ダンジョン・フラグメント   作:トラロック

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それは遥か彼方の静穏の夢
06 月下福音


 迷宮都市(オラリオ)からかなり離れた場所にある村にて七歳になる白髪の少年は深紅(ルベライト)の瞳を輝かせながら祖父が与えた冒険譚を読み耽る。

 様々な神話、伝説に登場する英雄に憧れを抱く。勿論、物語(ストーリー)も何度も読み返して理解を深めていく。

 一番と言える英雄は居ない。皆すごくて、それぞれ好きになっていった。

 各物語に登場するすべての英雄には成り立ちがあり、成長過程を娯楽として学んでいく。

 祖父からそうしてああしろと言われたわけではないが、自然と文字を覚えていつか自分も英雄になりたい、と思うのは子供であれば自然な事と言える。

 夢も希望も無い場所も無くはないが、少なくとも彼の近くにはまだ夢があった。

 両親は祖父から死んだと告げられ、二人暮らしだったがこのところ祖父の姿が見えない。度々、農作業に出かける事があるが帰ってこなかった事は無かった。

 白い髪の少年もまた外で遊び回る元気な男の子だったが村長からある日突然、祖父が事故で無くなった、のではないかと告げられる。

 少年は唐突に天涯孤独となった。だが、村人の協力もあり、衣食住については従来通り続けられる。

 それからしばらくして独り立ちする時まで彼は自己鍛練に励むようになった。けれども、教わる対象が居ないので剣術も形だけ。

 もうすぐ八歳になろうかという時、彼の家に二人の大人がやってきた。

 一人は武骨で背の高い男。農作業するには厳つすぎる迫力に少年はしり込みした。

 もう一人は両の目蓋を閉じたまま佇む灰色の長い髪の女性だった。

 二人に共通するのは露出している肌にやけどの跡があること。特に女性の方は顔の多くが赤く焼け爛れているように見えた。ただ、皮膚の()()――溶け落ちたような――は認められない。

 

「お前が……ベル・クラネルか」

「は、はい」

 

 玲瓏な声色で女性は言った。

 冷徹でありながら強さを感じさせる。正しく強者の風格を持った人間(ヒューマン)だ。

 彼らは祖父の知り合いでしばらく同居する、とほぼ一方的な言い分で少年の家に入った。

 祖父との二人暮らしの為、狭い家屋だが彼らが入ったことでより窮屈に感じられた。

 

「我々は隠居生活をするが、お前に何かをさせる気は無い。やる気があれば手伝う程度だ」

「……盗賊、ではないですよね?」

 

 盗賊に盗賊ですか、と尋ねるとおかしなことだが少年としては僅かでも生き残るための苦肉の策を演じた。

 見ず知らずの大人で勝ち目があるとは思えないような相手だ。子供に出来る事などたかが知れる。だから、ベルも子供らしく対応するしか出来なかった。

 盗賊呼ばわりされた大人たちは軽く苦笑したようだ。

 

「この家を乗っ取る賊と言えばそうだな。人質として振舞ってみるか? 私ら二人は第一級冒険者だ。魔法の一つでも披露すればこの村一つ程度、すぐに更地に出来るぞ」

 

 ベルも冒険者について色々と学んでいた。

 第一級冒険者は彼にとっては英雄も同義だ。真偽のほどは分からないが敵対すれば確かに村くらいは吹き飛ばしそうだ、と。

 

「俺は隣りに家でも建てるよ。……あいつの息子にしては可愛すぎるな」

 

 顔に傷のある大男は苦笑をしながら家から出て行った。

 彼は自分の父親の知り合いか、それとも何らかの情報を持っているのか、と考えようとして目の前に居座る女性が急接近してきた。

 彼女は両手でベルの頬を挟み、顔を自分に向けさせた。その力は彼の抵抗をものともしないものだった。

 

(……あれ? ヤケドが……無くなった?)

 

 酷い炎症に見えたのに何の傷害も無い綺麗な(かんばせ)が近くにある。

 白い肌で鼻筋が真っ直ぐの非常に整った彼女の風貌に思わず頬が赤らむ。

 

「お前、母の事は覚えているか?」

「……いいえ」

「なら、今日から私を母と呼べ。さっきの奴は気にしなくていい」

 

 唐突の命令に思わずベルは呻いた。

 今日は唐突な事が続くな、と。

 そして、この日を境に奇妙な同居生活が始まる事となった。――奇妙というのはベルの所感だが。

 

 
 

 

 三日と経たず隣りにザルドおじさんの家が建った。

 ザルドと言うのは顔に傷のある大人の男性の事だ。

 彼は祖父の知り合いで、女性の方は()()()アルフィア・クラネルと名乗った。詳しく聞けばベルの実の母の双子の姉だという。なら、おばさんでは、と言うとした途端に極寒の気配がベルを包んだので、お母さん呼びする事になった。

 歳は二四。まだうら若き女だ、と言い張った。

 

(……()()()お母さんはメーテリア。僕と同じ白い髪。瞳は緑色か……)

 

