精神的な鍛練の意味でも休日にダンジョンへ単独探索に向かうようになった
三回目から後でもつけられているのか、と勘ぐった。
魔法に興味がありそうで何も聞いてこない。全くというわけではないが黙って見学している事が多い。
アイズは道中ではモンスターに単身突っ込むことが多く、落とす魔石はリューに進呈してくる。戦えれば満足らしくドロップ品には興味がないそうだ。
「いけませんよ、【剣姫】。魔石を残しておくと強化種になって他の冒険者の迷惑になります」
戦闘以外は不器用である事もこの頃気付いた。
教育係が居ないとサボる傾向にあるようで、気が付けばリューがしっかりとアイズの行動に口を出すようになった。
きちんと説明すれば次回から装備を整えて嫌々ながらもドロップを回収する。ちゃんと出来たら魔法を披露するようになってきた。
(……対価を抜きにすれば魔法とはやはり使い手次第か……)
それとリューの手荷物の多さに毎回驚き、自分の荷物をどう改善したらいいのか聞いてくるようになった。
便な道具だから出来る事であり、アイズには探索に必要な物をいくつか伝授した。
風呂一式を単独で持ち込む冒険者はおそらく居ない。事前に部品だけでも十八階層に持ち込むような事でもない限り。
【ロキ・ファミリア】は大抵大人数でダンジョンアタックをするので持ち込む荷物の量も他の【ファミリア】より多い。
「
「一応、えるふさんと一緒に居るって言った」
「……私が毎回【剣姫】と出会うとは限らないのでは?」
なれ合うつもりが無かったので名乗ってはいないがいつもは【疾風】という『二つ名』で呼ばれる。
かなり積極的に近寄ってくるのでなつかれたかな、と。
気晴らしも兼ねているので大人しければ問題はないが、見た目はリューより年下の少女なので心配にはなる。
気が付けば周りに配慮して盥を用意したり、食事をふるまったり、寝ずの番までするようになってしまった。
湯浴みの後、素っ裸のまま両手を腰に当てる姿を見た時は驚いた。
「……
「……ロキ。わかいうちにしかできないことって……」
(……確かにそうかもしれませんが……。子供に何を吹き込んでいるのやら)
裸の状態で大きな声を出したり、思い切りおしっこをするとか聞いた時はリューの額に青筋がいくつも浮かんだ。
目の前に主神ロキが居ればぶん殴っていたかもしれない。
アイズの年齢からすれば元気な子供のする事として許されるかもしれない。しかし、
顔が赤くなるのは怒りか恥じらいかは言及しない。
もし、性格的に大らかであれば許容し、自分も対抗意識を燃やしていただろうか、と思いを馳せてみた。はしたない事ではあるがアイズは見た目通りの子供だ。
裸になって豪快に笑い、私の方がよく飛ぶぞ、と自慢したり――という所で羞恥心に耐えられなくなった。
今の自分はアイズが目の前でおしっこをしても無表情で後始末するのが正しい姿だ、と無理矢理納得する。
リューもまだ十代半ばの少女である。生真面目と言われても憧れが無いわけではない。そして、戦闘狂のようなアイズが子供らしく振舞う事自体を否定しない。そうするべきであるとも思っている。
アイズとの邂逅から更に時が過ぎ、リューは【アストレア・ファミリア】総出でダンジョンに潜ることになった。
魔法に興味を抱いたリヴェリア・リヨス・アールヴの動向はついぞ聞かないが、アイズの様子からも進展は無かったのではないかと予想している。――あるいはすでに接触を果たしているか。
そんなことを思い出したリューはすぐに意識を現実に向ける。
今回の目的は『
目標階層は二五階層。
用意を整えた団員達は即座に急行する。
「……それにしても潜伏場所も見つけられないくらいオラリオが広いっても考え物だな」
「そうですねー。多くの神々が居るにも関わらず……」
