最終的におっぱいが全てを解決する   作:星組

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神よ滅び給え、なるべく惨たらしく死に給え

『日本に神様が何柱いるか知っているかい?』

『いきなり来て、何を言ってやがる』

『ごく一般的な俗説に関する、世間話だよ』

『心の底からどうでもいい。帰れ』

 

 不機嫌さを隠さずに星野アクアは少女を睨みつける。不思議なことに言葉を発さなくても意思疎通が出来るのは便利だが、相手が相手なのであまりありがたみは感じなかった。

 アクアが復讐について強く考えた時。ことさら自分が表から退場する結末を明確に意識した時、この少女はカラス達を引き連れて現れるのだ。

 まるで未来の死臭を嗅ぎつけたかのように。そうして決まって不吉で意味深な言葉を残していく。嫌いにならないほうがおかしかった。

 

『釣れないなぁ。答えは八百万。つまり……数え切れない程だよ。それらが使いにしている者たちも神の如きものだとしたら、この世界には神や神に匹敵するもので溢れている……ってことになるね』

『ファンタジーはやめろ』

『転生なんてしといて? まぁ、最近は肉体の年齢に引っ張られてるみたいだけど』

『…………』

『あっ、無視しようとしてる。無視しようとしてるんだね』

 

 何をしにきたんだコイツは。

 もはや返事をすることも面倒になり、アクアは無言を貫く。だが、少女はそれでも構わないというかのように、ただ言葉を紡ぎ続ける。

 

『並行世界や、イフの世界を信じる? 例えば、別の世界線では、君とあの桃色の女の子が関わることはない。君は復讐の道を歩み続ける。そんな未来もあったんだよ。まぁ、今を必死に生きることを決めた君には、知ったことではないかもだけど』

『……そうだな。その通りだ』

『あっ、他にも色んな可能性があるんだよ? 試しに聞いてみる?』

『いらん』

『あら残念……それ次第では君の未来はまた違ったものになったかもしれないのに』

『……やっぱり疫病神の類いなんだな。お前は』

『酷〜い』

 

 少女は笑いながら肩を竦める。その姿は不思議と今までの得体がしれない感じとはかけ離れた……人間臭い仕草と表情だった。

 

『私もまた、立場などが変わるんだ。本当の神様だったり、その遣いだったり。あるいは本当に君が言うように疫病神だったり。この国の神様なんて、意外と適当だからね。お社の管理を眷属に任せたら、その辺の神様に乗っ取られちゃった。だとかも、普通に起こる』

『話が回りくどい。なんだ。もしかしてお前もそうなったか? 上司……仕えてる神様が乗っ取られたとか。あるいは普通にお前が引きずり降ろされたとか?』

『…………………あはは』

『………………おい、マジか』

 

 苦笑いしながら。目を泳がせる少女。

 アクアはそれを見て、ただ唖然とするしかなかった。

 

『神様は基本人間を見ない。見たとしてもほんの一部だし、それだって本来は大した影響はないんだ。だが稀に、まるで神に愛されたかのような人間が現れる時もある。逆も然り。神に見捨てられたかのような人間や、神の奴隷みたいに動かされる人間がいるんだ』

『……お前が俺達の前に何度も現れていたのは、俺達がその中のいずれかだった?』

 

 盤上にいる駒になった気分だった。本当にそうだったなら、笑えないにも程がある。

 少女はそんな表情をするアクアに曖昧な笑みをむけながら、話を続けていく。 

 

『……神様は、復讐譚だとか、絶望の中で必死にもがく姿に美しさを見出していた。でも……そうだね。ある日突然、君たちの世界でいう、解釈不一致だとか、同担拒否的な戦争に巻き込まれた』

『……待て、急に変な喩えを使うな』

 

 質問にちゃんと答えなかったばかりか、妙に俗っぽいことを言い出したことにアクアは戦慄する。

 だが、少女はお構いなしだった。

 

『ざっくり言えば、この世界に映画作品が無数にあると思って。その一つが君たちの物語だったけど、製作中に担当者が揉めた結果、監督が変更になり、キャストの一部も夜逃げした。結果、復讐譚がラブコメディになりました……みたいな』

『神様とやらが監督や担当者。夜逃げは……カミキヒカルか』

 

 風呂敷を抱えて逃げる奴を連想する。無様なことだと、少しだけ溜飲が下がるが、そもそも死に方もまた、歩道橋から突き落とされるという形だった。

 因果応報というか、ここまでくると確かに作為的なものを感じてしまう。

 

『そんなところ。まぁ極端な喩えだけども、起きたことはそんな些細なことだったんだよ。……因みに今の神様のトレンドはラブコメディらしい。恋愛代行だとか、兄妹でちょっとインモラルな感じとかに大盛りあがりだね』

 

