『
十八階層までは探索する冒険者の数も多く、一人だけというのは珍しい部類に入る。
モンスターは冒険者が通る時に壁などから生まれ出る。それゆえにダンジョンそのものが敵と言われても不思議ではない。
階層ごとに現れるモンスターが決まっており、探索者たる冒険者は傾向と対策を練ってダンジョンに挑む。
「盾役はしっかり防御しろ。後方支援は密に」
敵が一体ならばミノタウロスとて勝てない相手ではないが集団戦となると様相が変わる。時には敗走も手段の一つだ。
指揮をするのは金髪の少女然とした冒険者で仮面をつけているが姿を晒せないわけではない。魔法効果が付与された
先の
彼らだけではなくあちこちの階層で戦闘訓練が
「お前がすべきことはしっかりとモンスターを倒し切る経験だ。ここまでパーティを組んで潜れたのは仲間が居るからだ。それがずっとそうであるとは限らない」
「はい」
「泥臭い事を卑下するな。生き汚くて結構だ。向上心を育てろ」
戦闘に参加している彼ら叱咤激励を切り返す。
駆け出しを育てるにはまず生き残らせなくてはならない。
戦闘を続け居れば【
【ステイタス】の数値が微増だとしても増やさなければ強くはなれない。それが『
下層に行く毎にモンスターの数が増え、多くの冒険者が行き交うダンジョンにおいて混戦が起きやすくなる。
一つのパーティを向かわせても生きて戻ってくる確率がどうしても低くなる。それを防ぐには第二級以上の冒険者に指導してもらうのが良い。
偶々所属する【ファミリア】に彼女のような第一級冒険者が居たので高額な料金を払わずに済んでいる。他は法外な金額を吹っ掛けられることが多いと聞く。
仮面の冒険者の名はキーノ・ファスリス・インベルン。幼い容姿だが実年齢は結構高い。
第一級冒険者にして指導役を快く引き受けたところから面倒見が良い事が窺える。――見た目は人を寄せ付け無さそうな印象を与えるが。
数十人規模の冒険者の指導を始めてから数か月が経った。
駆け出しから『ランクアップ』する者が出るのは非常にまれである。だが、序盤は【ステイタス】の伸びが良い事が知られているので一年と少しくらい経てば化ける者も現れるだろうと考えている。
キーノ自身は向上心はあまり無く、魔法の研究に余念が無い事を除けばダンジョン攻略にあまり乗り気ではない冒険者だ。
最初は暇潰しだった。
【ステイタス】や神の存在によって研究心が
最初は【アルテミス・ファミリア】に声を掛けられたが都市外の仕事が多いと聞いたので残念ながら断った。当時はダンジョンに存在する資源に興味が向いていたので。
(……冒険者の成長は一日千秋。やはり数をこなさなければ……)
今日指導した冒険者はおよそ十数人。【ステイタス】の伸びは様々。主神の機嫌も右往左往といったところ。
三か月ほど生き残っていればそれなりの成果が分かると思うが、それまでは毎日のようにモンスターを狩り続けなければならない。
人の成長は緩やかなものだ。即戦力など滅多に現れるものではない。
研究時間を削られている立場だが実のところ毎日が充実していた。
キーノの夢は自分の国を興すこと――だったのだが未熟な冒険者の育成がことのほか楽しかった。
かつての自分は臣民に直接触れ合ってきただろうか、と。
冒険者として名を馳せてもどこか満ち足りない。研究漬けの毎日も同様に。
【ミディール・ファミリア】の一員になってから結構な時が経つが念願かなって幸せを感じていた。見た目こそ不満そうだが。
長き時を生きてきた実績から冒険者ギルドの仕事もこなすようになり、神ウラノスと面会できるほど地位を獲得した。それゆえにオラリオやダンジョンの裏事情を知ることになったが、それは別に苦ではなかった。
ダンジョンの大穴を塞ぐように築かれた『
(……
大きな建物を作る場合、どうしても目立つ外観になる。地下空間の利用に関して一部の神々と話し合いがもたれ、ある程度の合意が成立してから随分と経った。
途中までは順調だったが要らぬ騒動のせいで計画が大幅に遅れる事態になったのはキーノにとっても寝耳に水。
気の長い依頼主であったからこそ穏便に済んでいるが、そうでなければ異邦人との抗争も起こっていたかもしれない。それを思うと今回の事件が何事もなく終息してくれて安心下した。
いずれ機会があれば世界のどこかに『インベリア』の国を作りたいと思っていたが今の世の中ではまだまだ無理そうだな、と
若い団員達が自己鍛錬に励む頃、キーノは一人でダンジョンに潜る。
第一級冒険者である彼女は現在三〇階層以下に行くことなど造作もなかった。さすがに階層主を単独討伐するのは目立つので事前に他の冒険者によって討伐された情報を得てから潜っている。――情報元はギルドだ。
何体かのモンスターを蹴散らしつつ
十八階層に存在する広大な地下空間は先日の戦いで焼け野原になっていた。それが今はダンジョンの自動修復効果によって以前の様相を取り戻そうとしている最中だった。
