ダンジョン・フラグメント   作:トラロック

20 / 29
19 対価の徴収

 ナザリック地下大聖殿という謎の施設の中で王族(ハイエルフ)のリヴェリア・リヨス・アールヴとお供として着いてきた森妖精(エルフ)のアリシア・フォレストライトとレフィーヤ・ウィリディスの三人はメイドの案内を受けて客室と思われる部屋に通された。

 位階魔法という未知の知見を得るために危険地帯に飛び込んだものの仮面の冒険者であるキーノ・ファスリス・インベルンと邂逅するとは思わなかった。

 しかも玉座に座していたところから(あるじ)と思われたが本人は否定した。

 

「……いったいここはどういった場所なんだ?」

「神殿、でしょうか?」

 

 造り的には近いが全体的に暗く、神聖さというより邪悪さが強い。

 表現的には『闇派閥(イヴィルス)』の秘密基地だ。

 文言だけだったが忠誠を誓わされた。宣誓については言葉のみだが――

 三人であれこれと悩んでいると飲食物を乗せたカートを押しながらメイトがやってきてテーブルに並べていく。その間、彼女(メイド)は殆ど無表情だった。

 並べ終わると一礼して何も言わずに退出した。

 有無を言わさない雰囲気からレフィーヤも尋ねる機会を失った。

 

(……勉強会は分厚い資料を読めというもの。分野別に分かれているようだが……、項目が多いな)

(魔法名が記されているけれど詠唱内容は無いんですね)

(持ち帰らずに記憶しろって言うのかしら? これはちょっと無理ではないかしら)

 

 戦士職のアリシアには『武技(ぶぎ)』の資料が渡された。

 キーノから覚えてみる気があれば教えると言われたので興味本位で頷いておいた。

 

「これは『魔導書(グリモア)』なのでしょうか?」

「『魔導書(グリモア)』であれば一つの魔法を覚えたら白紙になる筈だ。項目一つ消えていないところから、これはただの資料だな」

 

 三人が現状や目の前の資料について議論しているとキーノが部屋に訪れた。

 まずは労いの言葉から始まり、資料が『魔導書(グリモア)』ではないことを告げる。

 

「主は人見知りでな。私が代理として色々と見聞きする。ただ、勉強以外の質問は受け付けないからな」

「……勉強だけ」

「まずは軽く読んでおけ。これからお前達が覚える魔法の資料……、というか一覧表だ。まずは三人がどれだけ覚えられるか教えてやる。マーレ殿は所用で来られなくなったが彼が居ても同じことになっていただろう」

 

 有無を言わさない迫力を伴ってキーノは淡々と説明する。

 まずは、と言いおいてリヴェリア達に別の紙が手渡された。それには彼女達の個人情報が記されていた。

 本来ならば神しか知ることのできない【ステイタス】の内容が共通語(コイネー)で書かれている事にそれぞれ驚いた。ただ、スキル関係の内容は無く、能力値だけだが恐らく全ての項目を奪われたのではないかとリヴェリアは予想し、恐ろしさを感じた。

 

「そこに書かれている事に間違いはあるか?」

「……多少の誤差はあるだろうか数値は殆ど合っていると思う」

「そうか。大事なのは能力値だ。他の部分も知られているのではないかと危惧しているだろうが……。主はお前達の能力は殆ど把握したと思っていい。ただ、出身地や家族構成、これまで辿ってきた人生などの詳細な情報などは把握していないから安心しろ」

(……やはり先ほどの宣誓が肝か)

(ええっ!?)

