最終的におっぱいが全てを解決する   作:星組

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深掘れ☆ワンチャン!!(身内限定版)〜後編〜

 黒川あかねの内心は、実に複雑極まりなかった。

 正直な話、最初にこの集まりへのお誘いが来た時は、半ば条件反射みたいにOKを出していた。星野アクアをチラつかされると、自分はどうも短絡的というか、色んな部分が子どもっぽくなってしまう。明確な欠点であり、どうにかしたい部分である。

 そうして……訪れた場所にて、あかねは盛大な情報爆撃を食らう羽目になった。

 脳の処理能力が限界を超えると、人は気絶する……なんて漫画だけの話だと思っていたので、僅かながら意識を飛ばして復活した時は、素直に感心したのを覚えている。

 もたらされたものは、それほどまでに衝撃な事実だった。……一部誤解が入ってたけれども、それはご愛嬌だ。

 

 ただ、来なければ良かったとは思わない。知っていたこと。知らなかったこと。そして……色々と辻褄があってしまったこと。色々なものが見えてくる、有意義な時間にはなった。

 精神的なダメージはとてつもなく大きいけれども。

 例をあげるならば、間に合ったと思ったら、全然間に合ってなかったことだろうか。

 もし寿みなみがアクアを見つけていなかったら……その結果は考えたくもない。

 ただ、そのたった一日で色々とアクアを回復させたばかりか、復讐がなくなってよかった。とまで言うようにまでさせたのは……流石にびっくりした。

 何があったの? やっぱりおっぱいなの!? と思いかけたが、多分違う。

 アクアがそうなるだけの、救いがあったのだ。

 自分や有馬かな、ルビーや、他の人の前では出せないありのままの……弱い部分も曝け出した彼。ある意味でお互いに無関心であったアクアとみなみであったからこそ、彼は楽になれたのではないだろうか? ……反則だ。私に彼と出会う前からやり直せというのだろうか。

 

 本当に救いが必要な時に出会い。少しロマンチックな言い方をすれば、夢のような一夜を経て……求めていた答えのヒントを得る。 

 

「(ああ、そんなの……まるで……)」

 

 運命みたい。そう言いかけて、必死にそれをせき止める。思いはしても、認めたくなかったのだ。

 気遣い合うように視線を交わす二人が羨ましかった。

 時々癒やされたような顔でみなみを見るアクアに、こっちも見てよ! と叫びたかった。……何か妙に怯えられているのが解せないし。

 恋人としての関係を否定された時に一瞬だけ見せたみなみの顔が、頭から離れない。……今後、密かな恋をする女性を演じる時に大いに参考になりそうなのが悔しい。

 そしてなによりも……!

 どうして愛を否定する時にアクアが僅かな躊躇いを見せたのか。その意味を考えることが、恐ろしくてたまらない。

 けど、全ては一夜のぬくもりで。だから……まだ自分には付け入ると言えばだいぶ乱暴だが、勝負する機会は残されているから。そんな甘いことを考えていたら……。

 

『終わっちゃった? どこまで深堀りしたかな? 私としては今朝に二人がしてた、ブランチデート後の行き先についてを。あと、差し支えなければ朝に二人とも気持ち良すぎてベッドから二時間は出れなかったって話を……もっと詳しく! ピロートークも含めて、是非!』

 

 不知火フリルが、何かダイナマイトを片手に突っ込んできたのである。

 気絶を通り越して、あかねの感情が無になったのは言うまでもなかった。

 

 ブランチデートや、その後のお出かけはまだいい。アクアは現在誰かとお付き合いしているわけではないのだ。物凄く。物凄〜く羨ましいけれど、それはどうこう言われることじゃない。

 問題はその後の話題だ。本当なら進展が爆速過ぎる。氷山にぶち当たる豪華客船の映画じゃないんだから。というか、付き合っていないんじゃなかったのか? 

 

『フリル、その前者はともかく……後者は色々と……語弊が、ある。……気がする。そんな……こと、は……』

『せ、せやせや! そん、な……こと……』

 

 暫く沈黙が流れてから、アクアマリンとピンクパールの瞳が交わされる。刹那のアイコンタクト。そして――。

 

『ねぇよ』

『あらへんな』

 

 ――嘘だ!

