最終的におっぱいが全てを解決する   作:星組

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星野ルビーと真・オギャバブランド②

 聞きだしたのはアクアとはまた違った哀しくも重い復讐の念。ただ、寿みなみは本人達に言うことはないだろうが、それが成就されなくて本当によかったと感じていた。

 アクアは優し過ぎる。けど、だからこそ最後まで成し遂げてしまうだろう。たとえ相手と刺し違えることになろうとも。そうするとルビーは一人ぼっちになり……きっと未来永劫苦しみ続ける。

 逆もまた然り。下手したらもっと酷いことになるかもしれない。ルビーが手を汚して、アクアが平気だとは思えないからだ。

 

 結局この兄妹は、根本が優しくて純粋だからこそ、復讐なんて業は絶望的に向いてないのである。

 話を聞いて、自分に出来る限りは痛みを共有する。みなみに出来ることは、そんな微々たるものだったが、少しでも二人の救いになっていれば嬉しかった。

 ただ、それはそれとして、今日ルビーとアクアを会わせるのは何となくだが避けた方がいいとも思っていた。

 互いにたった一日で得た情報量だとか、環境の変化が著しいこと。何よりも、二人はこれより先のことを考えなければいけないからだ。

 確執を抱えたままでそれらにも対応するには、少々時間が足りなすぎる。だからこそ、ルビーにお泊まりを提案し、ついでにビチャビチャになった服だとか顔を綺麗にしよう。そんな目的のお風呂への誘いだった。のだが。

 

「(う〜ん、なんというか。……めっちゃ見られとるなぁ)」

 

 みなみは内心で苦笑いしていた。同年代の女の子とお風呂に入るのは、これが初めてではない。中学の修学旅行だったり、単純に撮影後のシャワー室だったり。その時も似たような状況になっていた。

 視線が集まるのは、もうどうしようもないこと。寧ろグラドルならば誇るべき。みなみはそう割り切っていた。割り切っていたのだが……。

 ルビーの視線は、まさしく舐め回すかのような熱烈さだった。それこそ、グラドルとして見られることに慣れたみなみですら、ちょっとタジタジになってしまうくらいには。

 一応撮影も近いし、それ以外の日もスタイル維持の努力は怠ってはいない。見られて恥ずかしい状態ではない筈だけれども。

 

「あ~ルビー?」

「ここが、極楽浄土……? 私、死んだの?」

「いや、死んじゃアカンよ!?」

 

 さっきまではやり場のない感情でギラついていたルビーの目は、今は別の意味で輝いていて……。

 それを目の当たりにしたみなみは、ふと、いつかの自分とマネージャーのやりとりを思い出していた。

 

 それは、みなみがグラドルとしてデビューしたばかりの頃だった。

 カメラを向けられること、視線を向けられることにまだ慣れておらず、照れがあった時、マネージャーはみなみの両肩に手を置きながら、こう言ったのだ。

 

『みなみ、よく聞きなさい。貴方のおっぱいはデカくてエロい。最高なのよ!』

『……!?』

『Gカップは、芸能界ではそこそこいるの。何ならそれ以上もね! でも! デカくて、エロい、最高のおっぱい! どれかではなく、三つ全部兼ね備えているのは……なかなかいないのよ!』

『えっ? えぇ……』

 

 緊張してるのに、何でそんなこと言うんこの人……?

 その時のみなみは、わりと泣きそうになったのを覚えている。

 

『脚も、二の腕も! ほどよくムチムチしてヤバいの! 腰つきもお尻もセクシーなの! みなみは可愛いし、魅力的なのよ! 何を怖がることがあるの!』

『ひ、ひぇえ……』

 

 今は貴女が一番怖いです。とは、ついには言えなかった。

 だが、マネージャーの暴走は止まらない。

 

『エロってね。世界を救うの』

『……マネージャーがアホやなってのは、よく分かりました』

『黙らっしゃい。いい? 貴女が迷った時や、誰かを助けたい時は、この言葉を思い出して。エロは。世界を。救う!』

『(絶対に嫌やわぁ……)』

 

 マネージャーの言葉は、未だに理解できないものがたまにあるが、当時はもっと意味が分からなかったように思う。

 だが、結果的に奇行と狂った言動をする彼女に付き合っていたら、かえって冷静になってきて……。

 その日のみなみは、安定した面持ちで撮影に臨むことが出来てしまった。

 ほら見なさいという顔のマネージャーに、チョップを食らわしたくなったのは、みなみだけの秘密である。

 