 何だろう。真面目に考えたら負けな気もしてきたぞ。

 そんな感情がアクアを支配し始めていた。

 つまりこの少女……仮に神ならば引きずり降ろされたから、今はニート。神の遣いならば上司が消えた。あるいは会社が倒産して……やっぱりニート。

 なんだ。ただの可哀想な奴か。

 いや、元々神様やら口にして、肝心なことは何も言わない痛々しい奴ではあったけど。

 

『まぁ、つまりね。今まで関係者席でドヤ顔で楽しんでいたけど、これからは一般席で君達を見ているよって話なんだ。今日はそれを伝えにきたんだ』

『いや、見なくていいだろ。こっちの業界でいうなら、映画ポシャッたみたいなもんだろ。早く別口で利益回収してこいよ』

『酷いなぁ、君たちを推してるって意味じゃ、昔から変わらないのに。あと、神様に利益とかそんなのに執着するやつ……は、たまにいるけど、ごく少数だよ。大抵はね。おもしれーかどうかで決まるんだよ』

 

 不知火フリルみたいな連中がウヨウヨいるようなものじゃねぇか。

 と、アクアは密かに震え上がる。やはりこの世界の神様とやらがいるならば、相当に性格が悪いのだろう。

 一気に脱力感に襲われて、アクアはため息をつく。直ぐ側で眠っていたルビーは、それがこそばゆかったらしい。ムニャムニャ言いながら身動ぎして、またピッタリとアクアの身体にくっついてくる。可愛かった。 

 

『………ふふ。よく寝てるね。今までで一番幸せそうな寝顔だ』

『いや、もう帰れよお前』

『えーっ。や〜だ。言ったでしょう? もう楽しむことにしたんだよって。毎回出てくるとありがたみが薄れそうだから、要所要所にだけ出てくるようにするけどね』

 

 また来る気かコイツ。それだけでアクアは気が滅入りそうだった。

 害が昔に比べてなくなったように感じても、嫌なものは嫌だった。特にこっちの感情を見透かしてくるような目が……。

 

『ところで君は、“眠らないのかな?”』

『…………ほんと、嫌いだよ』

 

 そう言いながらも、アクアは全身に嫌な汗が滲むのがわかった。

 

『やっぱり眠れなかったか。……怖いんだね。妹の前で悪夢に魘されたらどうしようって。せっかく和解したからこそ、その顔を曇らせたくないと。どうせ寝なかったら一緒なのにね』

『……いや、寝れないのはお前が来たからだ』

『苦しい言い訳だなぁ。後は、単純にお兄ちゃんの意地か。弱いとこは見せたくないと。……ああ、昔の……アイのことを思い出させたくないって気持ちもあるんだね』

『………黙れ』

 

 実の所、昔ルビーが魘されているのを見てしまったことがあったのである。多分今も……彼女もまた、時々夢にみるのだろう。

 連鎖的に、彼女も不眠になってしまったら? そんな恐怖が拭えなくて……寝入ることが出来なかったのである。

 

『うん、推しの目が曇るのはいただけないな。じゃあ楽しい話に切り替えようか。君が眠れないなら、朝まで話そうよ』

 

 ニッコリ笑う疫病神にアクアはマジかコイツ。という視線を向ける。本気で言っていた。

 引きずり降ろされたら、よりタチが悪くなってないだろうか? そんなことを考えるが……眠れない以上アクアに逃げ場はなかった。

 

『さて、妹さんでもだめ。この様子なら、元カノさんや、君を好きな子……もとい君の推しでも駄目そうだね』

『元からあの二人に頼む気はない』

『あっ、やっぱりあの子のおっぱいがいいんだね?』

『……言い方』

『違わないでしょう? 実際めちゃくちゃ堪能してたくせに。最高すぎて頭が溶けそうになってたくせに。グラビアの雑誌まで買っちゃうくらい気に入ったんでしょう?』

『……うるさい』

『ハグとか。凄かったね。おっぱいが君の身体で潰れて、むぎゅぎゅ〜ってなって。君よく我慢出来たねぇ。恩がなければ、正直押し倒してたでしょアレ』

『………んなことするか。……出来るか』

『知ってるよ。写真集ないか……ググッてたよね? 目の前でググらないだけ妹よりはマシだけど』

『……頼むから本当に帰ってくれ』

 

 結局、朝まで少女はベランダに居座った。

 君たちに素敵な未来あれ。なんてもっともらしい言葉を残して去っていく姿は……やはりどう考えても疫病神そのものだった。

 ただ……本当に復讐は自分にはむいてなかったのだと改めて感じたのは確かでもある。理屈は分からないが、疫病神の言葉の端々に、そんなメッセージが込められていたように思えたのだ。

 それこそ、神のみぞ知ることだが……そもそも八百万もいるならば、絶対に意見も多数に分かれてそうなので、やはり当てにしないのが吉なのだろう。

 

 

 ※

 

 星野ルビーの目覚めは最高だった。

 好きな匂いがそばにあって、安心感もいっぱいで、あったかい。そりゃあ寝れるよね。なんて思いながら、ルビーは幸せな気分のまま、ベッドの中でグッと身体を伸ばす。

 兄は……アクアは眠れただろうか? そんな気持ちで彼女は顔をあげて……。

 

