ごめんなさい、いやほんとに
忙しかったんです。ほんとに
「…やあ、トオル」
「待ってたよ!!」
雄英高校、校門前。
私の前に白髪長身のいかにも王子様っぽい彼がやってきた。受験の日に一緒にがんばって、終わりには連絡先まで交換したオベロン君だ。
そもそも何故彼が私の前に来たかというと
それは昨日に彼に対し
『明日一緒にクラスまで行こうね!!校門で待ってるよ!!じゃおやすみ!!』
と少々強引だがメッセージを送り、さらに念を押すように昔々に流行ったという小さくて可愛い謎の生物が「貴様を待つ」という重々しいセリフを放った、テキスト編集可能の謎のスタンプを結構な量送りつけたからである
途中『ちょ、ま』と返信が送られてきていた気がするが、私は満足して睡眠へと向かった
結果としては上手くいったみたいで彼はしっかりと校門前に現れて、私を探し正面までやってきた
「君は勢いが凄いね、トオル」
「だって新生活だよ。ワクワクするね!」
「そういうことではないんだけども…」
そう、私はこれから始まる夢の高校生活への憧れが止められなかった。きっと素敵な友達ができる、沢山の経験、学びを得れると思うとこのワクワクは収まらない。そして私を見てくれる人も今度はいるのがなんとも新鮮で嬉しいものだ
「まあ、確かに新しい経験が待っているのはとても夢のあることだとも。だけど君、元気よすぎて逆に心配なんだけど大丈夫かい?」
「大丈夫だよ…!!ふふ!」
とサムズアップする、そんな私を見て少し困った顔をしながら彼は笑って「そうかい」と呟いた
「それじゃのんびり話しながら行こうか」
「うん」
そうして私達は、これから私たちが学んでいく場所1-Aを目指して進むのであった
オベロンの面白おかしい話をゆったりと聞きながら
「それにしても…ふふっ…!」
「ん?どうしたんだい?」
「オベロン君制服似合わないね…!あははは!!」
「…」
オベロン君がすっごい笑顔になった、こわい
「机に足をかけるな!
雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないのか!!」
「思わねーよ、てめーどこ中だ端役が!」
「(かっちゃんに…入試の時の怖い人!!)
ガラガラと私の理想の高校生活は壊れました。
しょぼしょぼとしていると
僕も不安になってきた、分かるとも
とオベロン君も困ったように笑う
扉開けて早々にこれだもんね、怖いよ怒鳴ってる人、と私の理想の高校生活に別れを告げ自分の座る席を探す
「んーと、あった!」
自分の座る席を見つけることができたのでオベロン君の席もついでに探しておく。オベロン君はモジャッとした感じの後ろで固まっていた男の子と話しているようだ
「あの時は素早い処置をしてくれたみたいで…!!」
「僕への感謝は不要さ。その分はリカバリーガールに。僕は自分にできることをしただけさ、君が無事で良かったとも」
と、どうやら受験の日の話をしているようだ。
よく見ればオベロン君が個性で眠らせていたあの子か、と記憶が蘇る。
あ、オベロン君一番後ろで私の隣だ、わーい。
「うわ、あの時の真っ白な王子様や…!!?」
「ん?君はーーー初めましてだね。
あの時彼と一緒にいたのかな?僕はオベロンさ、宜しくね」
私達が扉の近くにいるからなのかどんどん人数が増えていく。
オベロン君は手をスッとこちらへ向けると
「彼女は僕の友人さ」
とだけ彼らに伝えて私に視線を送る
きっと自己紹介の場を作ってくれたんだろうなぁとオベロン君に感謝しながらニッコリと満面の笑みを浮かべて私も答えるのだった、見えないけどね!!
「私の名前ははがく「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け」わあ不審者だ」
まあ、おじさんっぽい芋虫に妨害されたけどね
ぬぬと寝袋から這い出てくる
その全体的になんかくたびれている風貌はまさしく不審者で本当に雄英かと疑ってしまいたい
ガラガラと崩れていった私の理想の高校生活、さっきの自己紹介で少しずつ立て直してたのに…
また崩壊した、不審者もいるの?この高校…
「ハイ、静かになるまで8秒かかりました
時間は有限、君たちは合理性に欠くね」
「やあ、相澤じゃないか!以前はどうも、もしかして君が僕らの担任かい?」
「え?」
「先生」
「た、担任?」
「ああ、そこのオベロンの言うとおり担任の相澤消太だよろしくね」
その日一番の衝撃を私達は食らった。この人が“先生”であり“担任”であることは、あまりにインパクトが強く一種の(嬉しくない)サプライズなんじゃないかと思いたいほど否定したい現状がここにあった
その先生は寝袋の中をゴソゴソと探ったかと思うと中からジャージを取り出して一言
「さっそくだが、体操服着て外に出ろ」
「「「「」」」」
と私たちに伝えたのちにふらふらと教室を出ていった、そんな急に言われても誰も動けるはずもなく沈黙がこの教室を支配した
あまりに怒涛の展開すぎて誰もついていけていない。私も今声に出せるとしても「わ、わぁ…」ぐらいしか言えない
そんな中でもいつのまにか自分の席まで移動して準備を終えたのか
「おや、みんな固まってどうしたんだい?どうやら、先生も何かしたいみたいだし僕は先に向かっているね」
それじゃあね、と手を振ってオベロン君はさっさと更衣室に向かっていった
うん、そうだよね。言われたとおりにすべきだよね、すべきなんだけどーー
「早いよ、オベロン君!!」
そうして私達は急いで準備して向かうのであった
私の高校生活…本当に大丈夫かなぁ
