ダンジョン・フラグメント   作:トラロック

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エニュオ
01 世界樹の守護者


 邪神エレボスが起こした迷宮都市オラリオの存亡をかけた戦いは【アストレア・ファミリア(正義の使徒)】と多くの冒険者達の勝利に終わった。

 犠牲を多く出し、都市の傷跡は生々しい。暗黒時代にふさわしい結末に人々も悲喜こもごもと言ったところ。

 新時代の幕開けを迎えるには血を多く流し過ぎた。

 闇派閥(イヴィルス)の生き残りは闇に紛れ、正義の執行者たちもしばしの休息に入った。

 ――大手は大騒ぎだったようだが弱小【ファミリア】にとっては嵐が過ぎって一息付ける程度のこと、と言うには事件が大きすぎたが。終わって見れば大団円に近い。

 壊れた家屋は建築系の【ファミリア】を動員して立て直し、いつもの日常に戻りつつある。

 千年もの間、地下迷宮(ダンジョン)のモンスターから人々を守ってきたオラリオは平和な時を迎えていた。

 敵を排除した【アストレア・ファミリア】はいつもの日常に戻り、またダンジョン探索に赴こうと早くも活動を再開する。

 

「敵が居なくなっても私達は終わらないわ。明日の食事の為に今日もしっかりと稼ぎましょう」

 

 快活な声を上げるのは赤い髪の少女アリーゼ・ローヴェル。

 【アストレア・ファミリア】の団長にして問題児の筆頭である。

 人間(ヒューマン)である彼女は先の戦いでレベル(フォー)に上がり、ますます精強となった。

 冒険者の本分はモンスターを討伐すること。人跡未踏の深層は未だ制覇されておらず、宿願である『隻眼の黒竜』の討伐も果てしていない。

 アリーゼ達は戦いの傷が癒えた者から仕事に復帰する都合で現在は半数の六人体制となっていた。無理に全員一緒に行動するわけではないけれど。

 今日の仕事は採集物の確保。降りる階層は二〇より下。

 復帰戦としては丁度いい難度となっていたので団長であるアリーゼは即座に決定した。

 ――反対意見が無かったわけではないが。

 資金が心許なくなっていたのは事実だ。特に先の戦いで多くの資金と物資が底をついており、補充しなければ塩味だけの不味いスープの食卓が待っている。

 更に今回は冒険者ギルドから紹介された仕事で、一人付き添いが追加される。

 【ガイア・ファミリア】から来たサポーター要員で見た目は可憐な少女。種族は闇妖精(ダークエルフ)だった。

 【アストレア・ファミリア】にも森妖精(エルフ)の人材が二人ほど居るが種族的な蔑視などは無い。

 基本的に敵でなければ大抵は受け入れる。

 

「今回、ご一緒させていただく、ものです。よよ、よろしくお願いします」

 

 気弱な性格なのか、たどたどしい言葉使いで挨拶をする彼女――いや、彼の名はマーレ・ベロ・フィオーレという。

 金髪で左右色違いの瞳(オッドアイ)。深緑の外套と女性物の戦闘衣(バトル・クロス)を纏っていた。

 性別こそ男性となっているが普段から女性物の服を着ている。

 荷物運びを担当するがマーレの【ステイタス】は非公開になっており、無理に聞き出さないようにとギルド側からも厳命されている。

 多くの冒険者はレベルは公表し、細々とした能力は明かさない。注意喚起するほどとなると聞きたがりが現れないとも限らないが、アリーゼ達は無理に聞こうとは考えなかった。

 彼がどうであれ仕事を遂行しないと今日明日のご飯にありつけない。

 

 
 

 

 一柱の神ごとに【ファミリア】は存在し、互いは競争相手である。

 それぞれの神の性質から仲間意識は薄く同盟関係は稀であると言われている。勿論、協力関係を結ぶことも出来なくはない。

 アストレアとガイアは同郷という事から知らぬ間柄ではなく、今回の探索についても承知していた。しかし、団員たるマーレについてはアリーゼ共々知らずにいた。

 オラリオ内でも聞かない、聞いた事が無い無名の存在――

 小柄な体格にもかかわらず大荷物の背負い袋(バックパック)を平然と背負い、上層に現れるモンスターに対しても涼しい顔で対処している所からかなりの実力を隠し持っている事が窺える。