「能力値を合計した数値によって取得できる魔法の個数が変わる。魔力系や信仰系については得意分野で更に細分化されるが……。まずはいくつ取得できるか分かった方が良いだろう」

 

 仮にレベル1の時点で全て(九〇〇)だとすると合計は五四〇〇となる。

 冒険者の潜在能力値の限界は九九九と言われているが、もしこれを突破した場合があったと仮定すると取得できる魔法の個数が飛躍的に増える筈だ。だが――

 

 一般人が取得できる位階魔法の個数には限界がある。

 

 紙にはレベル1から書かれているが実際にはレベル毎に最大三〇個が目安となっており、数値は方便に近い扱いになっている。――ただ、数値を増やすと個数が増えるというのも(あなが)ち間違いではない。

 現時点でリヴェリアは一五〇個ほどの魔法を取得できる。

 確かに位階魔法は膨大な数が存在するが系統別になっていたり効果が似通っていたりするものもある為、一〇〇個でも充分多い方だ。

 これは位階魔法を扱う異邦人も同様であった。

 もし、最大三〇〇個より多くの魔法を扱う場合は巻物(スクロール)などを使う。

 取得できなくとも取得リストに記されていれば魔法道具(マジック・アイテム)で扱う事が出来たりする。

 

 
 

 

 キーノに説明を受けたリヴェリアは自身が取得できる魔法の一覧表(リスト)を見つめる。それから項目ごとの説明文を黙読する。

 魔力系第六位階。信仰系第四位階。それが彼女の平均的に扱える魔法の強さだ。

 事前に情報を得たキーノも信仰系の位階が高い事に驚いた。

 レフィーヤはスキルによって同族の魔法を扱える。よって理論上――低レベル帯にも関わらず――三〇〇個以上の魔法を扱えそうだが実際は他と大差はない。レベルと能力値によって覚えられる個数が決まってしまうので。

 彼女(レフィーヤ)が扱えるのは同族の魔法であって位階魔法はスキルの影響を受けない。もし、それを可能足らしめる場合は位階魔法専用のスキルを発現していなければならない。

 オラリオに位階魔法が馴染めば、将来的にそんなスキルが出現する事もあるかもしれない。可能性は零ではないので。

 

「スキルによって現在のレベル帯では使用できない魔法を行使する方法もあるから、高い位階を選ぶことも出来るぞ。それとリヴェリアであれば超位魔法を一つ使えるかもしれないな」

「……ちょうい魔法?」

「ああ。まずは自分にとって必要と思える魔法を選べ。面白そう、という理由でもいい。それと選ぶ時、使用条件が厳しいものがないか確認する事を忘れるな。金銭や物品、己の『経験値(エクセリア)』が必要な場合もあるからな」

 

 分からない事があれば手を上げろ、と言いつつアリシアとレフィーヤの質問にも答えていく。

 この魔法が欲しいと思っても習得できない理由も淀みなく伝える。

 

「マーレ殿が使う位階魔法もこの条件に沿っている。彼だけ特別というわけではない」

「そうなんですね」

「選択するだけで使える魔法と聞いてがっかりしたか?」

「……まだ使えるようになったわけでないが……。これほどたくさんの魔法があるとは。正直驚いている」

 

 言われた通りに選んでいるがあれもこれも選択していくと迷いが生まれる。

 可能であれば全ての魔法を習得とまでは言わないがこの本を持ち帰りたくなった。せめて書き写しの許可がほしい、とも。

 

(欲しい。ぜひとも譲ってもらいたい)

「え~と、これ本拠(ホーム)に持って帰ったらダメですかね?」

「お前達にも都合があるだろうしな。物事には対価が必要だ。三人共、世の中にはタダより高い物はないのだぞ?」

「……ですよね~」

 

 最初に対価を徴収する事は伝えられた。先に本を見せて断れなくさせる作戦か、と身構えた。――どの道、対価は払う気でいた。それがどんなに(おぞ)ましいものであっても。

 リヴェリアは黙ってキーノの言葉を待った。

 

「その本を見たところで魔法は習得できない。誰かに言っても無駄だ。欲しいという意見もあるだろうが、販売目的で作られていないから数が少ない」

(マーレ殿も【アストレア・ファミリア】には譲渡しなかったようだし。あげてもいいとは言われていないな)

 

 対価については内容だけ予想がついているが実行するのはキーノではない。

 意思確認の時はいつも時間がかかる。その点で言えば【アストレア・ファミリア】の冒険者達は随分と思い切りが良かった。

 

「改めて言うが取り消しは出来ない。やり直しが無いように勉強してから取得させるが……。このまま何も手に入れず帰る事も選択の一つだ。それまでその本を読んでもらっても構わない。対価はあくまで取得する時のものだ。今のうちに読んでおけ」

