ダンジョン・フラグメント   作:トラロック

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13 アントゥルド・ミィス

 迷宮都市(オラリオ)では一年を通して様々な(もよお)し物が開催される。

 『フィリア祭』こと怪物祭。

 挽歌祭(エレジア)と女神祭の二大祭。

 聖夜祭、偉業の日(グランド・デイ)、神月祭、等々。

 冒険者になって間もない白髪の少年にとって最初の祭典である怪物祭(モンスターフィリア)が間もなく開催される。

 地下迷宮(ダンジョン)より調教師(テイマー)達がモンスターを連れ帰り、一般市民にお披露目する。

 彼らに実際にモンスターを見せて恐怖心を和らげるのが目的――それは建前でギルドへの不満を逸らす為のカズ抜きとも言われている。

 神々の言い分では街民に現物を見せた方が覚悟を決めやすく、これらと冒険者が日々戦っている事を伝える。

 例え街に逃げても対処できるように下層までのモンスターしか捕えていない。

 今のところモンスターを使役して家畜化するような目的は無い。

 これらを取り仕切るのは団員数が一番多い【ガネーシャ・ファミリア】だ。

 主神ガネーシャは民衆の為を喜ばせる為に日々悪戦苦闘している。

 

「俺がガネーシャだ!」

 

 いつもの調子で大声を響かせ、人々に迷惑がられるが街人からは好かれている。

 元気で明るい為なのか、仕方が無い神だと思われているのか。

 色んな神が居る中で街人寄りなところが好かれる点かもしれない。あと、普通に喋れる。

 

「……いつも目の覚める声には感服いたしますが……、喉は大丈夫なんですか? 祭りはまだ始まっていませんよ」

 

 そう言ったのは赤い髪に眼帯をつけた女性冒険者だ。痛々しい姿は暗黒期より少し前に大怪我をした為である。

 彼女は祭典の日が近くなるとオラリオ中を駆け回り、進捗状況を冒険者ギルドに報告する。

 冒険者界隈で正体不明と言われる【ウラノス・ファミリア】の団員だとはっきり分かっている一人でもある。

 

「あっははは。大丈夫だとも。今日も確認事項か?」

「基本的にはそうですね。確認作業に駆り出される人員が不足しておりまして……。お陰で徹夜続きで参っていますよ」

「広いオラリオを巡るのは冒険者でもきついと聞く」

 

 赤い髪の女性冒険者以外にオラリオを駆け巡る人員は本当に少なく、去年よりも忙しいという。

 いや、正確には年々手が回らなくなってきた、が正しいか。

 暗黒期より二年後に冒険者に復帰した時から忙しかったが年を経る毎に活気づいている事が分かった。本来は喜ばしい事だが、回せる団員が常に不足状態で殺人的な日程(スケジュール)に耐えられるのはギルド職員より冒険者というのだから困った事態である。

 且つ殆どの冒険者は祭りを楽しむ方であり、手伝ってくれる側は【ガネーシャ・ファミリア】を除けば殆ど居ないと言ってもいい。よって彼女にのしかかる仕事量は甚大であった。

 無事な方の目の下にははっきりと黒くなった隈があり、ガネーシャは彼女の心労に報いたいと思っていても何もできない事を嘆く。もちろん、手伝いの冒険者を回したいのは山々だがオラリオ全体に眷族を振り分けているのでどうしようもない。

 

 
 

 

 怪物祭(モンスターフィリア)に向けて屋台や施設造りが始められている頃、中央広場(セントラルパーク)では祭開催に向けて宣伝活動が(おこな)われていた。

 その中で人だかりができるほど人気なのはオラリオでも希少な王族(ハイエルフ)による活動だ。

 【ロキ・ファミリア】のリヴェリア・リヨス・アールヴ以外にも王族(ハイエルフ)が居る事は意外と知られていない。そのわけは森妖精(エルフ)以外にとって知名度が低い為だ。

 金髪碧眼で薄着の王族(ハイエルフ)は遠い都市国家『オリンピア』を治める王族の正当な王女でありながら冒険者でもある。――冒険者としての活動はあまりしていないが第二級冒険者である事は(おおやけ)にされている。

 【プロメテウス・ファミリア】の副団長という地位だがオラリオでも神々の間でもあまり知られていない。

 冒険者としての知名度は低いが民衆にとっては人気のある人物だ。そんな彼女が有名な理由は薄着であること。その為、宣伝活動の時は王族(ハイエルフ)を敬う多くの森妖精(エルフ)達が防壁となる。

 この事態の収拾にギルド職員も駆り出される事から人手不足の原因とも言われている。

 彼女は最初リヴェリアに身元引受人になってもらっていた。後年、出自がはっきりした今も良好な関係である。

 

「今年もフィリア祭が開催されま~す。皆様、どうぞ、ご参加くださいませ~」

 