 多分この場にいた全員がそう思った瞬間だった。

 

『ちなみに私はその時の二人がしてた会話を一字一句記憶してる。なんならその日に5分で意気投合したみなみのマネさんも聞いてるけど……本当に間違ってる?』

『か、会話……。い、いや。特に問題あるのは……してなかった気が、する』

『せ、せやね! そんな変なことは……話してへんよ? …………えっ、待って。てかマネージャー? お、おったの?』

 

 アクアは少し不安そうに。みなみは寧ろ別の懸念が浮上して震え上がっていたが、共通して双方ともそんな事実を匂わせる会話はしていないという。

 一方、これにより意表をつかれたのはフリルの方だったらしく、彼女は目を丸くして驚いていた。

 

『……あっれ? 予想外というか……え、嘘でしょ。二人ともまさか、無自覚?』

 

 それはそれで激萌えだけど。そんなことを呟くフリルに、アクアとみなみは同時に首を傾げてみせた。

 

『ちなみにフリルちゃん、どんな会話だったの?』

 

 そんなルビーの問いに、フリルは頬を掻きながら二人の方を見る。

 

『えっと、言っても大丈夫? 正直アクアさんなら最初のキラーパスも含めてのらりくらりと、かわすと思ってたから……その……今から記憶を失うことも出来るよ?』

『いや、なんだそれ。もう今更だ。……いや、待て。フリルがそう言うなら、失ってもらった方がいいのか?』

『マネージャーにどやされる……い、いやでもウチ、悪いことしてへんもん! わ、悪いこと……し、してへん……もん?』

 

 アクアは明らかにテンパっていた。あ、あれは本当に自分の会話が問題なかったか覚えてないやつだ。そうあかねは感じた。逆を言えば、それくらい気が抜けていたってことなんだろうけども。

 一方のみなみは、よほど怖いマネージャーさんなのか、プルプル震えていた。

 

『だ、大丈夫だ寿。君が悪いことしてないのは本当だ。いざって時は俺がマネージャーさんに……』

『お兄さん……!』

『――っ! ふぅ……いいね。それぜひやって。私もこっそり同行する』

 

 アクアくん。火に油って危ないんだよ?

 あと、フリルちゃんは鬼か何かなの? なんて感想が漏れつつ、あかねは他のメンバーの顔を見る。

 ルビーは、何だろう。少しだけワクワクした顔をしていた。今回の企画というべきか。途中から彼女らしくないとは思っていたが、気づいちゃいけないものに気づいてしまいそうだった。勿論、そこまであかねはルビーを知らないので、何とも言えないのだが。

 かなは……目が死んでる。勘違いによる好きな人への冤罪からのこの新情報によるぶちかまし。さり気なく今回一番ダメージが大きいのは彼女な気がする。

 MEMちょはとうとうコーラだけじゃなくてポップコーンまで取り出し始めた。完全に観客の構えだ。私もう知らん! いっそ楽しませろ! と顔に書いてあった。

 

『えっと……じゃあ、言うけど、大丈夫? 本当に? 後悔しない?』

『……何か怖くなってきたぞ』

『……ウ、ウチも。えっ? そんなアカンこと、言ってたかなぁ?』

『……スペースキャットならぬ、スペースフリルになれそう。……マジで無自覚なのか。私の推しカプは』

『もう勿体ぶるんじゃないわよ! もう何が来ても驚かないし、毒も皿も飲み下してやるわ! さぁ来い!』

 

 そこで痺れをきらしたかのようにかなが叫んだ。お前が火蓋切るんかいと思ったが、この場の誰もが突っ込まなかった。

 切り込み隊長を探していたとも言えよう。

 

『(先輩、それフラグ……いや、私もめっちゃ気になるからいいんだけども)』

『(ハハッ、こっそりコーラをコークハイに……いや流石にやめとこ)』

『(かなちゃん、かなちゃん……有馬かなぁ……)』

 

 多分皆が一斉にギロチン台に向かってる気がする。

 なんなら執行人(フリル)が一番困惑しているまであった。それでも、あかねもまた、知りたかった。アクアがいい方に変わったのは、間違いなく二人の出会いがあってこそだと思うから。

 そして……。

 