善神も居れば悪神も居る。それら全てをオラリオは昔から許容してきた。
正義の使徒である【アストレア・ファミリア】は今を生きる女性達だ。昔の事より未来に目を向けている。
色々と賛否はあるかもしれないが団長の信念は至ってシンプルだった。
正義と言っておけばなんとかなるなる。
無茶苦茶な言い分だが団員達はそれもまた良しとした。
そんな才気ある溢れる若者達だが――敵の罠にはめられて生き埋めにされ、辛うじて生き残ったものの更なる災厄に見舞われる事となった。
敵は捨て身で襲ってきて、今はどうなったかは定かではない。分かるのはダンジョンが崩落してすぐに現場から離れなければ危ないということ。
幸い、大怪我した者はおらず、復帰した者から退避していく。
まさか階層ごと崩落させるほどの爆薬を使用するとは思わなかった。
「……こういう時に罠を探知する魔法が欲しかったわね」
「使い道が無さそうだからって誰も取らなかったのが仇になったな」
豊富な魔法には使用が限定的な物があり、どうしようか悩むとマーレ・ベロ・フィオーレから説明を受けたのに、と。
探知系はそれぞれ取得しているが、それってどういう場面で使うんだろう、と分からなくて諦めたものがいくつかあった。
「みんな無事? 無事なら一旦退避」
「了解」
【ステイタス】のお陰もあるのか、大きな瓦礫に潰されたはずだが意外と軽傷だったことに主神アストレアに深く感謝した。
咄嗟の事で魔法による防御は間に合わず、敵の策の見事さに思わず苦笑が漏れる。
「三階層分も落とされたみたい。……私達、よく生きてたわ」
「全くね。あちこちに爆弾を仕掛けてご苦労なことだ」
問題は他にも敵がいるのか、だ。
それぞれ魔法的な守護を施し、手荷物の確認を済ませる。この際、敵の亡骸は確認しない。
崩落と言っても階層の全てではなく、一定範囲の局所的なものだ。
「自爆要員かと思ったら仕込みとはね。……やってくれるわ【ルドラ・ファミリア】」
「こちらの警戒の隙をついたわけだけど、丈夫さまでは想定してなかったみたい。というか無事だった事に自分でもびっくりだけど」
「……うん」
喋りつつ互いに声を掛け合い、安全な場所に移動していく。
下に降りる事はもはや出来ず、大穴の状態の壁面を昇る事になる。そして、それぞれの感想ではよくここまでぶっ壊した、と感心していた。
毎度のことながら悪党の考える事は理解したくない、と愚痴りつつ団長アリーゼ・ローヴェルは帰還を命令する。
敵を思い詰めたいのはやまやまだが被害が甚大なので速やかな撤退が今は正しいと思って即座に判断を下した。
十一人の女性達は迅速に行動を開始。安全確保の為に上層階を目指す。
そんな彼女達の動きを二五階層の奥から見ていた人物が居た。
帰り支度の為に立ち寄ったところで爆発音に見舞われ、通路の奥で様子を見ていたら階層が大きく崩落する様子を目撃してしまった。
急遽、来た道を引き換えし異常が無いか確認してから舞い戻ったところで【アストレア・ファミリア】の姿が視界に入った。
遠目だったので【ファミリア】の特定には至っていないが何らかの事情を知る者達であると予想する。
(……どうやらこちら側が見つかったわけではないようだ)
それと上層を目指す彼女達が宙に浮いている。
キーノの記憶では単独飛行する技術を持つのは一人だけ。大型船を宙に浮かせる技術が外国にある事も承知している。ただ、冒険者界隈で広まっている事実は
であれば位階魔法か特殊な
キーノは立場上【アストレア・ファミリア】が位階魔法を取得した情報を持っている。そして、それを咎める気は無い。
問題なのは自分の後方で建設中の施設に被害があるかどうかだけ。
(しばらく静かになったと思っていたのに。……っと、また爆発……)