 アルフィアの瞳は緑と灰色の色違いだが普段は目蓋を閉じた容貌で佇む。聞けばこの方が楽だから、と。

 それと周りはちゃんと見えているとも。

 ちなみにザルドはおじさん呼びでも怒ったりしなかった。好きに呼べ、とだけ。

 二人は外に出る時だけ酷い火傷の顔になる。どういう風になっているのか、気になったが秘密だ、と言われて教えてもらえなかった。

 子供一人の生活は何かと不安だったが二人は食事と風呂の用意をする以外は特にベルに命令する事は無かった。

 勉強をしろとも戦い方を教えるでもない。

 村人の協力もあり、ベルは健やかに過ごせた。野山を駆け回る元気な身体に恵まれ、祖父と共にそれなりに生活できていた。それがつい先日から劇的に変わってしまった。

 男手一つで育ったためにベルは一人でも割と平気なようだった、とアルフィアから見た彼の印象だ。

 

(……七歳、もうすぐ八か……。これといった病状は確認できないが……メーテリアは賭けに勝ったのだな)

 

 姿を確認できただけでアルフィアの目的ほぼ達成されている。だが、生きている上で欲が出るものだ。

 ベルの将来について、だとか。

 英雄譚の書物が多いから遅かれ早かれ冒険者を目指すのではないか、と危惧する。だが、選ぶのは少年だ。何を選択しようとも自分は尊重しよう、と心に決める。

 アルフィアもザルドも充分な蓄えがあるのでこのまま余生を過ごす事自体は問題ない。

 

(どこかでゼウスとヘラを見つけ出さねば……。あの糞爺を見つけて私は自制できるだろうか)

 

 おそらく顔を見た瞬間に攻撃魔法を放つ自信がある。

 ヘラには強烈なビンタだ。いくつかの山を貫通するかもしれないが奴ら(神々)にとっては些事だろう、と。

 それよりもベルを都会に留学させるべきか、冒険者としていくつか助言すべきか。アルフィアは少しだけ人生に楽しみを見い出した。それと(メーテリア)についても。

 

 
 

 

 慎ましやかな生活を続けて早数年が過ぎた。その間、地上進出したモンスターが村に襲い掛かってくることもあったがアルフィア達が軽く手を振るだけで吹き飛ばされ、今のところ村は平和を謳歌できていた。

 少年ベルもザルドに簡単な剣術と肉体鍛練の手ほどきを受け、ちょっとしたことで泣かない男の子になった。というよりもアルフィア達の異次元の力にこの頃憧れを抱き始めた。

 彼にとって二人は英雄そのもの。いつか自分もそうなれたらな、と淡い思いを抱く。

 ある日、日課の鍛練と農作業を終えたベルはアルフィアに魔法が使いたいと言った。

 

「魔法は本人の資質がものをいう。こればかりは努力でどうにかなるものではない。例え冒険者になれても魔法が発現するとは限らないからだ」

「他の冒険者はどうやって身に着けるの?」

「それは……生まれた種族に依ったり、だな。私は初期から発現したから使えた。多くは本人の才能に因んだものが発現する傾向にある。あれが使いたいとか願っても難しいぞ」

 

 もちろん、憧れが人一番強ければ望んだ力を得る事も無い事は無い、と。

 ベルは成長するにしたがって外界に興味を馳せていった。具体的には迷宮都市(オラリオ)に。

 このまま村人として過ごせば平穏無事でいる事が出来る。けれども憧れを持つ少年をいつまでも留め置く事はアルフィアでも難しい。

 齢三〇になる孤高の女王は彼を子ども扱いする事を――そろそろ――やめようかと考えていた。

 村に住むのは自分達でベルについては勝手にすればいい。と、素っ気無く放任できれば気が楽なのだが――

 妹の忘れ形見である彼を見殺しに出来るとは思えなかった。

 少し前までオラリオを滅ぼそうとしていた元凶の分際で、と自嘲する。

 

(……また背が伸びたか。代わりに私はどうだろうか。生き恥を晴らしている分際となったものの未練が再燃しつつある。……なんと傲慢な事か)

 

 とはいえ、この場に居るのは第三者の思惑に乗ったからだ。今更な問題を再燃させても詮無いこと。

 アルフィアは実り豊かな田畑の景色に顔を向ける。

 世界の多くは地上に進出したモンスターの脅威に晒されている。今も『竜の谷』では最後の討伐対象たる『隻眼の黒竜』の侵攻を多くの冒険者達が防いでいた。

 今一度冒険者として立つ事が許されるならば、この命を使う事も厭わない。だが、残るベルが気掛かりだった。

 表面的には放逐しているが内心では彼の事がとても大切で仕方がない。

 自分は代理母のような立場だが素直でかわいい甥っ子の事を幾分か好いているようだ。

 なあなあで五年以上も一緒に暮らしてみて愛着が強まったかもしれない。妹の子なのに――

 

 
 

 

 ベルが十三歳になる頃、村にモンスターがやってきた。

 村人総出で対処するも苦戦を強いられているようだ。元より一般人は冒険者のように神から力を与えられておらず、最弱のモンスターと言えども脅威には変わらない。

 遥か古代では『神の恩恵(ファルナ)』に頼らず、己の身一つで強大なモンスター共を屠ってきたという。

 アルフィア達はそんな時代に今一度立ち返らせようとした。かつて栄華を誇った人類の在りし日の姿に。

 現代の冒険者に敗北し、二人は命を落とした。それ自体は二人とも納得しているし、後悔はしていない。

 

(……ベルに会わなければ話しはそこで終わりだった。……そうだ。私は彼らに期待する事を諦めた。失望した。……それなのに)