 自称十七歳。実年齢はその倍とも言われているが幼さを感じさせる王族(ハイエルフ)は元気に手を振り続けていた。

 普段は森妖精(エルフ)(さと)を巡っているので祭りでもない限りオラリオで見かける事が少なくなった。その為に街で挨拶する彼女を一目見ようとする者はとても多い。

 そしてなにより彼女を有名せしめたのは王族(ハイエルフ)だからではない。

 時折風に吹かれて衣服がめくれ、色白の胸が露出する事がある。それゆえ男神の熱烈な視線も集めている。――当人は肌の露出に関して問題視しておらず、堂々と振舞う。

 不純な目的で集まる人々から森妖精(エルフ)達は自ら防壁となり、王族(ハイエルフ)としての威厳を損なわないように戦い続けていた。例え本人が気にしないと言っても秩序や風紀の乱れは許容できないし、なによりリヴェリアが許さない。

 ちなみに薄着なのは春と夏。肌寒くなれば彼女とて厚着する。そこは常識的である。

 

「これもオラリオの風物詩かね~」

 

 小人族(パルゥム)のライラが興味本位で広場に集まる人だかりを眺めた。

 治安維持の目的で【アストレア・ファミリア】にも警備の依頼が来ているが本格始動は少し先だ。それでも小さないざこざは起きるので彼女達は何人かで見回りを続けていた。

 暗黒期以降から人々の笑顔が戻ってきたが一歩路地に顔を向ければ覇気のない人々の姿がまだある事に気付く。

 街は未だに混迷期にあり、世の中が真の平和であると言い切れない。そんな中で賑やかな祭が開催される事に異を唱える者が居ないとも限らない。

 

「アルテミス様。フィリア祭に間に合いましたね」

(……ん?)

「思いのほか早く着いた。皆は英気を養ってくるといい。……ただし、貞潔の心得は忘れるなよ」

 

 水色の髪の女神の言葉に女性冒険者達は背筋を正して敬礼する。

 ライラはその現場に偶々(たまたま)居合わせる事になり、かなり驚いた。

 オラリオの外で活動する狩猟を司る【ファミリア】とは随分と顔を合わせていなかった。

 下位の団員に現場を任せて、彼女達の主神アルテミスの下に駆け寄る。

 

「神アルテミス! オラリオに帰ってきたのか」

「んっ? おお、見知った顔ではないか。そなたはアストレアの眷族()であったな。息災であったか?」

 

 薄く微笑む女神の(かんばせ)にライラは思わず頬を赤く染める。

 普段は神が相手でもぞんざいな対応を取りがちだが尊敬する相手の前では背筋も真っ直ぐになる。

 柄にもなく女神の帰還を喜び、普段以上に饒舌となった。

 大きな仕事を終えた【アルテミス・ファミリア】はしばらく逗留する事に決めたという。その後で知神(ちじん)に顔を見せにいく予定だと言った。

 

「我々の【ファミリア】に子が増えてな。……既に来ていると思うのだが、アルフィアの居場所がどこか知らぬか?」

「……その名前が出るって事は女神様もご承知で?」

「……まあ、うん。暗黒期を知る者からすれば無視できない者ではあるが……」

 

 ライラは嫌な予感がしたものの堅物と知られるアルテミスが名前を出す相手だ。余計な詮索をするのは無粋ではないかと思った。

 雰囲気的にも悪くは感じない。おそらく彼女の生存を知った上で尋ねてきた。

 アルフィア・クラネルが一足先にオラリオに来ているのであれば騒動が起こってもおかしくない。それを踏まえた質問であるのは明らかであるし、正義を司るライラ達が知らない訳が無い。

 以上を踏まえれば女神が聞きたいのはオラリオでどのような事があったかは無視するとして単純に居場所が聞きたいことは明らかだ。

 

(変に隠し立てしないところは潔いよな、この女神様)

「あいつは別に騒ぎは起こしちゃいないが、警戒はされている」

「……そうか」

(んっ? 待て、眷族が増えたってことは……。アルフィアが改宗(コンバージョン)したのか?)

 

 何度か相対した時、それらしいことを仄めかしていた気がする、とライラは思い出す。だが、はっきりしたことは言っていなかった筈だ。

 神アルテミスの言葉からは【アルテミス・ファミリア】になったとも取れる。

 

(そうじゃねえ。アルフィアは【アルテミス・ファミリア】の眷族になった?)

「【静寂】の改宗(コンバージョン)先が【アルテミス・ファミリア】で間違いないのか?」

 

 そう問えば引き連れている眷族達は一斉に顔を背け、女神アルテミスは嬉しそうに頷いた。

 暗黒期を知っているのであれば何故嬉しそうに出来るのか理解できないが、神からすれば嬉しい事なのだろう。

 思わず握った拳に力が入ったが耐えた。

 アルフィアにも事情があった事は――頭では――理解しているが心が認めていない。立場が違えば、と言われるかもしれないが立ち位置によっては譲れないものがある。

 

(あの女に関しては許しは望んじゃいないようだが……。神としてはどうなんだ?)