ここに拠点を構えていた冒険者も戻り、新たな建物も作られ始めている。
キーノは見ていなかったが地獄絵図と化していたとか。
それらを横目に通り過ぎ、更なる下層を目指す。
樹木の階層を抜けた先は水の都と評される二五階層。
四〇〇
(一度に来るのも一苦労だな。……途中に拠点はどうしても欲しいところだ)
ダンジョンには修復する力があり、壁を壊して様々な加工を施せばいいと思われるがモンスターの脅威があるため、実現に至っていない。しかし、理論上では可能らしい。
それと下層以降に潜れる冒険者の数がぐっと減るのも開発が進まない原因だ。
キーノは階層の外回りを目指して進んだ。
現れるモンスターは水棲生物が多く、稼げる物資も多くあるがそれらは無視した。
滝を避けるように入り組んだ通路を抜け、いくつかの広間を素通りする。ここまで冒険者の姿は無く、水の音くらいしか聞こえない。
下層以降まで潜れるのであれば秘密の拠点を制作する事も――やる気次第――不可能ではない。
(……モンスターが湧き出てこなければ有用なんだがな)
愚痴りつつ魔法で生み出した氷の短剣で現れるモンスターを切り裂く。
落ちる魔石は戦闘終了と共に回収する。これらは後で魔法の触媒実験に消費する。
小一時間ほどの移動で目的地が見えてきた。
ダンジョンの外殻とも言える場所にはたくさんの資材が置かれていた。これは【ガネーシャ・ファミリア】の団員がわざと置いたもので、こういう地点がいくつも点在している。
持ち帰ろうにも大荷物になるだけ。価値も無い。精々、寝泊まりする為の材料にする以外に使い道がない。
キーノは念のために周りの気配を確認してから壁に魔法を放つ。一度は崩れるが通常よりも早く修復してしまう。
修復速度が速い場所は他にもあり、未踏査であることが多い。その理由の多くは見た目で分からないところにある。
「〈
前方に突き出したキーノの
魔力系第五位階のこの魔法は彼女にとって必殺であった。今は邪魔な障害物相手に使う事が多い。
大きな穴が空き、修復される前に飛び込む。
壁の向こう側には新たな空間――通路がありキーノは迷いなく進む。振り返るまでもなく後方の壁が塞がったのが音で分かった。
二五階層の岩壁の向こう側の様子は自然物から人工物に変わった。誰の目にも人の手によって通路が作られたことが窺える。
この場所は冒険者ギルドでも神ウラノスに謁見できる立場の者くらいしか知り得ないだろう。
ダンジョンから湧き出るモンスターも通路からは出てこなくなるのは承知済みだ。――
キーノが向かうのは秘密裏に作られている『ナザリック地下大聖殿』と呼ばれる拠点だ。
ダンジョンのようにいくつかの階層を持ち、様々な研究が
彼女の記憶では建造が始まってから数百年の時が流れているが未だに完成していない。
理由としてはダンジョンの調査に時間がかかり、下層のモンスターが一般の冒険者にとって未だ脅威であった事も原因だ。
遅々として進まない建設作業だが発案者にとってはどうということもなく、急ぐ理由も無かった。これにはキーノも同様の見解を示している。
何より――この施設の建設には多くの『異形種』が関わっている。その事実はウラノスを含めた一部の神々によって秘匿されるべしとされたからだ。
「ただいま、みんな」
そうキーノが言うと地上ではモンスターと呼ばれるような者達が気さくに挨拶してきた。中にはダンジョン由来のものもおり、
現地の異形種たる彼らは『
未完成とは宿泊施設として使う事は出来るし、鍛練場もある。では、何に時間がかかっているのかと言えば外敵対策だ。
未完成ながらナザリック地下大聖殿にはある一柱の神が居る。その名は女神エニュオ。
留守がちな神だが
エニュオは穏やかな雰囲気を纏い、キーノと同様に仮面を被って佇むことが多い。
今のところ目立った命令を下したことは無いし、オラリオに対して敵対行動も示していない。
「お帰りなさいませ、インベルン様」
「ただいま」
各階層に顔を出していると掃除する
彼女達はこの拠点で寝泊まりする存在でモンスターに対しても何ら忌避感を抱かない。
キーノが不在の間は細かな指示出しなどを
そして、地下世界だが食料生産も盛んだ。水は湧く水を利用しているし、太陽光は魔法の力でどうにかしている。
資料室で読書したい気持ちが湧いたが地上の仕事で忙しくなった今は諦めるしかない、とキーノは残念に思いつつ自分に与えられた執務室に向かう。
ナザリック地下大聖殿の全長はオラリオより大きいかもしれないし、全高は『
これだけのものを完成させるとなれば五〇〇年はかかるのでは、と試算された事がある。
資材調達に設計。地上に気付かれず、となれば難易度は格段に上がっていく。
もし神にすら秘密にするとなればもっと時間がかかっていた筈だ。――それはそれで別に困らないけれど。
人材の面でも当初は自前だったがウラノスの協力が得られたので――気持ち的にだが――幾分か楽になった。