 

 ベルの為に力を振るっている自分が居る。実に不可解だ。

 巻き込む形で連れてきたザルドも同じ気持ちを抱いていた。こちらはのんびり村人生活を続けて隠居も悪くないか、と思っていた。

 彼に関しては自由にさせているし、もはや関りを持つ事もどうでもいいとさえ。

 

「……どうした、ベル? もっと腰を入れて攻撃しろ。その程度で冒険者を志すとはとんだ甘ったれだな」

「は、はい!」

 

 硬い木の棒でモンスターと戦う少年。

 時に酷い怪我を負うがモンスターを何体かは倒せている。最初はよく泣いていた子供だったが僅かな期間で随分と見違えたものだ。

 もうすぐ十四か、と年月(としつき)が過ぎるのは早いものだ、と感慨深げにしつつ健康に育っているだけで充分だと思っていたが、更なる飛躍を見てみたくなった。

 才能のない妹から生まれた子供ではあるが、それはそれで構わない。

 彼は自分には無い健康な身体を持っている。アルフィアにとってはそれだけで大したものだった。

 

(……私は失う事が怖かった。彼はどうだろうか。充足した日常に胡坐(あぐら)をかいて危機に陥らないだろうか)

 

 大人の視点で見ても心配するだけ。であれば年の近い子と研鑽を積むことが出来ればベルも今以上に成長するのか。

 色々と模索するが自分は人の親というより根っから冒険者体質だったようだ。

 自虐的に苦笑し、村の為に力を振るう。それが例え一時しのぎに過ぎなくとも。

 

 
 

 

 モンスターの襲撃から村を守り切って一週間ほど経った。

 ベルは大きな怪我も無く村人の犠牲者も軽微で済んだがモンスターの襲撃はこれからも続くだろう事は容易に想像がつく。

 いつまでも防りに徹していても事態が好転するとは思えない。

 だが、今はそんな事より甥っ子との散策を楽しもうとアルフィアは近くの山にベルを連れていく。

 少し前にゼウスという厄介な(じじい)を魔法で吹き飛ばした影響で山が()()()()()()()()()()()()が――

 

「……そういえば」

 

 ベルの背が伸び、最初に会った時より目線の高さが違う。

 まだ少年の域だが気を抜けば追い抜かれそうだ、と。

 妹が見たらどんな顔をするだろうか。アルフィアは自然と笑みを形作る。

 

「来年、お前はオラリオに向かうそうだな」

「はい」

「……ならば私も行こう。付き添いではなく別々の派閥の冒険者として」

「えっ!?」

 

 アルフィアの言葉にベルは驚いた。

 村に残るものと思っていたし、もし可能であれば一緒に行こうと。

 彼女としては自分がベルと共に居るのは成長の妨げになるのでは、と危惧したからだ。もし、彼が誘ってくれれば共に歩んでも良い、と思わないでもない。

 

「ベルはこの村の英雄となるのだろう? ならば私を従えさせる程度には強くなってもらわなければ……。大いに期待しているぞ」

 

 一部、強調しながらベルに圧力をかける。

 誇大誇張くらい未来の英雄候補には些事に過ぎない。

 尊大なアルフィアの(げん)は昨日今日の話しではない。だから、彼は苦笑をもってありがとうございます、と言った。

 普段は火傷の顔で外に出るが今は二人だけ。本来の顔に戻し、アルフィアはベルの顔をしっかりと見据える。

 何度か思わず魔法により打撃を加えた事があったがすんでのところで殺さずに済んでいる。

 門出を祝うような大層なものは無く、彼女にしては珍しく言葉を探した。

 

「今の冒険者は夢も希望も期待も出来ない。ベルが思っている程華やかさは無いぞ。私の伝手で『学区』に行かせる事も出来るが……」

「いいです。僕は……冒険者になりたい」

「なら、行くがいい。元よりお前が決めた事に私がとやかく言う事ではなかったな」

 

 一生農民で過ごすより未知に思いを馳せる方が生き甲斐になる事もあるか、と。

 死人同然の我が身を顧みればベルの決意の方が何倍も夢で輝いて見える。

 普段は閉じている目蓋を開け、しっかりと甥っ子の姿を見つめる。

 

「よき出会いがあればいいな。……ふむ。ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか……と聞かれれば私は否と答える。……さて、ベルはどうだ?」

「出会いを求めるのはきっと……間違っていないと思います」

「……そうか。……ここが人生の分水嶺だ、ベル・クラネル。今からお前は私の敵だ。……いずれ絶対悪たる私を組み伏せ、従わせて見せろ。英雄になりたければそれくらいはやってもらうぞ?」

 

 普段は押さえている『魔力』を開放し、少年に更なる圧力をかける。

 元【ヘラ・ファミリア】の団員にしてレベル(セブン)の女王は(のたま)った。

 ともすれば後方に転びそうになるのを必死で耐える。

 普段の鍛練の成果、と言えればいいが偶々(たまたま)()が良かっただけとも思える。

 

(……本当に嫌になる。私は肝心なところで不器用になるとは。実に不甲斐ない。……それともこれが老いか?)