 

 アルテミスも暗黒期を知らないわけではない。それを踏まえた上で受け入れたのであればライラも沈黙の(ぼく)となるほかない。

 団員達もその辺りを承知しているようだが納得している風には見えない。

 とりあえず、居場所については素直に教えた。――途端に眷族達から殺気が立ち上ったので、ライラは苦笑した。

 暗黒期を知る【アルテミス・ファミリア】としては当然、または杞憂であったことに微笑ましさを感じた。

 

 
 

 

 【ロキ・ファミリア】所属の女剣士アイズ・ヴァレンシュタインは次の深層攻略まで幾分か時間が出来たので立て直された教会に赴いた。

 ずっと廃墟同然だった建物が新品同様になり、白い壁が光り輝いて見えた。

 元々美人の修道女(シスター)が居るという噂を聞いていたので一度は訪れようと思っていたが、中々時間が取れなかった。

 怪物祭(モンスターフィリア)の開催も近いし、思い切って行ってみよう、と。

 

(……その修道女(シスター)の一人がアルフィア)

 

 双子の姉妹のうちメーテリア・クラネルとは早い内から接触しており、アルフィアの存在も聞いていた。

 出会いは偶然。双方ダンジョンにて邂逅したものの口下手なアイズは挨拶するので手一杯だったがメーテリアは違っていた。

 黙って抱き締めてからお母さんと呼んでもいいのよ、と言ってきた。不思議と突き放そうと思わなかった。

 アイズは自分の母の事を覚えているのでメーテリアではない事ははっきりしていた。どういうことなのか――一応――聞いてみたものの納得できたかは未知数だが頷きはした。それが限界だったとも言える。

 

(ダンジョンに出会いを求めていたら私と出会った……。あれはどういう意味だったんだろう)

 

 最初は抱き締められたが、その後は一歩引いた位置で見守られるようになり、日常的な会話以外は交わしていない。例えば戦い方など。

 メーテリアの戦闘能力はアイズから見ても高く、レベルも自分より上であることは理解した。ただし、武器も持たず魔法を使っているようにも見えないのだが、とにかく強いとしか言えない。

 それと治癒魔法に()けている。

 

(あの子、ベル・クラネルのお母さん。……アルフィアのこともあるけど、あの子は暗黒期とは関係ないみたいだし、どう接していけばいいのか……)

 

 お詫びという形で師匠(リュー)に会わせたが、それが間違っているような、そうでもないような、曖昧な気持ちに(さいな)まれていた。

 自分と同じくらいの年齢で当時は村に居た彼を責める事は――結局――出来なかった。

 関係ないとはっきり割り切れたわけではないけれど。

 悶々とした気持ちのまま現場に着いた。すぐに女性冒険者の集団が近づいてくるのが見えた。

 

「あっ、【剣姫】だ!」

「これ、人を指差すものではない」

 

 口々に【剣姫】と言われたアイズは少し恥ずかしがった。

 一番前に居るのは女神のようだがアイズは面識が無かった。

 まず軽く挨拶し、通り過ぎるのであれば道を開けようとしたが向こうも教会に用があるらしい。

 人とあまり会話しないアイズは戸惑いつつも彼女達を先に入れる事にした。

 入ってすぐに【静寂】だ、と叫ぶ声があり女神はこめかみを押さえた。

 

「大所帯で懺悔しに来たのか?」

「そんなわけがなかろう。お前に会いに来たのだ、アルフィア」

 

 喧騒を煩わしそうにした――薄絹(ヴェール)を被った修道女(シスター)の片割れ――アルフィアに女神アルテミスは再会の挨拶を述べる。

 もう一人の修道女(シスター)であるメーテリアは教会の隣にある小屋の様な建物で休んでいる。

 廃墟と化していた内部は既に新品同然の様相で騒ぎ立てなければ教会らしい荘厳さが感じられた筈だった。

 しかしながらアルフィア達は正当な修道女(シスター)ではなく、あくまで思い出の場所を立て直しただけで、それ以上の事には関与するつもりが無かった。

 修道女(シスター)というのは見た目でそう言われているだけで、仕事としてやっているわけではない。二人はあくまで冒険者だ。

 

「ゴタゴタで忘れていたが昇格(ランクアップ)ができるかどうか確かめに来た」

「……引退してからついぞ忘れていたな。だが、あまり夢を見せない方がいい。私は今でもお前達の敵だ」

 

 眷族達に緊張が走ったがアルテミスは涼しい顔で佇んだ。

 それはそれで構わない、と言い切るほどに。

 団員達の絶望に満ちた顔が主神に向けられるも彼女は無視した。

 主神は和やかだが団員達はいつでも武器が抜けるように警戒した。そんな殺伐とした雰囲気の中で新たな人影が乱入する。

 

「なんだいなんだい、どういう状況なんだい!?」

 

 教会で寝泊まりしている女神ヘスティアは朝方の仕事を終えて戻ったところだった。

 いつになく大人数に驚き、知り合いの友神(アルテミス)の姿にまた驚いた。

 それらを眺める事になったアイズはただただあたふたしていた。

 

 
 

 

 女性比率が十割となっている教会内で一触即発となっていたが神同士はそうでもなかった。

 平和主義のヘスティアがまず間に割り込み、理由を聞かせてくれと懇願すると団員達もさすがに気まずくなったのか、一歩引く。

 

「アルフィアの様子を見に来たのだが眷族(子供)達が血気盛んでな。こちらとしては争う気は無かったのだが……」

「ボクは暗黒期の事はさっぱり承知していないがアルフィア君が色々とやったことは噂で聞いているよ。それでも今、殺し合いをする必要があるのかい?」

 

 そう言いつつ何も知らない女神としての意見である事は言っておいた。

 仲良くしろとは言わない。ヘスティアとて戦うべき時は止めないつもりだ。

 

「私としては有象無象共が来るなら相手をするが」

「……戦うのは勝手だけどベル君を巻き込まないでくれよ」

「分かっている」

(ベル君?)

