タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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タンジュンアピアピ

 その報告があったのは、インドネシアの首都ジャカルタに拠点をおいてから3日後のことだった。

 バンカ島とスマトラ島の間、バンカ海峡。その北側の入口に件のクィムガンが現れたというのだ。

 

 俺達はそれを聞きつけ、早速パレンバンを経てバンカ海峡のスマトラ島側の口、タンジュンアピアピの港へと急行した。

 

「まさかこっちに来るとは……」

 

 パレンバンからのバスの中で、タカサゴはそうつぶやく。

 

「こっちってことは……やっぱりパレンバンかしら?」

 

 パレンバンはムシ川の辺にある、南スマトラ最大の内陸の都市だ。そのムシ川はそのままバンカ海峡に注ぐので、海の船であってもある程度の大きさまでならばパレンバンまで遡上できる。

 そしてそのパレンバンは……古くから、()()の産出地として知られていた都市でもある。言われてみれば気がつくことはできただろうが、件のクィムガンが目指す地点としては考えうる選択肢のひとつになりうるところだ。

 

「できればムシ川に入る前に対応したいところだけど」

「……いや、入ってからの方がいいかもしれないわよ?」

「河川水運止める気なの? ダメだよ」

 

 そしてタンジュンアピアピのフェリーターミナルからバンカ海峡に飛び出せば、明らかに異常なその姿を認めるまでに大した時間は必要としなかった。

 

「それじゃリオちゃん、頼むよ」

「まっかせなさい」

 

 事前に決めた通り、タカサゴはオリオンにオレンジ色の箱を渡した。シンガポールで手配していた、かのクィムガンに取り付けるための発信機だ。そして彼女は、音もなく海へと沈んでいった。

 オリオンには特殊な力がある。彼女は海の中を自在に歩くことができるのだ。普通に浮かんで航行するよりもはるかに遅いので普段はあまり移動には使わないらしい。だが、今回の場合は話が別だ。

 アナンバス諸島でそうだったように、件のクィムガンは近づいた時に火炎放射で海を炎上させてくる。そうなると、むやみに近づくことすら難しくなってしまう。それゆえ発信機を取り付けるためには、かのクィムガンに気づかれないように接近する必要があった。

 オリオンの海中歩行はこういった隠れて近づくという場面にはうってつけのものと言えるだろう。波や海面の反射に紛れて、その姿を捉えることが難しくなるからだ。

 

 そして、オリオンの出発から1時間後。発信機をクィムガンに取り付けたオリオンが戻ってきた。その間クィムガンは目立った動きを見せていない。

 オリオンは無事、クィムガンに発信機を取り付けて戻ってきたのだ。

 

「本当に、これだけで良かったの?」

 

 不安そうに、オリオンはそうタカサゴに尋ねた。どうやら俺達の想定以上にこの計画はスムーズに進行していたようだった。最悪オリオンが近づいていることがバレて撹乱のために攻撃を開始せざるを得ないというストーリーまで考慮していたくらいだしな。

 だからこそ、オリオンはこれだけあっさりいくのならば戻ることなくそのまま攻撃を加え始めても良かったのではないか、と考えているようだった。

 だが。

 

「良いの良いの。リオちゃんだけで奇襲して簡単にどうにかなる相手じゃないでしょ?」

「今はまだ、そうね……」

 

 ずいぶんと直球に、タカサゴはオリオンの言葉を否定した。

 タカサゴが恐れているのは、オリオンがひとりで向こうで始めてそこから俺達が加わったあと、合流することができずにオリオンを喪失してしまうことだ。オリオンはタイヨーアライズでの経験の割には高い実力を持ってはいるものの、総合的にはまだ不十分。そもそも遠回りでも確実に仕留められる確率が高い手段を選ぶのがタイヨーアライズのやり方だ。確実に合流することを優先するべき――これがタカサゴの考えだった。

 

「じゃ、行こっか。それとリオちゃん」

「なに?」

「さっき取り付けに行ったこと、バレないように動いてね? それじゃ、ライズちゃんコアちゃん、頼むよ」

 

 あのクィムガンの火炎放射は射程がそれほど長くない。ならばそれよりも遠いところから一方的に攻撃を加え、そちらに注意を引き続ければいい。

 

「承知! 《金剛突破》!」

 

 俺が錨を振るえば、飛沫が舞い上がる。それが結晶となって、突き刺さるようにクィムガンへと飛んでゆく。それを両手の錨で飛ばし続ければ、簡易的な弾幕が完成する。

 そして。

 

「行くぞ。《海に開く白い憧れ》」

 

 詠唱に呼応するようにひと際強く差し込んだ陽光が、虫眼鏡で集めたようにリゼの左手に集中し、圧縮され、真っ白な光の束となり打ち出される。

 リゼの《海に開く白い憧れ》は、太陽の光と熱とを孕む海を切り開く光線状の技だ。その特性上、夜間になると出力が極端に減少してしまうものではあるのだが、日中であれば水平線までが射程範囲に入る遠距離技である。

 だが俺のもリゼのも……というか、そもそもホーミングのできない遠距離攻撃にはすべて共通する問題ではあるが、照射目標が離れるにつれて照準を合わせるのが極めて難しくなっていく。とはいえ、ことこれだけ巨大なクィムガンを相手にするのであればその問題はないのも同然だった。

 

「おやおやおや? 苦しんでる苦しんでる」

 

 言葉の内容からは想像できないほど楽しそうに、双眼鏡を覗くタカサゴが声をあげる。ここからは彼女と、オリオンのターンがはじまる。

 少し離れながら遠距離攻撃を続ける俺とリゼとの間から、ふたりがクィムガンに向かって進んでいった。クィニョンでもアナンバス諸島でも、あのクィムガンは自滅を防ぐために自身に近すぎる距離には火炎放射を行わなかった。だから近接での活動を行うならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、というわけだ。

 

 しばらくして、タカサゴからの無線が入る。十分に近づくことができた、と。しかしクィムガンが火炎放射を行った形跡はない。これはタカサゴの立案した計画が上手くいったことを意味する。

 そして、それが成功したならば。もはや俺達が遠距離攻撃を継続することは、タカサゴたちへの誤射を招きかねない危険なものに変わる。さっきも言った通り、遠距離攻撃は照準を合わせにくいのだから。

 攻撃の手を止め、一度双眼鏡を取り出してクィムガンの方を見れば、タカサゴとオリオンが繰り出したであろう技の軌跡がしっかりと見えた。

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