 

 子供の成長を楽しみにする母親の気持ちが味わえたかと思ったが、それはやはり幻想のようだった。

 元より自分の子ではない。よそよそしさが一歩前に出られなかった原因か、と。

 時が残酷に過ぎていく。ベルもいずれ大人になる。世の中の悪いところもたくさん見ることになるだろう。

 アルフィアは自分の事にはあまり頓着しないのだがベルの事になると調子が狂ってしまう。一時期はこれが母性か、と思ったものだ。

 気の迷いで自分の乳房を吸わせてみようかと思ったが病気に罹っていた身体ではかえって毒かと思って諦めた。その時は本当に残念に思った。今ならそんなことをしなくて良かったと思っているけれど。

 

 
 

 

 簡単な言葉のやり取りだけで終わってしまった。そして、ベルは十四歳になってオラリオへ旅立っていった。

 家はザルドに任せてアルフィアは彼と共に歩まず、別の方向に進むことにした。

 風の噂で【アルテミス・ファミリア】がモンスター相手に大攻勢をかけていると聞いたので様子見がてら向かう事にした。運が良ければ女神を手に入れる事かできる。そんな淡い算段も無きにしも非ず。

 必要最低限の荷物を背負い、驚異的な脚力に任せて地を駆ける。

 目指す地は『世界三大秘境』の一つ『エルソスの遺跡』――

 孤高の女王たる【静寂】アルフィア・クラネルの新たなる冒険が幕を上げた。しかし、道中は大層な異常事態(イレギュラー)が起きず、(すこぶ)る順調だった。未知に胸を躍らせる若手ではなく、老成した冒険者としての振る舞いが無為な様相を呈しているかのように。そして――

 ものの数日で現場に駆け付け、目的の女神を見つける。

 余計な些事にかかずらわなければ事態は性急に済む。いや、今のアルフィアにはそれが出来るようになった、というのが正しいか。無駄を排すれば彼女の旅などこんなものかもしれない。

 現場では夥しい数の黒きモンスターの群が居り、少数の冒険者が戦っていた。

 

「……休む暇は無さそうだな」

 

 疲れからか、思わず言葉が口に出た。

 第三者の登場にいち早く気づいたのは狩猟と貞潔を司る女神アルテミス。

 水色の長い髪に弓を携える彼女は灰色の女性に顔を向け、眉根を寄せる。

 

「そこの女神。手伝ってやろうか?」

「ありがたい申し出だが……、お主程の相手に払える対価があるかどうか」

 

 ものの数瞬でアルテミスは駆け付けた相手がアルフィアだと理解した。その上で首を縦に振る事を躊躇った。別に助けてもらいたくないわけではない。

 定住の地を持たない【アルテミス・ファミリア】の資産はそれほど多いとは言えないからだ。

 

「なに、私を眷族にしてくれればいい。……ヘラとは話しが付いている。あと、オラリオについてはもう過ぎた事だ。蒸し返す気は……、奴ら(冒険者)の態度次第だがな」

「……了解した。だが、良いのか? 貞潔の女神の眷族になるのだぞ?」

「恋人よりも子育てに興味が向いている。……私の甥っ子が冒険者になるそうでな。義理の母として成長を見守る義務があると思うのだが……。女神の意見としてはどうだ?」

「悠長に世間話しをする暇はないが……。眷族の成長は女神としても楽しみだ。そう思えば……。……なるほど、理解した。そうであるならば歓迎しよう」

 

 言うが早いかアルフィアは単身モンスターに突貫し、怒涛の勢いで殲滅にかかる。

 レベル(ツー)の冒険者を多く抱える【アルテミス・ファミリア】からすれば彼女の戦闘の苛烈さは次元が違って見えた。

 一つの魔法で吹き飛ばされるモンスターの数は今日眷族総出で倒した数に匹敵する。

 敵であれば恐ろしいが味方であればこんなに頼もしい存在は居ないだろう。

 ただ、万に匹敵するモンスターの大軍にはアルフィアも徒労を感じる。ゆえに新たな力を試す事にする。

 

「この辺りに人は住んで居ないな?」

「遺跡だからな。ほぼ住民は居ない。この大群の大元は遺跡の中に居るようだが、こやつらも無視できん」

「前哨戦としては(いささ)か骨が折れるが……。まあ、多少の苦戦も経験だ。私の射ち漏らしを重点的に狙え。まだ仲間ではないが、戦列に加わってやる」

 

 そう言った後、アルテミスからもアルフィアの邪魔にならないように、と命令する。

 一部はアルフィア、というか彼女の『二つ名』である【静寂】について知っており、どうしてここに居るのか。死んだはずでは、と囁かれるがまだ戦闘中なのでそれぞれ意識をモンスターに向ける。

 縦横無尽に駆け回るアルフィアの後方から漏れ出たモンスターに矢を射かける。もちろん、アルテミスも弓を(つが)える。

 それぞれが一定距離を保つところでアルフィアは軽く呼吸を整える。

 生前よりも身体が軽く、戦闘に何ら支障が無い事を再確認した。それはとても喜ばしい事なのだが、悪魔の様な奴らとの取引で素直に喜べないのが玉に瑕。

 

(……では、やろうか。まずは雑魚共を一掃するとしよう。……おーばーまじっく、といったか。スキルを贄として捧げた力……刮目して味わうがいい)

魔法三重効果範囲拡大化・(トリプレットワイデンマジック・)連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)

 

