タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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コンフルエント

 タンゴ14への増強のメンバーを迎え入れるため、俺達はシンガポールのジュエル・チャンギ・エアポート、通称ジュエルまでやってきていた。

 このジュエルは、コの字型に配置されているチャンギ国際空港のターミナル1から3に囲まれるように建っているショッピングセンターだ。立地的にはシンガポール海峡からはさほど離れていないため何かあっても急行できるため、いったん海峡の監視を取りやめて全員で向かうことにしたのだ。

 

「さて、と。一体誰が来るのやら」

 

 指定された合流地点である、ジュエルの地下2階、中央にある滝の近く。そのベンチに腰掛け、到着を待つ。

 ……待って、いたのだが。

 

「……それで、いつの便で来るのよ」

 

 少しだけ不機嫌そうに、オリオンがタカサゴに尋ねた。

 俺達がここに着いたのは午後5時半過ぎ。それから既に1時間が過ぎている。しかし一向に来る気配がないのである。

 インドネシア海軍により件のクィムガンが再び休眠化した今、危機が喫緊に迫っているという訳でもなくなっている。だから焦る必要もそれほどないのだが、しかしそれはそうとして待つというのは苦痛なものなのだ。

 

「飛行機自体は17時台には着いてるはず、なんだけど!」

 

 タカサゴはオリオン以上に不機嫌そうにそう答えた。

 ……とは言っても、このチャンギ空港は巨大な空港である。時間がかかってしまう理由なんてごまんとある。

 

「ゲートが遠かったか……それか降機に時間がかかってるとかじゃねーのか」

 

 他にも荷物の受取だとかイミグレだとか。あるいは、そもそも飛行機が遅れているという可能性だってある。

 

「それにしても遅くない?」

「こういうのはカリカリするのをやめた瞬間に来るものだったりするだろ? とりあえず滝でも見て落ち着けって」

 

 浮ついていて足元が落ち着かなくなっているタカサゴの向きを強引に変えて滝の方を向かせて、その両肩を押さえつけた。

 この滝はジュエルの目玉とも言っていい観光スポットで、5階の高さからここ地下2階に向けて落ちるように、それも水しぶきがあまり多く飛んでいかないように設計された高さ40メートルにもなる人工の滝で、名をレインボルテックスと言うらしい。

 そしてその滝を囲むように数多の熱帯樹が植えられ、屋内だというのにまるでジャングルの中にでもいるような気分になる。この風景を眺めていれば、小さな悩みなんて吹っ飛んでしまうだろう。

 

「いつ見ても、圧巻の風景よね」

「まぁ、確かに落ち着くけどさ……」

「本当に、よくこんなものを作ったものだな」

「だな。……?」

 

 ……?

 

 違和感を覚えて、俺達はすぐさま後ろを振り返った。

 そこには先程まではいなかった、だがしかし見覚えのある人影が。

 

「久しいな、オリオン、タカサゴ。そしてコアマ。それと、待たせてすまなかった」

 

 サンライズ。タイヨーアライズの東日本支部の長にして、現執行体制であるトライフラワーのうちのひとり。その彼女がそう口にしながら頭を下げていた。

 

「あら、リゼじゃない。何しにわざわざこっちまで?」

 

 その当たり前の疑問は当然抱いていたのだろう、オリオンがそうリゼに問いかけた。

 

「何しにって……貴女たちタンゴ14に用があるからこっちまで来たのだけれども」

 

 ……あ、そういうことか。つまり俺達はリゼと待ち合わせをしていたんだ。と、いうことは。

 俺はキョロキョロと辺りを見回した。どこかにいるはずだ。

 

「どうしたコアマ、急に」

「増強要員を連れてきたんじゃないのか? どこにいるんだ?」

 

 しかしそれっぽい人影は見当たらない。となると、説明こそしやすいものの人通りの多いこの場所ではなく、他の場所に待機してもらっていてリゼはただ呼びに来ただけ……みたいな感じだろうか?

 リゼの方に視線を戻すと、彼女はくすりと笑ってこう言った。

 

「タンゴ14への増強要員は……この私、サンライズだよ」

 

 ……え?

 いや、そんなことがあるか? リゼは東日本支部長だ。長期休暇程度のごく短期間ならともかく、月単位で担当する地域を離れてしまうのはあまりよくはないはずだ。

 だとしたら……。

 

「あら。左遷でもされたの?」

 

 考えている間に、オリオンが直球ストレートを投げつけた。流石にそれは失礼すぎるぞ。俺も少しは頭によぎりはしたけど、彼女の特性を考えればそれはありえない。

 

「リオちゃん、流石にそれは失礼だよ……」

 

 タカサゴは頭を抱えてオリオンの背中をポンポンと叩いた。しかし当のリゼはあまり気にしてはいない様子で、コホンと咳払いをしてから口を開く。

 

「いや、リオはまだ日も浅いから知らなくても仕方はないだろう。教育に関わる者だって現場の変化には目を通さなくてはならないから、数年に一回は現場に配属されることになっているんだ」

「そうだったのね」

 

 言われてみればそうだ。教育というものは普通は過去の経験に基づいて行われるものだが、それだと価値観のアップデートに置きざりにされてしまう可能性がある。それを防ぐのならば、確かに現場に出て実地経験を踏むのがいちばんいい。

 ほー、よく出来てる制度だなと感心したところで。

 

「……コアマ、なぜ貴女まで『そうだったのか』という顔をする」

「ん? そんな顔してたか?」

 

 とっさに笑ってごまかすと、リゼも困ったように笑みを浮かべた。たぶんそんな顔をしていたんだろうな。

 

「まぁ、それはともかく。短い間になるだろうけれど、よろしく頼むよ」

「こっちこそ。ようこそタンゴ14へ」

 

 そしてシンガポール市内のホテルに移動してから、詳しい情報の整理をすることにした。

 リゼはまずベトナムでの件のクィムガンについての詳細なレポートを取り出した。どうやらこちらがその情報を欲するだろうことはルドルフも想定済みのようで、日本を出る前にリゼに直接説明があったらしい。

 

「タンゴ14は当面はこのクィムガンを追うことになっているとルドルフからは聞いている」

「うん、そう。アナンバス諸島で恐らく逃げられて……そして昨日かな、()()()()()()()でインドネシア海軍にまた対処されて、そして恐らく逃げた」

「……待って。タンベラン諸島?」

 

 タンベラン諸島というのは、シンガポールから東に300キロほど離れたところに浮かぶ島々だ。だが、そうなると……。

 

「件のクィムガンは、シンガポールを目指しているのではなかったのか?」

 

 アナンバス諸島から見て、シンガポールは南西に、タンベラン諸島は南東にある。仮にそのクィムガンがシンガポールを目指していたのならば、タンベラン諸島にいるのはおかしい。

 

「私もそう思ってた。でも、今日のお昼にインドネシア当局からそういう話があって」

「初耳だぞ」

「言ってないもん。どうせすぐみんなで空港行くし、情報整理するこっちで言えばいいかなって」

 

 いずれにせよ、件のクィムガンがシンガポールを向いていないならば、タンゴ14にはその方針を変更する必要が発生する。

 どうやら今夜は長くなりそうだ。俺はその覚悟を改めて決めた。

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