(誰?)

「ベルというのはヘスティアの眷族()か?」

「どうしてそこに食いつくんだい?」

 

 アルテミスと眷族達が一斉にヘスティアに顔を向けてきたので一歩後ずさった。

 今はアルフィアの話題だった筈だ。

 諍いが起ころうとしているもののアルフィアとてアルテミスの眷族だ。仲間同士の殺し合い、というか戦いは主神として許可できないと言い聞かせていたのだが、と弁明する。

 来るもの拒まず、というアルフィアの態度も問題かもしれないが第一級冒険者ともなれば言動が傲慢になりがちだ。

 なにより彼ら彼女らの信念は神が思う以上に崇高なまでに至っている。それを変えるには並大抵の経験では通じない。

 

「……ヘスティア様。ベルは居ますか?」

 

 ずっと壁際に居たアイズが尋ねた。

 ここしばらく鍛練と称して連れ出していた時にヘスティアとも知り合い、顔見知りになっていた。そして、因縁の相手でもある【ロキ・ファミリア】の眷族である事も当然承知している。

 元々素直なところがあるのでヘスティアもアイズに対して拒絶の姿勢は見せていないがベルと一緒に行動する事に対しては面白くないと思っている。

 

「まだダンジョンから帰ってきていないよ」

「……そうですか」

 

 白髪の少年は時間があればダンジョンに赴きモンスターと戦っている。そこに使命感は無く、単純な強さを追い求めていた。

 母であるメーテリアとアルフィアも特に口出しせず、見守る側に立っている。

 

(それよりも女性陣が居る中に帰ってきたらベル君も大層驚くだろうな。というより、いつまで居るんだい、この眷族()らは)

「おお、ヘスティアにも眷族()が出来たか」

「……アルテミス。ボクを馬鹿にしているのかい? ちゃんとボクだって【ファミリア】を作れたんだ。これからどんどん有名になっていくから楽しみにしてくれよ」

「うむ。楽しみにしているぞ」

 

 周りの喧騒とは裏腹に神々は楽しそうな雰囲気になっていく。それを見ていた眷族達は武器を治め、それぞれ楽な姿勢を取っていく。

 取り残される形となったアルフィアは眉間に皺を寄せた。

 場が落ち着いたところで改めてアルテミスはアルフィアに【ステイタス】の確認を打診した。元々はそれが目的だった。

 

 
 

 

 【アルテミス・ファミリア】の眷族達はアルフィアの事で忘れていたが教会に別の派閥が存在している事に疑問を覚えた。

 神ヘスティアとアイズを除けば【アルテミス・ファミリア】だけの筈――

 そのことについてヘスティアに尋ねれば教会が【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)で普段は地下で寝泊まりしている。地上部分はアルフィア達が使っているが派閥的な区別は設けていない。

 アルフィアも【アルテミス・ファミリア】として使うつもりが無かった。

 

「それからお前達が寝泊まりする余裕は当教会には無いぞ。ここはこじんまりとした建物だからな。……無理に寝るとすれば、寝袋を用意しておけ」

(ここで寝る前提!?)

「いやいや。私達は宿を取っているから」

「……さすがにボクも二十人近くの団員を受け入れるのは無理じゃないかな、と思っていたよ」

「ここに来たのは先も言ったがアルフィアの【ステイタス】の更新の為だ。ここを拠点として間借りするつもりはないよ」

 

 ベルが居ないのでアイズは用が無くなったが【アルテミス・ファミリア】とアルフィアのやり取りが気になったので少しばかり残ることにした。

 立ち去る機会(タイミング)を逸したとも言える。

 

(……よくよく考えたら【剣姫】と【静寂】が居るんだよね)

(なんという豪華な顔触れ)

(それとアルテミス様とヘスティア様の二柱がいらっしゃる)

「……まあ、敵意むき出しは仕方がないとはいえ、アルフィアも【アルテミス・ファミリア】の一員だ。ここで諍いを起こせばヘスティア様にご迷惑となるだろう」

 

 団長の言葉に団員達は不承不承の(てい)で武器を収める事にした。

 みんな仲良くな、とアルテミスの言葉が付け加えられる。

 黙って佇んでいたアイズにヘスティアがここに居てもご飯は出てこないよ、と言って帰る事を勧めた。

 アイズは軽く頭を下げで教会から立ち去った。――アルフィアの動向が気になっていたようだが【ステイタス】の更新は見世物ではないので居てもらうのは神としては困る事態だった。それはアルテミスの眷族達にも言える事だ。

 

「お前達は宿に帰るなり、ダンジョンに潜って金を稼ぐなりしてくるといい。くれぐれも貞潔の誓いを忘れるな」

「はい!」

 