 胸の前で両手を合わせて魔法を唱えた。そして、ゆっくりと両手を広げると激しく明滅する稲光りが生まれた。

 魔力系第八位階の雷撃魔法をモンスターに向けて放つ。

 本来は二条の雷撃だがスキルにより六条に増え、更に規模が拡大した。その結果、たった一回の行使で数百のモンスターが灰燼と化した。

 現場の惨状を見てアルフィアは軽く呼気を吐きだす。思いのほか精神力(マインド)を消費する大魔法に放った自分でさえ少しばかり驚いた。

 手には未だ(いかづち)の感覚が残っていたが派手な攻撃魔法のなんと無慈悲な破壊力か、と呆れと恐れが一緒にやってきた。

 それと眩しく煩い魔法に少しばかり辟易する。が、高位の魔法はだいたい派手さと騒音に塗れているというからどうしようもない。

 軽く嘆息した後、もう一つの魔法の準備を始める。

 

魔法最強効果範囲拡大化・(マキシマイズワイデンマジック・)遅延爆発火球(ディレイ・ブラスト・ファイアボール)

 

 天に掲げた(てのひら)に火球を生み出す。それは瞬く間に巨大化し、目算で直径五(メドル)を優に超えた。不思議な事に――先の魔法も同様に――術者に何ら影響を及ぼさない。

 完成した火球を密度の高い所へ投擲する。

 この魔法は任意のタイミングで炸裂させる事が出来る。それゆえに多くのモンスターを巻き込み、そして、一瞬の閃光の後に大爆発した。

 

「………」

「……これも派手だな」

 

 弓を番えたアルテミスは口を開けつつ驚いていた。見ようによっては美しき(かんばせ)が崩れかけているようにも。

 戦闘中だった眷族達も爆音に耳を塞ぎつつ魔法が引き起こした現象に驚愕する。

 神であるアルテミスも知らない事はあるが、これは(いささ)か度が過ぎていた。

 

「あ、アルフィア! その魔法は何なのだ!」

「何と言われても見たままだ。……現場の被害が酷いが許せよ」

 

 感覚としては理解していたが惨状は予想外だった。だが、まだモンスターは残っている。

 今の魔法で勢いを削ぐことが出来たようだが殲滅にはまだ足りない。それに敵の規模の全貌がまだ見えない。

 

(……すげぇ)

(……【静寂】というより【騒音】とか【爆雷】じゃん)

 

 気を取り直した眷族達はアルフィアに驚きつつもそれぞれモンスターに立ち向かっていく。――個々の脅威はそれほどでもないが、とにかく数が多い。

 適性モンスターは黒い蠍型。鉱物の様な見た目でとにかく物量で襲い掛かってくる。

 一匹の大きさは大人一人分ほど。それが森の奥から夥しい数が攻めて来ていた。

 

 
 

 

 アルフィアの参戦により殲滅速度は格段に上がったが彼女が魔法を使うたびに眷族達が委縮する。なにせ、破壊力が桁違いに高く、何より(まぶ)しくて煩かった。

 発動させている当人も煩わしさを感じているが仕方がない、そういう魔法なのだから、と諦めていた。

 本来、彼女は第七位階までしか行使できないのだが、神々から与えられた【ステイタス】や先に発現していたスキル、それと能力を幾分か引き上げる魔法道具(マジックアイテム)のお陰で一段高い魔法を行使する事が出来ていた。

 自身が纏う魔法衣(バトル・ドレス)。薄絹の手袋の下にある指輪。現場に似つかわしくない装飾品の数々がそれに当たる。

 これらは数億ヴァリスで買い取ったが値段に相応しい――いや、それ以上の効果に満足している。

 当然、消費される精神力(マインド)も相応――体感的に通常の五倍から十倍――だが、今は苦にならない。もちろん、強がりだ。使うたびに眩暈(めまい)に似た感覚が襲ってくるが強い意志でねじ伏せている。

 

(……やはり、精神力(マインド)の消費が激しすぎる。乱発は……出来そうにないな。しかし、高位魔法だけはある威力だ)

 

 それとベルに見せなくて良かったかもしれない、と。

 驚いておしっこを漏らすか羨望の眼差しを向けるか。もし後者であれば冒険者を志していただろう。数年前であればこれからも健やかに暮らせよ、と言っていたところだ。

 だが、やはり彼には平穏な村の暮らしをさせてやりたかった。これは母親――義理とはいえ――としての気持ちかもしれない、と苦笑を滲ませる。

 もう彼は冒険者になるべく旅立った。であれば、少しでも露払いくらいはやらねば、とアルフィアは未来の英雄に思いを馳せる。

 

「アルテミス様。モンスターの数も減りましたし、遺跡に向かいましょう」

 

 【アルテミス・ファミリア】団長の女性レトゥーサの進言にアルテミスは頷いた。

 またまだ湧き出るモンスターを蹴散らしつつ眷族達に突入の命令を下す。

 敵の数に対し、冒険者の数はアルフィアを含めても二〇と少し。明らかに戦力が足りない。だが、迷宮都市(オラリオ)の外で活動している多くの【ファミリア】は遊撃に出られない。大半が国家を経営し、【アルテミス・ファミリア】のような活動をしている所は稀であった。――移動と言う意味では『学区』という例外があるが。