「おう、おはよう……ルビー」

 

 目の下にたっぷりくまを拵えた兄の顔と対面することになった。

 

「(ね、眠れなかったやつだー!)」

 

 あまりにも悲惨なアクアの姿に、流石にルビーは同情した。

 

「ね、眠れなかったの? 私が気づかなかっただけで悪夢見た?」

「……いや、何か単純に寝れなかった。ある意味で悪夢みたいなのは見たな。クソうるせーカラスの夢だ」

「お、お兄ちゃんが荒んでる……」

 

 原因は何だろう? あと、自分では駄目だったのが、何だか悲しくて、ルビーはシュンと下を向く。

 もしかしたら、守らなきゃと思われた? 悪夢見せる姿を見せたくない。見せたらルビーが悲しむ……そんな考えになってたのだろうか? アクアなら有り得そうだった。

 

「ごめんね。かえって疲れさせて……」

「いや、寧ろ連れ込んだの俺だからな。まぁ、兄としてみっともないとこ見せられないって本能が働いたのかもな」

「――っ! そんな本能捨てちまえーっ!」

 

 ポカポカとアクアに駄々っ子パンチを食らわせながら、ルビーはそのままアクアの胸に倒れ込む。しっかりと受け止めてくれる幸せを噛み締めながら、ルビーはアクアの顔を覗きこむ。

 

「過保護過ぎ。少しは、よりかかってよ。弱いとこ見たって、アクアはアクアで。嫌いになったりしないのに」

「余計なことは思い出させたくないんだよ。お前が笑ってるだけで、わりと俺は幸せなんだから」

「いや、お兄ちゃんごまかさないで。幸せと睡眠は別でしょうが」

「……急に正論で殴りつけてくるなよ」

 

 どうしたものか。この兄は。そう考えながらも、ルビーはこの兄を休ませる方法は一つだけなのかと察していた。

 チラリと自分の胸を見て、アクアの前で露骨にため息をつく。

 

「ハァ、やっぱり私のじゃダメなんだね。兄がおっぱい星人なのは複雑だけど……ホントに寝不足で星になられても困るしなぁ」

「いや、待て。お前までそんなこというのか!?」

「だって間違ってないでしょ。色んなこと試したけどダメ。可愛い妹でもダメ。つまり人肌も意味無し。ならもう……答えは一つじゃん」

「……ぐ、うぅ……」

 

 物凄く悔しそうに俯くアクアは少し珍しくてちょっと楽しい。

 まぁアレだ。多分兄の面倒くさい幸せ回避癖を治す近道は、そこにあると思うから。背中くらいは押してあげよう。

 ……後に色々な事情で複雑過ぎる気持ちになるとはいざ知らず、この時のルビーは純粋に兄の幸せの為に動いていた。

 

「みなみのおっぱいがなきゃ眠れなくなったなら、また頼むしかないんじゃない? 添い寝」

「添い寝を頼む……だけでいいだろ。何故わざわざ胸を言及する」

「……いや、私も味わったからわかるけど、アレマジで最高だったよ? もう言及しないと失礼だよ」

「…………」

「(あっ、ちょっと共感してる。……何かそれはそれでムカツクなぁ)」

 

 妹心は複雑だった。

 ペチンとアクアのおでこを指で弾いてから、ルビーはパタパタと部屋を出る。「朝ご飯作るから一緒に食べよ!」と伝えるのも忘れずに。

 今は苦しくても、いずれ大丈夫になる日はくるだろうから。だから自分はどこまでもいつも通りでいよう。

 あまりはっきりとは出さないが、一緒にご飯の一言で確かに嬉しそうな顔になったアクアを尻目に、ルビーは朝ご飯の献立を考えるのだった。

 

「(あっ、そうだ。みなみにラインしとこうかな)」

 

 お兄ちゃん、やっぱり寝れませんでした。という訳で、時々でいいので、うちのアクアを宜しくお願いします。

 追伸 エッチなことはダメだからね!

 

 ※

 

 寿みなみは自宅にてプルプルと震えていた。スマートフォンがラインの通知を受けて鳴動しているが、今はそれに注意を向ける余裕は無かった。

 朝からインターフォンが鳴った時は、何事かと思ったが……。オートロックのロビーに立っている人物の顔を見たら、眠気など一瞬で吹き飛んだ。

 そこにいたのはいつものスーツとは違い、ラフな格好で佇む、見覚えがありすぎる大人の女性がいたのだから。

 山根真理子。みなみの担当マネージャーである。

 

『み〜な〜みちゃん。遊びましょ〜……!』

 

 それなりに、みなみとマネージャーの付き合いは長い。だからこそ、わかることがある。

 

「(マ、マネージャー……めちゃくちゃ怒っとる〜!)」

 

 日曜日の朝から、みなみの受難は始まろうとしていた。

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