タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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デトルージョン

 タンゴ14はタイヨーアライズの中でも屈指の治療能力を持つ工作部隊だ。少なくとも、原作ではそうだった。

 ……のだが。

 

「え? いまふたりしかいないの」

 

 なんと俺の知らないうちに構成員が減り続け、今ではそれだけ身軽なチームになっていたらしい。

 話を聞けば執行部がルドルフたちトライフラワーにかわったころから緩やかに縮小を続けていたのだとか。もちろん、そのための後輩の育成もセットにして。

 

「ほらさ、私ってもうおばあちゃんだから。みんなは新しく独立させて、私は半分隠居みたいなもの」

 

 そう言いながら、タカサゴはニコリと笑った。

 

「隠居、かぁ……」

「私はまだやれるよ? でもそれ以上に、新しい子たちはずっと基礎からして高性能。なのに私達がいつまでも上に居続けたら後輩たちが上に上がれなくなっちゃうでしょ?」

 

 たしかに一理ある。

 原作では50年弱にわたってタイヨーアライズの代表として君臨し続けてきたキヨカワは、自らがルドルフへとその役位を受け継がせた後に最低限の引継ぎを終えると姿を消したことがエピローグで語られていた。その理由は作中で明かされることはなかったが、タイヨーアライズという肥大化した組織の手ではこぼれ落ちてしまうような存在を救いにいくためだと考察されていたのだ。

 だが、今のタカサゴと同じことを考えたいたとすれば? キヨカワの性格を考えれば、ありえないことではない。

 でも、だとすれば。

 

「……じゃあ、どうしてエクスレー41はあのまんまなんだ?」

 

 こんな疑問を抱くのも、不自然じゃないはずだ。

 そもそもリゼの話じゃキヨカワもアリマサンも既にタイヨーアライズを去っているのに、サンヂヱゴだけが今も尚あの規模を率い続けているのはおかしいのでは?

 それを聞くと、タカサゴは少しだけ暗い顔になった。

 

「……そっか」

「何が?」

「ヂヱゴさん、黙ってたんだ」

 

 そしてタカサゴは、くるりと後ろを向いた。

 

「でも、コアちゃんが気にすることじゃないと思うよ」

 

 続いて届いたのはさっきよりもこころなしか、小さくて弱々しい声だった。

 ははーん。これは何かあるな。

 

「知ってるのか?」

「私は知ってる。知ってるけど、ヂヱゴさんの意思なしには言えないよ」

 

 それもそうか。気にはなったが仕方がない。

 また会う機会があれば、その時に聞ければいい。聞けるかどうかは怪しい気もするが。

 そう考えていたら、タカサゴは意外なことを聞いてきたんだ。

 

「そういうさ、コアちゃんはどうなの?」

「……へ?」

「コアちゃんだってさ、引退とか、どう考えてるの?」

 

 ……あー。そうか。確かにコアマもタイヨーアライズの初期からいたメンバーだから、そうなるのか。考えてなかった。

 けれど。

 

「俺にはまだ、やらなきゃいけないことがある。日本に戻ってロセマを取り戻す。そして、シエロエステヤードの企てを阻止しなきゃいけない。それが終わるまではタイヨーアライズを離れる訳にはいかない」

「でもそれってさ、コアちゃんじゃなきゃダメかな?」

 

 タカサゴは向こうを向いたままでその表情は見えない。だけどその声色からは、ほんの僅かながらに彼女の感情が窺えるような気がした。まるで何かを恐れているかのような。

 

「ロセマがついていったのは、自分の意志なんでしょ? 連絡がつかなくなってるのは確かに不穏だけどさ、わざわざコアちゃんが危機を冒してまで助けに行く必要なんて、本当にあるの?」

「何、つまり見捨てろとでも言いたいのか?」

「違う!」

 

 急に机を飛び越えてきたタカサゴに、そのまま強い力で押さえつけられてソファに倒れこむ。あまりにも唐突だったので、どう反応すればいいかもわからない間に、そのまま両手を上から押さえつけられた。