『流石に、腹が減ったな』

『せやな〜。なんでこんなに遅くなってもうたんやろな〜』

『……俺のせいかよ』

『……だって、お兄さん。ウチのこと全然離してくれなかったやん』

『寿。ブーメランって知ってるか? お前だって離してくれなかっただろ。もうちょっと。もう一回ってな』

 

 国民的美少女マルチタレントによる、無駄に洗練された一人芝居による、無駄に再現度が高い証言が提出された。

 

『………』

『………』

 

 二人は、ほぼ同時に手で顔を覆っていた。

 人は俯瞰的に自分を見ることで間違いを自覚することもあるという。まさしく今のアクアとみなみがそうだった。

 

『……お兄さん、嫌やった?』

『いや、そんなことは……ない。寧ろ……』

『ウチも……気持ちよくて、離れたくなかったんよ。お互い様やな』

『……言い方』

『間違ごうてる?』

『……ないけどさ。まさか起きてベッドから出るのに二時間もかかるとは思わなかった』

『おしゃべりもいっぱいしたもんなぁ〜………………以上』

 

 掛け値なしにフリルの演技は表情まで完璧だった。お陰で過去最高の気まずい沈黙がその場を支配していた。

 

『えっと……コレは。かなちゃんじゃなくても、色々勘違いしちゃうかなって……。てか、マジで付き合ってなくて、何もしてないとして……単純に……どうしてこうなっちゃうの? いや、もういっそ隠れて付き合ってたとかでも、驚かないよ?』

 

 誰もコメント出来ないと判断したのか、MEMちょが胃痛を堪えるような顔で二人に問いかけた。

 

『…………まぁ、そうだな。やむ無しか』

『マネージャーに殺されるぅ……――っ、お兄さん? ええの?』

『まぁ、説明は必要だろ。じゃないと本当に謎まみれだわ、何やってんだお前は? 状態だからな。……いいか?』

『ウチはええの。お兄さんが嫌じゃないなら』

『悪いな。ありがとう』

 

 シクシクと、この会合が始まってから胸が痛み続けていた。秘密の共有なんて蜜より甘いものを、二人は分け合っている。その事実に唇を噛み締めたくなった。

 一日早く、アクアの元に駆けつけていたら?

 あるいはいつかのネットカフェで、もっと踏み込んでいたら?

 デートの終わりで、いっそお部屋に連れ込んで秘密の全て吐き出させていたら? 

 全て終わったことだと、あかねは自嘲した。

 そして、秘密は皆に分配される。それは……ある意味で毒だった。特に……。

 

『ずっと隠してたが……不眠症気味だったんだ。母さんが、殺されてから、フラッシュバックみたいに悪夢に魘されるようになっていた』

『…………………え?』

 

 この企画を提案した、ルビーにとっては。

 

『ただ、そこまで悲観することでもなかったんだ。三、四時間は寝れていたからな』

『三、よ……いや、それ……!』

 

 かなが何かを言いかけて口を噤む。最後まで聞くつもりなのだろう。ただ、毎回三、四時間ならば悲観すべきだとあかねも思った。

 

『で、つい先日だ。寿に悩みを打ち明けて、偶然一緒に寝てもらう事態になって……恐ろしいことに、よく眠れてしまったんだ。その日はありえないくらい調子が良くて……それ以降が、最悪になった』

『……まさか、一度アクたんが、最高の睡眠を知っちゃったから?』

『わからん。ただ……不眠症がかえって酷くなったのは事実だ。丁度、精神的にやばくなる事件と重なったのもあったんだろう。色々と試してみたが……悪夢がすぐ来るようになって、平均睡眠時間が、一時間を切るようになった』

『ひぇえ……』

 

 カミキヒカルの死亡。その時にあかねが懸念したアクアの消失。だが、それを回避したら、今度は別の要因がアクアを苦しめることになろうとは誰が予想できただろうか?

 いい睡眠を知ったからだけではない。彼の中にはまだ、幸せへの禁忌が残っていて……熟睡出来た自分自身を許せなかった? 