「個性把握…テストォ!?」
「大丈夫じゃなさそう…」
「トオル、これからテストらしいけど元気はまだあるかい?ほらこれでも見て今朝の元気を取り戻して」
高校生活1日目、私達がすることはガイダンスや入学式、クラスメイド同士での自己紹介なんてことはなくグラウンドに出て個性把握テストなるものだそうです。
落ち込む私をオベロン君は心配してくれる、ありがとねオベロン君。でもなんでそんなニッコニコなの…
わあ光るちょうちょだ、ヒラヒラ飛んでる
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」
どうやら先程教室でオベロン君たちと話していた女の子も私と同じように、いやクラスメイト全員が思っている疑問だっただろう
本来入学初日に行うであろうことについて質問するも本当に行わないようで
それも、『ヒーローになるため』というのが理由なのだから私たちは納得するしかない
雄英は“自由”な校風が売り文句であり
先生たちもまた同じだという
上体起こしや反復横跳びといった
最早伝統と化している体力テストは文部科学省の怠慢である、らしい
平均を取り続ける行為は合理的ではないと
それは確かにと納得できてしまう内容で、これから行うテストも入学式よりもガイダンスをするよりも、私たちの今を確認することは何よりも必要であると理解する
「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった」
「67m」
「じゃあ“個性”使ってやってみろ、円から出なけりゃ何してもいい、早よ」
そして目の前のあの怖いクラスメイトが見せた結果
「死ねぇ!!!」
ボールは爆風に乗って遙へと吹き飛んだ、「死ねぇ」は流石に怖いけど…その記録は705.2m。先程67mといった彼の記録とはかけ離れていて、個性使用時と不使用時の差がいかに大きいかがわかる。正しい自分の力をどれだけ知れていないかが結果として目に見えている。
自分の力を正しく知る必要性はいうまでもないだろう、私の個性が体力テストに大きく影響を与えるかは分からないけど、このテストは本気で挑まなきゃと強く思った
「705mってマジかよ!」
「なんだこれすげー面白そう!!」
「頑張ろうね、オベロン君!!」
「ちなみに他のクラスは入学式もガイダンスもあるよ、トオル」
「ゥワ…」
「うーん、ダメかもしれないかな?」
「面白そう、ね。それにそこの男女2人、気合いはいいがテストに集中しないで話し込んで…
ヒーローになるための3年間、そんな腹づもりでいるのか?」
あ、私たちの事だ…何か嫌な予感がする
先生の雰囲気が大きく変わったのを感じる
「よし、トータル成績最下位のものとこのテストに真剣に望まなかったものは除籍処分としよう」
「はああああ!!!?」
クラスメイトの叫びがグラウンドに響く
苦労して入学した初日に退学にされるなんてことはあってはならない、そんな事があれば周囲からの目も痛く、自分の自信さえ折れるだろう
私を含めて大半の生徒は混乱と焦りに支配される
「最下位除籍って、入学初日ですよ!?
いや初日じゃなくとも理不尽すぎる!」
「(私とオベロン君なんてほぼ指名のようなものだ…!)」
同じ女の子が同じように抗議するもの軽く躱される。
自然災害や大事故、そして敵達
突然の苦難にまみれている日本
そういったものを余さず救うのがヒーロー
だからこそ私たちに与えられるのは私が思い描いていたような“夢”のような高校生活ではなく
苦難あって限界を、全力を超える生活だと
“Plus Ulutra”が求められているのだと先生は語った
「さてデモンストレーションは終わり
こっからが本番だ」
ある意味激励となったその言葉に皆の顔が引き締まる。私も覚悟はできても心のどこかで大丈夫だろうか、ヒーローになる事もできないまま終わってしまはないだろうか、そんな暗い考え浮かび積もっていく
「へえ、本気だね。相澤」
「……ぇえ?」
ただ、普段をまだそんなによく知らない私でもわかる、この人は普段通りだ。オベロン君は今の発言に何も感じていない
「(平坦すぎる、除籍されるかもしれないのに)」
あまりにも物事に対して達観しすぎている
そんな印象を抱かざるを得ない
「…変わらず気楽そうだな。お前がいくら実技TOPといえども除籍は容赦なく行うぞ、オベロン」
「ああ是非そうしてくれたまえ、僕はいつだって大真面目さ。手は抜かない、このテストも結果を出して見せよう」
「「「実技TOP!?」」」
「…あいつが…!!?」
その言葉に皆が反応する、特に爆発頭の人
私もその事実を知るのは初めてで驚きを隠せなかった
「…オベロン君、あの日1位だったの…?」
「ああ、そうだとも」
まあ、たまたまさ
とだけオベロン君は話し、いつも通りの笑みを浮かべる。
そう、私は忘れていた。オベロン君はあの日周囲にいた人に援護しながら誰の手も借りずあの敵達を薙ぎ倒していたんだ
一呼吸も乱れず、汗も流さずそれが当たり前であるかのように
あの日一番近くにいた私だからこそ分かる、あの異常さに。
「成績TOPであるのならそれなりの結果は見せろよ、オベロン?」
「あぁ、約束しよう」
そこで先生とオベロン君の会話の応酬は終わった
両方笑って相対しているが挑発的なものともう一方はただ爽やかにいつも通りにしている
その何処までも在り方が変わらないオベロン君に私はゾクっと何処か寒気を感じるのだった
「では、まずは50m走だ」
そして今、私達の除籍がかけられた体力テストが開始された