思索に耽ろうとした所に爆発があった。それも視線の先で。
上に登ろとしていた冒険者に向けての攻撃か、それとも彼女たち自身が引き起こしたものか。
キーノは確認の為に現場に近づく事にした。
普段は【ミディール・ファミリア】の団員として活動しているので見られたところで問題はない。
第一級冒険者であるキーノは活動は地味だがギルドでは結構な有名人として知られている。もちろん、これは第一級冒険者だからであり、キーノだけ特別扱いされているわけではない。
最初の二つ名は【
いくつかの変遷を経て現在は【
「……全く、ポンポンポンポン破裂させて~!」
煤だらけとなった赤い髪の少女アリーゼは後方からついてくる団員達の様子を見ながら避難場所を求めて進む。
炎に属した攻撃に対して耐性があるとはいえ無敵ではない。
敵影は無いが置き土産の多さに辟易する。
(……手伝ってやるか。仕事も終わったしな)
「〈
敵対していないが接点が無かったキーノは軽く嘆息し、前方に向かって魔法を唱える。
まず大雑把な鉱物資源を探知し、変わった物が無いか確認する。最後は罠と思われる存在を見つけ易くする魔法で解除までは出来ない。
キーノの視界には様々な情報が浮かんで、それらを手早く取捨選択していく。
二五階層はそれなりに鉱物資源があるので全体が反応してしまった。次の残留物については【アストレア・ファミリア】の行き先に転々とし、それらは罠としてしっかり反応した。
確認出来るだけで三〇個ほど。それが今も一つずつ爆発している。
もし、彼女達の中に『
(敵影が居ないとも限らなかったな)
「〈
特定の探知魔法を使うとオーラとして知覚する事が出来る。
それによって現在、脅威なのは無数の爆弾だけと判明した。
無謀な行動に出ている少女達に対し、キーノは攻撃魔法を用意する。狙うのはもちろん、爆弾が埋め込まれた箇所だ。
「〈
自派閥の団員が居ないので少しだけ能力を底上げしてみた。
視界に収めた罠に向かって第一位階の魔法の威力を第六位階相当に上昇させ、尚且つ飛距離を伸ばした。
彼女は純然たる
そもそもレベル
今は盟約、または約定によって神のように全知零能の
(……しまった。撃ち過ぎだ)
キーノが撃ち出した『
普段は能力を抑えていたので最大で三〇本くらいかな、と漠然と思っていたので単純な計算ミスだ。
結果――アリーゼの上方を過剰な魔法攻撃が襲い掛かり、瓦礫が大量に降り注ぐ事になってしまった。
キーノにしては――本当に――うっかり過剰攻撃して【アストレア・ファミリア】を窮地に追いやってしまった。助けるつもりが仇になるとは、と自己反省をしつつ彼女達の様子を窺う。
壁面にへばりつくように昇っていたアリーゼ達は自己防衛の魔法の効果のお陰か、全員無事だった。
気を取り直して上層に爆弾などの罠が無いか再確認し、反応が無い事を確認した。
二五階層は周りを巡るように上り下りするのだが、階層の爆破という神をも恐れぬ所業により、通路の殆どが使用不能となっていた。それでもキーノにとっては何の障害にもならない。
何故なら、彼女は――
空を飛んで移動出来るからだ。
もちろん、誰にでも見せる能力ではなく【アストレア・ファミリア】しか居ないと分かった上で行使した。
土埃で薄汚れていたものの大きな怪我は見当たらない。
何となく手助けしたが、まずは謝罪だな、と決意を固める。
「……少し高威力の魔法を放ってしまって申し訳ない」
「あ、ああ、今の奴ね。危なくこんがり焼かれて食卓に並ぶところだったわ」
宙に浮かぶ仮面をつけた怪しい存在にアリーゼは自信満々に言い放った。
他の団員は訝しげだったが、会話の邪魔はしてこなかった。
一先ず手近な
落ち着いたところで階層の崩落や爆弾について尋ね、情報のやり取りを
