうなじが目に入る)
落ち着けぇ!!俺は!サイナには!そんな気は起こさねぇ――――っ!!!
「なんで震えてるのお兄ちゃん......」
「大丈夫でしょうか......」
「ごめん、トイレ行って来る。先に試着済ませといてくれ」
そう言い残してその場を去る。このままだと俺の中の何かが狂うし認めてはならないものを認めそうになりそうだったから。
「......とんでもねぇ顔してるぞ、お前」
トイレについて手洗い場の鏡を見てそうつぶやく。
一周回って笑えるくらいに赤くなった自分の顔がそこには写っていた。
......顔洗ったら冷めるかな。
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「――ぅあ」
「サイナちゃん?!」
その場にへたり込む。
別に途中で立ち去られてショックだったというわけではないのです。むしろ立ち去ってもらえてありがたかったというか。
(こ、こんなふやけた顔を見せることなど......!!)
そんな風にご機嫌になりながら後ろのフィッテイングルームにある姿見を見てみれば
「―――?!」
とてもだらしなくにやけているワタシの顔が写っていました。
「あんな、あんな顔を見せるわけには......!」
「ちょっと大丈夫?お兄ちゃんもサイナちゃんもどうしたの?」
「瑠美さん......表情ってどうすれば固定できますかね?」
「え、どうしたの急に」
水でも被れば治まりますかね。
最後らへんの楽郎、傍からみれば頭抱えて苦悩してるやつが急に落ち着いたと思ったら今度は悶絶しているという大変愉快な構図。
サイナちゃんには羞恥心などで赤面して笑いながらプルプル震えてる姿が絶対似合う。
脳内ディプスロ「かわいい子見た後にトイレに行く?!それって間違いなくオn」
(脳天アラドヴァルパイルバンカー)