 

『(わかってはいたけど……不器用すぎるよ、アクアくん……)』

 

 それでも本当に、復讐の道が断たれてよかったと思う。そのまま進んでいたら、間違いなく彼は壊れていただろうから。

 

『色々と試したが、全て駄目だった。寝床を変えてみるという意味で監督の家で横になっても駄目で。そのまま相談に乗って貰ったんだ。そして……』

 

 経緯を話して、みなみに鍵があるのではないか? そんな話が浮上した。

 アクア一人ならば、その考えに至らなかっただろう。だが、監督に背中を押されて、彼は恥を忍んで彼女に……みなみに助けを求めた。そして、みなみはそれを受け入れた。

 リスクも当然承知しながら。何らかの危機感は感じても、アクアに手を差し伸べることを優先したのだ。

 

『(ああ……ダメだ)』

 

 色々と他に聞きたいことがある。離したくないだとか、そうなった経緯だとか。

 もう一回ってどういうこと? とか。本当に詳細をしっかりと聞きたいが……もう、聞ける雰囲気ではない。

 あかねを含む誰もが予想外の理由説明で、表情を曇らせていた。

 特に、ルビーが。顔は青ざめて、でも悟られまいと必死になっているのがわかってしまう。

 きっとこんな筈ではなかったのだろう。彼女がやりたかったのは、多分……。

 

「(難しいよね……いや、ルビーちゃんも焦ってたのかも)」

 

 今回の件で何となく見えてきたことがある。

 不安定なアクアを繋ぎ止めるには、君はこんなにも愛されているのだと伝えることが最適解だったことを。

 特大の……方向性はどうあれ、愛をぶつけるのが一番だと。

 彼の心の傷が癒えるまでではなく、傷ごと包んで抱きしめるべきだったのだ。それこそ、みなみがやったように。

 

 ピコンと、そこでラインの通知が届く。アクアからだった。

 

『寿にも伝えたけど、こっちでこの後に何とかする。今は何も言わないでやってくれ』

 

 会話しながら、テーブルの下でスマートフォンをこっそり操作したのだろうか。

 器用だし、過保護だし……何より、一言多い。

 

「(寿さんにも伝えたは、いらないよぉ……アクアくん)」

 

 さり気なく、みなみの視線がこっちに来てる辺り、向こうにも同じように連絡してるようだ。多分ルビーの目的に気づいたのが、自分と彼女なのだろう。

 それはそれとして、女心が分からんやつめ……。は、流石に言い過ぎだろうか。でもみなみも同じことは思っているかもしれない。

 何となく、彼女の気持ちは……アクアに向ける視線などで察したから。

 

 それでもまだ、負けない……!

 みっともないと笑うなら笑え。あかねは自らを奮い立てる。

 残念ながら、恋愛的なイニシアチブは取られてると言わざるを得ないだろう。

 たかが一日。されど一日の出遅れ。

 彼を癒して、考えを穏やかなものにした。

 あと多分、家族であるルビーちゃんから一番好感度(?)が高い。

 無意識にアクアくんが頼ってて、安心できて……スタイルも凄まじく良くて。なんなら普通に可愛くて。

 

「(…………………あれ? かなちゃんより、強くない?)」

 

 まさかの伏兵にあかねは戦慄する。そして……。

 

『俺に何かあったってのを深堀りするなら……そうだな。大袈裟かもしれないが、俺は――、寿に救われたんだ』

 

 一番彼女が望んでいた彼の一言は、残酷にも彼女じゃない女の子に向けられていた。

 その夜、皆のグループ通話が終わるまで。あかねはいつもの自分の演技をしつつげた。

 溢れそうになる涙を、せっかく救われた……彼に見せないように。

 

 ※

 

 波乱に満ちたグループ通話を終えた星野アクアは、自室にてスマートフォンの確認をしていた。

 仕事の連絡の他に、さっきのメンバー達からのラインが数件。

 

 かなからは謝罪。だが、それはそれとして言いたいこと、聞きたいこと。何より、直接謝りたいことが沢山あるから、今度ラーメンか美味しいご飯奢らせろ。という要求(?)だった。

 

 ちょっとだけ楽しみではある。言動が突拍子もないのも含めて、有馬かなは一緒にいて楽しい奴だ。……たまに本気でマジかコイツと思うこともあるけれど。

 

 MEMちょからはやっぱり謝罪。そこからお疲れ様。あんまり背負いすぎたり、溜め込んじゃ駄目だよ。という一言と。

 ルビーをあんまり怒らないであげてね。という追伸が。

 

