タイヨーアライズ:幻解の女王   作:だぶるすたぁ

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フィードバック

「終わりましたわね」

 

 クィムガンのいたところを離れ、少し遠くからこっちを監視していたアリマサンと合流すると、彼女はタカサゴにそう聞いてきた。

 

「終わったよ。ちょっと手こずっちゃったところもあるけど。でも、クィムガンの本体たる鐘はここにある。これが引き抜かれて外に持ち出されたからには、あの巨大な船体は維持できないもん」

 

 そう言ってタカサゴは包帯でぐるぐる巻きにした鐘をアリマサンに見せた。

 

「数分ほど、お借りさせていただいても?」

「もちろん」

 

 アリマサンはそれを受け取ると、彼女の後ろにいる子たちに向けてそれを掲げて何かを伝えている。何名かはすごく食いついていて逆にアリマサンに質問をしているようだったが、彼女はそれに丁寧に答えていた。

 

「今じゃ珍しいもんね、鐘を抜いての自壊って。私でもなぁんにもわからなくて、手探りでいろいろやってた頃以来じゃないかな」

「そもそも近年では船型まで成長する前、怪物型の段階で早期に対処できている。ここ数年では発生すら半年に1回あるかないかくらいになっているからな」

 

 そんな珍しいケースだからこそ、多少離れたところからとはいえクィムガンの崩壊を実際に見て、そして鐘が目の前にあるという経験はアリマサンの教え子たちにとって大きな糧となるだろう。

 しばらくしてからアリマサンは戻ってきて、タカサゴに鐘を返した。

 

「アリマさん達はこれからどうするの?」

 

 タカサゴは聞く。

 

「わたくし共はスラバヤに戻ってフィードバック、ですわね。今回、外側からあのクィムガンの対応をしておりましたけれども、見えてきた課題も少ないと言うのは難しいものでしたから。そちらは?」

「一旦ジャカルタに戻ってリオちゃんの治療かな……」

 

 そう誘導されると、アリマサンは丸焦げになったオリオンが横たえられているゴムボートの方へと視線を移して、ため息を吐いた。

 

「相も変わらず、治療を前提でご無茶をなさりますのね」

「ちゃんと治すよ?」

「そちらの腕は疑ってはおりませんわ。で、す、け、れ、ど、も」

 

 アリマサンはボートの横に進み、オリオンへと顔を近づけた。

 

「このような重度の火傷を伴う負傷は、タンゴ14でなければ治療は数か月コースの重症でしょう」

「タンゴ14だよ?」

「えぇ、今はそうでしょうし、()()()()()()それでもお目こぼしはできましたわ。しかしタカサゴ、貴女ももう間もなく引退を考えているころでしょう? でしたら、悪い負傷癖が彼女に残ってしまうのではなくって?」

 

 アリマサンの指摘はこうだ。他のチームから最近加入した俺とリゼにはそこまで大きな負傷はないが、タンゴ14の生え抜きであるオリオンは見た通りの重度の負傷だ。ここに違いがある原因が、タンゴ14にはタカサゴの異常な治療能力があり、この治療があることが前提となって、回避行動や味方への誤爆の防止を怠っているきらいがあるからではないか、というものだ。

 

「……確かに、そうだな」

「ライズちゃん!?」

「この私だって、タカサゴ号がいるのならば多少は問題ないだろうと広範囲に無差別に影響を与える技を選択したのは事実だ。リオの選択にもその安心感が無意識下で影響を与えている可能性は否定できるものではない」

 

 しかしその言葉とは裏腹に、リゼはタカサゴの隣に移動してアリマサンを睨みつけた。

 

「だが、それ以上にリオは経験を積んでいない。タカサゴ号やコアマ号は勿論、私よりもずっとだ。全ての原因がタカサゴ号にあるわけではない。それ以上に、あのクィムガンが厄介だったのも大きい」

 

 いや、あのクィムガンが厄介だったのは確かに事実だったけどさ、最終的にオリオンを丸焦げにしたのはリゼ、お前じゃなかったか……?

 そう思っていると、タカサゴが目を細めながらボソリとこぼした。

 

「この怪我ほとんどライズちゃんの誤爆だけどね……」

 

 アリマサンは頭を抱えた。俺はあんまり言わない方がいいと思ったのだが、どうもタカサゴはそうではなかったようだ。

 

「あの爆発、貴女でしたのね。道理で既視感があった筈ですわ。でしたらこちらの子の負傷も納得できますわね……」

 

 そういえばリゼもヴィオもルドルフも、タイヨーアライズに加入した頃はアリマサンの下にいたんだっけな。そりゃアリマサンはリゼの技を知っているよな……。

 

「あ、見えてたんだ」

「あれだけ派手に天井を吹き飛ばされていらっしゃったのに、気づかれない方はいらっしゃらないのではありませんの? 爆発の衝撃で立った波までこちらへと届いていましたのよ? むしろあの爆発がサンライズのものであったのでしたら、貴女とコアマ号はよくご無事で戻ってこられたな、と感心するほどですわ」

「壁の裏に隠れてたからね、私は」

 

 おい。リゼ、お前いったいどういう技を使ってたんだ。

 疑いの意味を込めて目を細めリゼの方を向くと、彼女はばつが悪そうにヒョイッと明後日の方向を向いた。

 もう一度だけ、ため息が聞こえる。

 

「サンライズ、貴女という子は」

「仕方がなかったんだ。両手両足を拘束されてしまった以上、他に使いえる手段をあの場で思いつくことは難しかった」

「ですけれども、わたくしは再三お伝えした筈ですわ。貴女の技は危ないものばかりですから、開けた海上ではともかく閉ざされた屋内で使うのはおやめなさい、と」

 

 リゼににじり寄りながら、少しずつヒートアップしてゆくアリマサンの弁。その様子を見かねたのか、タカサゴがふたりの間に割って入った。

 

「アリマさん、そこまで。これ以上はタンゴ14の問題。色々言いたいことはわかるよ。だけど、いくらライズちゃんの恩師だとしても、もう土足で踏み入っていい段階じゃない」

「しかしですね」

「しかしも何もないよ。ライズちゃんにはそうする必要があったんだ。第一、コアちゃんがいるのにこれだけの時間がかかったんだよ? このクィムガンがどれだけ厄介だったかっていうのはわかるよね?」

 

 そう伝えられてようやくアリマサンも冷静になったのか引き下がっていった。そして10秒弱ほど頬に手を当てて考え込んで答えを出したようだった。

 

「……タカサゴ号」

「なに?」

「ジャカルタにはどれほどいらっしゃるご予定で? スラバヤに戻ったあと、あの子たちのリフレッシュを考えておりますの。そのタイミングでこちらからお伺いしたいと」

「わかった。今月いっぱいなら待つよ。でもその後はクアラに戻るからね?」

「承知しましたわ」

 

 そしてアリマサン達と別れ、彼女達は東へと戻っていった。俺達もオリオンのゴムボートを曳いて、ジャカルタへと向かいはじめたのだった。

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