「さーてと。こうなったからには、やるよ」
クィムガンが沈んでいってから数分が経ち、それに伴う海水の流れが落ち着いたころ。タカサゴは再び魚群探知機を取り出した。
「発信機つけたのにいるのか?」
「いるよ? あの発信機、水中じゃGPS届かないから5万サイクルの音を出してるだけになるもん」
……それって魚群探知機で反射音を探すのと何か大差があるのだろうか? とも思ったけれども、あの発信機が出す音はこの魚群探知機が出す音よりもはるかに大きく、また反射音ではないのでそれも相まって魚群探知機の表示があからさまにおかしくなるのだとか。
しかもこの魚群探知機は5万サイクルの他に25万サイクルの音も使っているので、そちらで海底地形の方はきちんと確認できる。こうなってくれば、2つの周波数で出てくる違いが異常になってくるから非常に探しやすくなるのだとか。
「ほら、さっきのも。あっちの方に……」
そう言ってタカサゴは南東の方を指さした。しかしそこでタカサゴの言葉が止まる。
その指さした方から、複数の人影がこちらに向ってやってくるのが見えたからだ。
「……えっ、嘘」
確認のためにと双眼鏡を覗いたタカサゴの口から、そんな言葉が漏れた。
「知ってるの?」
「知らないわけないじゃん。だってアリマさんだよ?」
アリマサン。
それはサンヂヱゴ、キヨカワと並んでタイヨーアライズを立ち上げた者の名だ。すでに彼女はタイヨーアライズを退いているとはいえ、タイヨーアライズにいるならばその名を知らない者は今もなおいないといえるだろう。
慌てて双眼鏡を覗けば、タカサゴの言う通り、そのアリマサンが集団を率いてこちらへと向かっていた。だが、それがアリマサンだとわかったとはいえ、彼女が率いている集団はいったい? どうにも見覚えがまったくない。
これにはタカサゴも困ったような顔をしながら、静かにキロの旗を揚げた。キロの旗はコミュニケーションの意思をあらわす旗である。少しすると向こうも同じ旗を掲げながら接近してきた。
ひとりタカサゴだけが迎えに行く形で少しだけ移動すると、アリマサンの方もようやくこちらにいるのがタカサゴであることに気がついたようで、驚いたように声をあげた。
「どなたかと思えば、タカサゴ号ではありませんの。お久しぶりですわね」
「こっちこそ。……で、後ろの子たちは」
「わたくしの可愛い教え子たちですわ。こちらのインドネシアの子たちにタイヨーアライズで培ったノウハウなどをお教えしているところですの」
どうもアリマサンはタイヨーアライズを退いてから、日本関係船を守る事だけを目的とするタイヨーアライズではできなかった海外組織との協力をしているらしい。この教育もまたその一環なのだそうだ。
ほーんと感心していると、今度はアリマサンがタカサゴから目を外して俺達の方を見た。
「そう言う貴女の方は、サンライズ号に……キロ86!? ついに手籠めにされたんですのね」
俺を視界に認めるなり、アリマサンはそう素っ頓狂な声をあげた。
手籠めって、なんか盛大な勘違いをされている気がする。一体彼女の目に俺達の関係はどう映ってるんだ。
すると慌てたようにタカサゴが反応した。
「人聞きが悪いよ、ただヂヱゴさんがリリースしたから引き取っただけ」
「それでも! 前からずっと一緒になりたいと仰っていたじゃありませんの」
クスクスと笑いながらそう返すアリマサン。おそらく、これは単純にからかってるだけだな。仲のよろしいことで。
そう眺めていたら、逃さないぞとタカサゴから飛び火を投げられた。
「コアちゃんからも何か言ってやってよ」
「え?」
急に言われても困る。
しかしこの反応だけでも、アリマサンにとっては想定外だったようで。
「えっ!?! 貴女いま」
……あっ。そうか。タイヨーアライズを離れていた彼女は、まだ言葉を失っていた頃のキロ86しか知らないんだ。
驚いているアリマサンを落ち着かせるように、俺はゆっくりと、そしてはっきりと声を出した。
「今はまた、コアマだ。もうキロ86じゃない」
「……大変失礼しましたわ。ですが、それは……喜ばしいことですわね」
アリマサンは一瞬だけの取り乱した様子から、すぐにまた落ち着いた様子に戻った。
「まぁ、貴女の話もいずれは拝聴したいと存じ上げるところですが、今はその時ではありませんわね。閑話はお暇させていただくこととしまして……タカサゴ号、かのクィムガンは貴女達タンゴ14が?」
「ここには他には誰もいないでしょ?」
「念の為の確認ですわ。……まぁ、安心したとも言えますわね。あれほど大きなクィムガンの対応はたいそう骨の折れることですもの。わたくしだって正直のところ、
……ん? 『また』? この反応って、まさか。
このアリマサンの言い分には、タカサゴも薄々気がついた事があったみたいで、俺が目線を合わせると静かに頷いた。
「もしかしてさ、アリマさんたち、タンベラン諸島でやった?」
「タンベラン……えぇ、そちらでは先程のと
即答。
なるほど、あの新聞の指していたタイヨーアライズというのはこの集団のことだったらしい。確かに、アリマサンは名のしれた者だ。今でこそOGだけれども、彼女を見てタイヨーアライズだと誤認した可能性も十二分にありうるか。
しかし、今はそこの部分は問題ではない。このアリマサンの返答を見れば、彼女が重大な事実に気がついていなかったのは明らかだ。
それは、つまり。
「
そう、あのクィムガンが何度も蘇ることだ。
しかし、それをタカサゴが伝えても、アリマサンは何も答えなかった。その表情はただただ困惑しているようにも見える。
そしてしばらくして、一言。
「……どういうことですの?」
それだけがアリマサンのひねり出せた言葉だった。
「言葉通りだよ。あのクィムガンは、沈めただけじゃまた戻って来る。ただ単に
そう言って、タカサゴはアリマサンの理解を待った。
アリマサンは混乱している様子ではあったが、間も無くしてこちらの言わんとすることを理解したようだった。
「お待ちくださいまし。つまり貴女の仰らんとすることは……かのクィムガンは、今も息絶えてはいない、と」
「そういうこと。だから、さ。私達は知りたい。タンベラン諸島であったことも」
そして、タカサゴはアリマサンにお互いの持つ情報を交換しようと持ちかけたのであった。