 

 読んだら対価を払わなければならない、と思い込んでいたが実際には違ったようでアリシアとレフィーヤは安心した。ただ、譲渡されなかったのが残念だった。

 リヴェリアは本とキーノを何度も見比べた。

 確かに読んでも魔法が手に入った感覚は得られない。あくまで読み物としての価値しか無いようだ。

 

(……だが、取得できれば全てではないがたくさんの魔法を扱える。……知識だけでも充分ではないか? いや……、やはり習得してこそ価値がある)

「いや、対価は払う。その為に来た」

 

 リヴェリアの決断に対し、キーノはアリシア達にも意思確認を(おこな)った。

 王族(ハイエルフ)だけを犠牲にする事は森妖精(エルフ)の威信にかかわる。よってアリシアも対価を払うと宣言した。

 宣誓させた以上逃げられないと思われるが()()引き返せる、という道を示した。キーノは異邦人側だが対価は絶対ではない事を伝えた。

 対価が無ければ力は授けない。キーノが勝手にあれこれ授けられるわけもない。

 

「私も……。純然たる興味ですが、それでも構いませんか?」

 

 レフィーヤの言葉にキーノは興味本位は大いに結構だ、と答えた。

 三人の意志は確認できた。とはいえ、呆れはしない。ここに来る以上は夢を見せると()()()()()()()。それを否定する権限はキーノには無かった。

 

 
 

 

 そうか、と言いおいてキーノは仮面を外す。

 白皙の相貌に赤みを帯びた瞳が怪しく光る。

 目蓋を閉じてすぐに額に目の模様が浮かび上がった。

 

「三人共。身に着けている物を全て外しなさい」

 

 そう命令を下した後、部屋に三人のメイドがやってきた。リヴェリア達は伺い知れなかったがキーノは部屋の外に来るよう指示を出していた。

 貴重品や武具を奪う為ではない事を伝える。

 

「また眠ってもらうけれど……。次に目覚めた時、位階魔法が【ステイタス】に刻まれるわ。身体的に違和感があるかは分からないけれど、気になる事があれば遠慮なく言ってね」

「起きたままでは都合が悪いのか?」

「悪いでしょうね」

 

 キーノの口調が変化していた事に気付いたが指摘しなかった。それよりもまた眠ってもらうと聞いて三人はそれぞれ身構えた。

 これから(おぞ)ましい事が(おこな)われる。そんな場面を見せないためだとキーノは答えた。

 

「覚醒したままだと後悔するわ。特に初見は……」

(レベル6の私でさえ恐れるほどか? 実力を知らないわけではないだろうが……。魔法を優先した方がいいんだろうな)

「……それに覚醒したままだと激痛に悶え苦しむ。私は警告こそすれ興味があるなら自己責任で。騒がしくするのは勘弁してほしいから」

「……分かった。そちらに任せよう」

 

 リヴェリアは諦めたがアリシアは見届けたいと言った。レフィーヤは恐ろしさが(まさ)って眠らせてもらいます、と言った。

 見るのは自由だけど、と言った後、キーノが何らかの魔法を唱えたらしい。それだけでリヴェリアとレフィーヤが崩れるように眠りについた。

 

(……えっ?)

 

 アリシアの耳には全く詠唱が聞こえなかった。

 王族(ハイエルフ)でありレベル6の冒険者があっさりと昏倒した。その事実が受け入れられず、混乱が強まり続けた。

 眠った二人の服をメイド達は手慣れた動きで脱がしていく。

 現場には女性しか居ないが人間(ヒューマン)に触れられるのは同性でも抵抗があると駄々をこねた。

 

「服が血塗れになってもいいのね?」

「……ぐっ」

「暴れられても困るから拘束するわ。魔法最強化(マキシマイズマジック)()人間種束縛(ホールドパーソン)

 