 気づいていたことに自分が気づけなかった辺り、年の功というべきか。言ったら泣かれるので言わないが。やはり色々と頼りになる女性である。

 

 あかねもまた、謝罪。こればかりはこっちが逆にしたいくらいなのだが、どうにも子どもっぽく自分に当たってしまったりもしていたから、それを悔いているらしい。

 君が救われて嬉しい。多分言われちゃってると思うし、まだ難しいかもだけど、幸せを諦めないで。それに少しでも関われたら、嬉しいです。とのこと。

 本当に優しくて真面目な女の子だと思う。だから改めて謝罪とお礼の旨を伝えておいた。

 数秒後に「じゃあデートして」と返ってきた。

 ……こういうジットリした所が少し怖いけど、救われてもいたなぁと懐かしくなる。返事は勿論「OK」だった。

 

 フリルはまぁ、どうでもいい。

 というか、そもそもお互いに連絡先を知らなかった。

 だが、ある意味では一番感謝してるかもしれない。何故なら……爆弾みたいな彼女が、“きっかけになったかもしれないから”。

 

 ラインが最新の通知を受け取る。こちらから謝罪を伝えていたが、長らく既読がついていなかった、寿からだった。

「大丈夫」という言葉と「いっぱい話を聞いてあげて」とだけ。

 その時アクアは、部屋のドアの向うに人の気配を感じた。

 気配はずっと動かない。ただ、その人物がノックしようとして手を引っ込めるを繰り返しているのだけは何となくわかった。

 アクアは無言でドアまで近づいて。そっと開け放つ。

 

「――っ、あ」

 

 そこには、ナイトキャップを被り、パジャマ姿になったルビーがいた。

 

「………丁度良かった。ルビー、頼みがある」

「……な、なに……? あっ違う! 違うの! その前に!」

 

 アクアが何かを言う前に、ルビーはあたふたと手をバタつかせ。やがて、目に大粒の涙を溢れさせた。

 

「――ごめん、なさい。お兄ちゃん……ごめんなさい……!」

 

 こんなことになるなんて思わなかったの……!

 お兄ちゃんがああまでなっていたなんて、知らなかったの……!

 そう嘆きながら、ルビーは泣きじゃくる。

 

「……まぁ、らしくないなぁとは思ってたさ。どうしてああいった形をとったのか……聞きたいけど、その前に頼みを聞いてくれ」

「……うん、いいよ。何でも言って、お兄ちゃん。……何でもするから……! 法律も倫理も全部すっ飛ばしていいから……!」

 

 エグエグと大泣きしながらとんでもないことを言う妹に苦笑いしつつ、アクアはアホなことは口走るなという気持ちも込めて、ツンとルビーの額をつつく。

 

「一緒に寝てくれないか? もうご存知の通り、一人じゃ眠れないらしいんだ」

 

 そう言うと、ルビーは目を見開いて、鼻水をズビッと啜り上げた。

 我が妹ながら、やらかして泣いていても可愛く見えるのは、兄としてのフィルターが働いているからだろうか?

 

「い、いいの? 私……その、みなみみたいにおっぱいおっきくないよ? 超ギリッギリでCだよ?」

「お前は俺を何だと思ってるんだ」

 

 ベシッとチョップを下しつつ、ルビーを部屋に誘う。

 彼女はパタパタと雛鳥みたいについてきて。ごく自然にベッドに入ったアクアの隣に陣取った。

 あまりにも迷いがお互いにないことにアクアは少しだけ驚くが、何やかんやで兄妹だからな。と結論づけた。

 ペタリと、ルビーがアクアの胸に顔を乗せ、全身でしがみついてくる。そういえば枕持ってこさせなかったなと思いつつ、今更なので腕を差し出せば、ルビーはコテンとそこに頭を乗せ、ますます身体を擦り寄せてきた。

 ああ、これがみなみの言う甘えたさんか。なんてことを考えた。

 

「お兄ちゃんがね。色んな人に愛されてるんだよ。好かれてるんだよって……わからせたかったの」

 

 ポツリポツリと、ルビーは話し始めた。

 

「お兄ちゃんの部屋を見て、最近のお兄ちゃんの様子も見てたから……急に怖くなったの。私だって突き放してたくせにね。だから、回復して帰ってきて、ホッとして。でもみなみの匂いがして……一応MEMが作ったけどボツになったお蔵入り動画も思い出したの」