自身の知らない所で物騒な戦いが
(……階層崩落の件は彼女達の仕事のようだ。……であれば地上まで送ってやった方が良いな)
秘密基地に向かう時であれば関わらないようにするが用件が済んだ今は助力する事に何ら問題はない。
元より【ミディール・ファミリア】は探索系だ。下位の冒険者の数が少し多い為に鍛練漬けの毎日を送っているけれど。
疲労困憊の様子でもあるので護衛を掛けて送ろうとキーノが提案すると――アリーゼはともかく――【アストレア・ファミリア】の面々は素直に快諾した。
「……ところでどうして仮面を被っているの?」
「……どうして」
(……癖の様なものかな。何となく付ける事が当たり前になっていた)
深い意味は多分無い、と思うと自信なさげにキーノは答えた。
弱々しい声に聞こえたのでアリーゼは聞いてはいけない事だったかも、と慌てた。
地上や拠点では割合素顔を晒している。仕事中やダンジョン探索の時は確かに仮面を被るようになった。
それは何故か。
もう一つの人格というわけではない。であれば何なのか、何者なのか。
それをアリーゼ達に説明する義務はないので覚えていないと言うに留める。――正しくは説明してはいけない事柄に指定されている為、聞かれてもキーノには何も言えないし、答えられない。
そういう風に制限されているからだ。
誰に、と言われればイビルアイでありキーノであるとしか言えない。
少しだけ感傷に浸った後、キーノは仮面を取って素顔を見せた。別に隠すほど大層な顔はしていない。精々、声が少し籠るくらいだ。
(この人と団長の声、似てる、気がする)
(……ああ。落ち着いた雰囲気の時の声色が特にな)
(……性格が真反対の様な……)
(これでフフーンとかバチコーンとか言ったら殴りそう)
外野が色々と話し合っているようだが、キーノは気にしなかった。見た目からも小柄な少女然とした風体だ。何らかのやっかみがあってもいつもの事と流す。
護衛を引き受けたからにはキーノとて気合を入れ直す。これでも仕事に関しては真面目にこなす。
キーノは聞き慣れない
成人女性並みに出来なくはないが、
【アストレア・ファミリア】の面々が僅かばかりの休憩を取った後、キーノと共に地上を目指す事になった。
この辺りに現れるモンスターは全員難なく討伐出来る。
気を付けるべきは『
(……ん。下方に嫌な気配)
(……あっ、下から物凄いヤバそうな気配が……)
キーノとアリーゼはほぼ同時に察知した。
長年の勘とアリーゼの根拠のない勘ではあるが、双方ともに確度の高いものとなっている。ゆえに嫌な気配だと思ったら即実行に移す。
まず【アストレア・ファミリア】が大穴上になった縦長の大空洞の
キーノは彼女達を護衛する形で前衛を務める。――この時、防御魔法をかけようと思ったがアリーゼ達は独自に魔法をかけあっていた。
使われた位階が低いのは情報として知っていたのでキーノは懐に忍ばせた
(……現地の冒険者の活動が見られる良い機会だが……、無粋な真似をしようとしていると思われないだろうか)
キーノとて躊躇いを覚えて逡巡する。
異邦人の前に冒険者であり指導者だ。かつての
千年近い時を歩むと――
それを踏まえて彼女が思い出せないのは単純にこの
大切な思い出は一つの人生で事足りる。それゆえに
(……だからこそ文化は
「何か来るわ!」
キーノの思考はアリーゼの怒号にかき消される。それと同時期に下方から這い上がる猛烈な殺気が噴き出すように思いかかってきた。
それは【アストレア・ファミリア】を守る形で大穴を覗き込んでいたキーノに斬撃を見舞う。
判断力が落ちていた為か、用意に攻撃を受けた事に我に返るも時すでに遅し。