 魔力系第三位階の魔法を行使する。

 アリシアはその場で身動きが取れなくなった。意識はあるが言葉が全く出てこない。

 その間にもキーノはメイド達に指示を出す。

 追加の要員が現われたりリヴェリア達が裸に剥かれたり、事態はどんどん進んでいく。抵抗しようと試みるも事態は好転しない。

 白い寝台の様なものが三つ運ばれ、裸にされたリヴェリア達が載せられる。空いているのはアリシアの分だ。

 続いて現れたのは異様な存在だった。

 それは鳥の嘴の様な仮面を被った肥満体の人物。汚らしい服を着ていて年期の入った(のみ)や刃物を所持していた。明らかに拷問官といった感じだ。彼らの後から現れた者にアリシアは心底驚いた。

 見た目はメイド達と似た清楚な給仕服を纏っているが頭部は犬そのもの。犬人(シアンスロープ)ではないとはっきり分かる容貌だった。

 

(顔に縫い目? 仮面……には見えない嫌な感じ……)

 

 身動きが取れないアリシアなど存在していないかのように彼らは準備を整えていく。

 リヴェリアとレフィーヤの顔に薬物らしきものを嗅がせた。それについてキーノが説明する。全身麻酔を施すもので危険はない、と。

 犬頭のメイドが二人に魔法をかけ、二人共異常は特に確認できません、わんと言った。そこでこのメイドの顔は仮面ではなく本物の動物の頭部として機能したようにしか見えなかった。

 

「残酷な現場状況になるけど、知らないよりはいいでしょう。了承を得たので作業を始めて」

「了解しました」

 

 肥満体の人物が恭しく頭を下げた後、鋸のような危惧を取り出し、リヴェリア達の胴体に当てた。

 アリシアは懸命にもがくが身体は全く動かなかった。そうしているうちに容赦なく肉体が切り刻まれる。――不思議な事に眠っている二人は微動だにしない。まるで人形のよう。

 手際が良いのか、数分で胴体は分断され、寝台から血液が零れ落ちていく。

 人の死に遭遇したことが無いわけではないが平然と(おこな)われている作業が現実とは思えなかった。

 嗚咽するアリシアに出来る事はこの光景を忘れない事だった。

 

 
 

 

 いつ眠ったのか、アリシアは気が付いた時には寝室で寝かされていたようだ。

 酷く気持ちが悪くなる悪夢を見せられた気がした。

 いや、そうではないと現実逃避しそうになった気持ちを引き留める。

 

(……いつ眠らされたのか分からないけれど、私も……というより痛みは無いわね)

 

 上にかけられた布団を(めく)ると下半身が消失していた、という場面が待っているのではと思ったが感覚的には足があるし、身体がいつも以上に軽くなったとも思えない。

 思い切って布団の中を除けば白い下着姿の下半身が見えた。裸ではなかったようだが、簡素な服装に着替えさせられた事に少しずつ羞恥心を覚える。

 自分の体の確認が取れた後、周りに視線を向ければリヴェリアとレフィーヤの姿が見えた。自分と同じく寝台に寝かされた状態だった。

 いてもたってもいられず、寝台から降りた瞬間に足腰に力が入らずよろけて倒れ込んでしまった。まるで下半身が麻痺したように。――ただ、感覚はあるので完全に麻痺とも言えなかった。

 

「どういうこと?」

 

 疑問は残るが這いずってリヴェリアの下に向かい、身体の確認をする。

 分断された現場を見たのが夢でなければ彼女は上半身しか無い筈だ。無事を祈ればいいのか、全てが夢だったらいいのに、と。

 失礼を承知で布団のを捲り、中を確認すれば白い下着を吐いた下半身が見えた。切断された痕跡が無い状態だった。

 

(あれ? くっついている。切った後が無い?)

