タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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ヒドゥンメモリー

「と、いうわけで。この子は私が連れてくからねー」

「待とうかヴィオ。何がどうしてというわけなのかをまだ聞かせてもらっていないのだが? そもそもだね、まだコアマの研修は終わっていないよ」

 

 俺を担ぎ上げたヴィオが、リゼとそう言い争いをしている。

 どこかで聞いたようなやりとり……というか普通に昨日の夕方だ。

 

 ……あれ?

 そう言えば俺は津軽海峡にいたはずでは? どうして横浜の東日本支部にいるんだ?

 

「研修なら受けてるでしょ? 何十年も前、彼女がタイヨーアライズに入ったときに」

「話を聞いていないのかい? 彼女は記憶を失っているのさ」

 

 いまいち状況を理解できていない俺をヴィオは地面に下ろすと、頭を両手でガシリと掴んだ。

 

「記憶がないなら、()()()()()()()でしょ?」

 

 ……あぁ、そうだ。

 これは、()()()()だ。それをロセマの藍き方舟(アズールアーク)が見せているんだ。

 そう認識した瞬間、急に風景がセピア色になった気がした。

 

 いや、確かにこれはコアマの身体の記憶なのは間違いない、間違いないが求めていたものじゃない。俺がほしいのは、もっと古いコアマの記憶だ。

 もっと、古い記憶を。そう願うと目の前の風景は変わって成田空港のものになった。……確かに時は遡ったが、全然遡れていない!

 

 俺は知りたいんだ。だから、もっと、もっと古い記憶を! 少しずつ、だが確実に記憶を遡り続け、ついに景色はコアマとしての俺の記憶の奥底――インド洋で俺が目覚めたところまで戻っていた。

 ここから先は、俺の知らない記憶。本来のコアマの記憶だ。

 

「総員、退避! 一旦立て直すぞ!」

 

 無線と大声の両方で、サンヂヱゴがエクスレー41のメンバーに注意喚起をしている。彼女とコアマは同じ方を向いていて、そしてその目線の先には如何とも形容し難い怪物が聳え立っていた。

 

 クィムガン。

 

 それがその怪物の名だ。機械のようで機械でなく、生物のようで生物でないそれは、陸空海のどこにでも突如現れ、乗り物を襲うのである。迷惑な話だ。

 日本に関連する船の安全の確保が使命であるタイヨーアライズにとって、当然クィムガンの無力化・排除は海賊などの敵性集団や自然災害への対応に並んで最も重要な任務の1つ。俺が目覚めた時エクスレー41がインド洋に派遣されていたのも、恐らくそれが理由だったのだろう。

 原作に何度も登場し立ちはだかるため、知識としては知っていたクィムガン。これが過去の記憶なんだからここから生存するってのは分かってるのに、焦りが生まれてくる。俺は傍観者でありながら、しかし感覚では確かにその場にいるのだ。

 今ならばロセマの警告の意味がわかる――ここから記憶を辿り続け、サンヂヱゴの言っていた『度し難いこと』を追体験した時、果たして俺はどうなってしまうのだろうか、今更ながらに恐ろしくなってきた。

 ……いや、そこはもう心配しても仕方がない。今は目の前の記憶から、コアマが何を考えていたのかを読み取らなければ。

 

「くっ、これもちっとも効かないか……!」

「これ以上のペースで消耗されたらこっちは回復の手が保たないわ! さっさとキメなさいよ」

「言われなくともそのつもりだ、それができれば苦労はしない!」

 

 そして、タカサゴの言う通り、戦況はかなりの膠着状態に陥っていた。

 軽微ではあるがダメージを受け、回復役であるタカサゴの方へと向かう前衛。あるいは、回復し前線へと復帰する者。後方からロングレンジでの攻撃を与える者。サンヂヱゴにより統率されたその集合が、一体の巨大なクィムガンと対峙しているのである。そのクィムガンが動くたびに揺さぶられる不安定な水面の上で。

 