 無限とも言うべきモンスターを輩出する『エルソスの遺跡』に突入してすぐにモンスターの歓迎を受けた。

 これらはダンジョンのモンスターと同じく大元が生み出しているものと思われる。ゆえにそれを断たない限り戦いは終わらない。

 前方から襲ってくるものを蹴散らし、中心部に向かうと巨大なモンスターの姿が見えてきた。

 ゆうに一〇(メドル)を超える巨体。姿はやはり蠍型。

 アルテミスはそれに『アンタレス』と名付けた。

 

「……うわー、硬そう」

「あれを倒さないと宿に帰れないのか」

「取り巻きが生産されています!」

「総員大元に注意を払い、取り巻きの数を減らせ。あれは私がやる」

 

 言うが早いかアルテミスは矢をアンタレスに放った。それは見事に身体に刺さったのだが、何の痛痒も無いと言った感じだった。

 しかも傷が再生した。

 

(再生能力を持っているとか!)

(……レベル(ツー)の私達に倒せるの?)

 

 アンタレスから極太の光線が放たれアルテミス達に襲い掛かる。それぞれ懸命に避けたお陰で被害はほぼ無し。

 矢にも限りがある。このまま神の技をもってしても仕留められるか分からない。そうアルテミスは評した。

 弱点と思われる部分は一段と硬い外殻に守られている。

 攻撃力でいえば眷族達を結集させても足りない。このままでは全滅もあり得るし、敗北すれば被害が拡大してしまう。ここでアンタレスを見逃す事も出来ない。

 ゆえに絶体絶命である、と即座に結論を出す。

 

「……これは私達の仕事だが、アルフィア」

「分かっている。あれは私が仕留めよう」

「……恩に着る」

「……なに、もっと恩を売るのだからこれくらいは……。さて、聞いたな、お前達。もう少しばかり辛抱してもらうぞ」

 

 アルフィアは眷族達に指示を出す。団長を差し置くことについては主神の様子から諦めた。

 とっておきの魔法を使う、と宣言する。これは発動まで時間がかかり、その間身動きも取れないと説明する。

 完成するまで取り巻きを何とかしろ、と乱暴な言葉も交えられた。

 

「発動する時に合図を出す。巻き込まれないようにな。命に係わるぞ」

「聞いたな、お前達。ここが正念場だ!」

「おお!」

「了解!」

 

 アルフィアは立ち位置を確認し、待機場所を告げる。それから狩猟を司る眷族達の攻勢が再開した。

 主神アルテミスにはあまり前に出ないように、と心配した団長が声をかけるも攻撃の手を止める気は無いようだった。ただ、アルフィアからは敵の気を逸らすのであれば遠慮しなくていいと言った。

 まず団員達に魔法的な加護を与える。敵は基本的に物理攻撃が主体だが光線を撃ってくるところから迂闊に(ふところ)に飛び込むな、と。

 それから一呼吸を置いて意識を魔法に向ける。すると巨大な立体魔法陣がアルフィアの足元からせり上がる。

 魔法発動まで数分を擁し、その間彼女は攻撃に全く参加出来なくなる。更に妨害を受けると魔法は不発に終わってしまう。

 

「【静寂】の下には何人たりとも近づけさせるな!」

「光線の予兆を見逃すな。盾役は複数人で当たれ!」

 

 命令と攻撃が飛び交う。その間、アンタレスからも攻撃が来るが基本的にその場から動かないようだ。動けないのか、それとも何かを狙っているのかは分からない。

 総勢二〇人ばかりの狩人達と剣を構える月の女神は襲い来るモンスターを撃滅していく。

 一分がとても長く感じる。激しい構成に眷族達も怪我が多くなり、疲労も人一倍のしかかってくる。

 【アルテミス・ファミリア】はここに来るまで連戦を続けていた。限界が近くとも敗走せず戦い続けた。自分達が負ければ終わりだと理解していたから。

 無謀な行軍である事は主神も分かっていたが無理をしなければ多くを救えない。それゆえに眷族達には悪いと思いつつ命令を続けた。それも今日まで、と思いつつ。

 モンスターの一大攻勢を懸命にしのぎ、何人かケガで引き下がるも戦闘は継続出来ていた。そして、長く感じた時間の終わりが訪れる。

 

「……待たせた。後方に下がれ」

 

 孤高の女王からの待ちに待った指示が来た。レトゥーサは即座に眷族達を下がらせる。ただし、盾役だけは残った。

 最高のタイミングに合わせて攻撃を仕掛けられる恐れがあったからだ。だが、それもアルテミスの牽制によって救われる。

 強引に盾役を引っ張り上げた後で魔法が発動する。

 それはアルフィアとてまだ一日に一度しか使えない必殺。しかし、失敗したとしても()()()()の必殺を使えばいいだけ。

 放たれるのは精神力(マインド)を消費しない、回数限定の極大なる効果を持つ位階を超えた超位魔法――

 

黒き豊穣への貢(イア・シュブニグラス)

 

 禍々しい魔力がアルフィアの足元から溢れ、影のように広がっていく。そして、前方に居た大量のモンスターを即座に塵に変えた。ただ、アンタレスは危機を察知したのか、不動の姿勢から一転して強引に体勢を傾けて影を回避する。

 たった一回の魔法で遺跡を埋め尽くしていたモンスターが一掃されたがアンタレスにより再生産が始まる。

 