 態度は今のところ臆病でありながら気配りのできる男の()といったところ。

 魔法を行使できるようだが殆どが超短文、または無詠唱というところに驚かされた。

 

(魔法は個人差があると言っても最大でも三つまでのはず)

 

 魔法に長けたエルフの血族としても行使する魔法の数が()()()()()

 気にはなるが旅を共にする仲間と見ると実に心強い。しかも結構強いときている。

 女の子の様な少年マーレの目的は与えられた仕事をこなすこと。個人的な拾得物は特にない。

 後方支援に徹し、アリーゼ達を適時支える。それゆえに目的の階層まで無事にたどり着く。

 水の楽園と言われる二五階層。その景色にアリーゼ達はしばし堪能する。先の廃墟と化していた一八階層で沈んでいた気持ちを盛り上げる。

 

「この階層でひとまず色々と採取を始めるわ。少しでも現金化しておかないとね」

 

 一攫千金狙いはリスクが高すぎる。特に今時分は生活が大変なのだから、と無謀を絵に描いたアリーゼですらそう思うほど【アストレア・ファミリア】は困窮に喘いでいた。

 無茶に無茶を重ねるどころ掛け過ぎてしまった。そのツケは冒険者として無視できるわけもなく。

 お金について考えると折角の気持ちも沈みかけてしまうので、まずは探索に必要な拠点造りから始める。

 

生命拒否の繭(アンティライフ・コクーン)

 

 一塊になる場所でマーレは黒い棒を掲げて魔法を唱えた。

 信仰系第六位階に相当し、生命体の侵入を(さまた)げる効果がある。術者を中心に展開する都合上、マーレが動くと魔法の結界も同様に動く。

 ちなみに彼が持つ黒い棒は魔法を行使する時、杖のように振るうだけで特別なアイテムではない。実際、杖が無くとも魔法は扱える。

 

(……また違う魔法を使った)

 

 サポーターにしては多彩な才能を見せるマーレに対し、半数は恐れ、半数は羨望の眼差しを向けた。

 これだけの術者が無名で埋まっていたとは驚きであった。

 彼は自分の事をあまり話したがらないが会話は可能で、仕事の事ならだいたい気さくに話してくれる。

 モンスターに対しても気弱な見た目とは裏腹に平然と撲殺する。――棒はすぐ壊れるので基本的には素手と魔法だ。

 アリーゼの感覚では【ステイタス】はおそらく自分達より上だと予想している。

 『二つ名』すら不明なマーレに対し、興味を覚えるなという方が無理がある。

 

 
 

 

 マーレは気弱な性格のようだが仕事は真面目で丁寧だ。

 会話を苦手としても話しかけてこないわけではなく、受け答えはちゃんと出来る。

 戦闘に関してはもはや脱帽レベルに高い事も確認できた。

 

 規格外の冒険者。

 

 それがアリーゼの抱いた感想だ。

 もし、彼が闇派閥(イヴィルス)であったら苦戦は必至。勝ち目が見えないかもしれない。

 何しろ魔法が多彩だ。精神力(マインド)も相当多いと思われる。

 

「とにかく、この階層でバンバン物資を集めるわよ」

「お~」

 

 仕事は順調だ。

 マーレの魔法のお陰もある。

 彼は仕事以外に何か目的があるのか、試しに尋ねてみた。すると皆さんと一緒に拾得物を集めるのが目的なので、他は特に、と答えた。

 性格を抜きにすれば非常に真面目だった。

 治療師(ヒーラー)の役もこなせるようで連れてきた団員達に目立ったケガも無く過ごせている。

 

「え、えと……。皆さん、休むところをつくり、たいので。出来るだけ多くの瓦礫を、近くに置いてください」

「りょ~か~い」

 

 戦闘中は黙っている事が多いマーレも自分の仕事の時は割合饒舌になるし、積極的にもなる。

 アリーゼ達と共に大小様々な石などを休憩地点に置いていく。

 彼女達はそのまま石を積み上げて宿泊施設でも作るのかと思ったが範囲を定める程度に置いただけで終わった。

 配置が決まった後、アリーゼ達を中に入れ魔法を唱える。

 アリーゼ達の記憶では魔法は即効魔法を除けば詠唱が必要だった。

 

