タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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偽りの燦(パチモンタイヨー)
タンゴワンフォー


 午前1時のマレーシアはスランゴル、クアラルンプール国際空港。東京からの飛行機からこの時間に放出された俺を、彼女は到着ロビーで待ってくれていた。

 

「ひっさしぶりだね、コアちゃん!」

 

 黒の修道服の上に白衣を重ねた彼女はそう言って飛びついてきて、そして俺は受け止めた。他にも後ろから到着してきたお客さんだって複数いるんだからやめてほしいものである。逆走しないように監視している空港の職員さんだって苦笑いをしているし……。

 そんなことを考えながら、俺はタカサゴを引き剥がした。

 

「久しぶりって……この前スリランカで別れたばっかじゃないか」

「でも! コアちゃんほら、雰囲気とかぜんぜん違う」

 

 ……そうか? いや、でもよく考えたらコイツ俺が完全に回復するより前から姿を見せなくなってたっけ。それなら違うって感じもするか。

 それから少しだけ言葉を交わしてから、俺達は空港を後にした。

 

 一晩をクアラルンプール市内のホテルで挟んだ翌日。タカサゴに連れられてきたクラン港は、マレーシア最大の貿易港だ。マラッカ海峡に面するこの港は、東アジアと欧州の中継地としても名高い。

 そんなクラン港の一角に、タイヨーアライズの保有する現地法人がある。見た目は地域の公民館のようにも見える低層かつこじんまりとした佇まいではあるが、意外にもタイヨーアライズにとっては重要な拠点である。タイヨーアライズの活動費はこの法人の営む船主業の利益から出ている部分も少なくはなかったりもするのだ。

 そしてその法人の建物の中に、タイヨーアライズの支部もまた入居していた。

 

「さて、コアちゃん。まずは……ようこそ、タンゴ14へ」

 

 その建物の入り口で、タカサゴは改めてそう俺を出迎えた。少しだけ言葉を交わすと中に通されて、そして話はようやく本題に入った。

 

「さてさて、話はゴルフェちゃんから聞いてるよ。今のコアマちゃんにとって、日本近海は危ないのがいるからちょっと稽古をつけてってね。間違ってない?」

「そこは合ってる」

 

 まぁ、間違ってはいない。他にどこまで共有されてるのかわからんけど。

 そう思った次の瞬間――

 

「私としてはコアちゃんが敵わない相手がいる、っていうのがちょっと信じられないんだけど、要するにリハビリってことだよね」

 

 ――俺はその場で崩れることになった。

 

「本当に話聞いてる?」

「聞いてるよ」

 

 まるでそうであるのが当たり前だとも言わんばかりの言葉を吐き出すタカサゴ。どうしてそうなったのか。いったいルドルフからどういう風な話の通され方をしてるんだ。

 そう疑問に思っていると、タカサゴは自分の机の中からペラリと1枚の紙を取り出して俺の目の前に突きつけた。

 なになに、送信主はルドルフで、それで俺がタンゴ14への配属になったという報告と、日本に帰国させないように、って……。

 

「これだけ?」

「いや、ほかにもいくつか!」

 

 ちょっと他の事も書いてあったりしたから見せられるのはこれだけだけどねーとおどけながら言ってはいたが、だったらどうしてそういう認識になるのか。なんか先入観でも持ってるんじゃないだろうか。少し不安になってきたぞ……。

 そもそもこのタカサゴという者は、流石に不合理なことこそしないものの、あまり人の話に耳を傾けずに断罪していく性格だ。タイヨーアライズの主流とは違って相手がまだ何も手をだしていない段階においては一切の手出しはしないけれども、一度被害を受けたのならば容赦のまったくない事後対応を行い、徹底的な無力化を遂行するのだ。

 そんなタカサゴのことを「当たり屋」と称して忌避する者も中には少なくない。回避できる攻撃をわざと回避せず、それを根拠に過剰な被害を相手に与えるからだ。だがその一方で、タカサゴは既に被害を与えてきたものにしか害を与えない。他のチームに合流しているときですら、それが予防的措置であれば裏方の回復のみに徹して自分が手を出すことは決してしないのだ。その点を鑑みれば、タカサゴの方が遥かに道にかなっていて、そして行動が一貫している。

 だからこそ可能性は低いとも言えるのだが、今は俺に向けてきてはいる笑顔が、いつ冷たいものにかわってしまったとしてもそれもまた不思議ではない。コアマは政府の船なのだから、ちょっとしたきっかけでタカサゴのそのリストに乗ってしまう可能性は他よりも高い。警戒しておくに越したことはない。

 

 そう考えを巡らせていたら、いつの間にか俺の首は少しずつ倒れて斜め前の方を向いていた。それを不安だと感じているのだと読み取ったのだろうか、タカサゴの手がポンと俺の肩に触れた。

 

「コアちゃん。他のみんなが敵になったとして、私だけはずーっとコアちゃんの味方だからね」 

 

 眼前にあるのは、屈託もない満面の笑顔。その笑顔が今はかえって背筋を冷やしている。こわいよ。

 でもその一方で、どこか自分の心の中で確かに安堵の感情が根ざしていた。彼女は自分が確かに知っているあの異質なタカサゴなのだと。

 

 俺の知るタカサゴは、なぜタイヨーアライズにいるのか不思議なほどに異質なキャラクターだった。彼女は仲間を守りたいという目的こそ他のタイヨーアライズの構成員とは共通してはいるが、先にも述べた通り行動の物差しが違うのだから。

 それは彼女が最も古くに成った者のひとりでもあるにもかかわらず、しかしタイヨーアライズの結成には直接関わっていたわけではなかったところに理由がある。サンヂヱゴが日本でタイヨーアライズの結成に動き始めた頃には、彼女はすでに活動の場を国外――中華民国の基隆(キールン)を経て、ベトナム共和国のサイゴンに移していた。そのベトナムでの経験が、彼女の行動規範をタイヨーアライズのそれとは異質なものとしたのだ。

 

「……うん、よろしく。ところで、さ」

 

 だからこそ、俺は次の一歩を踏み出せた。疑問を切り出すことができたのだ。タイヨーアライズの他の古株と違った感情を持ち、それをコアマに向けているタカサゴだからこそ。

 

「なぁにコアちゃん」

「1つだけ、確認しておきたいことがあるんだ。あの時、何を隠そうとしてたんだ?」

 

 そしてまたしてもタカサゴの笑顔は消え、その口元が引きつった。よほど気にしていたことらしい。

 

「それ、今じゃなきゃダメかなぁ」

「ダメ。……まぁ、一応知ってはいるけど、俺は直接聞きたい」

 

 嘘である。本当は、藍き方舟(アズールアーク)でもそこまでは遡れてはいない。

 だがそんな分かりやすい嘘ですら、動揺していたタカサゴは見抜くことができなかったようで、観念したかのように肩を落とすと、ゆっくりと口を開きはじめたのだった。

 

「あれは――40年くらい、前のことだったよね」

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