タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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タカサゴノケンシン

 目を覚ましてから何日か経って、その間にもタカサゴの治療により体は少しずつ動くようになってきた。タカサゴが俺に優しくしてくれるのは原作を知る身としては妙に不気味だったが、できるだけそれを表に出さないようにした。もし訝しんでいることがバレたら、彼女の性格的に何を盛られるかわかったもんじゃないからだ。

 実はタカサゴは原作のタカサゴとは違っているのではないか? という疑問だって、当然抱いていないわけではなかった。だけど、他の見舞いに来るエクスレー41の隊員たち――見舞いというか、どうも俺が話せるようになったことに興味深々な様子だ――から話を聞く限りでは、サンヂヱゴもタカサゴも俺のいないところではどうも原作通りの性格であることは間違いのないようだった。うーむ……。

 

「コアちゃん、あーん」

「自分で食べられるって」

 

 ……そして今日も、タカサゴは俺にべったりとくっついて優しくしてくれている。彼女のメディカルな技術に関しては原作でも信用できるものとされてたし、そのお陰で回復してきているのは事実ではあるが、妙に気持ちが悪いというのが正直な所だ。

 

「もー。コアちゃんってば。この前までは食べてくれてたのに」

「それは体がうまく動かなかったからで、君のおかげで動けるようになった今となってはその必要もないだろうが」

「ちぇー。トモじゃなくて腕のあたり治すの後回しにすればよかった」

 

 ぷくっと頬を膨らませながら、タカサゴはさらっと怖いことを言ってくる。できるかできないかで言えば、彼女ならばできてもおかしくはないと言えてしまうのが本当に怖い。これだから油断ができないというか……。

 

「そんな怖いこと言うなよ……」

「うそうそ。そんなことしないって」

「本当?」

「本当本当本本当」

 

 そう言うとタカサゴは、スプーンを戻してその食事のトレーを渡してきた。それを膝に置きスプーンでカレーをすくいあげ口に入れる。

 

「美味しい」

「それはどうも。……でも、カレーばっかじゃ飽きてこない?」

「全然?」

 

 確かに目が覚めてからの食事はカレーばかりなのは事実だけれど、一言にカレーと言ってもチキンだったりフィッシュだったりもするし、スパイスの配合も違う。それにビリヤニとかのカレー以外のものだって一日に一食は出てくる訳で、別に毎回同じものを食べさせられているという訳ではないし……。

 

「って、そうじゃない!」

「どうしたの、いきなり大声出して」

「いや、さ? いつまで俺達は……ってあぐ」

 

 俺が言おうとした途端、タカサゴはカレーを口の中に突っ込んできた。

 

「はいはい、言いたいことは分かったから静かに食べなさい。あと、かわいいコアちゃんに『俺』は似合わないって」

 

 ……いいだろ、そんなのは。

 体がある程度動くようになって、ようやく俺は鏡を見ることができた。そこに映っていたのは、まぁ声や手からなんとなくわかっていた通りの女の子の姿だった。

 彼女――いや、俺はだいだい色のボブカットの髪の毛に、紅玉のような真っ赤な眼をしていた。そして細いながらも美しい曲線を描く鼻先の下には、みずみずしい唇。一言でいえば、かわいいという言葉がぴったりな、そんな顔が鏡に映っていたのだ。

 

 ……いや、わかっていたさ。原作の設定じゃ、電車とか自動車とかの他は偏りがあることはあっても男女型両方がいるのにも関わらず、船の多く、それも商船の子に限ってはほぼ全員が女の子の姿をしている。これは原作者のコメントによれば、船というものは現実でもそれに宿る魂は女性のものだと信じられ、代名詞も女性型のものが与えられることがほとんどだし、優れた船には『女王』なんてあだ名が付けられることがしばしばあるからだそうだ。

 そしてタイヨーアライズにいて海の上で活動をしていたってことは、もともと十中八九船舶に由来する子な訳でして。まぁそうだよね、っていうのは鏡を見る前からずっと覚悟はしていたことだ。

 

 だけど、そうだからと頭ではわかっていたからといって、すぐにその鏡に映るかわいい顔が自分のものだと認識できるかと言えばそれは別の問題だった。それに慣れるまでの間は、身の回りのお世話とかは体が満足に動かないのもあってタカサゴがしてくれて――あぁ! もう思い出すだけで顔があつくなる!

 

「別にいいだろ。こっちの方がしっくり来るんだから」

「……むぅ。怒らなくてもいいじゃない。言葉を失う前のコアちゃんは、そんなんじゃなかったのに」

 

 そう言ってから、タカサゴははっとした顔をして、そしてその表情は申し訳なさ気なものに変わった。たぶん俺にその頃の記憶がないということを忘れていたんだと思う。

 

「ごめんな、思い出せなくて」

「いいって。仕方がないもん。そもそもあんなことしちゃったのは、タイヨーアライズだし」

「あんなこと……?」

 

 そう聞くと、タカサゴはまたしまったという顔をして、こう言ってきたのだった。

 

「アレは……忘れちゃったのなら、思い出さないほうがいいんじゃないかなぁ」

 

 ……怪しい。あからさまに怪しい。だって目が泳いでるし。

 

「ねぇ。俺に何した?」

「いや、その……」

「目を逸らすな」

 

 そうは言っても、俺はまだ本調子でなく、この体を動かすのもまだ慣れていない訳で。

 結局この時はタカサゴは逃げるように俺の部屋を出てった。いや本当に、一体昔にこの体の持ち主になにしたの……。

 

 そしてタカサゴは、その日からこの部屋には姿をあらわすことはなくなった。

 幸いなことに、タカサゴが来なくなった次の日にはもう体に動かしにくいところはなく、他の医療班の子に見てもらってリハビリは継続できてはいる。できてはいるんだけど、なんだかなぁ……。

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