「やけに杜撰だと思ったら、突貫企画だったのか」

「ホントは最初、私だけが、話すつもりだったの。動画や、フリルちゃんからの証言を使ってね。……ママプレイとか、信じてなかったんだよ? きっと何かの間違いで……でも、信じたくないけど、お兄ちゃんやみなみが、私に嘘ついていたら? って……私が一番嘘つきで、汚いのにね」

「ルビー、それは……」

「だから、チャンスだって人を集めたの。勿論、ずっとお兄ちゃんとお話出来ていなかったから、怖かったのもあるけど……皆お兄ちゃんが大好きだから、深堀りに集まってくれたよ〜って」

 

 でも、お兄ちゃんがあそこまで苦しんでたなんて……知らなかった……。私に知られないように隠してたんだってのも、わかっちゃった。

 ルビーはそう続けながら、アクアのパジャマをギュッと掴んだ。

 

「そもそも、危なかったってお兄ちゃん言ってたのにね。仲直り出来て、浮かれちゃってたのもあったかも……だから……ああ、おバカキャラなんかじゃない。私……正真正銘のバカだったんだ」

「…………」

「私が関わった人、皆不幸にして……何で神様は、私なんかを……!」

 

 アクアは何も言えなかった。よかれと思ってやったことが、全く相手の為でも何でもなかったことは……自分が嫌という程経験していたことだから。

 いっそ自分があの時死んでいればなんて、何度も思ったから。

 だからアクアは、彼女にかける言葉は一つだけだった。

 

 

 ※

 

 全てが終わった後に時間が経てば経つほどに死んじゃいたかった。

 あまりにも自分を嫌いすぎて。そういえば、前世は病気だったけど……確か、脳の病気だっけ?

 ああ、じゃあいかにも自分じゃないか。文字通り頭が悪いのだ。

 そんなことを星野ルビーは思う。雨宮吾郎にアイに次はアクアとみなみ。皆を不幸にした。

 感情がぐちゃぐちゃになって、でも始めちゃって止められなくなって。

 だから、アクアに突き放されても仕方がないくらいには思っていた。

 もう一人、みなみにも。

 彼女の功績を皆に伝えたかった。自分も救われたことも。あと……酷い手だと自覚してはいるけど、ちょっと有馬かなを懲らしめたくて。ママプレイやらのガセネタを、名前は出していないとはいえ、他の人に話したらしいのだ。

 自分がどの口でと言われるかもしれないが、ムカついたから。あと、いずれアクアはアイについて公表するつもりだったのだとしても、引き金はかなだったから。

 役者として凄いと尊敬してるし、仲間だとも思ってるが……全くムカつかなかったかといえば、嘘になるのだ。

 黒川あかねは……巻き込んだのは少しの打算があった。

 願わくばアクアにグイグイ行ってくれないかな。という策略。みなみかあかね。兄を包めるのはこの二人じゃないかとルビーは思うから。……でもまぁ、これも結局、自分がやることではなかったのだ。

 余計なことをして、かき回して。

 そして……。

 

「まぁ、アレだ。やっちまったな。ルビー。これで俺とお揃いだ」

「……………え?」

 

 驚いて顔を上げると、不敵な笑みを浮かべるアクアの顔がそこにあった。

 

「寿には、謝ったか?」

「……う、うん」

 

 真っ先に電話したのだ。ちなみに彼女はただ一言。

 

『ウチより、お兄さんやで。ウチは何のダメージもないんやから』

 

 マネージャーには怒られそうやけど……と、直後に乾いた声でそう言っていた。優し過ぎてそこでも泣いてしまった。

 私の考えていたことも、断片的に察していたらしい。

 

「怒られた」

「ああ、それは受けとけ。間違いない」

「でね……アクアの方がずっと辛かったのに、酷いことしちゃった。って言ったら、みなみ、何て言ったと思う?」

「……なんだろうな? 教えてくれ」

「辛いことって、人と比べるものやないんやでって」

 

