タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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セントウクンレン

「それじゃ、どこからかかってきてもいいからねー」

 

 ヴィオはそう言って、アンカーを俺達の方に向けた。

 

 ……いや、なんで?

 

 俺達はリゼから東日本支部で座学研修を受けていたはずなのだ。そこにやってきたヴィオにより、俺達は彼女と戦闘研修をすることになった。

 うん、わからん。気がついたらそういう事になっていた。原作でもヴィオに周囲が振り回されるのはしょっちゅうで、それをうまくコントロールできていたのがルドルフくらいだという自由っぷりだったが、実際に体験するとこうも理解が追いつかないものだとは。

 

「どーしたの? かかっておいでよ」

 

 そのヴィオの言葉に、研修生の何人かが前進していった。

 ……いや、むりだろ。あのヴィオだぞ? 研修生がどれだけ束になろうが勝てるわけがない。

 そう思いつつも目線で飛び出していった者達をおいかけてみれば、案の定彼女たちの攻撃は届くこともなく、逆に一瞬でヴィオに制圧されている。意気揚々と飛び出していっただけあって研修生としてみればいい動きだったのだろうけれど、ヴィオからすれば話になんてなるわけがない。

 

「はい、終わり! 君もいい動きをしてるね、タイヨーアライズの未来は明るいなあ!」

 

 出撃していった数人を完全に制圧してから、ヴィオは俺達にまで聞こえる声でそう言った。そして俺達の方を見ると、来ないの? とでも言いたげに微笑みを浮かべた。美しくも悪魔のように恐ろしいものを感じさせる微笑みを。

 それにつられて何組かが向かっていったが、物理的に殴りかかれば錨で受け止められ、遠距離攻撃も弾き返される。その全てがあっという間にいなされて、そして無力化されているのだ。

 

「君たちは来ないのー?」

 

 こんなにもゆるっとした口調と態度なのに、強い。圧倒的に。知ってはいたが、いざ目にするとその威圧感に押しつぶされそうになる。

 しかも一見ゆるっとしてはいるが、よく足元の喫水を見ればどの方向にも動けるように準備されているのがわかる。

 はてさて、どうしたものか。そもそも俺はまだこの体がどういう技を使えるのかわかっていなければ、戦闘スタイルすらちらっとタカサゴから聞いただけだ。それでどうやって戦えと?

 そう考えていると、ようやく挑む人が落ち着いたのであろう、まだ動かない俺や他の研修生たちをヴィオがじっと見ているのに気がついた。

 

「そっか。なるほどね、そうだよね! タイヨーアライズの役目は、守ること。それを見させてくれるってことだよね! それじゃ、こっちから攻めちゃうよー!」

 

 待てや。

 そう思っても、もう遅い。錨を構えて突っ込んできたヴィオは俺達の中の1人に照準を絞るとその錨を振りかざした。

 ガキン! と金属音が響く。ヴィオの錨を、キタカミが自分の錨で受け止めていた。

 

「おっ! 受け止めた。それにJNRアンカー。いいね!」

「当たり前。攻めより守りのほうが楽なのは、定石の1つです」

 

 そのキタカミの言葉通り、彼女はさっきまで突っ込んでいった者達よりも長く持ちこたえられているように見えた。少しだけではあるが。

 殴り合う2人に巻き込まれないよう少しだけ離れて、考える。

 もしかしたら、さっきみたいな遠くでやりあってる時なんかより、そこでキタカミとやりあってるこのタイミングが一番ヴィオに攻撃を通しやすいんじゃないか?

 ……そうと決まれば。俺は静かに舵を取り、ヴィオの後ろに回った。

 そして、静かに。だけど素早く。錨を携えてヴィオに近寄って錨を振りかざす。

 

「! 悪い娘だね。でも、正しいよ」

 

 しかし、ヴィオは俺の攻撃を受け止めた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 何が起きたのかはすぐには理解できなかった。ヴィオが持っている錨から伸びる鎖が俺の錨を絡め取っていることに気がつくまでには、それから少しだけ時間がかかった。

 そして。

 

「それじゃ、全速前進っ!」

 

 その状態でヴィオは素早く動き出した。するとどうなるか。錨鎖が曳航索めいて、俺をヴィオの後ろに続くように引っ張りだす。

 ……いや、俺だけじゃない。キタカミもまた、反対の錨鎖で絡め取られていた。そしてその状態で勢いよく同じ方向に引っ張られるということは……。

 

「ちょっと貴女! このままじゃぶつかってしまいます!」

「んなことは分かって舵きってる! だけどなぁ!」

 

 避けようと動いたところで、引っ張られて体勢を崩した状態ではうまく動くことはできない。結果、有効な手立てを取れないままに俺とキタカミは勢いよく衝突してしまったのだった。

 そのまんま海面に体を打ち付けられる俺達。そんな俺達のもとへすぐに駆けつけてきて、手をとったてくれたのは当のヴィオだった。

 

「はい、ここまで! ふたりとも惜しかったね!」

 

 衝突を確認してすぐか、あるいはその直前にはもう引っ張るのをやめていたのだろう。その駆けつけてくる早さもまさに一流のそれだ。

 そんなヴィオの笑顔は、太陽のように眩しかった。

 

「君の名前を伺ってもいいかな?」

「キタカミ、です」

「ふむふむ。君は?」

「あー、俺は……コアマ」

 

 そう名乗ると、ヴィオの笑みが一瞬だけ深くなった。

 

 それを見てようやく、俺はミスに気がついた。

 莫迦! 俺の大莫迦! 迂闊! そもそもヴィオがわざわざこんなところに来てこの訓練をすると言い出したのなんて、冷静に考えれば俺が研修に混じっていることをどこかから聞きつけたからに決まっているじゃないか。

 ヴィオはじっと俺を見ている。まるで舐め回すかのように。

 本当はそれほど長い間ではなかったのだろう。だけど俺にとっては終わらないかと思えるほど長く感じられた。

 

「そっか、君が。……うん、君たちの名前は覚えたよ。それじゃ、他の子たちの力も見てくるから」

 

 そう言うと、ヴィオは俺達をその場に残してまだ残る研修生達の方へと突っ込んでいった。ひとまずこの場では助かったか?

 そしてヴィオが残る彼女達を無力化するまで、大して時間はかからなかったのであった。

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