タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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スンダランド

 シンガポール海峡。この海峡に再び、危機が訪れようとしていた。この海を火の海にする訳にはいかないのだ。

 文字通り海面下に潜行してこちらを目指しているクィムガン。それをシンガポールに到達する前に処理しなければならない。

 

「でもまずはあのクィムガンを海面上に引っ張りださなきゃいけないのよね……」

 

 オリオンは艤装を整えながらそう呟いた。するとタカサゴはそんな彼女の近くによって、その足元にしゃがみこんだ。

 

「どうしたタカサゴ」

「だからこれ。魚群探知機」

 

 タカサゴの手には箱状の機械と、そしてそれを固定するためだろうか、防水仕様の幅広の布テープ。それを断りもなしに、オリオンのふくらはぎに縛り付けた。

 

「どっから持ってきたのそれ……」

「これ? 釣り用の市販品」

「クィムガンを魚か何かだと思ってる?」

 

 確かに魚群探知機はけっこう単純な仕組みで、浅いところならば海底の地形だってわかるようなものだ。だからクィムガンを見つけることもできなくはないだろうが……。

 そう微妙な顔をしながら考え事をしていると、ペタリとふくらはぎに何かが触れるような感触がした。

 

「ほら、コアちゃんも」

「え?」

「探すんだったら、みんなで別の所を探したほうがいいでしょ?」

 

 目にも止まらぬ早業であった。タカサゴが俺のふくらはぎにも取り付けていたのだ。漁業用魚群探知機を。

 

「プロペラの回転数には気をつけてね! 調子乗って回しすぎると下手したら共鳴して使い物にならなくなるから」

「いや……そうじゃないのだが」

 

 まぁ、少しこそばゆい感じもするけれど、特に足を動かしたりする動作自体にはあんまり干渉してないからいいか……。

 

「まぁいいや。それで、見つけたらどうするんだ?」

「錨投げて引っ掛けて一本釣り」

「なんでそれでいいと思った?」

 

 いやだって、あの大きさだぞ? 持ち上げられる訳がなくないか?

 そう伝えると、タカサゴは目をぱちくりとさせた。

 

「え、できるよね?」

「いけるわね」

「嘘だろ……」

 

 そんなの当たり前だと言わんばかりにそう答えるふたり。エクスレー41ではそんなことはやっていなかったと思うのだが……。

 というか、そもそも。

 

「クィムガンを釣り上げたことがあるってことか?」

「あるわけないじゃん」

 

 ないんかい。

 

「じゃあその自信はなんなんだよ……」

「普通に船とか、あと海に沈んでる障害物とか引き上げてたりしてたよ?」

「ものによってはね、サルベージ手配するより早いのよね」

「そういう問題なのか?」

 

 単純に水の中にあるものを引き上げられるか否かよりも、それがクィムガンか否かの方が重要な判断基準のような気がするのは、果たして俺だけだろうか?

 俺は違うと思うのだが、ここにいるのは俺とタカサゴとオリオンだけだ。この場ではタンゴ14がいくら非常識なことをやってきていようが、それが過半数の多数派の意見になってしまうのだ。

 

 そんな不安を抱えながら、俺達はまた南シナ海へと出た。

 調査エリアは幅20マイル、長さ50マイルの長方形のエリア。ベトナムで最初の対応を行ってから、アナンバス諸島北で再発見されるまでの時間を鑑みて、本部が弾き出した今そのクィムガンがいるであろう推定エリアだ。

 

 ……のだが。

 

「魚……」

「これも魚……」

「魚しかいねぇ……」

 

 何か反応があるかな、と探し続けてみても、見つかるのは魚群ばかり。魚群探知機なんだからそれが本来の使い方だと言ってしまえばその通りですと答える他ないのは確かだが。

 南シナ海の南側はタイランド湾からジャワ海にかけてまで深海が存在しない。特にマラッカ海峡なんかはそれが顕著で、巨大な船だと深さが不足して危ないのでわざわざロンボク海峡まで迂回するほどだ。この海域は今よりも海面が低かった氷河期にはスンダランドと呼ばれる巨大な平野であった大陸棚が続いているのである。だから漁業用の魚群探知機であっても、性能が足りないということはないはずだ。

 なのに。

 

「いないね……」

「いなかったわね」

「いなかったな」

 

 ほぼ丸一日ほどかけて調査海域をあらかた調べ終わり、合流してそれぞれの調査結果を報告し合う。そもそも見つかれば他のふたりをその場で呼ぶことにしていたのでここで集まっている時点でわかっていたのだが、誰もクィムガンの影を見なかった。

 

「どうだと思う?」

「考えられるのは、3つあるわね」

 

 オリオンは落ちついた様子で考えを口に出した。

 1つはそもそもルドルフの杞憂で、あの場で対応が完了していた。正直これであるのがベストではあるのだが、ルドルフがあそこまでしてわざわざ警告までしてそんなことはないだろう。

 もう1つは調べる海域を間違えていた。この調査海域は俺達が対応した地点とシンガポール海峡の入口を結ぶ点から潮流の影響を考慮して計算されたものらしいのだが、その計算が間違っていた可能性がある、というものだ。確かに、ありえない話ではないだろう。

 そして最後の1つは、あのクィムガンはこの海域にいるにもかからわず、ステルス性能か何かがあって魚群探知機に映らなかった、というもの。このパターンがいちばん厄介ではあるが、可能性は低い。というのも、ステルス性能というのは主にそのものの形状が大きく影響してくるものだからだ。あのクィムガンの形ならばステルス性能があるとは考えにくい。

 

「だから私は、可能性があるとすれば真ん中、つまり調査海域を広げて見るべきだと思うのよね」

「なるほどね。……コアちゃんは?」

「俺もほぼ同感だ。ただ……」

 

 もう1つ、考えなければいけないことがあるような気がしていた。それは……。

 

「ここの海底、この滑らかな形状からして岩じゃなくて砂だ。水面より下に潜る可能性を考えるなら、その更に下、地面よりも下にまで潜っている可能性だってあるんじゃないか?」

 

 俺の考えついたこれは、オリオンの言っていた3つ目に近い。単純な魚群探知機で探せるのは海底面より上だけで、それより下を探すことはできない。これもまた、事実上のステルスといえるだろう。

 

「……確かにありそうね。だけどそれ、どうやって見つけるの?」

「うーん? 錨の先に金属探知機ひっつけて引っ張るとかか?」

「それじゃ錨に反応しちゃうよ……」

 

 ……そして、探し出すのが厄介なのもまた事実だった。

 その上、この仮説を考慮する事になったとしても、それは調査海域が間違っていたという仮説を棄却する理由にはならない。それはそれでまた考えておく必要がある。

 俺達は頭を抱えた。予防というのは確かに理想だ。だがそれには結局リッチなリソースが必要なのだ。いまのタンゴ14には、それができるだけのリソースはなかった。

 

 そして導かれた結論はただ1つ。

 

「帰ろっか、シンガポールに」

「そうね……」

 

 絶対に守らなければならないシンガポール海峡を守り抜くために、その近くで待ち伏せをし、クィムガンの側から水上に出てくるのを待つ。それしか、することはできなかったのだ。

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