「この技……まさか」
「その通りなのだろう。ならば、《
ぶんとロセマが錨を長く振ると、俺たちを囲んでいた炎の壁は消し飛ばされて驚くほど簡単に消える。これって見た目ほど壁ってわけじゃないんだな……なんて考えていると、壁を作った張本人はうふふと笑いながらこう発した。
「あら。思いの外平易に打ち消されてしまうのですね」
ソイツは閉じ込めるという目論見が破綻したのにも関わらず、表面上は余裕を全く崩していない。ならば次の手を持っているはずだ。
そう思って、俺は錨を握った。リゼから受けた研修以外では
だがしかし、そんな俺とソイツとの間を遮るようにロセマが割って入った。
「自分の使う技への対策を把握していないとでも思ったのか?」
「妾は試したことがありませんでしたので」
そして彼女は錨を構え、ソイツに正対したのだった。
「コアマ号、ヴァイオレット号! どうやらこれは海峡の問題のようだ。貴女達には手間をかけさせる訳にはいかない」
「そんなの、関係ないよ! ロセマだって仲間でしょ?」
だがそこでヴィオはソイツとロセマの間に割って入った。彼女の性格的に仲間を見捨てることはありえないから、そんな気はしていたが。
しかしそれはどうやらお節介なようで、ロセマはヴィオの肩に手を置いた。
「お気持ちは有り難いのだが、これは仲間よりもずっと狭い身内の問題の蓋然性が高いと言っている」
まぁ、それはそうだろう。だってロセマとソイツとは
『技』というのは一種の超物理学的な神秘だ。それは
ならばこいつは誰だ? どうしてロセマが把握できていない? わからないことだらけである。
わからないことだらけだが、これだけは事実だ。――こいつは俺やヴィオよりもロセマのことを知っている。
「そもそも、未だに追撃が来ないということは、直ちに戦闘行為が必要であるというわけでもないのだろう?」
そう言いながらソイツを睨みつけるロセマ。その反応に、ソイツはため息をついた。そして長い沈黙を経て、ついに口を開いたのだった。
「どうして貴女ほどの思慮深い方がタイヨーアライズなどという組織に与しているのでしょうか?」
その顔に浮かぶのは、侮蔑……そして失望の色。どうやらソイツとロセマの間には、同じ技を用いる者という以上の深い関わりがあるようだった。
「タイヨーアライズで活動することこそが、
「罪、ですか。貴女が過去にそのような過ちを起こしたとは思えないのですが」
……あ、こいつアレだ。完全にロセマの過去を把握した上で聞いている。ならばこいつには手札がある!
「ロセマ! 答えちゃダメだ!」
俺はそう叫んだ。だがしかし、ロセマはそれに気がついていないのだろうか、あるいはわざと無視したのだろうか、律儀にかつ堂々とそいつの問に答えたのだった。
「確かにそれは私の罪ではない。だが知っているだろう、
「ならばなおさら、貴女は妾とともに来るべきです。
共に罪を償いましょう。彼女はそう言って、ロセマへと手を差し出した。声の力強さからは彼女が手札を切ったのだとすぐにわかった。
ロセマはすぐには答えを出さなかった。いや、出せなかったんだと思う。どちらかと言うと、想定外の告白に処理が追いついていないかのようなようにも見えた。
その様子を見かねたのだろうか。急にヴィオがまた2人の間を遮るように割り入る。
「話はそれで終わり? ロセマ、惑わされちゃだめ! 行くよコアマちゃん!」
「妾はロセマ号だけに聞いております。判断は全て彼女に委ねられるべきです」
冷静に、落ち着いた様子でそうヴィオを宥めるそいつ。冷静に考えたらこいつの方が俺達の方に割って入ってきた侵入者なのだが、これじゃどっちが悪者なんだか……。
そしてそのまま動くことはなく、少しの間をおいてようやくロセマは言葉をひねり出した。
「もう少しだけ、考える時間と材料が欲しい。貴女の名前を聞かせてはいただけないだろうか」
「えぇ。『ライスシャワァ』、今現在はそう名乗っております」
……え? ちょっと待てよ。ライスシャワァ?
俺はその名前に確かに聞き覚えがあった。だが。
それは『黄金のソレイユ』の登場キャラクターではなく、明言はされていないものの世界観を共有していると思われる作品のキャラクターだった。つまり、それらの世界は同一だったのだ。