『考えてもみなさい! エロい事しないと人類は絶滅するのよ! エロって概念がどれ程に偉大で、全てを解決するのか……! だからみなみ! 貴女はいるだけで世界を救えるの!』

 

 ……何でこんな酷い記憶を、よりにもよって今思い出してしまったのだろうか。

 みなみは何とも言えぬ面持ちのまま、ルビーの方を見る。

 何だか入学した日を思い出す。あの日の彼女もまた、初対面でバッチリこちらの胸に釘付けだった。

 

「(ま、まぁ……それで元気になるんなら、ええんやけども……)」

 

 そんな訳でみなみは、難しく考えることを止めるのだった。

 

 ※

 

 ドキドキの脱衣所やお風呂場で、ルビーはただの変態と化していた。

 一つ一つ、焦らすようにブラウスのボタンを外すみなみを、穴があくほど見つめたり。

 下着姿と、それらから解放された姿に手を合わせそうになったり。

 身体を洗う姿は特によかった。ネットでボディーソープを泡立てて、それでゆっくり肌を磨く。みなみの泡まみれで扇情的な姿を見たルビーは思わずこう思ったのだ。

 

「(ああ、もう一つのオギャバブランドって、ここにあったんだ……)」

 

 兄であるアクアが聞いたら、頭を抱えそうな思考である。

 そもそも、同い年なのに、これ程に色気の差が出るものなのだろうか? 現にルビーからすれば絶望的なまでに出ているのだけども。

 因みにルビーはルビーでみなみから「やっぱりどえらい美人やなぁ……」と羨ましがられているなど、知る由もなかった。

 

「(おっきいのに形まで綺麗なの、反則じゃない? てか、肌もめっちゃ綺麗でシミ一つないし、うわっ、Gカップに目を持っていかれがちだけど、普通にスタイルヤバい! ……あと!)」

 

 現在二人は、髪も身体も洗い終え、多少狭いながらも向かい合う形で湯船に浸かっていた。

 暖かさが身体を包んでいき、日々のダンスレッスンなどで疲れた筋肉がほぐされていく。が、今はそんなものはどうでもよかった。

 

「(浮くんだ……本当におっぱいって、浮くんだぁ……)」

 

 ここまで来ると、もはや感動するしかなかった。

 

「あったかいなぁ〜」

「ね〜」

 

 谷間を景色に見立てて、ルビーは身体の力を抜く。ここまでヘニャヘニャと力を抜いたのは久しぶりかもしれない。

 明日からは、また激動が如く仕事が待っている。何だか現実味を感じられなかった。

 

「アイドルは、続けたいよ。夢だったし、楽しい」

「……うん」 

 

 ポツリポツリと、さっきの話の続きに戻る。

 色々と楽しんでしまったが、考えなきゃいけないことがあるのは変わらない。

 

「でも、なんだろ。根っこの……一番の軸。みたいなのが今、半分無くなってる感じ」

「せんせーさんのこと?」

「うん。復讐とかは……まぁ、もう一旦置いとく。出来ないもんは仕方ないもん」

「やらないにこしたことはないやろ〜」

「そうかもね。……後は……まぁ、向き合わないといけないのもあるし」

 

 チラリとルビーはみなみを盗み見る。何のことかわかっていない顔をしていたので「アクアのこと」と告げれば、彼女はああ、確かにな。と頷きながらも、僅かに祈るように目を伏せた。

 

「……やったことは、許せない。許せるわけないよ。でもさ。私斎藤社長から、あのクソゴミについての他に、アクアに協力を頼まれた内容も聞いたんだ」

「描いとった、復讐ってやつ?」

「そう。で、社長は全然気づいてなかったけど、私は気づいちゃった。何だかんだでずっと一緒に暮らしてきたからかな?」

 

 だから、バカと罵ったし、二番目に悪いやつだとルビーは今でも思う。

 お陰でこちらは精神的なダメージを受け、あかねちゃんは多分初彼とか色んな初めてを持っていかれたばかりか、あのタラシ兄にさんざん弄ばれた。で、もしかしたら、これから先輩も巻き込むつもりだったのだろう。