けれどもキーノは普段から警戒する時に自身に掛けていた魔法があり、それにより致命的なダメージは避けられた。
下位の冒険者を鍛える上で常に緊張感をもって戦えとキーノ自身が言い続けて事だ。油断という一点こそマイナスだが取り戻せる範囲だ。
彼女達の前に現れたのは大型モンスター。
殺意の権化のようなモンスターが壁面を自在に動き回る。背に翼は無く、凶悪な爪が地面に食い込んでいた。
「……初めて見るモンスターだな」
痛みに頓着しないキーノは敵性モンスターを見て、のんびりとした感想を漏らした。
ダンジョンの最下層まで降りたわけではないし、建設計画の方が早くから立ち上がった為もあり、研究が疎かになっていた。
それらを踏まえてもキーノの人生において未知のモンスターである事は確かだ。
「思いっきり引っかかれたと思ったけれど、大丈夫?」
「心配ない。それよりお前達は後方に下がっていろ。他のモンスターを警戒しておけ」
手早く指示を出しつつ竜の骨の様なモンスターから視線を外さない。
まずは試しに、と誘導性のある
必中にしてどの程度の頑強さがあるのか知る為に。けれども、結果はキーノの予想を覆した。
魔法は迎撃される事無くモンスターに着弾。次の瞬間、外殻部分が怪しく光り、キーノに向かって
自身の魔法を受ける形になったが彼女は平然としていた。
(……反射特性か!? また厄介な能力を……)
魔法を撃ち返されてしまったが、冷静に分析しつつ思案に暮れる。
第三者から見れば無防備にダメージを受けたようにしか見えない。必中なのでどの道、避けようがなかった。
彼女の知識において魔法を反射するものは第七位階にある。――それと『
ゆえに敵は
勝てる勝てない、となると――キーノ一人であれば負けはしない――アリーゼ達に顔を向けつつ結論をすぐに出すのを控えた。
【アストレア・ファミリア】を守るならばすぐに逃走した方が良いと思える。別に無理して戦う必要はない。――逃げられれば、問題は無い。
「推定難度、レベル
「そうね。魔法を反射するようだし、速度もかなり。私も逃走を選択したいところだけど……、逃がしてくれるかどうか」
仲間達の様子を見ながらアリーゼは苦笑する。
自分達の反応速度を超える様な斬撃に魔法反射。もはや戦闘するのは危険だと勘が警鐘を鳴らしている。
無理に戦えば少なくない犠牲が出る。それと戦いましょう、と血気盛んな意見が出ない。みんな現れたモンスターに少なからず恐怖を覚えているようだ。もちろん、アリーゼも初めて会敵する相手に及び腰だ。
体勢を低くし、飛び掛かるモンスター。
攻撃は腕による引っ掻きと長い尾による打撃。それと噛みつき。
火を吹くような能力は無いようだが、驚異的な敏捷から繰り出される物理攻撃は下手な小細工より厄介だ。
キーノが矢面になって攻撃を受けているが、アリーゼ達から見てもそれは異常、または異様な光景だった。
(首を切られても傷一つ無いなんて)
(無敵……というわけではないのでしょうけれど)
防衛に回っているキーノも多少なりとも攻撃を仕掛けているが硬い外皮というか外殻に阻まれ、満足にダメージを与えられているとは思えなかった。
それと
見た目はボロボロだがれっきとした
斬撃を受けても切り裂かれていないところから、相当頑丈なのかと思ってしまう。
(……少し攻撃を食らい過ぎたな。武装が貧弱だから攻勢に出られないとか、全く……。実に不甲斐ない)
そう思っていると噛みつかれた。
キーノとて想定していたが強靭な力で掴まれるとすぐには脱出できない。
その間もゴリゴリとかみ砕こうとする音と
アリーゼ達はキーノを救おうと物理攻撃を仕掛けるも外殻が硬すぎて困惑する。
ドワーフのアスタ・ノックスとアマゾネスのイスカ・ブラが懸命に攻撃を加えても効果が薄いようだった。
(なにこいつ!?)
