タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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アズールアーク

「と、いうわけで。この子は私が連れてくからねー」

「待とうかヴィオ。何がどうしてというわけなのかをまだ聞かせてもらっていないのだが?」

 

 運河での戦闘訓練と、そのフィードバックがひと通り終わった後。リゼのところに戻って話をしていたところにヴィオがやってきて、いきなり俺を担ぎ上げるとそう宣言した。

 

「そもそもだね、まだコアマの研修は終わっていないよ」

「研修なら受けてるでしょ? 何十年も前、彼女がタイヨーアライズに入ったときに」

「話を聞いていないのかい? 彼女は記憶を失っているのさ」

 

 するとヴィオは俺を地面に下ろすと、頭を両手でガシリと掴んだ。

 

「記憶がないなら、()()()()()()()でしょ?」

 

 ……一体何を言っているんだ?

 そう簡単に全ての記憶を取り戻せるのなら、あのタカサゴがスリランカですでにやっていたっておかしくはない。そもそも、こうやってもう一度研修なんてめんどくさいことはしないはずだ。

 だが、リゼの反応を見る限りでは……どうやら彼女には心当たりがあるようだった。

 

「まさか。藍き方舟(アズールアーク)に頼るつもりなのかい?」

「そうだよ? それがいちばんはやいでしょ?」

「いや……しかし……」

 

 そう言うリゼの顔は渋い。まるで何か隠し事をしているかのように。

 ……怪しい。サンヂヱゴもそうだったけど、よっぽど俺に知られたくないことでもあるのだろうか。こればっかりは、空気をあまり読まずに無神経に言葉をつづるヴィオの存在がありがたく感じる。

 

「あの、藍き方舟って、一体……?」

「お、コアマも興味あるんだ。そりゃそっか。それじゃ説明しよう」

 

 ふっふーんと鼻高々に、ヴィオは反応した。よし。

 ……それはそうと、そろそろ頭を離してほしい。

 

「藍き方舟はね、津軽海峡にいるロセマって子の技なんだー」

 

 ヴィオが言うには、ロセマはあらゆることの記録に強い子なのだという。それがゆえ、あらゆる保存記録を呼び出すことができるのだという。それが彼女の藍き方舟らしい。

 つまり、それを使って俺の、コアマの記憶を呼び出そう、というのがヴィオの考える手段だった。

 

「君も行ってみたいと思うでしょ?」

「それでわかるのなら、な」

「わかるよ。あの子はすごいんだから」

 

 だが、ここでリゼが待ったをかけた。そしてヴィオに向かってこう言った。覚悟はできているのか、と。

 

「藍き方舟で彼女の記憶を蘇らせるということは、彼女は我々タイヨーアライズが彼女にした全てを知ることになる。その意味がわからないなんて言わせやしないよ」

「別にー? それがどうしたの。その結果としてコアマがタイヨーアライズの守るべきものを傷つけるのなら、私がこの子を鎮める。それだけだよ?」

「できるわけがないね。確かにあんたは日本沿海では負けなしだ。だがそんなあんたでも、マスカットで何があったのかを知らないとは言わせないよ?」

 

 そう言いながら、ヴィオは俺の頭にかける力を強めた。そろそろ割れそうだから弱めてほしい。普通に痛いし……。

 ……というかこの話、本人の前でする話なのか? あんまり聞いちゃいけないような話をしている気がするんだが。気のせいか?

 

「ねぇ、リゼ。だいたいさ、かわいそうだと思わないの? 心無き戦闘マシーンとして扱って」

「そうなることをかつての彼女は望んだ。憎しみが消えるその時まで、罪を償い続けると。そのためにタイヨーアライズに心その身さえ捧げるってね。少なくとも私はサンヂヱゴからそうだって聞いているんでね」

「だけどさ、こうやってまた話せるようになったのに、過ちを繰り返すつもりなの?」

「あのー……」

 

 当事者である俺を置いて勝手にヒートアップする2人に割り込むように恐る恐る声を上げれば、2人共はっとしたようにこっちの方を見た。ついでにヴィオはようやく俺から手を離した。どうやら本当に存在を忘れられていたらしい。

 

「俺の意志を聞いてもらっても?」

 

 するとリゼはやたらカクカクとした動きで俺の肩に手を伸ばした。そして少し震えるような声でこう伝えてきたのだった。

 

「もちろんだよ。今の私達の言葉も参考にして、君の意見を聞かせて欲しい」

 

 その声はいつもの様子とは違って、まるで何かを恐れているようなか細いものだった。いや本当にこの体に昔なにしたんだ……?

 まぁ、でも。だからこそというか。

 

「これはサンヂヱゴには伝えてあることだけど、改めてここでも言いたい。リゼやサンヂヱゴが、いったい何を恐れているのか。俺がなぜタイヨーアライズに入ったのか。それすらも俺は知らない。そんな状態で、俺は判断をすることはできない」

「それをリゼはそのまんまにしようとしてるんだよね?」

 

 そうヴィオは言った。確かに彼女の言う通りなんだろう。事実俺が、コアマがタイヨーアライズを脅かすだけの力を持っているのならば、この判断を永遠に保留させておくことができるのならばそうした方がいい。

 だけどさ、それって無理がある。そもそもこうやって再教育をしようってのも、タイヨーアライズがコアマの力を使いたいからだってのが奥底にあるのだろう。だけど何かのきっかけで俺がコアマの憎しみを知ることになったら、結局は俺だってその力をタイヨーアライズに向けないとは言いきれやしない。

 だからこそ、俺は知りたいんだ。原作でタイヨーアライズの光と闇を両方履修している今の俺だって、タイヨーアライズに協力したいと思えているし、好感だってもてている。それに、原作通りだとすればタイヨーアライズが崩壊してしまえば世界中で海上のパワーバランスが崩壊してしまうことだって目に見えている。そうなればこの世界で不幸になる人がたくさん出てしまうだろう。

 そんなタイヨーアライズを、俺は傷つけたくはないんだ。まだコアマの力を引き出せていない今のうちだからこそ、真実を知っておきたいと思うのは果たしておかしいだろうか?

 それにタカサゴが言うには、コアマはもともと自己犠牲を覚悟でタイヨーアライズに入ったんだ。そんな彼女の体を使わせてもらっている以上、その意志は尊重するつもりだ。

 

「1つだけ約束する。仮に過去の俺がタイヨーアライズとした約束があるのなら、記憶がないことを言い訳にその約束を反故にするようなことは決してしないとな」

 

 そんなことは流石にしないだろうけど、もちろんそこで嘘を伝えられたとしても藍き方舟を使えばそれが嘘かどうかはすぐにわかる。

 ――だから。

 

「リゼ。もしアンタに、タイヨーアライズに後ろめたさが少しでもあるというのなら、俺を津軽海峡に行かせてほしい」

 

 リゼの目を見て、俺はそう伝えた。

 彼女はすぐには答えなかった。俺の目を見て、俺の後ろに立つヴィオの目を見て、もう一度俺の目を見た後で、その目線をまたヴィオの方へと向けた。

 そしてくるりとこちらに背を向けると、小さくヴィオの名を口にした。

 

「連れて行きな」

 

 その言葉だけが、最後に部屋の中に響いた。

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