野営隠蔽(ハイド・キャンプサイト)

 

 森祭司(ドルイド)の第三位階に相当する魔法で効果範囲内あるものを外から感知できなくさせる。

 外から見ると周囲の風景に溶け込んだように見える。しかも、火や料理の匂い、会話などの音も漏れない。ただし、防御魔法ではないので踏み入る時は何ら影響を及ぼさない。

 魔法の効果は中からでは分からないアリーゼ達は最初半信半疑だった。試しに一歩、外に出て振り返れば岩肌しか見えなくなり気配も殆ど感じなくなった。

 マーレの能力の高さからサポーターにしておくのが勿体ないと思わせる。それと味方で居てくれて良かった、とも。

 立ち上る煙が効果範囲外に出れば発見させやすくなるが他の冒険者には見つけづらいだろう。

 

 
 

 

 休憩に入りマーレはあまり会話に参加せず荷物の整理を始めた。

 必要な指示以外はアリーゼ達に任せきり。自分の仕事をこなす事しか考えていないのは分かった。――他の冒険者もだいたいそういう傾向だが残念でもある。

 普段は敵対する事の多い他派閥とはいえ仲間になったのなら情報共有こそ出来なくとも色々とおしゃべりしたい気持ちも無くはない。

 

「マーレ君は男の子で良いんだよね?」

 

 人間(ヒューマン)から見ればマーレの見た目は少女然とした少年だ。しかし、森妖精(エルフ)種は長命で冒険者ともなれば百歳を超えていても見た目に変化が無い事も不思議ではない。

 アリーゼの失礼とも思える質問にマーレは普通にそうですよ、と答えた。

 服装については昔からこの格好だから今更男性用の服を着ようとは思っていないとか。

 

「多彩な魔法を使っているけれど、それはスキルなのかしら? 私達は神様から魔法は最大三つまでって聞いていたから……」

(リヴェリア様の魔法のようなものかしら? ……それにしたって多い気がするわ)

「……そ、その辺りは秘密で……。それ以上は、た、対価が必要になりますよ」

 

 冒険者の能力を他派閥に教える義理は無く、アリーゼも聞けたらいいな程度にしか思っていなかったので深入りしないことにした。けれども、とても気になっている。

 かれがもし敵であれば苦戦は必至。最悪、【ファミリア】の全滅もありえる、と思わせるほどに。

 先日の抗争において最大の障害となった女性冒険者と比べると見た目の気弱さから勝てそうな気になるが、能力は桁違いに高い事が分かったのでこれからも良いお付き合いが出来たらいいな、とそれぞれ思った。

 ついでに『二つ名』があるのか聞いてみた。これは殆どの冒険者が公開している情報で、冒険者ギルドに張り出される事もある。

 

「そういう文化があるのは承知してます。で、でも、僕らにはそういうのは無いと、思います」

「レベル(ツー)以降は神様から二つ名を貰うものだけれど……」

(……やっぱり『二つ名』はあった方が良いのか。何も無いというのも怪しまれる原因の一つに……)

 

 マーレは仕事が出来ればそれでいいと思っていた。己の冒険者としての矜持はあまり無く、与えられた命令を遂行する以外の事は無頓着であった。ただし、色々な知識を収集しているので彼女達の知りたい気持ちも理解できなくはない。

 三つの魔法についても承知していた。

 今回の探索において隠す必要はなく、必要であれば存分に披露しても良いとマーレが慕う御方から許可を得ていた。

 ()()()としてそういう存在である、とアピールする意味もあった。

 全員が多彩な魔法を習得しているわけではないがアリーゼ達のような現地人から見れば不思議な光景に映ってしまうのだろう。ただ、無理な言い訳をすると後々大変な事態になるので見たままで勝手に判断させている。

 

 
 

 