 元気よく返事をしたのが半数。残りはアルフィアが気になって言葉が出なかった者達だ。

 遺跡での戦いに助力してくれたことは忘れていないが、やはりオラリオを混乱に陥れた元凶の一人だと思うと素直に仲間だと思いたくなかった。

 だが、神アルテミスはそれを分かって受け入れた。

 現場に最終的に残ったのは団長と水色の髪の半森妖精(ハーフエルフ)の団員。ヘスティアとアルテミス。そして、アルフィアの五人。残りはそれぞれ宿や買い出し、ダンジョンへと向かった。

 

「本来ならば友神(ゆうじん)と言えど見せるわけには行かないのだが……、迷惑をかけたお詫びだ」

「いや別にボクは……。一般的な【ステイタス】の更新がどんなものか興味があるだけさ。内容までは見ないよ」

(……あと、【ステイタス】の隠蔽方法を教えてもらえれば……)

 

 ヘスティアの言葉が終わる頃に出入れ口は団員達にしっかりと閉じられ、二人はヘスティアを護衛するようにすぐ側に立ち尽くす。

 教会の長椅子に座ったアルフィアは既に上半身の衣服を脱いでおり、遠目からは肩口しか見えない。

 一般的な【ステイタス】の更新は同じ団員にも見せないものだとアルテミスは説明する。それとヘスティアが知りたかった隠蔽方法も。

 アルテミスは張りを用いて指に差し、『神の血(イコル)』をアルフィアの色白の背中に垂らす。すると光り輝く文字列が宙に浮かび上がる。

 後はそれに手をかざす事によって団員の【ステイタス】が変動していく。この時、数字を直に動かしているわけではなく過去の数字を現在のものに更新しているだけ。

 それらが終わると『能力値(アビリティ)』や『スキル』についての説明文が浮かび、時には選択肢も現れる。

 手馴れていれば一分ほどで更新は終わる。この間、団員に何かが起きるわけではないが、僅かに背中が熱く感じられるらしい。所謂(いわゆる)、身体に力が(みなぎ)ってきた、様な気がする感じだ。――実際にはそんなにすぐ効果が現れるわけではないらしい。

 

「いくつか数値が低いがこのまま確定させていっても良いか?」

「構わん。神の都合が悪くならなければ……」

「……そうか。ヘラはお前の才能を正しく使えたのだろうか」

 

 呟かれた女神の言葉にアルフィアは答えない。

 ヘラは別に悪くない。生まれが既に間違っていた。いや、不運だった。

 時代を選べたら良かったのか、と聞かれれば否だ。そんな事は誰にだって出来ない。

 

(……リアがもう少し長生きだったら……、私はそれほど強くなれなかっただろう。もし、あの時ああしていれば、と願ったところ不毛だ)

 

 幸せは冒険者にとって成長を妨げる。人によっては違うのかもしれないがアルフィアはそうだと思っている。だが、それを願わずにはいられず我武者羅に戦い続けた。

 絶望や失望は成長現界に達した頃だ。であれば今はどうだろうか。

 幸せに満ち、望めばまだ強くなれる機会が巡っている今――

 

(……ベルの為に今一度……と思ったことはあるが……。リアの手前、引け目を感じていた。……ああ、そうか。私は迷っているのだな。前途多難な若者の為に敵となる事を選んだ以上に……、私自身が更なる力を望む、という欲望を手にする事を)

(……アルフィアの数値が急上昇している? レベル7ともなればこんな動き方をするのか?)

 

 前回は『改宗(コンバージョン)』だけで更新はしていない。今回の更新はアルテミスにとって未知の領域で少し戸惑っていた。

 他の団員の更新では見られない膨大な数値の変動だったからだ。

 いや、違う。これは久しく感じなかった祝福である、と。

 

「才能に愛されし者……。それを捧げてまで力を望んだそなたは今、何を求める?」

「……英雄だ。私の望みはそれだけだった。私では叶えられなかった望みと言えば確かにそうだが……」

 

 アルテミスが聞きたいのはそうではない。

 他者ではなくアルフィア自身が望むもの。

 冒険者の敵でもなく。妹の幸せでもない。

 言葉にするのは難しいが、と彼女(アルフィア)は僅かに思案する。

 妹を喪った当時、最も望んだ事は忌々しい『隻眼の黒竜』を討つ事だった。だが、それは叶わぬ夢と消え、失望に苛まれていた。

 復活した今、新たな望みが必要だ。全てを掛けた戦いは終わったのだから。であれば妹の存在か。いや――

 

 最愛の笑顔。

 

 至上の望みはそれに尽きる。

 元よりその為だけに戦い続けた。

 

(……望みが決まったようだな。……しかし、これは何とも……。私の【ファミリア】では荷が重くないだろうか)

 

 孤高の女王にして沈黙の魔女(サイレントウィッチ)たるアルフィアが真に力を発揮出来ていれば――かつての【ヘラ・ファミリア】の序列はきっと変わっていただろうと言われていた。それが現実になるとすればアルテミスと言えども驚かずにはいられない。

 同郷の女神ヘラに対し、恨み言の一つも言いたくなる程――アルフィアは手に余る存在だと知った。

 

