最終的におっぱいが全てを解決する   作:星組

27 / 48
ご飯にする? お風呂にする? それとも……

 部屋に気になる彼を招き入れたその瞬間に、寿みなみは悟ることになる。

 ああ、なんやウチ。想像の100倍はベタ惚れやん。

 アクアは寝不足や疲れ……他に何か心労でもあったのだろうか。弱った猟犬のような表情だった。

 でもそんな様子を見て癒やしてあげたい。何だってしてあげたいと思ってしまうのは……もう惚れた弱みというやつだろう。

 同時に少し前に電話越しに聞かされた言葉も思い出してしまう。

 会いたい。

 シンプルにそう告げられた時、みなみがどれほど嬉しくて、どれほど取り乱したのか……彼はきっと知らないだろう。

 慌ててお風呂に入り、肌を磨き上げ。全てのケアを終わらせた後のみなみは、実に30分程かけてアクアに見せる寝間着について頭を悩ませたりもしていた。

 夏場によく利用するキャミソールワンピは流石に露出が大胆すぎるので却下。オフショルダータイプのネグリジェも考えたが、それも狙いすぎな気がして日和ってしまった。

 前と同じコーデは、何となく嫌だ。結果みなみが選択したのは、シンプルなデザインで薄手な水色のパジャマだった。

 ただしボタンは一番上と、二番目を外しておく。

 三番目まで外してしまうと、完全に色々と見えてしまうので、わりとギリギリなラインでもある。……何処かのタイミングを見計らい、目の前で屈んでみせようか。なんて悪いことを考えてしまったのは、みなみだけの秘密である。

 

 尚、彼女は知る由もないが、アクアがみなみを一目見た瞬間に内心で頭を抱えていたので、この目論みは大成功であった。

『何故だ寿……男来るんだぞ……! 何で一番上まで止めとかないんだ……!』

 なんて嘆きをあげていたらしい。閑話休題。

 

 視線が一瞬だけ胸元と鎖骨に向けられたのを感じながら、みなみは静かにアクアを見上げる。アクアもまたその場で何も言わずに立ち尽くしていた。

 

「…………えっと、お兄さん、ドアを……」

「…………あ、ああ。すまん」

 

 玄関で出迎えたまま、見つめ合っていたが、流石にこのままでいるわけにはいかない。

 アクアが一歩踏み込んでドアを閉め、みなみもまた一歩アクアの方へ近づきつつ、部屋にロックをかける。

 カチャリという硬質な音と共に完全な二人きりの空間が作られた時、再び妙な沈黙がその場に流れた。

 間合いやタイミングを図るかのような早めの呼吸音だけが玄関で息づいている。さながら子どもを寝かしつけた後の若夫婦のような空気感。さっきまでいっそ火がつく程に見つめ合っていた癖に、今はアクアもみなみも視線を上げることが出来なかった。

 

「……お兄さん、お風呂は?」

「少し離れたとこの、スパ施設に。さっき寄ってきた」

「“次”からは、ウチの、使ってええよ。面倒やし風邪ひいたら大変やろ?」

「――っ、ああ、そうだな………あっ」

「お兄さん?」

「……何でもない。寿は?」

「ウチは、さっき入ったから大丈夫やで」

 

 微妙な距離のまま、玄関からリビングへ歩く。

「そうだな。じゃねぇだろ……」とアクアが小さく呟いていたのが聞こえたが、今まさに心臓が凄まじいことになっているみなみには、どういう意味か読み取る余裕は皆無だった。

 

「ご飯は?」

「俺は、風呂で寄ってきたとこに、食堂もあったから、入る前に」

「ええなぁ。そういった施設の食堂って贅沢しとる気分にならん?」

「まぁ、ちょっと分かるなそれ。……寿はもう食べたのか?」

「ウチもお兄さんから電話来てからね。多少時間かかる言うてたから……ご飯、一緒でもよかったかなぁ」

「作るなら遅くなってたし、食べに行くにしても風呂上がりに連れ回すのは……ちょっとな」

 