「……(おおよ)そ千は葬った筈だ」

 

 大小さまざまだったが千に届かなくとも数百匹は確実に倒せたはず、と彼女は感想を抱く。

 この魔法は単にモンスターを即死させる、だけではない。

 討伐した数に応じて召喚物に贄を捧げる魔法である。

 広い空間の上方に黒い球体が生成され始めたのをアルフィアは確認し、ほくそ笑む。同様に視線を上に向けていたのはアルテミス。こちらは驚愕と恐れをもって見据えていた。

 それはモンスターを生産するアンタレスも同様に気付いたようだ。

 現場に静寂が満ちる。

 直径にして二〇(メドル)ほど。それが落下し、広範囲に黒い染みを飛び散らせた。一見すると影にも見えなくもない。それほど真っ黒だった。

 被害を被ったモンスターは即座に塵に変わり、そして異変が生じる。

 多くのモンスターを贄として捧げ、黒い池から這い出てくるのはアンタレスに引けを取らない巨大な黒いモンスター。

 それは十を超える触手を持ち、全体的には丸い。五本の山羊のような足は巨体を支える為か、かなり太かった。

 

「お、お前達、下がれ。あれを直視するな!

 

 気が付いた主神が命令するも時すでに遅し。何人かの眷族は恐怖で尻もちをつき、涙を流していた。

 アルフィアはそれに気づいて動かない団員を後方に――少し乱暴に――投げ飛ばす。

 術者である彼女も平然としていられるわけもないが、他の者よりかは平常心を保てていた。

 

「メエエエェェェ!」

 

 泣き声こそ山羊のようだが見た目は異質だ。醜悪といってもいい。

 全高およそ二〇(メドル)。黒い球体に五本の脚を持ち、身体のいたる所から大きな口が開く異形のモンスター。

 見る者を恐怖に陥らせるには充分な見た目をしている。現に何人かの眷族は足腰を震わせ、失禁しながらも視線を逸らせないでいる。顔を逸らしたら命が無いのでは、という恐怖に陥っているからだ。

 神であるアルテミスも邪悪なモンスターに対して顔を顰めている。この地上に現れて良い存在ではないと身体で感じ取る。

 ふと、弓を持つ手が震えている事に気付き、一刻も早く退避しなければ何が起こるか分からない。そんな感覚に襲われる。

 騒然となる現場においてアルフィアだけは気丈に振舞っていた。

 

「仔山羊よ、モンスター共を蹂躙せよ」

「メエエエェェェ!」

 

 召喚者の命に従い、新たに現れたモンスター『黒い仔山羊(ダーク・ヤング)』はアンタレスに向けて進撃する。

 アンタレスはすかさず迎撃の為に極太の光線を放ったが黒い仔山羊(ダーク・ヤング)の表皮を貫く事は出来ず、進撃の足を止めるには至らなかった。

 周りから襲い来るモンスター達は驚異的な速度で振われる触手によって正に鎧袖一触であった。

 【アルテミス・ファミリア】の眷族達が放心状態に陥っている間にもモンスターの数はどんどん減っていき、最終目標たるアンタレスの下に黒い仔山羊(ダーク・ヤング)は苦も無くたどり着いた。

 触手攻撃を受け、身体が砕けるが驚異的な再生を果たすも追い付かない。

 二体の戦力には大きな開きがあるようだ。分は黒い仔山羊(ダーク・ヤング)にあり、まさに圧倒的。

 戦闘開始から数分と経たず、アンタレスは細々に飛び散り、あっさり塵へと還って行った。

 大元が居なくなった事で取り巻きのモンスター達も全て塵となった。

 

「……終わったようだ。さすがに切り札を切らなければ危うかったな。私も少し肝を冷やしたぞ」

「……それよりもだ、アルフィア。()()はどうするのだ」

 

 アルテミスが指差す()()とは黒い仔山羊(ダーク・ヤング)の事だ。

 召喚物たる黒い仔山羊(ダーク・ヤング)は一定時間を過ぎれば消える、という説明を受けたので、それをそのままアルテミスに告げる。残ったとしても召喚者の命令には忠実だ、と。

 見る者に恐怖心を与える(おぞ)ましい姿なのだが味方としてはとても優秀である。と、説明していた者が絶賛していたくらいだ。

 姿を除けば特殊能力などは無く、眷族達には早めの復帰を願うばかりだ。

 

 
 

 

 動ける者によって外の様子を探らせ、アンタレスの眷族達が軒並み消滅している事を確認し、事態が収束した事をアルテミスは宣言した。

 少数精鋭でも何とかなると思っていたが甘かった、と女神は今頃になって反省する。

 もし、アルフィアが来なければ多大な犠牲を払っていた事だろう。だからこそ感謝の意を示す事も厭わない。

 オラリオに混乱を招いた首謀者の一人だったが今は未来ある若者の為に力を注ぐと神の前で誓った。その言葉に嘘が無い事をアルテミスは眷族達の前で改めて認めた。

 

「それと約束通り私の眷族として迎え入れよう。全てを水に流す事は出来ないが……」

「構わない」

 

 反対意見も無いわけではないが主神が決めた事に団長のレトゥーサは渋々了承し、他の団員にも無理矢理納得してもらう事になった。

 一人、喚き散らす半森妖精(ハーフエルフ)の少女が居たが即座に口を塞がれた。

 水色の髪の彼女は最年少の眷族でアルテミスが広い育てた経緯から女神を母親のように慕っている。最近は他の神に影響されたのか、言動が過激になってきた事に頭を悩ませている。