 もちろん、コアマもまたその一員だった。こうして戦況を把握している間ですら、コアマの身体はミドルレンジからの遠隔攻撃を加え続けていた。具体的に言えば、コアマが錨を虚空に振るえば、その先に飛ぶ水しぶきが結晶になってクィムガンの方へと突き刺さっている。この錨はそんなことができるのか!? というのも、また新たな発見の1つでもあった。もっとコアマのことを知らなければ。

 

 さて、現状は膠着状態に陥っている、というのは先に述べた通りだが、これは結構よろしくない状況だ。……というのは、研修でリゼから何度も言われたことなのだが。

 そもそも、一切の敗北が許されないのが安全に関わる仕事というものである。ここでエクスレー41が負けてしまえばインド洋を航行する多くの船舶に被害が出てしまうことは避けられないのだ。それはタイヨーアライズとしては決して至ってはいけないシナリオとなる。

 ならば。絶対的な勢力を以て、一方的に勝つのが望ましい。スリルのある戦いなんてものは、回避するに越したことはないのである。

 

 にも関わらず、現状では膠着状態となっている。

 攻撃を加えども加えども、状況は変わらない。クィムガンは8つの腕のようなもの、全てを縦横無尽に振り回し、目にも止まらぬ早技で攻撃を仕掛けてくるし、前衛担当はそれを躱しながら攻撃を加え、ときどきタイミングを見て、サンヂヱゴの炎のような大きな遠隔攻撃が後方から加えられる。その繰り返しが続く。

 

 だが、ある時そのバランスが大きく崩れた。

 

「若手の育成のためにならないが、こうなれば仕方あるまい。サンヂヱゴよりキロ86へ、()()

 

 ――その無線を境に、戦況は大きく変わることになった。

 キロ86。原作ではあまり描写はなかったが、エクスレー41の最大戦力といっても差し支えないキャラクターだ。

 無口で、無表情で、圧倒的な強さをもつ。そしてサンヂヱゴの命令をそつなくこなすことから、ついたあだ名は『処刑機械』。

 

 そんな彼女がいるんなら、確かにこの場でも生存できたのもおかしくないな。ここにいる誰がキロ86なのかはわからないが……。

 

 そう思った次の瞬間。

 

 俺の身体は――コアマは急に前進をはじめ、クィムガンへと向かっていった。そんな事をしたら巻き込まれてしまうのでは? そんな疑問を抱く暇もなく、その答えはすぐに示されることになった。

 

 コアマはクィムガンに近寄ると、海面を蹴って飛び上がりその錨を、今までのそれとは全く異なる動きで振るう。遠隔ではなく、近接攻撃で。

 

 ――まさか。

 そんな俺の内心もつゆ知らず(当然だ)、コアマは次々と攻撃をクィムガンに当ててゆく。結晶がグサリと突き刺さり、あるいはスパッとクィムガンの身体の一部を切り落とす。

 

 最早疑いようがなかった。原作でコアマの名前を見なかったのも、サンヂヱゴがコアマを恐れていたのも、全て。つまり、()()8()6()()()()()()()()()()のだ。

 

 鮮やかな動きで縦横無尽に動き回りながらクィムガンの攻撃を避け、そして一方的に攻撃を与えつづけるコアマ。状況は大して変わっていないはずなのに、いつの間にか目の前のクィムガンに対する恐怖心は薄れていた。

 

 ならば――如何にしてコアマはキロ86となったのか。もっと記憶を辿らなければ。そう思った瞬間、また急に視界がきりかわり、更に昔と思われる風景が眼前に広がったのだった。




『黄金のソレイユ』 キャラクター紹介

キロ86

【挿絵表示】


いつも無口で無表情なため、アンドロイドではないかと疑われている。
しかしその実力と実績は折り紙付きで戦闘能力も非常に高く、またサンヂヱゴの命令に忠実に従う姿から『処刑機械』の異名をもつ。
マスカット周辺の敵性組織をわずか一週間で殲滅した、「沈黙の一週間(サイレントウィーク)」を実行した当事者でもある。
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