…その日八木家は忙しかった
それはオールマイトの後継者が自身が教師として携わる学校の受験に合格したからか、それとも
「…僕より忙しく慌ててどうするのさ、オールマイト。落ち着くことがまず大切じゃないかなぁ」
「だって、私の身内が高校に入るんだ…!喜びもあるが例えば学校ではどう接していくのが良いかとかいろんな心構えが必要だと考えるだけでいてもたってもいられないのだよっ…!!」
義息が雄英高校に合格したから喜んでいるからなのか、はたまた八木の姓を持って雄英高校に入学する事への様々な不安があるからか、とにかくバタバタとしていた
「…まあ色々問題はあるとは思うけど結局僕らの関係を知るのは先生方だけだ。それに他で何か問題があっても僕の方でのらりくらりと躱していくさ」
ハハハと爽やかに笑うオベロンに対して、オールマイトはやはり心配な事も多いのか苦い顔から表情を変えられないでいる、身振り手振りも慌ただしい。
それがまるで遥か昔の漫画にでてくる青い猫型ロボットが慌てるシーンに似てたのでオベロンは紅茶を優雅に飲むふりをして目線は一切オールマイトへ向けないようにしていた。
「それもそうだが…!ほら、学業のために用意するものとか…色々先生方に事情を説明することもあるだろう!?私達は!!」
「学校の準備は全て終わっているよ。必要なものは全部揃えたし、先生方への自己紹介も終えているしね」
「いつのまに…!?」
「受験が終わった時にね、簡単だったという煽りも込めて自己紹介してきたのさ」
煽ったのかよ、とオールマイトは顔を手で覆った。
「この際自己紹介していたのは良いが、それ印象最悪じゃないか?」
とオベロンに語りかけるもののオベロンの表情は怪訝なもので。
「実際のとこ本当に簡単ではあった」
「いくら治せるとはいえ、誰かの腕や足が甚大な怪我が入学までの過程で発生するのは最悪。最後のでかいやつを出す意味が分からない。」
「ヒーローは強さが正義、一番であるという形式を用意してるから強さだけしか持っていない碌でもない自称ヒーロー共が関門を通り抜けてこの社会に放たれる、どうにかしろ」
と、寧ろ言うべきことを言ってやったと一転笑った表情になった。相当不満だったのか暖かさを何も感じない綺麗な笑顔にオールマイトも後退する
「…だから実技試験考え直した方がいいのでは?と話し合いが起きていたのか、あれ君のせいか」
「さあ、どうかな」
どうやら話し合いまでには発展したらしい事実にオベロンは若干満足気に笑う。そんなオベロンを見てオールマイトも笑うしかなかった。といってもこちらの笑みは苦笑であるが
「とにかく今すべき事は特にないよ。オールマイトも教師として就くまで残り僅かだ。ゆっくり休みを取るのが一番じゃないかい?」
「確かにね…私も教師とか初めてだし、それに君が受かったこともあって少しはしゃいでしまっているようだ。」
「そうかい」
「あぁ、そうだとも」
お互いようやく目が合い、ふっと笑いを浮かべる。まあオールマイトの動きが愉快だったのでオベロンが目線を頑なに向けなかっただけだが。
オールマイトも落ち着いたのか向かいのソファに座る。オベロンが紅茶は?と問うと、貰うよと答えオベロンが紅茶を淹れる時間をゆったりと楽しんでいた
「…そういえば実技では相当な結果を出したそうじゃないか、当日来た受験生や見ていた先生方からの評判も非常に良かった。君が皆を導いていたと
撃破67、救出41の合計108P。撃破で負けているものの君は1位だ。2位と大きく差をつけての合格、流石だよ」
「救出?…あぁやっぱりあったのか。ヒーローの素質を図る最初の関門だからあるとは思っていたけれど」
「あぁヒーローとして生きる覚悟には前提として力が必要だがそれよりも誰かを助けるためのモノ、人として“ここ”が重要だ」
トントンとオールマイトは自身の心臓辺りを叩く
つまりは“心”が大切であると、オールマイトは遠回しに告げる。オベロンも概ね同じことを考えていたため、その通りだねと頷いた
「誰かを助けるために自身を犠牲にできる“自己犠牲”の心を持ったものこそ私達が求め、社会が求めるヒーローだ。そんな子達を不合格にすることなど出来ないからね」
「…まあそうでなくてはね、醜い心を持ったヒーローなんて吐き気がする」
とオベロンは目を逸らす。これまで数々のヒーローを見てきたこと、その多くに醜悪さがあったことを思い出し苛立ちを覚える。オールマイトも彼に共感しつつも、話題の転換としてそのオベロンが今回見せた実技試験の結果を満足げに語る
「ああだからこそ、君のこの成績はとても素晴らしいものなんだ。力と心を示した。それはとても誇れるものなんだ。無論私も親として誇らしいよ」
「ははは、よしてくれよ“心”なんて。僕は僕にできる事をしただけさ」
「…いいやそんなことないさ」
皮肉混じりに自身を語った彼を、オールマイトは笑って否定してみせた。卑下することなどないと彼の『眼』からも自身の想いが伝わるように
