「あれは、タンカー戦争の時だったよね。あの時も私は後方支援としてペルシャ湾に行って、そしてエクスレー41を担当してた」
タンカー戦争というのは、イラン・イラク戦争の泥沼化と両陣営の通商破壊の過激化によりペルシャ湾の無関係な何百隻もの民間商船、とりわけタンカーが攻撃の巻き添えにされてしまった事件のことだ。原作ではこのタンカー戦争は、それがタイヨーアライズ史上初めての大規模作戦だったこと、そこでの活躍がタイヨーアライズの名を広めることになったこと、そしてタイヨーアライズが政府のことを絶望的に信用できなくなってしまった決定的な出来事として、何度も話のタネとして引き合いに出されていた。
「でも――どんなに船を守ったって、事態がよくなることはなかった。むしろどんどん酷くなってって。そんな状況に痺れを切らしたんじゃないかな。ヂヱゴさんは対処的な迎撃や掃海だけじゃなくって、もっと根本的に原因を取り除く必要があるって」
「あぁ。両国のミサイル発射基地や港湾に乗り上げて、
「そう、それ」
このあたりの話はサンヂヱゴのエピソードで出てきていた。彼女は危険物である油を運んでいるタンカーを傷つける両国のことが特に許せなかったのだ。だからこそ、彼女は禁断の手段に手を染めた訳だ。
そして、エクスレー41がそれをしたということは、当然。
「そこに、俺も参加していた」
「参加っていうか……主戦力? ミサイルとかクレーンとかはともかく、汚いことはぜんぶコアちゃんにさせてたもん。誰だって、できればやりたくはなかったことを」
なるほど、そこで白羽の矢が立ってしまったのがコアマだった訳だ。
普通に考えれば、その行為をたったひとりだけで全て一手に引き受けるなんてことはできる訳がない。しかし、コアマは本当にそれをできてしまった。できてしまったから、そうさせられてしまったのだろう。
「当たり前だけど、仮に自衛隊が来るまでの一時的な間だけって言っても、そんなことはコアちゃんの心を取り返しがつかないほどに壊すには十分だった。だから本当はそうなる前にヂヱゴさんにやめるように言えればよかった。今さら、許して貰おうだなんて思ってもないよ」
しかしタカサゴがそうしようかとコアマに相談したところで、彼女は首を縦に振ってくれなかった。どれだけ顔色が悪くなって、どんなに表情が揺らがなくなったとしても、頑なにそれだけは譲らなかった。
そう思い出しながら語るタカサゴの声とそして表情に浮かぶのは、後悔の色。いくつものそのストーリーを回避するための分岐点を通過してきていたはずなのに、そのストーリーに至ってしまった自分自身を責め立てるような、か弱く震えながらもどこかしたたかな棘のある芯の通っているものだった。
「許してもらえなくたっていい。でも、ごめんなさいとは言わせてほしいな」
「ごめんって、悪いことはなにも……」
そう、声をかけたのが、かえっていけなかったのかもしれない。タカサゴは俺の手を掴んでその場に崩れ落ち、そして噴き出した。
「そうだよね!
タカサゴは泣きながら地に伏せ、そう喚き散らしていた。
あぁ、そうか。コアマが汚れ仕事を一人で背負うことができてしまったのと同じように、タカサゴもまたコアマの負傷を治療することができてしまった。
いや……
そう考えると、タカサゴには彼女なりにまた思うところが大きくあった、というのも頷ける話だ。
……でも、さ。
「そうなる前には、終わるはずだったんだ」
そう一言、声をかけた。きっとコアマもそうであると信じていたのだろうから。
イラク・イラン戦争でのタイヨーアライズの活動はもともと初期対応としての最低限の自衛のみで、海上自衛隊がやってきて商船護衛を始めるまでのほんの一時的なもののはずだったのだ。結局来なかったが。
するとタカサゴは顔を上げ俺の顔を見て、そして少しだけ落ちついた様子で口を開けた。
「……コアちゃん?」
「どうしたのさ」
タカサゴは俺を見上げて、そして一度頭を振ってからもう一度俺の顔を見た。
「やっぱり、コアちゃんなんだよね」
「何がさ」
「そういうところ。うん、決めた。」
そう言いながら、タカサゴはぴょんとその場で飛び跳ねて、そして俺の腰に飛びついた。
「コアちゃんがタンゴ14に来てくれて、本当に良かった。今度はもう、あの時と同じ
「うん、よろし、く……?」
「コアちゃんのこと、もう二度と壊さないから」
その言葉とは裏腹に、俺の腰に回されたタカサゴの腕の力が少しだけ強くなったような気がした。