タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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バンダラナイケ

 コロンボ・バンダラナイケ国際空港、セレンディブラウンジ。

 スリランカの玄関口たるこの空港から東京・成田国際空港までの454便は、金曜日の例に漏れず3時間ほどの遅れが発生していた。だから俺たちは空港で足止めを食らっている訳なんだが……。

 

 どういうわけだか俺は、サンヂヱゴにこのラウンジまで連行されて、二人っきりでテーブルをはさんでいる。

 

「さて、コアマ号」

「ヒッ」

「怯えずともよい。別にとって食おうとしているわけではないが……」

 

 そうは言っても、サンヂヱゴの目線や纏う雰囲気は冷たいまま。どう考えても仲間に向けるものではない雰囲気……というか敵意をむき出しにしていた。

 ならばせめて俺に謎の好意を向けているタカサゴも呼んでほしいと頼んだのだが……。

 

 

「彼女はタンゴ14のメンバーと合流するために夕方の便でもうクアラルンプールへ向かったよ」

「マレーシアに? いったいなぜ」

 

 するとサンヂエゴは立ち上がり、俺の顔に手を添えた。

 

「マラッカ海峡がタンゴ14の担当海域であることすらも忘れているとは。どうやら意識のかわりに記憶を失ったというのも本当のようだな」

 

 そしてサンヂエゴは顔を近づけた。やはり、冷たい顔だ。

 彼女が言うには、成田に着き次第俺はエクスレー41から外れることになるらしい。つまり厄介払いか。

 

「だったら、どうして俺はエクスレー41にいたんだ?」

「半ば精神を刻んだ責任のようなものよ」

 

 サンヂヱゴは、「すまなかった」と言いにくそうに謝罪した。

 そしてエクスレー41として、最後になるからこそ話しておかなくてはならないと、静かに語りだしたのだった。

 

「仮に聞きたくなければ、アタイの語りを止めてくれても構わなければ、アタイのことを蔑視してくれても構わない」

「そんなこと……」

「そう言えるのも、お前が記憶を失っているからだ。……いや、精神を失う前のお前もそういう奴だったか」

 

 そしてサンヂヱゴは、思い出すきっかけになればと、彼女の知るコアマとの過去を話してくれた。

 サンヂヱゴはコアマを疎んでいた。それはコアマが政府にルーツを持つ存在で、かの戦争中も政府の直接の構成員だったからだ。

 だがそれでもコアマはタイヨーアライズに加入した。それはタイヨーアライズが発足してすぐの事だったが、そのとき彼女は「十字架を背負いにきた」との言葉を下げて加入してきたのだ。

 つまり、当時のコアマは既にサンヂヱゴらの憎しみを理解していたのだ。だが、それはサンヂヱゴらの憎しみを止める理由にはならなかった。

 

「だこらアタイ達は……過去にお前に()()()()()()をした。それは到底許されざることだが、その時のお前は償いだと我々の行為を許してくれていた。そして次第にその度し難い行いはエスカレートし、最終的にお前の精神を滅した――アタイがその行いが過ちであると気づくことができたのは、その後だった」

 

 精神を失ってからのコアマは、ただ命令を遂行するだけの機械に逆戻りした。その安全確保能力が確かなものである事は信頼するに値するものであったが、それがいつタイヨーアライズに牙を向いてもおかしくないような事をしてしまっていたのだ。

 だからこそ、かえってタイヨーアライズはコアマを畏れた。畏怖するがあまりその名を呼ぶことすら憚られるようになった。

 ……なるほど。だから原作では一度もこの名前を見たことがなかったのか。

 

「アタイは許されざることをした。そしてお前を致命的に変質させてしまった。その過去を変えることはできない」

 

 内容とは裏腹に、あいも変わらず冷たい目でそう言うサンヂヱゴ。だったら……。

 

「だったら! そんな冷たい目ではなく、タイヨーアライズの他の仲間に向けるような、そんな目を向けてほしい」

「……悪いが、それはできない。お前が精神を失う前、アタイはお前の実力は信頼できても、お前のことを信用できずにいた。お前が記憶を失う前、ただアタイの言葉に従うお前は信用はできても、どうしてアタイの言葉なんぞに従うのかという不信が、信頼を上回ったのだ」

 

 そう言うサンヂヱゴの目は相変わらず凍えていた。だがしかし、震えていた。それは怯えているかのように。

 だけどさ、それってさ。

 

「それはどっちも、アンタが勝手に感じていたことじゃないか」

「ならば、ならば教えてほしい。どうしてお前は、アタイを、タイヨーアライズを害さない? なぜ従い続ける? これだけ度し難い行いを続けているというのに!?」

 

 声を荒らげるサンヂヱゴ。ラウンジのスタッフさんが遠くから白い目で俺達を見ているが、彼女はいつの間にかそれに気がつく余裕すらも失っていた。

 

「記憶を失う前の俺がどう思ったのかはわからない。何をされたのかを知らないからな」

「そういうことにして、アタイを赦そうとしているのだろう?」

 

 あぁ、なるほどな。

 サンヂヱゴがどうしてそう考えているのか、そして何に怯えているか……それがなんとなくだが、わかったような気がした。

 

「なぁ、サンヂヱゴ。()()()()()()()()()()()()()()んだろ。だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っている。違うか?」

「当たり前だろう。アタイの仲間を見殺しにするどころか、危険地帯へと丸腰で向かわせて、そして見納めにした。それは永遠に許されるものではない!」

 

 サンヂヱゴの怒りはもっともだ。だがしかし、その度し難い行いをした海軍は既に解体・消滅してから半世紀以上も経過し、そして当時の指導者は既に命を散らしている。にもかかわらずその憎しみを永遠に持ち続けて、本来協力すべき相手との協力を拒み続けるのは、果たして健全な姿だろうか?

 そこに疑問を持ったのが――

 

「だからこそ()()()()はお前の頭を冷やさせようとしたんだろうが」

 

 ――瀬戸の宝玉、ゴールドフェリー。通称ルドルフあるいはゴルフェ。小説、『黄金のソレイユ』の主人公だ。




『黄金のソレイユ』キャラクター紹介


【挿絵表示】

「ゴールドフェリーです。ルドルフでもゴルフェでも、呼びやすいようにお呼びくださいまし」
「黄金の名に懸けて、この私は弱きものを見捨てることはないと誓います」
「あなたの旅路に、黄金の輝きがありますように……」

ゴールドフェリー<Gold Ferry>

原作小説『黄金のソレイユ』の主人公。
黄金の名を持つ者として恥のないよう常に気をかけている。
協力と団結こそが大きな力を生み出すと考えており、かつては彼女の商売敵であったヴァイオレットやサンライズは、今や彼女の仲間であり、最大の理解者となっている。
その思想をもとに、憎悪に沈んでいたたタイヨーアライズの針路を大幅に変えた功績が評価され、最終的にはタイヨーアライズの代表にまで上り詰めた。
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