 

 ということはレフィーヤも、と思い念のために確認すれば確かに下半身は無事だった。

 他に異常は無いかと顔や腕を見ても二人共何かを奪われた様子は無いし、髪の毛も切られた痕跡が無かった。

 何もされなかった、わけがない。

 魔法によって肉体を再生されられたのだと気が付く。思うように動かせられないのは謎だが。

 アリシアが一安心する頃、部屋にメイド達が入ってきた。そこでアリシアが覚醒している事に然程驚きを見せず、食事の用意が始められた。

 

「お客様。まだ寝ていてくださいませ」

「肉体の感覚を取り戻すのに少しばかり時間を要します。それまでベッドでお休みください」

 

 そう言われても腕の力だけで寝台に戻るのは結構な労力を必要とする。

 第二級冒険者の【ステイタス】を持っているので不可能ではないが辛かった。

 メイド達に声をかけると普通に返答してきた。ただし、酷く冷淡な態度に感じた。

 話し声が大きかった為か、リヴェリア達が目を覚ました。死んでいなかっただけでアリシアは涙を浮かべて喜んだ。――飛びつきたいところだが足腰が言う事を聞かない。おそらくリヴェリア達もすぐに動くのは難しいと予想する。

 

「いつのまに……」

「あれれ?」

 

 目が覚めた二人にメイド達は淡々と状況を説明する。

 寝台に寝そべったまま食事を提供するという。

 

「お客様は自覚なされておられないようですが、体力がかなり落ちていらっしゃいます」

「足腰の感覚が戻るまでの間、食事を頂かないと帰るに帰れなくなります」

「なんだと」

「【アストレア・ファミリア】の方々は言う事を聞かずに地面をのたうち回っておられました。いわゆるパニック状態というやつですね」

「とにかく落ち着いてください。歩けないのは一時的ですので」

 

 メイド達はとにかくその場から動くな、という威圧を込めているようだ。見た目が可愛らしいので圧は殆ど感じない。代わりに冷たさが届いている。

 リヴェリアは落ち着いているが下半身に違和感があるようだ。レフィーヤに関しては試しに床に降りようとしてメイドに止められていた。

 自由に歩けないのであれば仕方がない、と諦めて寝台の上で食事を摂ることになった。

 態度は冷たいがメイド達は甲斐甲斐しくアリシア達の口に食事を運んだ。

 

「それとお三方はこの指輪を付けて下さい」

「これは身に着けている間、飲食不要の効果を(もたら)魔法道具(マジック・アイテム)です。ですが、効果が出るのは数時間先になりますので」

「飲食不要となっておりますが、あまり過信なさりませんように」

 

 装備は施設内に限ります、とメイドは言いながら素朴な造りの指輪をそれぞれに渡した。

 大きさは装備時に自動的に調整される。その様子に三人は驚いた。

 

 
 

 

 食事を終えるとメイド達は言葉少なめに片づけを始め、一礼して去って行った。

 しばし部屋に沈黙が降りる。

 リヴェリアは眠る前の事を知る者に尋ねようとしたが言葉が出てこなかった。

 それから数分と経たずに仮面を被ったキーノがやってきた。

 

「お加減は如何かな?」

「手厚い歓迎で満足している」

 

 と、リヴェリアが代表として答えた。

 それぞれの近くに歩み寄り見慣れない回復薬(ポーション)瓶を渡していく。

 それは毒々しい赤みがかった紫色。

 

「各自に選んでもらった魔法とスキルと武技の表だ。まだ検討したい場合は長時間拘束するから予定を作っておいてくれ。その時は私ではなく別の者が担当するかもしれないが……」

 

 キーノは大きめの封筒をそれぞれに渡した。

 【アストレア・ファミリア】は全団員だったので長時間の講習が出来たがリヴェリア達は【ロキ・ファミリア】に黙って来たようなものだ。長く拘束すれば心配されるだろう。

 先に使いたい位階魔法やスキルこと『特技(フィート)』と武技を少しだけならすぐに与える事が出来ると説明した。

 

「対価は受け取ったから勉強はいつでも受け付けられる。毎回対価を貰うわけではないので安心してほしい。……魔法とは関係ない知りたい情報があれば対価が発生するかもしれないが、位階魔法に関しては充分だと判断している」

「では、あの宣誓はどうなるのですか?」

「『改宗(コンバージョン)』したわけではないから勉強が終わったら脱退すればいい。一度脱退するとまた宣誓し直さなければならない。これはいつでもどこでも、というわけにはいかないからな」

