タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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ヒートショック

 遠距離からの攻撃をやめてから一呼吸おいて、俺達は双眼鏡を覗いた。あいにく海面に阻まれてタカサゴ達は見えないが、クィムガンが船橋の上から何かを発射している様子が見える。どうやらふたりとも順調にやっているみたいだ。

 

「さて、我々も向かおうか」

「あぁ。タカサゴたちが気を散らしてくれてるうちにな」

 

 そして、俺達もそこに加わりにいく。

 先程までは俺達がタカサゴ達の接近から気を反らしていた。今度は逆だ。とはいえ、光学的に隠していたさっきとは違って、俺達の接近はクィムガンに見つかる可能性がないわけではない。そうなればまた火炎放射が襲ってくることも考えうる。

 

 だが、しかし。

 

『燃えている可燃物を射出してくるのであれば、こっちに届く前に()()()()()()()()()()()()のだろう?』

 

 作戦を練る時にリゼはこんなぶっ飛んだ対処法を提案してきた。もちろん、理論上は可能なことではあるのだが、それをしたらば周囲の空間の温度は上昇し、海はたちまち煮えくり返ってしまうだろう。圧倒的な熱量から遠ざかることができなければ、傍にいるだけで無事じゃ済まない。その熱量を操る者以外は。

 

 だからこそ、足のはやい俺と最悪強引に道を拓くことができるリゼが残ってあとのふたりを送り出すことになったのだ。逆に言えば、ここでクィムガンから火炎放射が飛んでくる事自体は想定の範囲内だ。

 

 もちろん、そんな想定なんて外れてくれる方がよっぽどいいのだが……。

 

「まぁそんな簡単には行かないよな! 知ってたさ、《船車接続:暁の超特急》!」

 

 緑色の鮮やかな朝の風が体を包んで俺の体を前へと運ぶ。そしてそのいたところに向けてクィムガンからの炎が襲いかかろうとする。

 しかしそれは、リゼが許さない。

 

「来たな。《燃えている太陽と海》」

 

 次の瞬間。背後で暴力的な熱量が、向かってくる炎をも焼き尽くした。そしてその発生している現象を、海上で出すべきではない速度にまで到達している俺ですらも感じ取れるほどのものだった。というかたぶん振り向いたら目が潰れるんじゃないかという気さえしてくる。

 この瞬間、リゼはまさに太陽だった。暴力的な光と熱とが彼女から発せられ、向かってくるもの全てを灼き尽くしている。ただ光束をまとめただけの先程の《海に開く白い憧れ》でさえ、かわいいものかのように感じられる。

 これがリゼの――サンライズというタイヨーアライズ指折りの実力者の持つ問答無用の暴力。彼女は()()()()()()()()()のだ。

 

 その技が使われていたのは時間にして5秒にも満たないものだった。しかしその一瞬でクィムガンの火炎放射は打ち消され、それを出すことすらしなくなっていた。それどころか、タカサゴやオリオンに向けていたはずのマシンガンすら止まっている始末。

 ……うん。そりゃまぁ、意味ないもんな……。

 

「何度見てもヤバいわね、リゼのアレ」

 

 合流するなり、オリオンがそうつぶやいた。

 

「何とか逃げられたが、近くには絶対居たくねえな……」

「奇遇ね、私もよ」

「流石にそうじゃない奴の方が少ないだろ、アレは」

 

 そんな風に会話をしながら、俺は眼の前に壁のようにそびえ立つクィムガンに視線をやった。ここまで近づいてしまえば、マシンガンすら死角となりこちらから一方的に攻撃ができる。

 多くのクィムガンの場合、あまりに近づきすぎてしまうと腕状の突起によって殴られたりするなどのリスクが生じる。しかしこのクィムガンはあくまでも船の形は保ち続けているようで、上から何かを落としてくる攻撃にとどまっている。避けるのはさほど難しくない。

 ……まぁ、仮に一方的に攻撃ができると言っても、それが通っているかというとそれはまた別の話となるのだが。

 

「で、だオリオン。そっちは上手く行ってるのか」

「それが、ぜんっぜん。横も下も想像以上にかったいのよね。だからタカサゴさんがさっきのリゼの当てたところとか、行けそうなとこを探してるわ」

 

 船というのは、波を受ける前や側面からの物理的な力には案外強い設計となっている。ただ闇雲にそこを叩いても埒が開くはずもない。

 だが、そこに熱が加えられればどうだろうか。木材にせよ金属にせよ、高温というのは基本的には耐久性を奪うものだ。狙うならばそういうところだろう。

 しかし……だとするなら海面から探したところであまり意味はないと思うのだが。

 

「……それってもっと上の方じゃねえか?」

「どうしてそう思うの?」

()()()()()()()()。だからまっすぐ水平に撃ったつもりでも、発射点から離れれば離れるほど水面からの高さは少しずつ上がっていく。三平方の定理を簡単に近似すれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のさ」

 

 仮にリゼの《海に開く白い憧れ》が水面から80cmの高さから撃たれていたと仮定して、2マイル離れたクィムガンに当たるのは水面からおよそ2m上、4マイル離れていたなら約5mも上だ。遠距離攻撃があんまりにも遠距離すぎると使い物にならない理由の1つがここにある――海面は平面ではない。

 だから叩くのならばもっと上だ。そんなことタカサゴだったらわかりきってると思っていたが……。

 

「それとも何か、別のものでも探してるのか?」

「何を探してると思う?」

「そうだな、……って、おい」

 

 噂をすればなんとやら。タカサゴがすぐ後ろに帰ってきていた。彼女は悪びれる様子もなく、にやにやと笑顔を浮かべている。

 

「で、何してたんだ」

 

 そう聞くと、待ってましたとばかりに背中の後ろに隠していたモノを前へともってきた。

 

「これ、なーんだ?」

 

 タカサゴが取り出したもの。それはクィムガンの体色と同じ色の、円筒状のパーツのようなものだ。

 よく見れば、片側は半球状の丸い頭のようになっていて、そしてもう片側は強引に割れたかのように特徴的なギザギザの断面をしていた。

 あ、なるほど。これは……。

 

()()()()か。どうしたんだそれ」

「さっき強引に引っこ抜いてきた」

 

 おい。簡単に抜けちゃ困るものだろ、それは。

 リベットというのは、穴のあいた2つの部材の穴を通して嵌殺し、その2つを接合するためのもの。そもそも半永久的に抜けないことを前提としている部品なのだ。

 ……まぁでも、タカサゴがやりたいことはなんとなくわかった。

 

「抜くのか? 一列ぜんぶ」

「大っ正解!」

 

 そう言ってタカサゴは、満面の笑顔を浮かべながらリベットをクィムガンに向かって投げつけた。

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