(素手じゃあダメだ)
二人が愕然としているとモンスターの口腔内で激しい光りが
骨の様なモンスターの外殻への魔法攻撃は反射されたが内部は通常通り効果があると判明。しかし、それを狙えばただでは済まないし、キーノ以外は取るべき方法ではない。
体内を炎と雷に焼かれた為か、たまらずキーノを離した。
「反射は外だけ。だが、中を狙うのは難しいな。自殺行為だ」
「了解」
複数人でかかり、モンスターの攻撃を受け持って、効くかどうかわからない物理攻撃しか方法が無さそうだった。
キーノも含めてもはや逃走は無駄と判断した。
救いがあるとすればモンスターは一体のみ。
敏捷こそ高いがキーノのお陰でなんとか戦えていた。
「物理特化の魔法を使え。射撃性能のある魔法はやめておけ」
「なら、いつも通りね! 【
「……リオンはマリューと一緒に回復と補助の魔法を」
「は、はい」
「攻撃魔法は無理でも爆弾はどうかな?」
「……おそらく有効の筈だ。やってみろ」
アリーゼが短文詠唱を開始し、
判断が早い者の意見は好感が持てるとライラはほくそ笑む。
これまで通り前衛をキーノが受け持ち、【アストレア・ファミリア】は適度な距離を保って相対する。
速攻魔法に分類されている位階魔法とて使い慣れていなければ役立たずと同義。それぞれの判断にキーノは口を挟まない。
戦闘を再開したが前衛を務めるキーノは本来
(……容赦なく
モンスターの攻撃をキーノが受け持っている間に少女達が関節や尻尾を攻撃する。
身体の大きなモンスターにいきなり突貫するのは自殺行為に等しいがやるしかないと覚悟を決める。
もし、キーノが居なければ少なくない犠牲――いや、死人を出していた可能性が高いことをアリーゼやライラ達は感じた。
特に最初の魔法の反射は彼女達も驚愕したものだ。最初の一手を読み間違えていたらと思うと身体が震えてくる。
(……何故、最初に魔法で攻撃したのかしら? 反射を見越して? とりあえず一発当てて強さを確認する?)
もし、自分なら最初の一手は何かしら、と戦いながらアリーゼは思索する。
未知の大型モンスター。まず相手の攻撃を受けてみる、を選ぶだろうか。
おそらく、否。情報があり、戦い慣れたモンスターであれば対処がし易いのは当たり前だ。であれば何も情報が無い未知の場合は――キーノが取ったように軽い攻撃から様子見を始めるのが正しい、と思える。
無難にして基本。画一的なダメージを与える魔法としては取得しておいて損はない。
先ほどのように試し撃ちとして使うには打って付けだ。
(相手の出方を見るのも戦略よね)
「……それはさておき。リオン! 挟撃、入れる?」
「出来ます!」
「ならよし。みんな行くわよ!」
団長の号令に団員は呼応する。
大振りな攻撃に対してアスタが大きな岩を投げつけて対応する。
現状、モンスターの敏捷に追いつけるのはキーノのみ。殆どの攻撃を受け持ち、攻撃をアリーゼ達に任せた形だ。
もし、ここに【
盤上が整った。
と、ほくそ笑むだろう。
格上の相手に対し、少ないダメージしか与えられなくとも確実性があるならば蓄積していけばいい。
彼女達は一つの【ファミリア】だけで深層に何度も挑んでいる
末っ子のリュー・リオンが立ち上がりに難があったものの戦闘には付いてきている。
ただし、油断は命取りだ。決して勝った気になってはいけない。そう考えるのは戦闘を見守るキーノ。
ライラの爆弾の直撃を受けた時、外殻から何かか舞うのキーノは見逃さない。それこそが反射の秘密だと推測する。
もう一度、
結果は――反射されなかった。だが、乱戦の状況で魔法を使うのは難しい。あくまで情報として残しておくことにした。
(魔法が通用した!? でも、彼女は攻め込まない。みんなが居るから)
アリーゼは自身に魔法付与するだけに留め、確実に攻撃を当てる戦法を取り続ける。そうした方が良いと勘が言っている気がした。それと付与魔法による攻撃は反射されない事も頭に入れておく。
少女達に果敢に攻め立てられているモンスターは跳んで逃げようとしたが、キーノに先回りされて撃ち落される。
『
しかし、そのキーノをもってしても決定打は与えられない。
(クソ! 硬い。……私は肉弾戦は苦手なんだぞ!)