「……いや、恐れまい。汝、アルフィアよ。これからも冒険者として……、私の眷族としていてくれるか?」

「ゼウスとヘラよりましであれば文句は言わん」

 

 確定された数値に冷や汗を流すものの眷族の更なる飛躍は祝福されるべきもの。よってアルテミスは彼女の昇格(ランクアップ)を認める事にした。

 発展アビリティ。新たに発現したスキル。それらを目にしてアルフィアという冒険者の規格が良さを目の当たりにした女神は少しだけ混乱した。

 自身の眷族は最大でレベル(スリー)。ここまで差があるのか、と。

 『基礎能力値(アビリティ)』こそ全て(ゼロ)になるとはいえ――そして、最終確認の後に確定された。

 

「おめでとう、アルフィア。汝はレベル(ナイン)へと至った」

「……そうか」

 

 二段階の昇格(ランクアップ)は想定こそされていたが実際になった、という冒険者は皆無だった。

 それこそ駆け出しが頑張れば可能であるというもの。既に第一級冒険者である者が二段階というのは前代未聞であろう。

 側で見守っていたヘスティアは何度も驚いていた。――騒ぐたびにアルテミスは睨みを利かせながら黙れ、と一喝する。

 素早く紙に写し取り、背中の【ステイタス】を隠蔽する。

 

「ギルドに報告するか? 正直、私の手に余るが……」

「余計な混乱を生むだけで非生産的だ。黙っている方がいい」

「ヘスティアはどうする? そなたには無理強いはしたくないのだが……」

「いやいや、ボクの手にも余る事は分かったよ。アルテミスが黙るならボクも口を閉じていよう。……ロキがどう出るか分からないけれど……」

「……そんな奴もいたな。……うむ。その時はその時だ。私も覚悟を決めておこう」

「そういえば……。ベル君には教えた方がいいかい?」

「無用だ。人の事より自分の事を優先しろ、と私ならば言うな」

 

 そうかい、と言ってヘスティアはベルに告げないことを決めた。仮に言ったとしたら喜ぶだろうけれど、彼自身の強さには何も直結しない。そのことをアルフィアは言っているのだ、と。

 いや違う。アルフィアならばベルが強くなった事を喜び、自身の事は二の次という意識だ。

 とにかく、下界の子供達が強くなることについて二柱の女神は祝福をもって迎えた。

 女神達は喜んでいたが室内には団長と団員の二名が残っており、彼女達は箝口令が敷かれる前から口を閉ざす事を決めた。――少し後でアルテミスは二人に気付いて、居たのか、と(のたま)った。

 

 
 

 

 昇格(ランクアップ)したアルフィアは今すぐしなければならないような予定が無かったので引き続き教会で過ごす事を決める。

 実のところ更なる昇格(ランクアップ)で肉体が悲鳴を上げ、妹の癒しを受ける必要性が生まれた。

 元々レベル(ナイン)の実例を知っていたので大きな驚きはなかった。

 彼女が肉体の変化に抵抗している間、ヘスティアは【ステイタス】の隠蔽方法を教えてもらっていた。

 積もる話しは後日ということにしてアルテミス達は一旦宿に帰ることになった。

 そして、教会内にヘスティアとアルフィアの二人だけになった。

 

「……君は凄い冒険者になった、んだよね?」

「……そうでもない。かつての団長と同じ位置についただけだ。……それでも黒竜には勝てなかったがな」

(れ、レベル(ナイン)が勝てないって!? どんだけ強いんだよ、その黒竜というモンスターは!)

 

 冒険を始めたばかりのベルがかのモンスターに挑むまでどれだけの月日がかかることやら、と少しだけ絶望感に浸る。

 いきなりラスボスに挑むわけはないと思うけれど、それでも壁の高さに改めて驚い。

 物思いに耽っている間にアルフィアは物凄い速度で移動したり風を切るように手刀を繰り出していた。――そうしないと呻き声が出そうだった、とは言えない。

 その振る舞いは神の目をもってしても視認できない程だった。

 

(……身体が重く感じる)

「ダンジョンで調子を確かめねばな。……神アルテミスの眷族として」

「そこは忘れていないんだ」

「私だって恩に報いる心があるぞ。神ヘスティア」

「なんだい」

「ベルには普段通り接してくれ。今日良いことがあったとか言わなくていい」

 

 ヘスティアは軽く呻いたが、箝口令の事だと察して善処すると言っておいた。

 うっかり口にしたら睨みつける、とアルフィアは言いながら教会を後にした。平静であろうと痩せ我慢しつつ妹の癒しの能力に頼ろうと少し速足気味になってしまった。

 暴力に出ない分、彼女なりの気配りなのだと幼神は苦笑した。

 夕方にダンジョンから戻ったベルを出迎え、変わったことは無いかと()()()()に尋ねてみた。勿論、他意は無い。

 ダンジョンの中でアルフィアとは出会わなかったようで鍛練と並行してたくさんのモンスターを倒してきました、と元気よく答えた。

 出だしこそ死にかけたものの回数をこなす毎に【ステイタス】の数値は良く伸び、戦闘でも自信が付いてきているようだった。

 ただ、探索は一人だけなので仲間を増やす事が課題だと彼は言っていた。

 

