タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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【幕間】後悔と憎悪の連盟(エターナル・アトメネント)

 モルディブ、フルレ島。ヴェラナ国際空港。

 サンヂヱゴ率いるエクスレー41のメンバー達は、近隣海域で発生したクィムガンの対処を終え、インド洋沿岸地区の拠点へと戻るための移動の最中であった。

 

「隊長! 隊長にお客さんが」

 

 メンバーのひとり、ミカルベンはサンヂヱゴを探し出すとそう伝えた。

 

「ん? そんな予定はなかったはずだけど。こんなところで急にかい?」

「まぁ、向こうも奇遇ねっていってましたから」

 

 サンヂヱゴは警戒しながらも、時計を確認した。まだ搭乗手続が始まるまでには余裕がある。暇潰し程度にはなるか、と。

 だがミカルベンに連れられたサンヂヱゴを待っていたのは、彼女がまったく予想だにしていなかった者だった。

 

「なっ……。アンタ、どうしてここに?」

「久しぶりね、サンヂヱゴ」

 

 その声の主は、サンヂヱゴの友にして、タイヨーアライズのかつての代表でもあった者――キヨカワであった。

 

「今までどこに行っていたんだ? アリマだって心配していたぞ?」

「あら? ゴールドとは連絡を取り合ってたけど。聞いていなかったのかしら」

「聞いていないぞアタイは。だいたいゴルフェだって直接連絡をとっていると考えるだろうよ」

 

 そう文句は言ってはいるものの、サンヂヱゴの表情は緩んでいた。なにせキヨカワは代表の座を退きゴールドフェリーへの引継ぎを完璧に終わらせるなり、「武者修行の旅に出る」とだけ言い残してタイヨーアライズを去って音信不通になっていたのだ。たまにサンヂヱゴのもとに入る情報といえば、カタールの報道機関のニュースで活躍が耳に入る程度。そんな彼女としばらくぶりに会えたとなれば、こうなるのも仕方がないと言えよう。

 

「まぁまぁ。そう言う君こそ、最近どうなのよ?」

「……ぼちぼちやっているさ」

「その割には、けっこうやつれているように見えるわよ」

 

 そんなはずは……。サンヂヱゴはそう反論を返そうともしたが、結局はしなかった。それはキヨカワの言葉が図星だったからだ。

 確かに、化粧で隠していることもあり一見した程度ではサンヂヱゴは表面上正常なようにも見える。だがよく見てみれば肌や髪の潤いはなく、その発せられる声にだって張りはないどころか、少しだけ掠れていた。

 

「相変わらず、君は隠し事が下手ね」

 

 キヨカワはそう言いながら、温かい眼差しをサンヂヱゴに向けた。

 

「……うるさいな。アタイにだっていろいろ事情があるんだ」

「そうだろうね。ところで……キロ86は元気?」

 

 デリカシーもなく、サンヂヱゴの悩みの種のど真ん中を射抜くキヨカワ。これには、流石のサンヂヱゴも乾いた笑みが止まらなかった。やはりそれを聞いてくるか、と。

 

「連絡を取っていたんじゃないのかい? ゴルフェから聞いてるだろう」

「そうよ? でも、直に確認したいと思ったの」

「まさかそのためだけに会いに来たとでも言うんじゃないだろうね?」

「流石にそこまで暇じゃないわ。……で、どうなのよ?」

 

 話題を強引にそらそうとしたサンヂヱゴの努力も虚しく、キヨカワは改めて問いかけた。やっぱり敵わないなと思いながら、サンヂヱゴはため息をついて、そして目線を逸らした。

 

「『コアマ』はもうエクスレー41にはいないよ」

「そう。なら私の言いたいことはわかるわよね?」

「当たり前だ。アタイは彼女がもう決して第二の『ルースの落し子』となることはないってことを確信しているよ」

 

 『ルースの落し子』。タイヨーアライズが結成されるよりも前に九州の五島列島北部で発生した、始まりのクィムガンの異名である。それはまさに全ての始まりであり、当然ながらまだクィムガンへの対応方法を知るものがいなかった。故に発生してから半年もの間、誰ひとりとして『ルースの落し子』に対して有効な手立てを取ることができず、結果としてその間、対馬海峡は死の海と化した。輸送の安全は損なわれ、海上交通は完全に途絶してしまったのだ。

 クィムガンの研究が進むにつれ、誰しもそれは過去の出来事で、もう起こることはないだろうと考えていた。しかしそんな中でもキヨカワはタイヨーアライズに潜む潜在的なリスクに気がついた。既に壊れてしまっていたキロ86である。このままでは彼女はクィムガンと化してしまうかもしれない。そうなればそれは『ルースの落し子』の再来となりうる。だからこそキヨカワは、コアマをキロ86にしたサンヂヱゴに責任をもって監視と保護を命じていたのである。

 だがしかし。サンヂヱゴは一度大きな失敗を犯してしまった――。

 

「決して、なんてよく言えるわね? 一度キロ86を壊したのはどこの誰だったかしら?」

 

 ――それこそが『沈黙の一週間(サイレントウィーク)』、キロ86の暴走だ。その時のアデン湾は、まさに当時の対馬海峡の再演と言っても過言ではないほどに悲惨な状況に陥っていた。

 幸いにしてサンヂヱゴの急行により最悪の事態は免れることができたが、もう少し遅れていたらどれほど恐ろしい事態へと発展してしまっていただろうか。アデン湾は対馬海峡よりもよっぽど重要な海域、地中海とインド洋を結ぶ世界的な海運の要所なのだ。

 

「あれはアタイの不注意が起こした事故だよ。だけどね、もう一回言うけれど、今のコアマはキロ86じゃない。アタイの言葉を鵜呑みにせずに自分で考えることができるし、なにより思いやりに溢れた優しい子だよ。『ルースの落し子』にも『沈黙の一週間』にもなりやしない」

「なるほど、コアマが安定な状態に戻ったのはわかったわ。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 サンヂヱゴは言葉を詰まらせた。またしてもキヨカワの言葉は図星だったのだ。わかっているのなら、わざわざ聞きに来なくたっていいのになと、サンヂヱゴは逸らした目線を戻して静かに睨みつけた。

 

「別に怒っているわけじゃないのよ。むしろ彼女が安定したのなら、君は役割を完璧に果たしているじゃない」

「ならなんでアタイにそんなことを聞くんだい」

「ただの興味本位よ」

 

 嘘だ。サンヂヱゴはそう思った。キヨカワが興味本位だけでセンシティブな話に突っ込んでくるわけがない。長年の付き合いで養われた勘がそう告げていた。だがその勘ですら、キヨカワの本当の考えには辿り着けなかった。

 

「アンタには決してわからないだろうね」

 

 そんな言葉が、サンヂヱゴの口から吐き出された。強がりで、独りよがりで、寂しい言葉が。

 

「わかるわよ? 君の背負った罪は、私だって背負っているもの」

「……ならわざわざ聞く必要もないじゃないか。それともこのアタイの口から情けない言葉を直接聞きたいって言うのかい?」

 

 このサディストめ。そう吐き捨てて思わず背を向けたサンヂヱゴを、キヨカワは何も言わずに後ろから優しく抱きしめた。

 なぜ? サンヂヱゴにはキヨカワの考えがわからなくなった。喉からひねり出す言葉を見つけ出すことも出来なければ、勝手に出てくることもなかった。そしてどうしようもなくなって、目を瞑った。何故か安堵が体を埋め尽くして、だけど心の底の不安は拭い消えるどころかむしろより大きくなって、訳がわからなくって──。

 

 ――そしてサンヂヱゴの頬を、涙が流れた。

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