俺達タンゴ14とアリマサンは、お互いに情報を欲していた。
アリマサンはアナンバス諸島と先ほどの例のクィムガンの情報を、タンゴ14はタンベラン諸島でのそのクィムガンの情報と近ごろのこの海域の近況の情報自体を。
まず最初にタカサゴが伝えたのは、今はそのクィムガンには発信機が取り付けられているということだった。幸いにしてアリマサンから申し出があったので、彼女が引き連れていた現地の子たちにその周波数を伝えてワッチを続けてもらうことに。
そしてそこには、俺達タンゴ14とアリマサンだけが残った。
「……さて、これであの子達はもうここから離れましたわ」
「そうだね」
「ご存知でしょう? わたくしの口の固さは」
そう言ってアリマサンはクスッと笑った。
「サンヂヱゴ号の妹さん、ですか……」
「コールサインからデータベースを引いて一致したこと、最初の目撃地点であるベトナムが彼女の船としての最期の地であること――この2点からそうだと断定した」
正直、信じられるものではなかったのだけどな、とリゼは続けて言った。だが、それを信じられないと感じる強度は、タカサゴやアリマサンの方がより強いだろう。さらにそこに危機感をも伴っているようで、アリマサンの顔は彼女が言葉を反芻するたびに引き攣ってゆく。
「……備えなければなりませんわね。タイヨーアライズも、わたくし達も」
アリマサンもタカサゴも――そしておそらくコアマも――前の
しかしそれを伝聞でのみ認知しているリゼやオリオンはどうか。確かにそれを脅威には感じ取っているものの、そうなっても忙しくなるだろうなという程度にしか見ていないようにもみえる。
だからだろうか……リゼは余りにも軽くそれを口に出してしまった。
「あぁ。まだ公表しているものではないものの、既にルドルフが本部で動き始めている」
もちろん、それを見逃すアリマサンではない。すぐに表情を変えると、リゼにこう問い返した。
「公表……? あの、つかぬことを伺ってもよろしくて? その情報はどなたがご存知なのかしら」
しかしリゼはアリマサンの変化には気づかない。それどころか、あまり答えるべきではないその質問に正直にも答えてしまった。
「本部ではルドルフの指名した数名。それ以外ではベトナムでの報告を上げたホテル155とインドネシアでの対応をしたタンゴ14の各員。これだけだ」
リゼの向こうで、タカサゴがあちゃーと頭を抱えている。
それも当然だろう。たしかにアリマサンはタイヨーアライズを設立したメンバーのひとりであり、長年中枢部にいたタイヨーアライズの要であった者だ。しかしながら現在は既にタイヨーアライズから独立して活動をしており、関係者ではないとも言えるのだ。
そんな部外者に、タイヨーアライズの内情、それも情報統制の範囲などという最重要機密情報をペラペラと話すものではない。
だがしかし、リゼはまだそれに気がついていなかった。
「だめではありませんの。わたくしなんかにお話しになっては。わたくしはもう、タイヨーアライズではありませんのよ」
アリマサンの叱咤がリゼに飛ぶ。するとようやくリゼも自分の失態に気がついたようで、もう遅いのに両手で口を抑える仕草を取った。
アリマサンはこう続けた。
「わたくしはお教えした筈ですわ。仮に外部の方の前で機密情報を口に出してしまった時は、それが取るに足らない情報であるかのように振る舞いなさいと。にも関わらずそれが機密情報であることまで話してしまうというのは、あまりにも軽率かつ迂闊な行いではなくって?」
自分から話を聞き出そうとしているのにこの仕打ちは少々理不尽なようにも思えるが、そもそもド正論であることに変わりはないためリゼは何も言い返すことができなかった。
……とはいえ、このやりとりも何だかんだタイヨーアライズのことを今でも考えてくれていることの裏返しのような気もする。どうでもいいと思っていたのだとしたら、怒りもせずに黙って済ませているはずだ。だが彼女は違う。わざわざ指摘したのだ。そこには意図がある。
「まぁ、いいですわ」
「あ、いいんだ……」
「一応はわたくしですから。ですが本当に、今後は気をつけるのですのよ?」
そう言いながらアリマサンは肩を落としているリゼのそばに寄って、肩をポンポンと叩いた。
リゼは小さく「はい」とだけ答えて、その場で少しだけふらりとよろついた。するとアリマサンの反対側からオリオンが咄嗟に入って彼女を支える。あの様子じゃだいぶ堪えてるな……。
そしてアリマサンは少しだけオリオンと言葉を交わすと、今度はタカサゴの前へと移動した。
「それに、わたくしだってあまり褒められることのない行いをしてしまったのも事実ですわ。そちらを棚に上げて頭ごなしにご意見を申し上げ続けるのもまたよろしくはありませんのよ」
明らかに、異常な様子でそう告げたアリマサン。リゼの方を見れば、彼女の目線もしっかりとそんなアリマサンを捉えていた。
「アリマサンが? 珍しいじゃん」
「それはそちらのサンライズ号とお互い様ですわ。それではお話ししましょう。タンベラン諸島でのことを」
そう言うと、一呼吸置いてからアリマサンは語りだした。
彼女達は拠点であるスラバヤを離れ、カリマンタン島のポンティアナを経てバタムへと向かっていた。
しばらく進んだときのこと。彼女達の進行方向に、燃えている海があった。その手前には、インドネシア海軍の軍艦が数隻。しかし聳え立つ炎の前に近づくことすらできていない様子だった。
「……で、海軍の要請で?」
そうタカサゴが聞くと、アリマサンは言葉を詰まらせた。そして少しして、ゆっくりと首を横に振った
なるほど、問題があったのはそこか。
「いえ。そちらで……わたくし共は、何も言うことなく
そしてアリマサンは、小さく、しかしはっきりとそう言ったのだった。