「教えを乞う場合はお前に依頼を出せばいいのか?」

「基本はマーレ殿が窓口になっている。ギルドが不都合なら【ガネーシャ・ファミリア】で私を指名するといい。即座には無理かもしれないが対応する事を約束しよう」

 

 そして、キーノが所属する【ミディール・ファミリア】は無関係なので本拠(ホーム)に行っても無駄だと告げた。

 ナザリック地下大聖殿についてはキーノが個人的に関わっているだけで【ファミリア】は関与せず。ただし、主神ミディールは承知している。

 

「……ここの主は何者なのだ?」

「とある神……と言いたいところだが。異邦人が御方と呼ぶ者が関わっている。それを主と見做す事も出来るが……。秘密にしても仕方がないのであえて言うが、彼らは既にオラリオに居る。あちこち歩き回っているから運が良ければ出会うだろう。ただ、神と違って見ただけで分かるような存在感は持っていない」

「……何!?」

「あ、あの犬の頭のメイドが……」

「ペストーニャ殿だ。信仰系の使い手で、……どうしてあんな姿なのかは答えられない。私が見た時は最初からああだった」

 

 アリシアの質問に即座に答え、他に何か聞きたいことがあるか、と尋ねた。

 犬の頭、とリヴェリアは疑問を抱くがキーノは有無を言わさずに話しを流した。

 地上に返す時間を考慮しても長居はさせられないと言い、魔法の勉強を再開するとして質疑を打ち切った。

 

 
 

 

 リヴェリア達が気が付いた時は喫茶店の一室で多くの客で賑わっていた。

 下着姿だった筈だが気が付けば自分達の本来の装備をちゃんと聞いていた。いつの間に、と疑問を覚えるが不思議な気分だった。

 テーブルには少し厚めの封筒が置かれていた。

 

(……今まで私達は勉強をしていた筈だが)

(夢……じゃないよね)

 

 椅子から立ち上がると足腰の調子が戻っていた事に安心し、座り直す。

 無くなった物品が無いか三人はそれぞれ確認した後、封筒を手元に手繰り寄せる。

 キーノの事が夢でなければ資料と『巻物(スクロール)』が入っている筈だ。

 

「これで位階魔法を使えるようになったのか。……店内だから試す事は出来ないが……」

「私が試しに使ってみますね」

「ま、待て。店内だぞ」

「攻撃魔法ではありません。探知系の一つです。魔法探知(ディテクト・マジック)

 

 レフィーヤが唱えた瞬間、目の前で強大な魔力のオーラが現われて驚き、思わず眩しさに顔を覆う。

 それもその筈、その大きなオーラは敬愛する王族(ハイエルフ)のものだった。

 多少驚いたが、魔法の効果が正しく機能している事はなんとなく分かった。

 他の客も見てみると魔法職から大きなオーラが出ていた。――魔法職ではない者からも僅かではあるがオーラが出ていた。

 

(……本当に使えている)

「使えていますね」

「……そうか」

 

 心配するリヴェリアに対して申し訳なく思っていると効果時間が切れたのかオーラの感覚が無くなった。

 およそ二〇(メドル)の放射範囲を持つので店内に居る全員のオーラを確認できた事になる。

 『精神力(マインド)』の減り具合も資料にあった通り。

 

「……もう遅い時間のようだ。帰るぞ」

「……ロキになんて報告すれば……」

「………」

 

 口数が少なくなったアリシアは顔を青くしたまま。

 三人が本拠(ホーム)に帰宅すると玄関に主神ロキが仁王立ちしていた。

 普段は明るくお調子者の一面があるが本性は過激である。リヴェリアも長い付き合いがあるが今日ほど後ろめたい気持ちになった事は無い。

 

「まあ、色々言いたい事はあるんやけど、一週間トイレ掃除で勘弁したるわ」

「……すまない」

(遅かれ早かれ手を出すのは想定内だったんやけど……。一言欲しかった)

 

