タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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タイムベル

 通常、クィムガンを対応する際に外側から攻撃を加えてゆく。そうするのが最も手っ取り早く対処できるし、危険も少ないからだ。ほとんどのクィムガンの場合、水底へと沈むことを嫌う傾向があり――もともと船なのだから当たり前だ――、最期の瞬間まで水の上に留まろうとするし、なんなら海面からすら浮き上がっているクィムガンだって決して少なくはないから、普通はこれでなんとかなるのだ。

 だが今回は違う。このクィムガンは水底へ逃げることを躊躇しない。外側の構造物をいくら叩いたところで、その損傷がある程度発生した時点で沈んで逃げられてしまう。これを対策するには、船という構造に手をつけずにクィムガンの本質的な部分へとダメージを与えていくか、あるいはそれをこの船体の外へと持ち出して船体とのつながりを失わせて船体自体を無力化してしまう必要がある。俺達はそういった結論に達していた。

 

 では、この巨大な船形のクィムガンにおいて、その心臓部とも言えるような部位とはどこか? それは()()だ。

 そもそも、船の号鐘というのはその船の魂が宿るものでもある。それはその船がクィムガンとなってからも変わることはない。それはもっとも単純な船のクィムガンが号鐘そのものを模していることからもわかるだろう。そしてそこから発展して鐘の形をしなくなった船のクィムガンでも、その内部には鐘の形をした部位が必ず存在することがわかっている。その号鐘こそがクィムガンの最も重要なところとして残り続けているものであり、ウィークポイントなのだ。

 

 その号鐘を探し出さんとクィムガンへと切り込んだ俺達を待ち受けていたのは、明らかに異質な空気だった。

 確かにこのクィムガンの外見は船のようだった。しかしいざ扉を開けて中に飛び込んでみれば、それが外からの見かけだけであることは明らかだった。

 そのクィムガンの内部は船としてよくあるような塗装された真っ直ぐで硬い金属ではなく、まるで焼けた筋肉のように節くれだって脈うっている。そればかりか、ところどころ臓物のように太さが均一ではない、配管なのかケーブルなのかすらもわからない管状のものがブラブラとぶら下がっていて、正直見るだけで嫌悪感を抱くほどに気持ちが悪い。

 そんな不愉快な原油の匂いが鼻をくすぐるクィムガンの中を、ズカズカと恐れもせずに進んでゆくのはタカサゴだ。彼女はこんな見通しの利かず、足元すら覚束ないクィムガンの中を、どこに向かえばいいのかわかると言わんばかりに迷いもなく進んでいた。

 

「待てよタカサゴ。もうちょっと気をつけて進んだほうがいいんじゃないか」

「何言ってるのコアちゃん。今は急いだほうがいい」

「急ぐにしたって、後続を置いてくな。今は散り散りになるのは――」

 

 そう言ったところで、何か嫌な予感がして俺は後ろに倒れ込むように上体を退けた。

 

 次の瞬間、俺のいた虚空をぎざぎざの棘が貫いた。それはどこかに繋ぐための配管かケーブルのはずなのに、その細長い形の片端はどこにも繋がることなく、ただ突き刺さることにだけ特化していた。

 

「大丈夫? コアマさん」

「――見えただろ、ここはクィムガンの中なんだ。何が起きても不思議じゃない」

 

 すぐ後ろについてきていたオリオンに受け止められながら、俺はそうタカサゴに向かって叫んだ。その傍らでリゼが前に出て、俺とタカサゴとの間にそびえる棘を切り落とした。不快な臭いを伴うぎらつく油が切断面から滲み出して、苔のような金属の筋肉が脈打つ床へと滴り落ちた。

 その向こうでそれを気にもせずに進むタカサゴを少し早足で追いかけながら、後ろのリゼが叫ぶ。

 

「コアマ号の意見に同意する。タカサゴ号、貴女やコアマ号は確かにこういった経験があるのかもしれない。だがリオはどうだ? タンゴ14として、今までにそのような経験はあったのか?」

「ないわね」

 

 オリオンは即答した。普通にズカズカと入っていくものだからてっきり今までも何度かこういう経験があったものだと思っていたのだが、どうもそうでは無かったらしい。

 ではなぜ、タカサゴはここまで自信満々なのだろうか。

 

「リオはこう言っているぞ?」

 

 俺の隣をすり抜けて、タカサゴに詰めようとかかるリゼ。どうやら彼女は俺以上にタカサゴの考えを訝しんでいるようだった。

 そんなリゼの質問に、タカサゴはあまりにも軽く答えた。

 

「信じてるもん、リオちゃんの事も」

「信じてるって……クィムガンの中だぞ?」

 

 呆れたようにそう返すリゼ。しかしそのリゼの問いに対する答えは、想像の斜め上を行くものだった。

 

「こんなのベトコンのゲリラよりよっぽどマシだからね」

「比べるもんじゃねぇだろ!」

 

 思わず声が出た。これだけ騒がしくしてても追加で畳み掛けてこないのならば確かにベトコンよりはマシなんだろうが、史上で最も厄介な連中の1つと比べること自体がナンセンスなのではないだろうか。そりゃあクィムガンだってあれ程のものはなかなかいないだろ……。自分がその時に南ベトナムにいたからといって基準を引き上げないでほしい。

 ……というか、まさか、さ。

 

「なぁリゼ。タンゴ14ってこれが続いてて過去に構成員の離脱が相次ぐとか、そういった問題とかが起きていたりはしてないよな?」

「そういった報告は記憶にないな」

 

 まさかとは思っていたが、このスピードで進んでも過去に上手く行ってしまっていたらしい。そりゃあタカサゴも見直す機会すらなくその速度でつっこんでしまうわけだ。

 

「でしょ? 上手くいくんだよ、これで」

 

 待ってましたと言わんばかりに、得意気にこう話すタカサゴ。……だけどさぁ。

 

「分かったさ、タンゴ14の事は。だが、俺とリゼがこの速さに慣れてない。申し訳ないけど」

「最初からそう言えばいいのに。さ、鐘を見つけに行こ」

 

 するとようやく、渋々といった感じでタカサゴは歩むスピードを少しだけ緩めた。これで多少は余裕ができた。

 しかし幸運にもここまで俺達がこのクィムガンへとほぼ一方的に攻撃を与えるだけで済ませられていたというのもあって、この時の俺とリゼの頭からは、ものすごく大切な事が抜け落ちてしまっていたんだ。

 

 ――それはタカサゴが()()()()()()()()()()()()、という点だった。

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