大規模な拠点をキーノ一人が設計したわけではなく、基本構造がそもそも存在した。それを元に建造しているだけだ。そして、それを成さそうと考えたのも彼女ではないし、エニュオという正体不明の神でもない。
(……地盤の崩落は無し。湧き水の管理も順調。……
必要書類に目を通した後、確認の判を押せば仕事は終わりだ。
定期的に様子を見る以外は施設を自由に散策できる。ここは下界の住民が思うほど物騒なところではない、のだが
元より出自が怪しい異邦人のする事なので今更な気がするけれど、とキーノはため息をつく。
冒険者に開放したくても
地上世界の文化を学ぶことが本来の任務だが、地下空間に大規模うな施設を作るのは永住する者達の為だ。それには現地の協力者が必要で今は神と
異邦人にとってダンジョンの攻略や『三大
滅びに向かう世界を救う手伝いをする代わりに『ナザリック地下大聖殿』を置き、歴史を共に紡いでいく。ついでにキーノはどこかに自分の国を作りたい、と思っている。
これを侵略と取るかは現地が判断する事になるが神々は友人として受け入れてくれた。何だか面白そうな気がする、と。
世界を見つけるたびに自分達の拠点となる施設を置き、現地に根を下ろす。そして、宇宙を旅してきた。キーノは相乗りの様なもので異邦人の真の目的とはまた違うのだが――
いや、そうではない。
「………」
彼女は目蓋を閉じて瞑想状態に入る。これは本来ならば減少した――
意識を暗闇へ。闇に意図的に没すると額に第三の目のような文様が浮き出てきた。
本来、キーノにこのような能力は無く、後天的なものだ。
(……この地に未だ同胞の覚醒は無し。……予兆も感じられない)
必要な情報を得ると額の文様が消えた。
意識を委ねると人格が切り替わる。キーノに相乗りする
それからキーノの国造りはあくまで建前であって日々充実していれば満足する。目標があった方が活動意欲が湧いてくる。だから、そういう風に人生を謳歌していた。
報告書や必要な事を終えた後はじっくりと研究と読書の時間に使う。
元々研究肌であるキーノは魔石やダンジョン由来の物資に興味があった。いや、彼女がそれを除いていたから今の自分もそれに
キーノであってキーノではない。であれば彼女は何者なのか。
それが世の中に公表される時がきっと――などと
地上に戻れば冒険者として活動する。神との契約を交わした以上、仕事を疎かにはしない。
この地での彼女の目的は拠点や国造りも大事ではあるのだが、日々を生きる者達の手伝いをする事だ。研究などはあくまで趣味。そこはちゃんと割り切っている。
数日の滞在の後、地上に戻れば後進の育成の再開だ。
この星に降り立った多くの異邦人の目的の一つに楽しく過ごすこと、がある。
程度の差こそあれ、それぞれ充実した毎日を送っているらしい。
滞在最終日、戦闘訓練などを
両手に盾を装備している女騎士はヴクヴ・チャガマ。
来てはいけない理由は無いけれど久しぶりに見る知り合いに驚いてしまった。
(……まあ、最高戦力が集えば黒竜討伐も容易かもしれない。……けれども、それはこの世界に過度な干渉をすることになるのでは? 人ごみに紛れる程度であれば何も言えないけれど)
ただでさえ異邦人は基礎となる【ステイタス】が一般の冒険者より高い。それゆえに前面に立たないようにしている。中には忠告を無視している者も居るけれど。――ちなみにキーノは【ステイタス】をここ数百年更新していない。そもそも彼女が長命の存在であることを知っているのは神々だけ。
決定権は彼らが握っている。目立とうと彼らの責任だ。好きにすればいい、とキーノは呆れつつ地上に戻る準備を始める。
そして、地上に戻る時、何人かの
彼らと別れたキーノはダンジョンに戻り、地上を目指す。
今は長い出来ないが、いずれは一か月ほど研究三昧と洒落込みたい。そんな気持ちを抱きつつ地上の
〈
系統:力術[電気]
位階:魔力〈五〉
構成要素:音声、動作、物質(銅製かつ金製の小さな球体1つ)
距離:長距離(約120m+12m×術者レベル)
効果範囲:幅5m×長さ30mの直線状
持続時間:瞬間
●備考●
術者は『
キーノ・ファスリス・インベルン | |||
|---|---|---|---|
| 所属 | 【ミディール・ファミリア】 | 種族 | |
| 職業 | 冒険者 | 到達階層 | 41階層 |
| 装備 | 所持金 | 7260004200ヴァリス | |
ステイタス | Lv.5 | ||
| 力 | E443 | 耐久 | B709 |
| 器用 | A752 | 敏捷 | D586 |
| 魔力 | S937 | 精癒 | F |
| 魔導 | E | 耐異常 | D |
| 魔防 | D | ||
魔法 | |
|---|---|
| 位階魔法 | ・魔力系第五位階相当。 |
スキル | |
・受けたり見たりしたあらゆる魔法を一つだけ蓄積し、自分の魔法として行使する事が出来る。 | |
装備 | |
・100 | |