タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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ソナエヨウ

「じゃ、コアちゃんの話は終わったし、あのクィムガンの行く先について考えよっか」

「すまんな、時間とって」

「いいのいいの、考えまとめる良い時間にもなったし、それにいい案も思いついた」

 

 そう言って、タカサゴはニンマリと笑った。

 

「いい案って?」

 

 オリオンがそう返すと、得意げにタカサゴはその案を語った。

 まず、ドラム缶をいくつか用意する。そのドラム缶に油を詰め、錨鎖にくくりつけて海に沈める。するとクィムガンが寄ってくる。って……。

 

()()じゃねーか」

「そうだけど?」

 

 魚群探知機のときも思ったけれど、クィムガンのことを魚か何かだとでも思ってるんじゃないだろうか。

 だが……ふと、思う。何十年も経験を積み重ねてきたタカサゴが、果たして初歩的な思い違いをするだろうか? 言い換えれば、こういう提案をしているということは、今までそれで上手く行っていたという実績があるということなのだろうか……。俄には信じがたいものだ。

 そう思って、ふとコアマの記憶や原作などに出てきたクィムガンを思い出してみて、気づく。言われてみれば、クィムガンに知性を感じるような動きをしていたものがいただろうか? 対処に困るクィムガンといえば、単純に図体がデカくて一撃が重いだとか、すばしっこくてなかなか攻撃が当たらないだとか、あるいは攻撃が通らないほどに硬いだとか、そういった単純にフィジカル的な強さをもつクィムガンだ。こちらを困らせようだとか、そういった複雑な意図の読めるような行動をしてくるクィムガンはほとんどいなかった。

 それに。『クィムガンは乗り物だった頃の最後の願いを持ち続けている』というのは、タイヨーアライズで囁かれている定説の1つだ。かのクィムガンは、()()()()()()()()()……なんて言われていた頃に油を届けられずに沈んだ船だ。油を欲するのはそんなに不自然なことじゃない。

 

 そうやって要素要素を考えてみれば、一見奇っ怪にも思われるタカサゴの案も、決して悪いものではないように思えてくる。ただ、問題があるとすれば。

 

「この広い海のどこで釣りをしようってんだ?」

 

 南ナトゥナ海とも言われる南シナ海の南の果て。この広い海域の中で特定の一体のクィムガンを釣り上げるなんてことは、いくら油というエサがあるとは言っても砂漠の中で一粒だけある砂金を見つけるかのような困難なものだ。

 まぁタカサゴのことだ。いい案だ、なんて言うからにはそこもきちんと考えて……。

 

「それは……」

「……え?」

 

 得意げだったそれまでとは一転、突然言い淀むタカサゴに思わず声が出た。

 

「嘘だよな? ちゃんとそこも考えて案を出したんだよな?」

「それは……その……」

 

 頼むから、嘘だと言ってほしい。

 しかし現実は残酷である。現状から客観的に判断されるものを、リゼとオリオンはきっぱりと口に出した。

 

「考えてなかったのだな」

「考えていなかったのね。マラッカ海峡じゃないのに」

 

 どうやらオリオンによれば、タンゴ14はかつてマラッカ海峡で似たようなことを行って海に落ちた航空機の残骸を探したことがあり、そういう実績自体はないわけではないようだった。

 だが、マラッカ海峡というのは細長い海峡だ。特にクアラルンプールより東ではその幅はせいぜい50マイル程度で、虱潰しな調査を比較的行いやすい地形条件が揃っている。南ナトゥナ海とはわけが違う。同じ手段は、通用しない。

 それを指摘されたのがよっぽど気に食わなかったのか、タカサゴは口を固く噤んで、ベッドに飛び伏した。

 

「結局、振り出しに戻るのか。……オリオン、タンゴ14は普段からこうなのか?」

「いつもはこうじゃないわよ? おかしいのはむしろ今回の任務自体……というよりも、あのクィムガンじゃないかしら」

「それは……否定はできないな」

 

 リゼはそう言って顔に苦みを浮かべた。

 そもそも、既に対応を終えたはずの、それも2回もやったクィムガンが生存している、ということ自体がもう異例なのだ。それを探すノウハウを持っている者など、タイヨーアライズどころか世界中を探してもいないと言ってしまって差し支えないだろう。

 

「結局、待つしかないのかもしれないわね。浮上したところで、すぐに害意を振りまくわけでもないようだし」

「心苦しいけれども、他に策がないのならそうするしかない、か」

 

 行き詰まって、半ば諦めのニュアンスを交えるふたり。さっきから拗ねているタカサゴも相まって、部屋の空気は最悪だ。

 ……でもさ、それってさ。

 

「リゼ、オリオン。落ち着いて考えよう。タイヨーアライズが積極的にクィムガンを探し出して叩く……なんてこと、今までどれだけあったか?」

「それは……ほぼ、ないな」

「だろ? 基本的には警戒している海域で偶然出てきたクィムガンを対応するか、あるいは便乗してる奴らから情報提供があって、それを本部なり地域の支部なりがまとめてから俺達に対応するよう指示を飛ばすか。原則的に、対応のほとんどは後手に回ってやってきた。今回だって、いつも通りにやればいい。それは失敗とは言わんはずだ」

 

 先手先手で動くことができれば、そうであるに越したことはない。だがそれに必要以上にコストをかけてしまっては本末転倒もいいところだ。

 

「備えよう」

 

 あぁだこうだ考えて、慣れていないことをするのがいい時というのは無数にある。だが、慣れたやり方でできるのならば、それに越したことはない。そして、今はそうするべきだ。そう思うのは、俺だけだろうか?

 

 いや、違う。

 従来の、発生を確認してからの後手に回った対応。そうするしかないのなら、それを極めていくしかない。その認識は、もちろん共有されていた。

 

「備え、か。何が要る?」

 

 打って変わって、芯の通った声でリゼが尋ねた。

 

「発信機。また逃げられても次は先手を打てるように」

 

 起き上がったタカサゴが答えた。悔しそうな声で。

 今回は後手に回るしかない。だが、逃げるとわかっているのならば、対策を打つ。そして、次は後手に回らないようにする。それがタカサゴの決意なのだろう。

 

 そして、他にも少しの議題を片付けて、シンガポールでの取りまとめは終わった。次の通報が来るまでの間の待機場所として選ばれたジャカルタへの移動までの間、束の間ではあるがここシンガポールで休息をとることになった。

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