 都合三人もの女を利用したり、情緒を弄びまくったあげく、最後は……。

 

「私達を突き放して、危ないやつ諸共に死ぬつもりだったんだよ。あのバカ」

 

 想像してしまったのか、みなみの顔が明白に青ざめた。復讐するつもりだったのは知ってても、どうやってやるかまでは知らなかったらしい。

 

「私の為になるとか思ったのかな。あるいは明確にクソゴミが危なすぎてそうせざるを得なかったのかは分からない。……逆の立場なら私もアクアと同じことしたのかもしれないけど、それでも……」

 

 置いてくのを前提に、動いて欲しくなかった……。

 吐き出して。色々撒き散らした末にたどり着いた答えがそれだった。

 

「ルビーは、その……お兄さんのこと」

「一生許さない。でも……このままは嫌。それだけは多分、間違いない」

「……時間、かかりそうやな。そうなっていいとは思うけど」

「……なんで?」

「お兄さんもな。多分色々無くなって、今苦しいと思うねん。それでも……ルビーとこのままが嫌ってとこは、一緒だと思うんよ。……考えれば考えるほど、複雑で難しいなぁ」

 

 優しすぎる子だなぁと思う。みなみ個人としては、さっさと仲直りして欲しいでしょうに。

 ルビーはそんなことを思いながら、じっとみなみを見つめる。

 アクアは、どうなんだろう? 正直ずっと顔を合わせてないから、今どうなっているのか、ルビーにはさっぱり分からない。でも、間違いなく二人に何かがあったのは明白だ。

 いわゆる女の勘というやつだった。

 

「みなみは、やっぱり困るよね」

「え? う〜ん、うちは確かにはよ仲直りして欲しい思うけど、一番困ってるのは二人で……」

「いや、だって……アクアのこと好きでしょ? なら、いつまでもウジウジされちゃ嫌なんじゃない?」

「別にウジウジするのはかまへんやろ。ちゃんと誠実に償って、お兄さんなりに前向こうとしてはるんやろし」

「甘い〜。そんな甘やかしちゃ駄目だよ。多少お尻蹴飛ばすくらいじゃないと」

「そ、そうなん? けどほら、一回ボロボロにもなっとったし、立ち上がれただけでも……」

「う〜ん、惚れた弱みってやつなんだろうけど、心配だなぁ〜。アクアって尽くすタイプの女の子をくすぐる何かがあるのかなぁ?」

「そ、そんな惚れた弱みやなんて……よ、わ……み、やなん、て……」

 

 顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせるみなみがそこにいた。

 やっとカマかけに気づいたらしい。

 

「……ち、ちゃうねん!」

「何がー?」

「い、いや! せやから! す、すすす好きとかそんなこと……」

「えっ、ないの?」

「……う。……えっと」

「全く、ないの?」

「……ないことはないっちゅーか……」

「ちゃんと具体的に」

「……………………いいなぁ、くらいは……思うとり、ます」

 

 プシュー。と、蒸気が吹き出しそうなみなみを見ながら、ルビーはちょっとだけ得意になる。

 なんやかんや甘やかされたり、元気にして貰いまくりだから……ちょっと意趣返しというか。

 やっぱり友達なら対等に、裸だけじゃなく、恥ずかしい点も見せ合うべきだと思うのだ。

 

 

 ※

 

「仮にも一応私は妹な訳でー。だからアクアが付き合う相手が私の嫌いなタイプってのは嫌な訳〜。いや、今はアクアそのものが嫌なタイプだけど〜」

「複雑やなぁ」

「というわけで……さぁ吐けぇ〜! たった一日でアクアにグラつくなんて……絶対何かあったでしょ〜!」

「ちょ、顔っ! 顔でグリグリすんのやらんといて!」

「やっば! ブラ越しでも柔らかさやっば! 桃源郷やわこんなの〜」

「ルビィ〜」

 

 同じベッドの中でガールズトークが弾んでいく。なんやかんやでバレてしまったというか、20%くらいだった自覚が60%くらいになったというか。

 お風呂上がりに二人で冷めたレモネードを一気飲みして。その後ルビーが育ての親である女社長さんに外泊の旨を伝えた後は……ずっとルビーのターンだった。

 

「今日、一緒に寝よ?」

 