 採集が目的の探索だが後方支援であるマーレの能力が高い為か、全く危なげなく当初の目的を達成した。残りは個人的な金稼ぎに入る。

 剣と魔法を持つ【アストレア・ファミリア】は治安維持に主体を置いている為に戦闘職ばかりで構成されている。そして、今回支援担当は連れてきていない。

 細かな気配り担当もマーレ。散らばった魔石の習得も彼が殆どこなした。

 

(私達より仕事熱心なサポーターが有能過ぎる件について)

(……文句ひとつ言わないところに好感が持てるけれど……)

(女の立場が揺らぎますな)

 

 更にマーレはかなり強い。魔法以外でも。

 気弱な見た目に騙されてはいけない、と彼女達は強く思った。

 背負い袋(バックパック)がいっぱいになるまで拾得物を詰め込んだ後、帰還する事にした。

 サポーターは大荷物を持つ為のスキルを所持している事があるが彼の場合は素の力だけで持っているように見える。

 物理攻撃も魔法にも()けていてサポーターのスキルを持っているとは流石に思えない。

 明らかに自分達よりレベルが高い。

 驚きつつも彼のお陰で帰還も楽と来ている。これで闇派閥(イヴィルス)の関係者だとしたら納得しそうになるが、特に問題なく地上に出られた。

 彼はどうやら本当に気弱な性格の冒険者なのだろう。疑って申し訳ありません、と女性陣は心の中で謝罪する。

 ギルド本部にて拾得物の換金を(おこな)い、契約に従った報酬の話しに入る。

 

「契約通りの分配率で結構です」

「いやいやいや。殆ど君が仕事したんだから、こちらは低くてもいいんだよ」

 

 ここに仲間のライラが居れば余計なことは言うな、と怒っているところだ。だが、現メンバーは団長の言葉を支持した。いくら金欠でも正義に反する事は受け入れがたい、として。

 彼の言い分としては仕事をこなす事が目的で金銭は二の次だという。

 そんな聖人君主が居て堪るか、と小声で仲間が憤慨するがアリーゼも同意して頷いた。

 

「ぼ、僕は御方の命令さえちゃんと出来れば……、それで満足なんですけど……」

 

 会話の端々に出てくる『御方(おんかた)』というのは彼ら(異邦人)特有の専門用語のようで、正式な個人名を決して話そうとしない。ただ、主神の名ではない事は分かっている。

 【ガイア・ファミリア】なのにガイアの名が秘密というのはおかしいから。

 その後、揉めはしたが人数分に分割する事で妥協した。――マーレの取り分が減ってしまったが本人は特に気にしていなかった。(むし)ろ仕事を無事に完遂出来て嬉しそうな顔になった。

 別れ際にまた協力してくれるのかマーレに尋ねると仕事であれば、と好感触を戴けた。

 アリーゼ達はそのまま【アストレア・ファミリア】の本拠(ホーム)である『星屑の庭』に帰ってきて主神アストレアに報告した。

 胡桃色の長い髪の毛に優しい(かんばせ)の女神は頷きながらも彼女達の無事に満足気であった。

 

「彼らには彼らなりの(ことわり)があり、常識を持っている……。そういうことじゃないかしら? 神である私達もよく分からない事があるから」

 

 下界に降り立った神々は『神の力(アルカナム)』を封印している為に基本的に全知零能と言われている。

 眷族に養われるところから自虐的に表現した言葉だ。

 神すらも全貌が未だに掴めない異邦人だが目立った騒動を起こしたことは無い。精々、空中都市を三機も神々に進呈したくらいだろうか。

 何を目的としているのか――文明を観察すること以外はあまり分かっていない。

 疑い始めてから千年。もはや不毛としか言いようがない。

 彼らが冒険者として活動を始めたが迷宮都市にとって大きに変化というのは()()無い。精々一般冒険者とは隔絶した力を持っている者が居るくらい。

 マーレのようなものばかりというわけではないが――一般の【ステイタス】と違っている事は確かだ。

 【アストレア・ファミリア】に異邦人のメンバーが居れば色々と分かるのかもしれないが今のところ追加は募集していない。いや、歓迎する気はある。

 

「そんなに気になるならもう一回採集の依頼を受けてそいつを雇えよ」

 

