タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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タイヨウニマモラレテ

「やはり、タカサゴもそう考えるか」

「当たり前じゃん。だってあの時期のがみんなクィムガンになっちゃったら……考えたくもないよ」

 

 ……どうしよう。俺はここからどう反応していけばいいのかわからなくなった。

 なぜかと言えば、俺はこの()()の現象を『知っていた』からだ。だがそれが海の大惨事への懸念に紐づいたのは、今さっきのサンヂヱゴの妹が話題に上がってきたタイミングだった。

 

 ()()の現象が発生し始めたのは、シエロエステヤードがこの世界の法則を書き換えようと動き出し、昨年末に都立武蔵国分寺公園に大きな穴を開けたことに因るものだ。シエロエステヤードが活動していることを知ってから改めてニュースをチェックしてみれば、その穴は確かに開いていたことを確認できていた。

 今思えば、シエロエステヤードの話をルドルフにした時に一緒に話しておけばよかったかもしれない。だが俺は()()については一切話すことはしなかった。それは陸上でのストーリーでは奇妙ではあるが逐次対処が可能な程度の軽微なものだと受け止められていたからだ。海上ではそうでもなかったが。

 

「コアちゃん?」

「……悪い。少し考え事を」

 

 だが、予め知っていたとして何かタイヨーアライズにできる対策があったのかと言われれば、せいぜいハザードマップの改訂が多少早まるだけで根本的な解決策にはなり得ない。そもそも国分寺に穴を開けさせなければよかった? 無理だ。俺がライスシャワァに会った時には、既にその穴は開いていた。

 しかしこのまま現状を追認し続けているのでは東アジアの……いや、世界の海は、今までの想定を超えた危機に晒されることはおそらく間違いがない。なんとかして、この()()を止めなければならない。

 

 でもどうやって? 俺自身が囮になれば、シエロエステヤードは姿を現すのだろうか? そもそもシエロエステヤードを倒したとて、()()が発生しなくなるという保証はあるのか?

 ――いや、今は目の前の問題に対処しなければ。サンヂヱゴの妹を、鎮める。それだけだ。

 

「あ、帰ってきた」

 

 気がつけば、3対の目がじっと俺の顔を覗き込んでいた。

 

「それで、何か考えついた?」

「いや、何も。どうすれば解決できるか、その道筋すらどうも思いつかなくて」

「あんなに考えこんでたのに?」

 

 考えこんだって、分からないことだってあるだろうが。その意を込めて、苦笑いを浮かべる。

 するとこの中では思いもよらぬ者から声をかけられた。

 

「コアマさん。カッサンドラーって知ってるかしら」

 

 唐突に、そうオリオンが切り出したのだ。

 

「知らないな。どっかの都市とか人の名前か?」

「正解。ギリシャの伝承に出てくる人の名前よ」

 

 むかし、トロイアという国にカッサンドラーという王女がいた。彼女は知識を司る太陽神に見初められ、予言の力を与えられた。しかし彼女はその力で、太陽神に捨てられてしまう未来を見てしまった。そしてそれを誰にも、当の本人にすら言うことができずに、その予言を恐れて太陽神の愛を拒んだ結果、本当にその予言通りの結末を迎えてしまった。

 それだけではなく、太陽神はカッサンドラーにその予言を誰にも信じてもらえなくなる呪いをかけた。その結果として木馬をトロイアへと入れれば国は滅ぶという予言すらも信じてもらうことはできず、預言通りに滅びの木馬はトロイアへと侵入してトロイアは滅亡してしまった。

 オリオンが語ったのは、そんなカッサンドラーにまつわる伝承だった。

 

「ねぇ、コアマさん。貴女、何かを知っているわよね」

「……何かって、なんだよ」

「それこそ貴女しか知らないんじゃないかしら」

 

 ――気づかれている。俺が情報を持っていることに。

 でも、これを話したところで信じてもらえるだろうか? 中途半端にしかない、不十分な情報を。

 

「黙ったまんまじゃ、太陽に護られないわよ」

 

 その悩みすらも、見透かされていた。そしてオリオンは俺に判断を迫るようにそこで言葉を止めた。

 少しの間をおいてから、リゼが口を挟んだ。

 

「そういえば、送り出す時にルドルフが言っていたね。可能であれば、コアマから情報を聞き出してほしい、と」

「ルドルフからどこまで聞いてる?」

「あまり詳しくは聞いてはいない。しかしライスシャワァという者の持つ記憶を観たということは聞いている」

 

 そうか。なら、話してしまった方がいいのかもしれない。

 

「……わかった、話そう。だが、この情報は直接解決に繋がるものじゃない。それでもいいか?」

 

 リゼは小さく頷いた。それから俺はリゼに伝えた。この()()が起きた根本的な原因と、そしてそれを対処する具体的な方法は分からないということを。

 リゼは黙ってそれを聞いていた。それから少しして脳内で整理が済んだのだろうか、小声でこう返してきた。

 

「なぜそれを、あの場でルドルフに話さなかったの」

「話したところで信じてもらえるわけがないし、それに阻止するには遅すぎた」

「阻止はできなくとも、備えることはできた。……いや、ここまでにしよう。今ここでそれを咎めても仕方がないね。話を聞こう」

 

 そしてリゼは立ち上がり、客室備え付けの電話機の方へと向かった。本部へと電話を繋ぐのかとも思ったが、電話器の近くからメモ用紙を拝借してすぐに俺達のいる机へと戻ってきた。それはもっと詳しく話を聞きたいという意思表示に他ならなかった。

 

「だったら、なぜライスシャワァは()()を」

「それは彼女達シエロエステヤードの主目的ではない。その目的は別にあって、副次作用として()()が起きてるってだけだ」

 

 そしてシエロエステヤードの真の目的は……逆だ。彼らはクィムガンが生まれてくることのないような世界にすることを目指している。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「システムを作り直す? そんなことができるというのかい」

「できなかったら()()が発生するか?」

 

 そう問いかけると、納得したかのようにリゼは唸った。そして当然浮かんで来るであろう疑問を投げかけて来たのだった。

 

「それほどまでの力を持つシエロエステヤードとは、一体何者なんだい」

「そうだね、1つ言えるのは――」

 

 ――シエロエステヤードを率いるスタァインザラブ。彼女はかのはじまりのクィムガン、ルースの落し子の妹にあたる。

 

 それを伝えると、流石に予想外だったのだろうか。またしても部屋の中には沈黙が訪れて、そしてペンが転がり落ちた音だけがその部屋に響いた。

 

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