胸の内でキーノは悪態をつく。
魔法の研究が大好きな彼女にとって後方支援こそ正しい立ち位置だ。前面に立ちたいとは思っていないが先輩としての矜持が前に行けと囁いている。――それがとても煩わしい。
かつて相対した幼き『
当時はまだ【ステイタス】が低く生意気盛りだった彼女が今はどうしているのか、と脳裏に情景が浮かんできた。
もし、
軽く嘆息し、芝居がかった優雅さを演出する。
心に余裕を持たせて、かつ大胆に。強者の在り様を見せつける。
「……冒険者とはなんと野蛮な存在だろうか。意地汚く足掻き続ける、その本性は決して綺麗とは言えない」
玲瓏たる声色でキーノは言った。
雰囲気はかつて相対した女性冒険者を意識した。
ここに彼女が居れば、こんなことを言っていたかもしれない。――さすがに声色まで再現するのはやり過ぎかと思ってやめておいた。
「……だが、許そう。私は寛大だ。己の望む戦いに綺麗ごとをほざくのは無粋というもの」
(……攻撃を食らい過ぎて頭がおかしくなったか?)
(……この物言い。どこかで……)
キーノは仮面を被る。
冒険者にとって見た目は
相手を畏怖させる、という意味でも。
「お前にも聞かせてやろう。私も
(一度聞いた後だとしまらねえな)
(【静寂】だぁ。この人、アルフィアのこと知ってる、絶対)
今のままでも勝てなくはないが時間がかかり過ぎるし、少なくない犠牲もそろそろ出る予感がした。
よってキーノも覚悟を固める。もはや無視できるような状況ではないので。
まず手を振る動作をする。それだけで事情を察した【アストレア・ファミリア】が散開し、モンスターから飛び退く。
「〈
見よう見真似で
モンスターの周りで壮絶な不協和音が鳴り響く。アリーゼ達も思わず耳を塞いだ。
これは第五位階の魔法で長距離攻撃に
【静寂】の魔法は術者を中心に効果を発揮するが、これは遠距離攻撃に類する。
先の攻撃で反射要素を幾分か削ったが残った部分がキーノに跳ね返る。だが、それを想定していた彼女にとってはそよ風の如く。――体感的には
元々の体力が減っているわけではないのでダメージ的には軽微だ。
彼女の無敵性は『
竜の化石のようなモンスターは魔法で生み出した音響による攻撃で硬い外殻が次々と
音を聞く能力があるなら鼓膜など容易く破壊される。
位階が高い事も相まって無傷では済まず、反射の特性があろうとも穴だらけにされた今となっては虫の息にまで追い詰められた。ちなみにアリーゼ達は魔法の効果範囲から外れていたので無事だ。少し耳がキーンと鳴る程度で済んでいる。――跳ね返った分の影響かもしれない。
今一度、止めを刺すべく【アストレア・ファミリア】に合図を送ろうとした時、天井付近から落下してきた存在によってモンスターは真っ二つとなった。
十数人の冒険者が苦労して追い詰めた獲物を掻っ攫うような行為だが、それよりもまず急に現れた事にアリーゼ達は驚いていた。
刀を振るうゴジョウノ・輝夜も相手の見事な一太刀に思わず見惚れてしまった。
「あら? 先客が居たの? てっきり召喚物かと思って倒しちゃったじゃない」
そう
先刻まで戦闘していたのは【アストレア・ファミリア】だが、新手が注目したのは仮面の冒険者たるキーノだった。
「……助力は感謝するがその
「そうみたいね。……で、そんな事よりも私が気になるのは貴女よ、【
自身の身体よりも大きな
けれども、
その『二つ名』はとうに使っていない、と。
戦闘意欲もモンスターを倒した時に無くし、疲労しているアリーゼ達を労う為に用意しておいた
位階こそ低いが全体治癒が出来る魔法だ。
「それよりも何しに来た? 我々を助けに来たわけではないだろう?」
「まあ、そうね。連れに訓練を課していたら地震が起きたの。嫌な気配もあったし、様子を見に来たら……、貴女が居たってわけ」
「……なるほど」
(……目覚めの時期が違うせいか、好戦的になっているような……。元より敵対的ではなかった筈だが……。それとももう一つの方と因縁があるのか?)