 ぶっきらぼうに言ったのは今回の仕事で得たヴァリス硬貨を数えている小人族(パルゥム)の少女ライラ。

 金欠気味だった【ファミリア】に僅かながらも潤いが出来て少しだけ安心した。

 彼女の言い分は尤もだが能力を調べる目的と言うのは受け入れがたい。が、気になる気持ちもある。

 詮索しないのが暗黙の了解とはいえ秘密の多い異邦人の事を無視できる程アリーゼ達は人間が出来ていないし若い。

 そんな悶々としている彼女達を女神アストレアは微笑みながら眺めた。

 そこで手を上げる眷族が現われる。森妖精(エルフ)の冒険者で【ファミリア】の中では末っ子と言われているリュー・リオンだ。

 先の戦いでも活躍したが未だ怪我が完治しておらず、身体のあちこちに包帯が巻かれている。――他の団員も大なり小なりの怪我を負ったが冒険に出るくらいには回復していた。

 背中にかかるほどの金髪のリューは同胞以外と会話する時、口元を隠すような格好だ。これは他の森妖精(エルフ)も似たような状態なので彼女だけの事ではない。

 

闇妖精(ダークエルフ)とて同胞です。色々と聞いてきましょうか?」

「彼は人当たりが良いから喧嘩にならないとは……思うけれど……」

 

 今回の探索においてマーレは森妖精(エルフ)特有の潔癖さは見せなかった。

 リューは未だに仲間に対してもよそよそしいところがあり、肌を触れ合わせる事も難しい。そういう気質の故郷の教育が彼女を形作ったのか、元々そういう性格なのかは分からない。

 マーレよりリューが喧嘩を吹っ掛けないか心配だった。

 

 
 

 

 ゼウスとヘラの眷族の生き残りとの激闘から数か月が経った。その間、(くだん)のマーレと何度か一緒に仕事をする事が出来たが能力の秘密については頑なに拒否された。

 まず第一に【アストレア・ファミリア】に教えるメリットが無い。共同探索するだけでマーレ側が全幅の信頼を寄せる理由にはならないからだ。

 同胞の為に秘密を公開するというのも無理がある。

 個々人の才能は当人だけのものだ。神が狡猾でも出来ない事はある。

 

「……た、鍛錬なら付き合えますが……。あまり僕の事を、探られるのは困ります」

「分かっています」

 

 ダンジョン内で戦闘訓練をする。それならば妥協できるとマーレが仕方なさそうな顔で言った。

 リューとて仲間の為とはいえ同盟相手の情報を根掘り葉掘り聞きだす事は躊躇われた。

 彼女から見てもマーレという少年の様な闇妖精(ダークエルフ)は強そうに見えない。何より性格的に気弱そうで戦闘もろくに出来ないようにしか思えなかった。

 だが、何度か一緒に探索しつつ彼の行動を観察すれば見た目とは裏腹に圧倒的な実力が窺える。

 仕事中はその実力を隠そうともせず適時行使する。その姿勢は尊敬に値する程見事なもの。それとやはり豊富な魔法も驚かせる要因となった。

 上層では使われないが高い位置にある鉱物などを採集する時に雲を生み出し、それに乗ったり。木の実に何らかの魔法を行使して投げつけると爆発したり。

 

「僕の魔法なんか、大したことないですよ。派手さは無いですし……」

「いやいや、ご謙遜を」

 

 見た目が気弱な少年だが実力を見た今となっては欺瞞とも思える。

 受け答え以外の時は非常に冷静だ。危機意識も高い。

 サポーターということで積極的に戦闘に関わらないが弱くはない。何度か手合わせしてもらえる機会があり、リューは彼に一度も勝てなかった。それどころか決定打とも言うべき攻撃を当てられた事さえない。

 攻撃魔法も鮮やかに回避してのける。

 

(……防御が弱い事も無い。まさに鉄壁……。レベル(セブン)と言われてもおかしくない)

(あんまり力を見せない方が良かったかな? ……でも、信用を勝ち取るには自分から胸襟をある程度開くのがいいって……)

 

