『3秒04!』
第1種目 50m走
ついに始まった個性把握テストという名の体力測定を皆が真剣に行なっている。おそらく退学がかかっているからだろう、確かに恐ろしいことなので真剣に少しでも良い結果を出そうと望むのが正しい。
「(僕としては結果が良くても悪くてもどちらでも構わないし真面目にはやるけどね?…ただ)」
「「「「……‼︎」」」」
「はぁ…僕の人気にも困ったものだ。そんなに見られても何もないんだけどなぁ」
先程の相澤との会話によってオベロンへの注目度が大変上がってしまっている。
ジッと見つめられてしまっては本来のパフォーマンスもあまり出せないかもなあ
なんてまるで思ってもいないことを頭に浮かべる。実技試験TOPなんていう肩書きはそんなに凄いものだろうか?とオベロンは試験当日を思い返す。
現れる仮想敵を撃破して
周囲で何かあれば即座に援護に入って
場合によっては周りを強化した
それが本当にすごいことだったのか、と疑問を浮かべる。オベロンはそれを難しいことだとは思っていない。
普通。やれるかはやった。それだけの事だったとしか思えなかった。
ただそれはあくまでオベロンの主観
一受験者というには逸脱した援護、ヒーローと遜色ない…否、プロすらも超える殲滅力。
その姿を見ていた受験者、教職員は皆「別格」と認識した。
それゆえに最優秀。ならば注目されることもまた普通で当然なのだ
それを知らぬオベロンは試験の結果など頭からパッと追い払い今やるべき事をどうするかを考える
なにせオベロンはこのテストの結果が優れたものであることを『約束しよう』なんて発言をしているのだから。オベロンとしては頑張る以外道はない
だが、オベロンの力は爆発的な加速ができるわけでもなければ、超強力な一撃が出せるわけではない。
(いや、出来なくはないな…まあ…)
そんな可能性より今の自分ができる事で何を為せるかの方が重要だ。
故にどうすべきかを考える、この光を出してどうする?蝶を出してどうする?その先をどう動くべきか、とその事に少し悩むが
「ま、僕にできる範囲でやろうか」
とりあえずできる事を真面目にやるというスタンスに落ち着きオベロンは光の蝶をささやかに羽ばたかせ、スタートラインに立った
それと同時にオベロンの隣にもう1人ラインに立つ
「よろしく!!」
「…あぁ、よろしく頼むよ!」
振る舞いから活発的だと分かる触角と桃色の肌が特徴的な女の子、芦戸三奈はずいっと手を出す。オベロンは特に変わらぬ様子でニコッと笑って握手に応じる
「にしても…あの試験のTOPと一緒に走るのかぁ…」
「大丈夫さ。実は…僕も緊張していてね?」
「やっぱり!凄い人でもこういう時は緊張しちゃうんだね!!」
「凄くなんてないさ、ただ機会に恵まれただけでね」
「はじめんぞー」
遠くから相澤の声が2人に届く
では、話はまた後で
とオベロンは体勢を整え、それに合わせ少女もまた姿勢を低く、浅く呼吸を整えて走るための準備を終えた
パンッ!!!
と弾ける音が響いた。それと同時にオベロンも芦戸も2人ともほぼ同時に地面をかけ始める
「(…あれ、案外普通?)」
「さて、ここからだ!」
芦戸があまりにも普通なオベロンのスタートダッシュに疑問を抱いた同タイミングでオベロンの身体を光が包み込んだ。瞬間オベロンは突然加速する
至って普通は瞬く間に、圧倒的へと変わる
「え!?」
「はやっ!?」
「なんなんだあの個性…エンジンのような加速じゃなくてもっと別の何かを利用したような急な加速だった。それよりもその前のオベロン君の身体が光った瞬間の身体能力の上がり方もそうだ…」
「…あいつ、俺と似た個性か?」
あまりに初速とかけ離れた現在の速さに待機していたクラスメイトも目が離せていない
踏み込むごとに加速は増し同時に走っていた芦戸とは既に30m近く離れていた
そうして、観ている者たちが瞬きを終え、次にオベロンを捉えた時すでに
「さぁて、タイムはどのくらいかな」
ゴールまで駆け抜けてタイムを告げられていた
オベロン 50m走
3秒72!!!