キーノは灰に還ろうとしているモンスターの上でふんぞり返っている知り合い――【絶死絶命】を見ながら考察した。
彼女は退屈を嫌う。自由な暮らしを望んでいた。それなのに恒久的な闇を見てしまい、気持ちを閉ざす時期があった。
彼女にとって不運なのは覚醒時間が長かった事だ。元々
(……連れが居るのなら少しは世界を楽しんでいるって事か。ならば、敵対行動は避けねば……)
長い時は精神を病む。
キーノも通ってきた道だ。それゆえに【絶死絶命】がこうして冒険者となっている事を姉のように嬉しく思った。実際、キーノの方が年上だから間違っていない。
脅威が去った事で【アストレア・ファミリア】と共闘する意味もなくなった。彼女達には速やかに帰還するように言いつけた。
団長であるアリーゼはキーノと因縁がありそうな冒険者をチラリと見るが、団員の事も無視できない為に撤退する事を決めた。
言葉は交わさないが頭を下げるなどして、引き上げる。
【絶死絶命】は【アストレア・ファミリア】に興味が無いらしく、引き留めようとはせず、ただキーノを見据えていた。
〈
系統:力術[音波]
位階:魔力〈五〉、その他(
構成要素:音声、動作
距離:長距離(約120m+12m×術者レベル)
効果範囲:半径6mの爆発
持続時間:瞬間
●備考●
不協和音の騒音を作り出す。効果範囲内にいるクリーチャーに対して『音波』ダメージを与える。
系統:占術
位階:信仰〈一〉
構成要素:音声、動作、信仰
距離:約18m
効果範囲:円錐状の放射
持続時間:精神集中(最大10分×術者レベル)
●備考●
悪の存在を探知出来る。最初に悪が存在するか。次にオーラの数(クリーチャー、物体、魔法)と強度。持続時間が許す限り、違う方向を向いても良い。ただし、銅版や厚い壁、石や土などには遮られる。
系統:占術
位階:魔力〈一〉、信仰〈一〉、その他(
構成要素:音声、動作、信仰
距離:約18m
効果範囲:円錐状の放射
持続時間:精神集中(最大1分×術者レベル)
●備考●
効果は『
系統:占術
位階:魔力〈三〉、信仰〈三〉
構成要素:音声、動作、物質
距離:約18m
効果範囲:円錐状の放射
持続時間:精神集中(最大10分×術者レベル)
●備考●
金属または鉱物1種類、重量約5
系統:召喚術[創造][力場]
位階:魔力〈三〉、その他(
構成要素:音声、動作、物質(盾から切り取られた金属片)
距離:接触
目標:接触したクリーチャー
持続時間:精神集中(最大1時間×術者レベル)
●備考●
不可視の力場の層が目標を包み込み、攻撃を受ける毎に
系統:占術
位階:信仰〈二〉
構成要素:音声、動作
距離:自身
目標:術者
持続時間:1分×術者レベル
●備考●
罠の働きに関する直観的な洞察力を得る。
系統:力術[力場]
位階:魔力〈一〉
構成要素:音声、動作
距離:中距離(約30m+3m×術者レベル)
目標:クリーチャー1体以上、どの2体をとっても5mの距離内
持続時間:瞬間
●備考●
魔力で出来た矢が術者の指先から発射され、外れる事なく指定した目標に当たる。術者レベルによって最大10本にもなる。