 というアイドル状態での可愛い仕草にみなみの胸が撃ち抜かれたのは言うまでもなく。

 そのまま抱きついてきて、思い出したかのように胸へ顔を埋めてくる。

 もはやルビーに躊躇いというものは無くなっていた。

 

「ほ、ホンマに何もないんよ……な、ないん、よ……?」

「嘘だ! 顔に何かあった感が出てるもん!」

「で、……出てへんで」

「目を見て話せぇ〜! 私の嘘嫌いを知っての狼藉かぁ〜!」

「ル、ルビーも最近まで嘘はついてたやろ!」

「ふぐぅ! し、仕事でね! プ、プライベートでは……」

「……ホンマに?」

「………うう」

「嘘つかれてたら、悲しいわぁ」

「うぇ〜ん! みなみママが苛めるよぉ〜」

「ちょ! 誰がママやねん! そんな歳ちゃうわ!」

 

 じゃれ合うように、今までの、ほんの僅かなすれ違いを埋めるかのように二人は共にある時間を楽しんでいく。

 ゆっくり、今は進んでみる。ルビーは最後にみなみへそう告げた。

 戸惑いはまだある。傷も癒えていない。

 けど……アイドルの夢だけはまだ、ルビーの中には残っているから。ここで投げ出したら、ママもせんせもきっと残念がるだろうから。

 

「……疲れたり、頑張りすぎたら、また泊まりに来てもいい?」

「フフッ、ええですよ〜」

「やったぁ〜」

 

 見ててね。

 みなみか。あるいはここにいない誰かにそう言って、ルビーは再び抱きついてくる。それをみなみは優しく受け止めながらも、胸を満たす暖かさに幸福を感じていた。

 まだまだ困難はこれから出てくるのだろうけど、少しは友達の力になれていたなら……それだけで嬉しかった。

 

「やっぱり兄妹なんやなぁ。甘えたさんや」

「え〜っ違うよ〜私はただみなみにオギャバブって……………………今なんて言った?」

「……え?」

「今! 今何て言った!?」

「えっ? え? 甘えたさんやって……」

「その! 前!」

「やっぱり兄妹…………あ」

 

 その瞬間、みなみはルビーの背後に真っ赤な炎を見た。

 

「説明してね。詳しく。詳・し・く!」

「い、いや、あの〜」

「あっ、そういえば一発ギャグもやったんだっけ? それも聞きたいなぁ〜! 何やったの〜?」

「か、堪忍してぇ〜!」

 

 結局、洗いざらい吐かされた他、あの台詞まで披露する羽目になったのは……ご愛嬌である。

 またその後、めちゃくちゃ揉み揉みされたらしい。

 寿みなみの受難は今後も続きそうだった。

 

 

 ※

 

 明るい日差しに目を細めながら、自室のベッドにて星野アクアはぼんやりと天井を見上げていた。

 目元にはくっきりとくまが出来ていて、全体的に覇気がない。

 それもその筈。彼は……あかねと別れ、自宅に帰ってきてから、まともな睡眠が取れていなかったのだから。

 

「なんで、だ……」

 

 帰ってこないルビーが心配だった? 答えはノー。ルビーはアクアに連絡を入れてくれなかったが、みやこ越しに彼女の無事と、友人宅に外泊しているのは知っている。

 あかねとのデートで消耗した? 全くない。仮にそうなら、逆によく眠れる筈だ。

 今日一日、目覚め良く、調子が良かったから? ならば規則正しい時間に眠くなるものでは?

 いつものように悪夢を見た? それはある。だが……それでも二、三時間は眠れた筈なのに……本日の睡眠は、たったの三十分である。

 ミドジャンで優勝し過ぎた? 流石にない。というか、そんなことはしていない。寿みなみの写真は最高だったが、それだけだ。

 

「どうなってる……たまたまか?」

 

 ともかく、彼の身体に原因不明の異変が起きているのは確かだった。

 本日は、深掘れワンチャンの収録。ほか、この先数日は何かと忙しい。全く睡眠が取れなかったのは、はっきり言って痛すぎた。

 

「(スキマ時間で、何とか仮眠取る、か……)」

 

 ともかく洗面所へ向かうべく、ゆっくりとベッドから起き上がる。偏頭痛に似た疼きに苛まれながらも、アクアは仕事の準備に取り掛かった。

 これが、復讐を終えたアクアに降りかかる試練だとは知る由もなく。

 

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