「調子に乗って深い階層に行ってないだろうね?」

「えっ!? だ、大丈夫ですよ。リューさんからも厳しく言われていますから」

 

 アイズと共にリューなる森妖精(エルフ)からも色々と学んでいる事は聞いていた。それ自体は構わないのだが、相手が女性であることが気になって仕方がなかった。

 アルフィア達の目があるとはいえベルは可愛い。処女神のヘスティアが独占したくなる程に。

 夕方までベルの活躍を聞き、食事時にはメーテリアとアルフィアが揃ってやってきて和やかな食事を楽しんだ。――その間、ヘスティアはアルフィアの事が気になって仕方が無かったが、そういう挙動不審なところが駄目だ、と一喝されて元気をなくす。

 

 
 

 

 暗黒期に神に守られ生き延びた少女は『豊穣の女主人』という店で一人のドワーフと食事を共にしていた。

 とても大切に育てられた人間(ヒューマン)の少女は年を経る毎に目つきがきつくなり普通にしていても睨んでいると言われるようになった。

 対面に座るドワーフはそんな彼女の事情を知っているので特に何も感じない。

 

怪物祭(モンスターフィリア)が近いというのに食が細いとはな。何か気になる事でもあるのか?」

「……今年もまた大賑わいで煩くなるな、と……。他の冒険者達と違って私には仲間が居ない」

「お前にとっては悲しい記憶でしかないか」

 

 顔の多くを髭で包まれたような重厚な身体を揺するドワーフはしみじみと言った。呟こうとしたのかもしれないが声が大きく出てしまった。

 少女にとって今の時期は仲間の墓参りで気持ちが沈みがちだ。

 暗黒期において彼女と神を逃す為に闇派閥(イヴィルス)に多くの団員が犠牲になってしまった。

 彼女が居た【ファミリア】は団員全てが親代わりだった。ろくでもない所だったけれど、温かみがあった事は今でも覚えている。

 主神は今でこそ送還されずに迷宮都市(オラリオ)に居るのだが念のためにも少女は改宗(コンバージョン)させられた。今でも望めば元に戻せるのだが、時期が悪かった。

 目の前に居るドワーフ『ガレス・ランドロック』は数年来の腐れ縁で、気分が落ち込んだ時は彼の下に来ては取り留めのない会話を交わす。

 傍目には仲が悪そうなのだが気が付けば二人一緒に居る場面によく出くわす。それと知らない者が見ればお祖父ちゃんと孫娘にも。

 

「もしかしてドワーフのおっさんの顔を見るから気分が落ち込むのか?」

「ワシとしては娘っ子と卓を並べられるだけで得をした気分じゃがの」

「……得? 愛想のない娘なのに?」

 

 愛想が無いのは事実だがガレスにとっては知り合いの娘が生きているというだけで嬉しいものだ。

 彼女の両親はお世辞にも真っ当な冒険者ではなかった。だからといって重犯罪者でもない。いわばチンピラ。小悪党程度の小物。

 たくさんの冒険者が居る中でそういう者の数はかなり多い。

 英雄願望の薄いその日暮らしが冒険者には多い為だ。

 強者と呼べる者は本当にごく一握り。

 

「……賑やかな日に顔見知りと会えるのは……、嫌いじゃないけれど……。やっぱり寂しいな」

 

 そんなことを呟く少女の側に音もなく近寄る不審者が顔を出した。

 ガレスは僅かに驚いたが少女はさっきまでの沈痛な面持ちが嘘のように晴れ渡る。

 現れたのは敬愛する男神オネイロス。

 一も二も無く彼女は神に抱き着いた。

 

(……今回は都合がついたようじゃな)

 

 数年前まで闇派閥(イヴィルス)に狙われたせいで長い潜伏生活を続けていた。

 本来ならば悪側の神であるのだが、少女の誕生で男神は自身の矜持を変えた。それは下界に降臨した神々の中でも滅多にない珍事であった。

 少女を残して殆どの団員が全滅し、心機一転して真面目に働いていたのだが思いのほか忙しくなりすぎ少女の為の時間を捻出できなかった。

 あまり構い過ぎると彼女の身に危険が及ぶかもしれない、というのもあったからだ。

 抱き合う二人を見た店主のミア・グランドは黙って料理を作った。事情を知らなければ叩き出すところだが、この二人に関してはお咎めなしにしている。ただ、店員の猫人(キャットピープル)達は仕事の邪魔なのでどいてくれないかニャ、と小さく文句を垂れていた。

 

 
 

 

 フィリア祭を翌日に控えた日、ダンジョンにて覆面姿の森妖精(エルフ)のリュー・リオンは急遽できた弟子(ベル)に一つの課題を与えた。

 格上の相手を倒す方法について考えるように。

 【ステイタス】を堅実に伸ばすか、奇跡の一手を打つか。

 何であれ攻略しなければ前に進めない。

 

「クラネルさんに合った戦い方を私は教える事は出来ません。それは自分で身に着けていくものだからです」

「はい」

 