 

「これから改宗(コンバージョン)を始める。お前達は周りの警備に当たれ」

「了解しました」

 

 レトゥーサが控えに残る以外は遺跡調査と外の警備にそれぞれ向かった。

 うるさい眷族が居なくなったところでアルテミスはアルフィアに向き直る。何があったのか聞く気にはなれないが助けに来てくれたことに改めて謝意を示す。

 アストレアとは違い正義ではなく貞潔を司る。それゆえに彼女は伴侶を得る気は無いのか、と尋ねてみた。即座に興味はないと返答された。

 そうか、と言って会話は終わった。

 アルフィアの綺麗な背中にアルテミスの血を一滴たらせば儀式は終わりだ。ただ、彼女に発現していた筈のスキルが見当たらない。

 

今世(こんせい)に蘇る代償として支払った。今の私には無用の長物だったからな」

「それは勿体ないな。新しくスキルが発現すると良いな」

「……愛する甥っ子の為になるようなものが欲しいが……。次代の英雄の為に今一度この命を使わせてもらおう」

 

 新たな決意を固めるアルフィアをアルテミスは背後から抱き締めた。

 言葉は無く、命を粗末にするものではない、と言いたかったが飲み込んだ。先の戦いで眷族達の窮地に自分のしている事に疑問を抱いたからだ。

 口では何とでも言えるが結局は犠牲を()いている。何とも不甲斐ない神だ、と自嘲気味に苦笑する。

 【アルテミス・ファミリア】の眷族となったアルフィアの【ステイタス】はスキルこそ消えているが他は今まで通り。――多少の増減があるが一番の変化は『魔力』の大幅減だろうか。

 

「よろしく、と言いたいところだが私はオラリオに向かおうと思っている」

「そうか。共に各地を巡らないのか」

「三〇を超えた今となっては地に足を付けたくなる。もし、助力を願うならば可能な限り手伝う事を約束しよう。それまでは好きにさせてもらうぞ、神アルテミス」

「……そなたの決意を変えるには骨が折れそうだな。いずれ我々もオラリオに向かおう。それまでは健やかに過ごせ、アルフィア」

 

 二人の会話が終わり、眷族達と改めて軽い挨拶をした後、アルフィアは立ち去った。ただ、遺跡に残った黒い仔山羊(ダーク・ヤング)は未だ健在。

 団長達で放置していて大丈夫なのか議論を交わしていたらモンスターが光りの粒子となって消滅した。

 その様子を茫然と眺めた後、脅威が去った、と眷族達は涙を流しながら喜び、それを見たアルテミスはこめかみを押さえながら呆れた。

 そんな女神だが気持ちは分からんでもない、と小さく呟いた。

 野営の時間になり、眷族達と共に夜空を見上げれば多くの星と大きな月が見えた。

 




付録:作中に登場した魔法 5

黒き豊穣への貢(イア・シュブニグラス)

系統:召喚術[招来]
位階:魔力〈超〉
構成要素:音声、動作
距離:30m
効果範囲:討伐数に応じて召喚されるクリーチャー
持続時間:20分×術者レベル
●備考●
 術者を中心に黒い影が広がり、それに触れたクリーチャーは死者生者問わず即座に即死させる。そして、死亡したクリーチャーの数に応じて最大五体の召喚物を招来する事が出来る。呼び出されるクリーチャーは『黒い仔山羊(ダーク・ヤング)』である。


連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)

系統:力術[電気]
位階:魔力〈八〉
構成要素:音声、動作、物質
距離:36m
効果範囲:長さ36mの直線状、半径18mの拡散
持続時間:瞬間
●備考●
 術者は『雷撃(ライトニング)』の効果を作り出し、二条の(ドラゴン)に似た雷撃を放つ。範囲内のクリーチャーおよび物体に対して、『電気』ダメージを与える。更に近くにクリーチャーが存在していたならば追加ダメージを与える。


遅延爆発火球(ディレイ・ブラスト・ファイアボール)

系統:力術[火]
位階:魔力〈八〉
構成要素:音声、動作、物質
距離:長距離(約120m+12m×術者レベル)
効果範囲:半径6mの拡散
持続時間:瞬間
●備考●
 『火球(ファイア・ボール)』と同様に爆発する火球1つを作り出す。この火球の爆発は最大1分ほど遅らせる事が出来る。投擲武器として使用する事が出来る。


CHARACTER 6
アルフィア・クラネル

所属
【アルテミス・ファミリア】
種族
人間(ヒューマン)

職業
冒険者
到達階層
71階層

装備
手甲(ガントレット)
所持金
3503000120ヴァリス

ステイタス
Lv.7
D612耐久G256
器用S999敏捷S999
魔力A850魔導
耐異常魔防
精癒覇光

魔法

サタナス・ヴェーリオン
・魔法により増幅された音を衝撃波として広範囲に放つ。

位階魔法
・魔力系第七位階相当。

スキル

  
装備

純白パンツ
・ベル・クラネルの似顔絵が刺繍された真っ白な女性用下着。

・使用済みとなれば市場価値はウン億ヴァリス。

・二枚目は妹用。


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