 お兄さんも辛かった。でもルビーが辛くなかった何てことはないやろ? 二人とも……大切な人を喪って。同じく大切な人とすれ違ったんやから。

 それは比べるべきではないし、重さで立場を决めるもんやない。……彼女はそう言った。

 ルビーもまた、あの日のことを時々夢に見る。色々な負の感情に塗りつぶされそうにもなったのは事実だったから。

 

「……ますます足向けて寝れなくなったな」

「……うん。そうだね」

 

 頭を撫でられる。そんな資格ないのに、ルビーは涙が止まらなくて。

 

「ごめんなさい……お兄ちゃん」

「いや……あのな。お前はちょっと、深刻に考えすぎ」

「だ、だって……お兄ちゃんは……その……後で気づいたけど、あの凍死だって冗談じゃなくて……」

「ああ、昔……な。昔の話だ。今は違う」

 

 涙を指で拭われる。酷い顔だと笑われて、鼻水がビロンと流れてきた。

 

「間違いなんざ誰にでもあるんだ。マジかって行動も、まぁ人だってテンパりまくればしちまうさ。寿に添い寝を頼みに行った時に、疲れが限界だった俺は、アイツに何て言ったと思う?」

「……え? わかんない」

「怒るなよ? 誰にも内緒だぞ?」

 

 そう言って、アクアはルビーの耳元であの言葉を囁いた。

 ルビーは自分が言われた言葉じゃないのに……心臓が酷いことになった。

 思わずパンチが出たのは無理もない話だった。

 

「さ、最っ低! お兄ちゃん最低!」

「だよな。自分でもそう思って今でも悲しくなる。寧ろ寿がちょっと心配になったくらいだ。こんな最低な兄妹を笑顔で助けてくれたんだぞ? アイツ」

「……ホントだね」

 

 スン。とルビーはアクアの腕枕の感触を確かめる。

 優しいぬくもりに安心する。目線を上げれば、穏やかな顔でこちらを見つめてくれている。それは何故か……懐かしい、あの人に重なった。

 ああ、そっか。アクアは……結構センセに似てるんだ。

 

「……ごめんね」

「いいよ。俺も……酷いことしてたから、お互い様だ」

「じゃあお互いに償わなきゃだね」

「そうだな」

 

 クスリと笑い、双子は寄り添い合う。

 お兄ちゃん、ちゃんと寝れたらいいな。ウトウトしながら、そんなことをルビーは考える。

 

「……おやすみ、ルビー」

「うん……ごめ……お兄ちゃん、ありがとう」

 

 大好き。

 そう伝えて、ルビーは静かに目を閉じた。

 

 

 ※

 

 スヤスヤと寝息を立てるルビーを見ながら、アクアは今日一日を振り返る。

 濃すぎる一日だった。ただ、心は温かかった。

 

「(ああ、仲直り出来たのか)」

 

 前進した実感と一緒に、脳裏には恩人の姿が浮かんでくる。

 寿みなみ。約束の他に、もっと何かしてあげたかった。正直、それくらいしないと償えないし、アクアの気が収まらないから。マネージャーさんへの弁明は手伝おう。密かにそう決意した。

 後は神様がもしいるなら、彼女に最上の幸運を与えてくれたりしないだろうか? そんなことを考えかけて……アクアはすぐに顔をしかめた。

 いや、やめておこう。自分がみなみに何かするからこそ価値があるのだ。そんな曖昧なものに頼むなんてどうかしていた。

 “嫌な奴”の顔が浮かんでしまい、アクアはため息をつく。

 せっかくいい一日になったのだ。このまま……。

 

『あれれ〜なんか凄く失礼なこと考えてない?』

 

 この、まま……。

 アクアは物凄く渋い顔で、声がした方に顔を向ける。窓が閉められていようがお構いなし。この脳に直接響いてくる声は……聞き覚えがありすぎた。

 

『こんばんは。…………眠れないんだぁ?』

『……お前のせいで目が冴えたよ』

『え〜。本当に私のせいかな?』

 

 外は真っ暗な筈なのに、何故かそこだけはっきりと、スポットライトでも当てられたかのようによく見えた。

 ベランダに、ちょこんと座る小さな影。黒い衣を身に纏い、何羽ものカラスを引き連れた、神秘的でもあり、不気味さも兼ね備えた、幼い少女の姿。

 疫病神。暫定ながらそう呼んでいる得体の知れないモノが、そこでアクアを見下ろしていた。

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