親として一ヒーローとして、君の行動は素晴らしかったのだと
本人からの反発もあるので、決して言葉に出さないものの
(君は、君が思ってるより優しい子だよ。オベロン)
この思いがオベロンに伝わる事を知っているからオールマイトは暖かな笑みを浮かべた。
当のオベロンは
「(…話が面倒臭い方にそれそうな気がしてやまない、この人褒める時無限に褒めてくるし…
なにか、話が逸れそうなことはーーー)」
と、オールマイトへの対応を考えているのだが
「…ところで後継者はどうだったんだい?」
「ゴフェッ」
「わあ汚い」
突然の発言にオールマイトは盛大に紅茶を口から吹き出し、オベロンは大袈裟に避けてみせた。ゴホゴホとオールマイトが咽せているが、オベロンは何かを考えている。
「最近僕と話す時良く溢すけど、まだ介護が必要な年でもないだろうに…
ああ高齢特有の病気を若年ながらも罹っているんだろうか、あるいは嚥下能力が著しく低下しているのだろうか、それに対して不安になるなぁと思う僕なのであった」
「…口に出てるよ、オベロン」
「おや、これは失礼」
と思ってもいない謝罪をしながらオベロンは台拭きを渡した。
何度私は驚かされれば良いのかと考えるも今ものんびりと紅茶を飲む目の前の義息を見て結局無駄だろうと考えを放棄した。
「それで、なぜ急に…」
「いや急に気になっただけさ。後継者が誰だか知らないが今回の試験にいるって話だったじゃないか」
オベロンはオールマイトがどういう状態であるかをすでに知っていた。それは養子として迎え入れられてからすぐに、恐らくオベロンの『眼』の前では嘘はつけないからこそ最初に伝えられたのだろう
「全盛期ほどの力はない」
「いつか、死ぬ」
「だからこそ、後継者を私は探しているんだ」
オベロンは最初に伝えられたソレを忘れたことはなかった。
そんな事を伝えられてから数年経ったある日
そうつい最近の事である、オールマイトが上機嫌で家に帰ってきたのである。いつも笑っているオールマイトではあるものの、流石に…と思ったオベロンが何があったかを聞くと
『いや、何でもないさ!!』
と誤魔化されたのだった。
おかげでさまでオベロンは不快になり苛立ちを態度に表すことで話させた
『で?俺は何があったか聞いてるんだけど』
『…いやぁ、凄く強い心を持った後継者に相応しい子を見つけてね、はい…』
との事、さらに問い詰めれば雄英高校に行こうとしているとか、オベロン色んな情報を聞き出すことに成功したのだった
そして実技試験を終えた今、そんな事を思い出したオベロンは話題を変えるにはもってこいだったため急に聞き出した
「で?どうだったんだい?」
「あぁ、合格したよ。救出ポイントだけでいえば君を超えた。誰よりも雄英の心を動かしてみせた」
「ふうん、僕を超えた、ねえ」
ともすれば誰が後継者かを想像するのは彼からすれば容易い事だった。実技試験当日、雄英の教師陣の心を動かしてみせた者はそう多くはない。その中でもヒーローの本質である“自己犠牲”の精神を誰よりも持っていたものこそ後継者であり、該当する者はオベロンは1人しか浮かばなかった。
『SMASH!!!!!!!!』
彼だ、彼なら合点がいくと、オベロンは推察した。どう見ても個性慣れしていない故の怪我、あの敵を一撃で降した他とは格が違う個性の力、0ポイントでありながらも動いた行動力。そして行動には意志が伴う。恐らくは他を助けるという意志があったはずだと当時の状況を思い出し、一つ一つ並べて考える。
そこでオベロンは考察をやめてオールマイトを見る!その彼はオベロンが考え込んでしまったせいでオロオロしている。
浅く溜息をつき、紅茶を一飲みしオベロンは確信を持ってオールマイトに話す
「…まあ仲良くやるさ、継承者は彼だろう?あのでかい敵を倒したモジャッとしたすごい怪我の」
どうやら当たっていたようで苦笑を浮かべ、流石だねと一言。考察が当たったオベロンはやっぱりねと浅く笑った
「急に考え込んだと思ったら、相変わらず頭が良いんだから…ああその通りさ。仲良くしてくれると嬉しいが君との関係は伝えていないから、そこは君にお任せするさ…出来ればサポートもしてあげてほしい」
「ああ、任せておくれよ。父の頼みだ、しっかりやってみせるとも」
「そういえば君、実技試験中は女の子とよく行動してたらしいけど友達かい?」
「ンゲフッ」
「オベロンッ!?」
「…そうとも!個性で援護をしていたら感謝をされてね、それからは友人さ!素敵な女の子でね…」
「…あ゛ぁ…でも、なんだってこんなことに。…ははははは素敵な笑顔だねオールマイトその笑顔すぐにやめて紅茶を飲むことにでも集中しててくれるかい?????」
「くっ…!………ハハハハ!すまないね…!君の取り乱す姿を見るなんて思わなくてっ…!
・・・あぁ、でも君のそんな姿を見れるとは何だか感慨深いなぁ…」
ピロン!!
『合格したよ!!オベロン君もしたよね、一緒に頑張ろうね!!!うおーー!!!』