タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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ナンジダレナルヤ

 スリランカ南部、ガーラ。過去にポルトガル・オランダ・イギリスと何度もこの町を支配する国は変わり、しかも町の名前の由来はフランス語という複雑な歴史をもつここの沖合は中世から現代まで一貫して海の最重要拠点で、東のマラッカ海峡やベンガル湾と西のペルシャ湾や紅海を結ぶ航路はみなここで向きを変えるのだ。

 そんな場所だから、タイヨーアライズのスリランカ支部はこの町に置かれている。そこへと担架に担ぎ込まれて運ばれた俺は、「暫く休んでろ」とのサンヂヱゴのありがたいお言葉にしたがって1人部屋に残されている。

 

 ……さて。独りきりになったところで、いい加減に確かめないといけない。目覚めたときから、運ばれている間ですら感じていた違和感。見慣れたものではない手、うまく出ない声。俺の体は一体どうなっているのか。

 上体を起こす事はできなかった。だけど、うまく動かない体を操り、もう一度手を顔の前に持ってくることはできた。……海で見たのと変わらない手がそこにはあった。

 その手を頭に下ろす。当然だけど髪の毛に触れる。……長い。俺の髪はそんなに長くないはずだ。

 引っ張ってみる。……痛い! そりゃそうか。そして視界には、オレンジ色の髪が映った。俺の髪は黒かったはずなのに。

 

 あぁ、そうだ。

 この身体は、俺の身体じゃない。今こうして動かしていられ……いや、まだ力はあんまり入らないけれども。とにかく、俺は今誰かの体に入っている。それは確かだ。

 

 じゃあ、誰のだ?

 

 原作を思い出せ。タイヨーアライズに関わる者の中で、おそらく政府に出自がある者……。考えられるのは、国鉄にルーツを持ちながらもタイヨーアライズに所属しているロセマやソヤマだが、そうなると「言葉を取り戻した」という発言が引っかかる。彼女達は別に言葉を失ってはいないはず。

 ならば国の機関からの出向者……というのも違う。それならばそれで日本を大きく離れるところまでついてきてることは考えにくい。ここはスリランカなのだ。

 では、ここでタイヨーアライズによって救助された政府関係者か? だがそうだとすると目が覚めた時の反応はおかしい気も……うーん……。

 

「どうしたのコアちゃん。手なんてまじまじ見てて」

「……え?」

 

 ふと気がつくと、俺の横たえられていた担架の脇にはまたひとり。海の上で目を覚ましたとき、最初に見た顔だ。

 

「あの、コアちゃんって」

「聞き間違いじゃ、なかったね。本当に声が出るようになったんだ。何十年ぶりだろ?」

 

 そう言うと彼女はもう一歩だけ近寄ってきて、俺の顔を覗き込ん……いや、待って?

 

「顔、ちか……」

「忘れちゃったの?」

 

 頼むから、目の前で、それも舌を突き出せば届きそうな距離でそんな悲しそうな顔をしないでほしい。なんだろう、普通に見てるこっちまで悲しくなってくるし。

 だけど、俺にはどうすることもできない。この体の持ち主と目の前の彼女がどういった関係だったのかなんて知らない。記憶の中の原作には描写されていなかったのだから。

 ……これ、あれだな。原作の知識だけで下手に話を合わせようとすると絶対にいつか破綻する。ならば。

 

「ごめん、思い出せない」

「私の名前は?」

「……ごめんなさい」

「コアちゃんのお陰で私達、助かったんだよ?」

 

 返す言葉も思い浮かばずに俺は黙り込んだ。そうは言っても、知らないものは知らないし……。 

 そしてしばらくの沈黙の後、彼女は顎に手を当てた。

 

「……そっか。なるほどねぇ。言葉は取り戻せたけど、かわりに記憶が飛んじゃったってことかぁ」

「たぶん、そう……だと思う」

「うん、わかった。じゃ、コアちゃんのためにいろいろ思い出させてあげないとね」

 

 それから彼女は簡単に現状を教えてくれた。今は年末の12月25日、タイヨーアライズはインド洋で最近不安定化してきた航路の安全を確保するために、ここスリランカはガーラへとエクスレー41を本国から派遣したのだという。

 だがその最中、その安全確保を阻害する存在と出くわした。そいつはとても強くて、エクスレー41ですら危うくなってしまった。その状況で俺――コアマが起死回生の一手を打ったら、そいつはなんとか処理することができたもののこの通り俺は倒れて、そして今に至るということらしい。

 

「まぁ、こんなところかな」

「ありがとう」

「他には何か思い出せた?」

「えっと……ごめん」

「いいのいいの。今思い出せなくたって、何かのきっかけで思い出せるかもしれないでしょ? それに、これからまた、一緒に思い出を作ってけばいいんだから!」

 

 彼女は眩しい笑顔を見せながらそう言った。その優しさが、俺には有り難くも逆につらくもあった。どうして彼女は、そこまで俺に優しくしてくれるのかと。

 

「だってさ。コアちゃんは、昔っからの私の憧れだもん」

「憧れ……」

「そう。この姿に()()前からもね。それじゃ私は、ヂヱゴさんに報告しないとだから行ってくるね」

 

 そう言って、彼女は立ち上がった。

 ……あ、ちょっと待てよ。そういえば大切なことを聞き忘れていた。

 

「あの、ごめん。君の名前って……」

「……もう。私はタカサゴ。今度は忘れないでよね!」

 

 扉の狭間からひょっこりと首を出してタカサゴはそう答えて、そして彼女が退出するとバタンと扉が閉まった。

 

 ……え? タカサゴ? 彼女が?

 原作ではタカサゴは、どちらかといえば冷徹な反共主義者のマッドサイエンティストで、さっきみたいに献身的な表情を見せることはまずない。それもサンヂヱゴが嫌悪感を顕にするような相手ならば尚更だ。そもそも彼女はタンゴ14という独立した医療チームを率いていたはず。それがどうしてエクスレー41についてきている?

 わからない。タカサゴがこうして優しくする対象だというのなら、どうしてサンヂヱゴは俺に冷徹な表情を向ける? 逆じゃないのか?

 いや、よく考えればサンヂヱゴの扱いもおかしい。どうして冷たくあしらうようなコアマを、エクスレー41のメンバーとしてわざわざインド洋まで連れてきたんだ?

 

 

 俺――コアマって、一体何者?

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