 圧倒的過ぎる実力はかえって相手を萎縮させる。それを知るマーレは可能な限り手加減した。

 決して弱くなり過ぎず、強すぎることなく――

 力の一端程度であれば見せても問題は無いのだが、思いのほか食いつかれて驚いた。

 特殊な能力を使ったわけでもないし、自分達の世界の中では大したことが無い程度の魔法しか使っていない。それが現地では非常に驚かれることになるとは、とマーレも驚きつつ学んでいた。

 

水加熱(ヒート・ウォーター)

 

 手合わせが終わった後、森祭司(ドルイド)も扱える第一位階の魔法を行使する。

 火を焚かず、水を沸騰させる事が出来る。これで温かい飲み物などを用意する。

 マーレだけであれば食事の用意など()()()()()だが――

 リューの為に色々と用意した。もちろん、打算の意味が含まれている。

 ダンジョンの中でお風呂を作ってあげましょうか、と言ってみたら彼女に大層驚かれて断られた。

 今は汗臭くなった身体の匂いを消すだけに留めた。これには【アストレア・ファミリア】の女性陣に大いに喜ばれたものだ。

 役に立てること自体は嬉しいのだが、本来ならば御方に喜ばれたかった。

 御方と呼んでいる者達の能力はマーレを凌ぐ。ゆえに彼らの下につく者達は自分達の能力を過小評価する傾向にある。なにより自分達に能力を与えた存在だ。そんな相手が喜ぶとなれば喜びの一入(ひとしお)というもの。

 

「……僕、皆さんの役に立って、いますか?」

「えっ? ええ、もちろんです」

 

 自信なさげに尋ねられてリューは驚いたが答えた言葉に嘘はない。

 これだけの実力者が自信を持てないというのは彼女にとっても想像できない。

 僅かな時間で水を沸騰させたり、植物を巨大化させたり――多彩な才能と言っても過言ではない。

 同胞だから、というわけではないが彼の才能は決して無視できるものではなく、リューにとっても大いに興味を抱かせた。

 




付録:作中に登場した魔法 1

生命拒否の繭(アンティライフ・コクーン)

系統:防御術
位階:信仰〈六〉、その他(森祭司(ドルイド))〈六〉
構成要素:音声、動作、信仰
距離:3m
効果範囲:術者を中心とした3mの放射
持続時間:1分×術者レベル
●備考●
 殆どの種別の生きているクリーチャーの侵入を阻む、移動可能な半球状のエネルギー力場を発生させる。


野営隠蔽(ハイド・キャンプサイト)

系統:幻術[幻覚]
位階:その他(森祭司(ドルイド)〈三〉、野伏(レンジャー)〈二〉)
構成要素:音声、動作、物質(ヤドリギの小枝と水銀の小ビン)
距離:近距離(約10m+2m×術者レベル×2)
効果範囲:一辺6mの立方体1つ
持続時間:2時間×術者レベル
●備考●
 野営地の周辺の外観を周囲の環境に溶け込ませる。範囲外に居る者には範囲内で起こっている活動を感知できない。火や料理の匂い、会話や魔法詠唱、熱や風すら感じ取る事さえできない。内側に居る者は外を通常通り見ることができる。ただ、外からの侵入を防ぐものではないので踏み入る事に何ら支障はない。


水加熱(ヒート・ウォーター)

系統:変成術
位階:魔力〈一〉、信仰〈一〉、その他(森祭司(ドルイド)吟遊詩人(バード))〈一〉
構成要素:音声、動作
距離:2m
効果範囲:容器に入れられた液体1リットル
持続時間:精神集中(1分×術者レベル)
●備考●
 液体の水温を上昇させる。1分後には沸騰させることもできる。任意で保温も可能。


CHARACTER 1
マーレ・ベロ・フィオーレ

所属
【ガイア・ファミリア】
種族
闇妖精(ダークエルフ)

職業
サポーター
到達階層
25階層

装備
所持金
248000000ヴァリス

ステイタス
Lv.(封印)
B792耐久A856
器用D538敏捷D670
魔力S993魔導
耐異常堅甲
防護息吹

魔法

位階魔法
・信仰系第十位階相当。

スキル

森渡り(ウッドランド・ストライド)
・自然由来の障害や地形の中でも支障なく移動する事が出来る。

装備

シャドウ・オブ・ユグドラシル
・黒檀に似た杖。

神器級(ゴッズ)アイテム。

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