 アリシアとレフィーヤは王族(ハイエルフ)のお供として仕方がないと割り切れるがリヴェリアは別格なので安易に許すわけには行かない。

 それは主神としての立場であって個神的(こじんてき)には快く送り出したかった。

 ちなみに位階魔法の知識はロキも持っている。異邦人の事を前々から調べて居たり噂で聞いたりしていたので。

 ただし、彼らの真の目的というものは分からなかった。今でも胡散臭い奴らだと思っている。

 

 
 

 

 リヴェリア達が去ったナザリック地下大聖殿の玉座の間に黒い粘体(ウーズ)が蠢いていた。

 偶々(たまたま)様子見に来た至高の御方の一人――一柱と数えるべきか――だ。

 数人のメイド達が黒い粘体を囲みながら日常会話を繰り広げている。

 地上人が見れば(おぞ)ましい化け物にメイド達が扱いに困っているようにも。

 

「時間から解放されたというのにせわしなく活動していると思ったら……。でも、気持ちは分かるかな」

(ただ寝ているだけの生活はのんびりできるけれど退屈なんだな。だから、数百年もコールドスリープしてしまう癖がついちゃう。……起きたら何かしなきゃって思うから)

「またすぐ本星に戻られるのですか?」

「みんなの様子を見たら帰ろうかなって。ここでする事も無いし」

(ステータスの操作は久しぶりだったけれど、未だに機能しているのが凄い)

 

 黒い粘体は絶えず変形しているものの何処か人間的な愛嬌があった。

 今回、ナザリック地下大聖殿に来たのは目が覚めたから。それ以外に目的は無い。

 メイド達にとっては数世紀ぶりの邂逅だ。出来るだけ長く滞在してもらいたい気持ちがあったが不敬に当たると思ったので誰も口に出せなかった。

 彼女にとっては幾万年過ぎようとも崇拝すべき存在であった。そして、黒い粘体も新しい世界に興味が無いわけではない。人生を諦めるのは楽だが創作物にあったような異世界が見つかれば話しは変わる。忙しいのは苦手だが参加したくない程ではない。ただ、見た目が化け物なので地上に出るのは難しいと本人も理解している。

 

「モモンガさんとぶくぶくさんが参加しているなら僕も参加したくなるよ。でも、まだ連絡してないんだよね、僕が来ている事を」

(確か後二人ほど来ていたような……。キーノはさっき会ったし。アンティリーネは……会ってないか。いいなあ、地上満喫出来て)

「……スケジュールに忙殺されるわけでもないし。みんなが良ければしばらく滞在しようかな」

「それは是非」

「いと貴き至高の御方。我々は貴方様を歓迎いたします」

 

 メイド達が一斉に臣下の礼を取る。

 黒い粘体は食客の様な扱いでナザリック地下大聖殿の主ではない故の歓迎であった。

 真の主は何者か、と問われれば厳密にこの人だ、と定まっていないので女神エニュオでありキーノでもある、とも言える。

 キーノの名は第二の管理人として存在するが、厳密な支配者は女神を除けば誰も居ない事になる。

 彼女(キーノ)が最初の支配者になるのではないかと予想されていたが、インベリアを興すまではただの冒険者だ、と彼女は言い張っていた。

 




付録:作中に登場した魔法 12

魔法探知(ディテクト・マジック)

系統:占術
位階:魔力〈一〉、信仰〈一〉、その他(森祭司(ドルイド)吟遊詩人(バード))〈一〉
構成要素:音声、動作
距離:18m
効果範囲:円錐形の放射
持続時間:精神集中(最大1分×術者レベル)
●備考●
 魔法のオーラを探知する。


人間種束縛(ホールドパーソン)

系統:心術[強制][精神作用]
位階:魔力〈三〉、信仰〈二〉、その他(吟遊詩人(バード))〈二〉
構成要素:音声、動作、焦点/信仰(小さく真っ直ぐな鉄片)
距離:中距離(約30m+3m×術者レベル)
目標:人型生物1体
持続時間:10秒×術者レベル(解除可)
●備考●
 対象はその場で麻痺状態で立ち尽くす。意識はあり、呼吸も出来るが動けず喋れなくなる。対象が空を飛んでいれば落下し、泳いでいれば溺れる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。