 

「ちょっと待て、タカサゴ。いきなり」

「待てない。さっきも言ったよね、もう二度と壊さないって!」

 

 両腕を押さえつける力が強くなって、体がソファに沈み込んでいく。跨るように俺の上に被さり逆光で見えづらくなった中で、タカサゴの目が俺を捉えているのだけはしっかりとわかった。

 

「コアちゃん。どうして、ひとりで逃げようととするの?」

「逃げるって、何からさ」

「船だった頃から! 長崎でも、舞鶴でも! いつも私の先を行って、ちっとも追いつけやしなかった!」

 

 普段はウィンプルの下に隠れている長い髪が垂れ下がって俺の頬をくすぐる。しかし、その長い髪の奥のタカサゴの目は、一切光を宿しもせずにこちらを捉えていた。

 ……あ、これ、まずいやつ。原作では描かれていたけれど、これまで見せてきはしなかった、徹底的な滅共主義者の顔だ。

 

「あの時だって、どうして! 私達をオマーン湾において、ひとりっきりでホルムズ海峡を!」

「落ち着いて、落ち着けタカサゴ。一体いつの話を」

「さっきも言ったことだよ? まだすっとぼけるつもりなの? あはは、あはははは!」

 

 この時、初めて俺は――

 

「覚えてないわけ、ないよね!」

 

 ――タカサゴのことを、怖い、と思った。

 

「国連で決議が通ったって喜んでたはずなのに! これで終わるって話だったはずなのに!」

 

 このままじゃ何をされてしまうかもわからないのに、体は竦んで動かなかった。

 

()()()()()()()()()()()()! 機雷を、ペルシャ湾にバラまかれた!」

 

 この至近距離で俺の体を押さえ付け、喚くタカサゴをただ見ていることしか、出来なかった。

 

「コアちゃんそれを聞いて、とーっても怒ってたのを、今でも覚えてる! でもね、どうしてあの時、あの時!」

 

 そして腕にかかる力は急に消えて、かわりにドスンと胴の上に重しがかかる。しばらくすると服の胸元の部分が湿り気をおび始めた。

 

「うわぁぁぁん、うわぁぁぁん」

 

 タカサゴは、泣いていた。言葉から察するにその涙の意味は恐らく後悔なのだろう。

 そんな彼女の背中へと解放された手を回してやりながら、俺はこう呼びかけた。

 

「落ち着いて、落ち着いてタカサゴ。いま、俺はここにいるから」

「うん、いる。本当に、コアちゃんはここにいる。ようやく、つかまえた。だからさ――」

 

 俺の上で匍匐前進をして、顔と顔を近づけてくるタカサゴ。怒ったり泣いたりと感情の起伏の激しい彼女だが、その中でも俺がこのソファの上から逃げられないようにしていることだけは、恐ろしいことに一貫していた。

 

「あ……」

「――約束、してくれるよね」

 

 目が合った。そのタカサゴの目は、謎に怒っていた時と同じような真剣な目だった。だけどその時よりは刺々しくはなくて、しかしそれでも芯のある強いものであることには変わりはなかった。

 

「もうひとりっきりで抱え込んで、解決のために走り出したりしないでほしいなって。それがコアちゃんをキロ86へと壊して、キロ86を沈黙の一週間(サイレントウィーク)にした、一番の理由だから」

 

 そう言いながらタカサゴは俺の上に跨ったまま体を起こして、俺に向けて手を伸ばした。

 なるほど、ねぇ。さまざまな情報から察するに、コアマは自分自身の価値をあまりにも低く見積もりすぎていたのだろう。そこのギャップが、過去の悲劇を生んでしまったのだと。

 

「わかった。約束する。先走りはしないとな」

「よーし、決まりだね! それじゃ、リハビリをガンバロー!」

 

 そして俺は手を持ちあげて、向けられたタカサゴのそれを掴んだのだった。

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