 五階層から下に向かって歩き続ける。

 単なる戦闘訓練であればいくらかは教えられる。ただ、ダンジョンの中でモンスターの倒し方となると勝手が変わる。

 悪辣なダンジョンに正攻法は効きにくい。

 

「貴方は目が良い。けれど身体はまだ未熟です。速度も足りません。武器の状態も把握しなければなりませんし」

 

 狭い空間で振われる武器を見つつ、適度にベルの足を払ったりする。

 油断を生ませ、切り替えしの仕方を模索する。時にはダンジョンの罠が発動する事もある。

 ただ、決して急がず丁寧に自身が培った経験を伝えていく。

 

(軟弱者と足蹴(あしげ)にするのもありですが……。悔しさを糧にする事もまた強さの秘訣……。駆け出しの場合は心が折れやすい)

 

 自身であれば仲間達が強大な敵に倒された時、冷静でいられなくなる。

 心の支えを失う事は冒険者というよりリューにとって大きなことだ。それを最近になって理解し始めた。

 かつて友人を失った時もそういう気持ちになったことがある。だからといって白髪の少年にいきなり人生の厳しさを教えるのは鍛練として間違っている気がした。

 

「攻め手が限られていると仲間の必要性に気付きます。そして、それはクラネルさんの弱さとは言えません。私ですら仲間の存在に大いに助けられている」

 

 リューは膝丈もある長靴(ロングブーツ)を繰り出し、ベルはそれをしっかりと腕で防御した。この時、彼女の股間部分に目が行く。しかし、彼女は男の子の行動を分かった上で攻撃しているので想定内だ。

 気を取られれば命はあっという間に失われてしまう。

 これがアイズだった場合は僅かに見える下着の色を想像しただろう。もちろん、()()見せる為の下着を身に着けている。

 仲間(ライラ)(げん)によればモンスターに色仕掛けは通じない、だ。

 

(目が良い貴方は私の下着に目を奪われ、あえなく命を落とす。……そんな事ではいつまでたっても強くなれませんよ)

 

 そんなことを思いつつもやる気を出させるには良い手でもある。

 不純でも戦う理由が無ければ長続きしない。それが子供じみた願望であっても構わない。

 潔癖の種族と言われる森妖精(エルフ)のリューがそういう行動を取れるのは二十歳を超えたからだ。人間(ヒューマン)と比べれば長寿だが周りに合わせるとなると大人の仲間入りと感じてしまう。

 ある程度の羞恥心はあるがベルがまだ子供だと思えば幾分かは平気でいられる。

 つい先日までアイズとは裸の付き合いまでした。同然年代の子供だと思えばこんなものかと思わないでもない。だからといって彼と風呂を一緒にする気は無い。同性だから出来た事だ。

 

「……ひとつ言っておきますが、私は知らず知らずにやり過ぎるクセがあります。あまりにふざけた真似をすればうっかりで男性器を切り飛ばしてしまうかもしれません」

「……ひぃ!」

 

 と、ベルは一歩下がって股間を押さえる。

 アイズからもリューは優しそうな森妖精(エルフ)に見えるけれど、()()()()()()()人だよ、と教えられたことを思い出す。

 見るのは一向に構いません。後の責任までは取れませんが、と脅迫めいた言葉をリューは続けた。

 適度な恐怖心もこれからの冒険には必要だ。(むし)ろ、彼には戦わない道もあると教えたかった。

 正義を成す為だとか崇高な(こころざし)があるならば別だが――

 今日も今日とて最後にはベルを滅多打ちにして癒しの魔法をかける。

 鍛練の終わりにライラの言葉をふと思い出した。

 頑張った褒美にケツでも触らせてやればもっとやる気になるぜ、というものを。

 華奢な森妖精(エルフ)の胸では喜ばれないからな、などとも言っていた気がすると急に怒りがこみ上げた。

 

(しかし、見せる為の下着を着用するという手間をしなければならないとは……)

 

 普段の下着は簡素で充分だったのだが異性が相手だと何処を見て来るか考えなければならない。

 ベルはまだ少年だ、という意識があるので当初は気にしていなかったのだが仲間(ライラ)がしつこく、うるさいので苦肉の策として二重に穿()く事にした。それも柄物で大きなものを。

 自身も相手にそう言う振る舞いをしなければならない、という羞恥心と戦わなければならず困っていた。だが、鍛練を始めた事で異性相手の攻略方法を見い出せるので全てが無駄だと思っていないが納得はしていない。

 ベルの無垢な深紅(ルベライト)の瞳が身体の至る所に向けられると思うと二十歳を超えた森妖精(エルフ)でもやはり恥ずかしい。誘惑している気になるが特訓であると言い聞かせている。

 後日、言い出しっぺであるライラにも派手目の下着を着用させて特訓に強制参加させてみた。

 小人族(パルゥム)だから、というより彼女にはあまり女性としての魅力が見出せず、残念な結果に終わった。――当然、当人は頗る怒り狂って派手な化粧をして襲い掛かってきた。

 ベルに関しては油断は命取りである事をしっかり伝えられればそれで良かった。

 当初の目的である格上の相手の攻略については一朝一夕に出来るものではないので、引き続き鍛練しながら模索するしかない、と伝えた。

 

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