タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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アポロジャイズ

「ふー、助かったよ、いろいろ手伝ってくれて」

「別に。どうせヴィオへの説き……お話が終わるまでルドルフを待たなきゃならんしな」

 

 ルドルフを交えた報告が終わってから数時間。俺はルドルフとの話を待つ間にクリファルコンの手伝いをしていた。

 

「でもさ、意外だったよ」

「何が?」

「キミのこと。血も涙もない鬼って聞いてたからさ」

 

 酷い評価だ。しかしキロ86としてはそうだったというのも事実だから、強く反発もできずに苦笑いをしていたところ、更に意外と表情も豊かなんだねと言われてしまった。どうしろと。

 そうして少し困惑している俺の様子をクリファルコンはしばらくじっと見ていたあと、よほどおかしかったのだろうか、ぷっとふきだしてしまった。

 

「で、なんでキミがヴァイオレット号なんかの言う事聞いてるわけ?」

 

 あいつ……っていうのは、たぶんヴィオのことだろう。

 

「なんでって……ほら、ヴィオはある意味で英雄だろ? やらかしも決して少なくはないが、それをカバーできている貢献がある」

 

 事実、彼女が確保した安全の数は決して少なくはない。昭和が平成に変わる頃からずっと、その実力を高いパフォーマンスで行使し続けているがゆえの実績は、同年代の生まれの他の誰よりも突出して多いのだ。

 そんなヴィオだからこそタイヨーアライズの中で比較的自由な行動が許されているし、彼女を慕っている下の世代だって少なくはない。

 だけどそれを伝えると、当然来ると思っていた質問が投げかけられる。

 

「……それ、キミが言う? 戦前生まれのキミが」

 

 怪訝そうな顔で俺を見るクリファルコン。だがもちろん、そこへの答えは用意してあった。

 

「俺には記憶がないんだ。だから過去の俺と今の俺は全く違う。結局は右も左もわからない新人と同じさ」

 

 もしかしたら、クリファルコンはこの言葉自体が嘘だと思うかもしれない。だけどそれでも、建前としてでも受け入れてくれると助かるんだが。

 そう思いながら彼女の方を見れば、案の定というか苦くて、かつ怯えるような目でこちらを見ていて、そして言葉を探しているようだった。 

 

 しかしクリファルコンから答えが来ることはなかった。

 

「えぇ。ですから、貴女の配属はこちらから指定させてもらいますわ」

 

 いつから話を聞いていたのだろうか、ルドルフはそう言いながら、俺とクリファルコンとの間に音もなく割って入ってきていたのだった。

 

「ゴルフェ代表、いつの間に」

「先ほどヴィオとのお話が終わりまして。ただいまちょうどこちらのお部屋に。コアマ号をお借りしても?」

 

 そうクリファルコンに尋ねるルドルフ。

 借りるも何も最初っからヴィオとルドルフとの話が終わるまで、ってことは決めてあったんだが。律儀な人だ。

 

「オッケー。でもその後でこっちからも確認したいことがあるんだけど、いいかな?」

「えぇ、こちらとしても北日本支部の方には伝えなければならないことがありますので。……それではコアマ、向かいましょうか」

 

 ルドルフはそう言って俺の手を取った。

 それは何気ない、よくある所作だったのかもしれない。

 

 だけどその手が触れた時、俺は気がついた。いや、そうさせられたと言った方が正しいかもしれない――。

 

「……コアマ?」

 

 部屋の照明が、後ろからルドルフを照らしている。それが後光となって、その宝玉のような美しさを際立たせている。

 

「どうかされましたか?」

 

 ――ルドルフと俺とは、格が違うと。決して、敵に回しては行けない存在だと。

 恐らくこの威圧感はルドルフが意図して出しているものではないのだろう。だからこそ、かえって恐ろしくも感じられるのだ。

 

「もし、気分がすぐれないようでしたら……」

「あっ……大丈夫です」

「でしたらよろしいのですが。参りましょうか」

 

 ルドルフに手を引かれて、俺は部屋を出た。まるで親鳥の後ろについていく雛のように。

 そして他の部屋へと入り、その部屋の扉が閉じられた直後のことだった。

 

「コアマ。まずは私からはこれを伝えなければなりませんね」

 

 そう言ってルドルフは――俺に向かって頭を下げた。

 

「……へ?」

「誠に申し訳ございませんでした。タイヨーアライズが過去に貴女に行った行いは、決して許される類のものではございません。にも関わらず、未だに我々にお力をお貸ししてくださっている。その寛大なお心に感謝するとともに、タイヨーアライズの代表としての謝罪の言葉をお伝えいたします」

 

 その時俺は、正直な話……どうすればいいのか、わからなかった。今さっきまで俺を従えていたルドルフが急に頭を下げているという状況を、いまいち飲み込むことができていなかったのだ。

 サンヂヱゴの時はどうも彼女の様子が謝罪の前からおかしかったからこそすぐに答えを出すことができた。だが今はそれすらできそうもなく、ただ言葉を詰まらせることしかできなかった。

 

「あの、えっと」

「無論、言葉だけで許していただけるとは到底考えてもおりません。ですから……」

 

 あぁもう。どうしてこうも良心があるんだよ! そんなに良心があるのなら最初からやらなければよかっただろうが!

 そう言いたいのをぐっとこらえて、別の言葉を探す。えーっと、えっと……。そうだ、これだ!

 

「と、とりあえず頭を上げてくれ! その話はもうサンヂヱゴとの間で済んでるんだ」

「……ですが、サンヂヱゴの行いを知りながら止めなかったタイヨーアライズという組織自体にも問題があった、と私は考えていますわ」

「それは、当時のタイヨーアライズの上層部が戦争の当事者だったからだろうが。ゴールドフェリー号、あなたから謝罪を受けても仕方がない」

 

 そう伝えると、ようやく、そして渋々といった様子でルドルフは顔を上げた。

 

「わかりました。私から謝罪を受けるおつもりはない、という認識でよろしいですね?」

 

 その時のルドルフの顔は……どこか穏やかなものだった。

 

「まぁ、そうだな。謝罪の言葉は必要ない」

「でしたら。ここで1つ、確認させていただきたいことがありますの」

 

 次の瞬間。

 ルドルフの纏うオーラは、元通りの力強いものへと戻っていた。

 

「あなたは記憶を失い、そして藍き方舟(アズールアーク)である程度の記憶を経験した、と伺っております」

「ヴィオから?」

「えぇ。その最中で中断させられてしまった、とのお話も」

 

 そしてルドルフは、少しだけ上体をこちらの方へ倒して、しかし頭を下げることなく、こう質問を投げかけてきたのだ。

 

「コアマ号。あなたはどこまでご存知なのですか?」

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