タイヨーアライズ
ぷかぷか。ぷかぷか。
なんだかとっても、きもちがいいかんじ。
「……きてよ。……ましてよ」
……誰の声だろう?
聞きおぼえはないけど、安心するような、そんな声がきこえる。
「ねえ!」
体が揺れる。違う。揺さぶられている。
誰に?
そして俺は、目を開けた。
「……! 目が開いた! 良かったぁ……」
視界に映るのは、俺の顔を覗き込む見覚えのない顔。そして、その向こうの青空だ。つまり屋外だ。
そして香るのは潮の香り。横に目を向ければ、辺りは一面の真っ青。そりゃあぷかぷかとした感じがするわけだ。だって実際そうなんだから。
「……あの、ここは」
かすれた声をひねり出す。
とりあえず、どうして俺は今こんなところにいるのか。そもそもここはどこなのか。目の前にいる現実離れした赤い髪の人に話でも聞いて、少しでも情報がほしかった。
なのに、少しだけ声をあげた瞬間。彼女の表情は唐突に理解できないとでも言いたげなポカンとしたものにかわり、そして。
「し、喋ったああああ!」
と失礼にも叫び上がって俺を落としたのだった。いてえ。
というかそもそも俺を起こしたのはお前じゃないのか。なのになんで反応があっただけでうろたえるんだよ。おかしいでしょ。
そんな俺の疑問も露知らずか、彼女は慌てたように小舟から飛び出した。
「あわわわわわわ。えーっと! ヂヱゴさーん! 大変なんですー!」
「うるさいよ! そんな大きな声を出さずとも聞こえているとも!」
遠くから、彼女への返答が聞こえ……ヂヱゴ?
海。そしてサンヂ。いや、そんなことはあるはずがない。だけど、まさか。
体を起こして周囲を見ようとしたが、うまく力が入らない。だけどかろうじて腕だけは動かすことができた。
恐る恐る、自分の手を顔の前に持ってくる。……
それはまるで、女の子の手だと言ったほうがしっくり来るような、そんな手だった。爪もこじんまりとしてるし。
そう俺が自分の手をまじまじと見つめている間にも、波を切る音が近寄ってくる。それが俺のいる小舟の隣で止まると、見慣れているのはおかしいのに見慣れた顔が小舟に横たわる俺を覗き込んだ。
「目を覚ましたか成れ果てよぉ」
その顔を認めた時、俺はその理解しがたい現実を認めざるを得なかった。だって、その覗き込んできた顔は……。
「サン、ヂヱゴ」
……会ったことはない、だけどよく知っている顔だったからだ。なんとなく予想していた通りに。
犬ぞりからスペース・コロニーまで。
ありとあらゆる乗り物を擬人化する
サンヂヱゴは自分達の仲間を守るためにタイヨーアライズという海上組織を立ち上げた者のひとりだ。今でこそその執行部を退いてはいるが、いまもその中で『エクスレー41』という精鋭チームを率いている実力者――それがその原作の中のサンヂヱゴだった。
そして、そのタイヨーアライズの目的もまた明確なものだ。日本に籍のある、あるいは日本企業の運航する、もしくは日本の個人または団体がオーナーである、または日本で建造されたあらゆる商船・漁船の安全を守り、害する者があれば排除する。そのために世界中に支部を持ち、世界の海を航っている。
そう、世界中の海だ。いまこうやって日本語で会話しているからといって、
そんなふうに思慮に耽っていると、サンヂヱゴは冷たい目でこう言った。
「ほう。言葉を取り戻したか」
……なんだろう。猛烈に嫌な予感がする。
その目は、サンヂヱゴというキャラクターが味方に対して向けるようなものじゃなかった。あの小説で書かれていたサンヂヱゴは、基本的にはどんな者にも明るく、真剣に接してくる熱血娘なんだ。
だけど、そんな彼女ですらいい顔をしない例外が、2種類だけある。つまり、総合的に判断すれば今の俺はその2つのうちどちらかなんだろう。
1つはもちろんタイヨーアライズに仇なすもの。つまり排除対象だ。だが俺がそうであるという線は薄いだろう。仮にそうならこんな風に小舟に揚げられることなく、水底への片道旅程を辿っているに決まっている。
ならばもう片方だ。それは、
そりゃあ、政府は恨まれても仕方がないだろう。しかもそのような扱いを受けたのは彼女のみにとどまらない。彼女と一緒にタイヨーアライズを立ち上げたアリマサンやキヨカワもまた、多かれ少なかれ似たような目に遭っていた。
故にタイヨーアライズは日本国政府や政府機関を基本的には信用しない。そもそも本当に信用しているのであれば、自分達の身を守るためにタイヨーアライズを立ち上げる必要もない。
だが、たとえ嫌っている政府の船とはいえども、それが日本の船であることは疑いようがない。ゆえにタイヨーアライズは政府の船の保護はするのだ。それが今のこの状況を、的確に表しているようにも思えた。
「あの」
「無理に喋るな。話は落ち着いた場所でだ。……こいつぁアタイが曳いてく。ガーラに戻るぞ」
「「「R*1」」」
……あと、やっぱりここ、日本じゃなかった。