「ふむ、流石に彼のような速さが売りの個性には届かないか」
「はぁ…はぁ…ーーー君、速すぎじゃない??」
「まあ、あれだけ言ったからね。当然というものさ」
遅れてゴールに辿り着いた芦戸に微笑み、オベロンは次の種目へと向かった
握力測定
「…これは流石にダメかなあ」
「まあ、お前細いしな」
「「「(((どうみても力無さそう)))」」」
あからさまに細身であるオベロンを目にして赤髪でツンツンした青年、切島もといクラスメイト達は思った。
カチャッと握った音が一つ二つと鳴った時にはオベロンは器具を放し早々に辞め次の種目の準備に取り掛かった
「やっぱ力はそんなに出ないんだな」
「まあ、そりゃあさっきの540kgに比べたら明らかにーーーーーーはぁ!!???」
そんなオベロンの記録を見ようと、手放した器具にクラスメイトは集まってくる。
誰もがオベロンの見た目の非力さからそこまで高くない数値を予想していたのだが、その握力計には“118”と表示されていた
その姿に似つかわしくない数値に思わず声を荒げてしまう
握力
左右ともに118kg
「そんなに強く握ったように見えなかったんだけど」
「あの細さで出る握力じゃないだろ…」
「あんだけ足早くて、羽生えてて、力強い…どんな個性だよ…」
「オベロン君はちょうちょ出せるよ」
「ちょうちょ出せるのか」
速く、強く、蝶々も出せる。あまりに一貫性のないオベロンの正体不明の個性についてA組一同考えるばかりである
立ち幅跳び
「あはははははは!」
「すげえ!飛んでる!!」
「いや…何か踏み台にしてない!?」
オベロンは羽を広げ、地面を蹴る。その跳躍は地上からはるか上空へと飛ばす。まるで蝶のよう、いやその姿は絵本の中の妖精のように軽やかだ。
軽やかなのだが、それを見るクラスメイトたちはオベロンの足元を注視している。
どうみても飛んでなくない?
あれ、空気蹴ってない?
ーーーじゃああの羽なに?
空中をまるで地面かのように蹴るオベロンを見て、羽の存在意義と彼の持つ個性の不明さに頭を悩ませる。というか既に悩んでいたのを加速させていた
「あれあり!??」
「ありだ」
立ち幅跳びという競技に当てはまっているかも疑問があったがありなようだった
距離
130m
反復横跳び!
81回
ボール投げ!
……!
…
「んじゃパパッと結果発表」
そうしてA組一同は全種目を終了した。
あるものは満足気に、あるものは不安を募らせ
あるものはどこまでも平坦に
それぞれがそれぞれの色を表情に見せる
「トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なんで一括開示する」
「…っ!!」
特にその中でも緑谷出久の不安の色は強い
彼がとれた記録らしい記録はボール投げのみ
他の種目は個性の操作の不慣れによってとれたものなどありきたりな高校一年生の記録のみ
他のみんなは長所を生かして記録をとっている
その事実が緑谷出久を襲っていた
「そんなに気にしなくていいさ」
「…オベロン君」
「君の強さはもうみんなに見せた、なら大丈夫だ。悩む方が馬鹿馬鹿しいと思わないかい?」
オベロンは結果を見るなら明らかに強者であり除席はありえない。その彼が今回の結果を通して強さを緑谷出久に語ることはある種、煽りや蔑みとも捉えられてしまうが
緑谷出久の心にオベロンの声はスッと入ってきた
彼を哀れむでも励ますでもない、ましてや蔑みなんてものでもない
ごく普通に思ったことを告げているだけなのだと簡単に察することができる
そうか、自分はやるべきことはやれたのか
緑谷出久は落ち着く。
あとは、皆
結果を待つのみーーーーー
「ちなみに除籍はウソな
君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」
「「「「「「はーーーーー!!!!???」」」」」」
「あんなの嘘に決まってるじゃない…
ちょっと考えれば分かりますわ…」
ーーー衝撃の事実に一同驚きを隠せずグラウンドに叫び声が響き渡る。オベロンの一言に心構えを持った緑谷出久も衝撃によって心構えは粉々に吹き飛んだ
「…不快だなぁ」
「ん?オベロン君どしたの?」
「いや、誰も落ちなくて何よりだと思ってね」
そんな中オベロンはただ1人だけ驚きもせず、ただ無表情だ。葉隠はその様子に違和感を覚えるも、瞬きの後ではいつものオベロンが視界に映るのみで直ぐに
「んー、まあいっか」
と気にすることでもないと相澤の続く発言に耳を傾けた
驚きの最中ではあるがカリキュラム等の資料がある、緑谷は保健室行けと簡潔に伝えてスタスタと去っていく。ポカーンとするA組一同を置いて、オベロンもまたあっさりとその場を去った
「あ、またあいついねえ!!」
「後で聞くぞ!個性とか、当日の話とか!!」
あ、握力が118だったりするのは
8/11がオベロン実装日だったのでその裏返しです