 短い廊下を経て二人は部屋に到着する。みなみはそのままベッドに腰掛けて、アクアは入ってきた途中で何を思ったか足を止めてその場で立ち尽くしていた。

 

「せやったら後は、寝るだけなんやな……」

「そう、だな……」

「じ、じゃあ……んっ」

 

 いつかのように、みなみが両手を広げる。

 少しだけ目を潤ませ、頬を染めながらもアクアを迎えようとする姿に……当の本人は今度こそ本当に頭を抱えた。

 

「寿ぃ……だからそういうとこだってあれほど……」

「……でも、間違うてへんやろ? 単純に前のお泊まりから寝れてへんなら、お兄さん今……めっちゃ疲れてるんちゃう?」

「それは……」

 

 図星だったのか、アクアが頬を引きつらせる。身体は既に限界に近く、睡眠を欲していた。

 にしてもちょっと無防備が過ぎるとアクアは物申したかったのだが……そのみなみが、既にアクアを部屋に入れた時点で色々な覚悟は終えているのまでは想像していなかった。

 因みに……。

 

「(アカン……前は何されても逃げられない。くらいの気持ちやったのに……今はアカン……! これ万が一お兄さんに迫られたら……ウチ、色々受け入れてまう……!)」

 

 自覚して、なんならマネージャーの前で宣言までしてみせたみなみは、実は既に暴走気味だった。

 例えば玄関からのやり取りが新婚三択っぽいと気づいて、一人密かに悶えていたりもした。……寿みなみは、かなりムッツリでもあるのだ。

 

 一方のアクアは、プルプルしながら待っているみなみの元へ、さながら花の蜜に誘われた蜂のように近づいていた。

 言わなければいけないことがあった筈なのに。アクアはそれを放棄した。もう今は一旦置いておこうという、雑な流しっぷりである。おっぱい……もとい眠気には勝てなかった。少なくともこの時点では。

 静かに、アクアはみなみの隣に腰掛けて、優しく彼女を引き寄せる。

 腕が回されて、みなみの顔がアクアの肩に埋もれると、アクアは頬をみなみの頭に乗せて二人は密着し合う。

 身体にピリピリとした優しい電流が走っていく。

 相手の匂いを肺いっぱいに取り込んで、酩酊に似た高揚感を得ながら、図らずもアクアとみなみは同じことを考えていた。

 ただのハグなのに、こんなにも嬉しくて、病みつきになりそうで……。

 

「……気持ち、ええわぁ……」

「…………そう、だな」

 

 そもそもアクアは眠りに来たのだ。そしてみなみは寝かしつけるつもりだったのだ。

 抱き合うなら横になってからすればいい。つまりこうしてベッドに入らずにくっついている時点で、まさに本末転倒なのだが……。残念ながらツッコミを入れてくれる存在はこの場にいなかった。

 

「ホンマに? お兄さんも?」

「ああ」

「えへへ……嬉しい。ウチもお兄さんの身体、めっちゃ気持ちいい〜……」

「…………」

 

 内心でアクアが「ハグだ。ハグが気持ちいいんだ」と念仏が如く唱えているなどいざ知らず、みなみはへにゃへにゃと自分の身体から力が抜けていくのが分かった。

 ただ、一応アクアを寝かせるという使命は忘れてはいなかったらしい。横になる意志は存在し、このままゴロンとしよう。くらいの軽い気持ちで、彼女は重心を後ろに倒した。

 反対にアクアは、煩悩退散をまさしく体現した状態であること。度重なる疲労や睡眠不足により、与えられた引力には逆らえなかった。

 後ろに行くみなみと、そのまま引っ張られたアクア。

 結果、事故は起こる。

 

「あっ――」

「ひゃん! ――っ!?」

 

 折り重なるようにして、二人は倒れ込み、ベッドのスプリングが音を立てた。

 身体ごとアクアに押し潰される形になってしまい、みなみは軽いパニックに陥りながらも、ベッドに沈んだ刹那、稲妻の如く身体を突き抜けた未知の感覚に身を焦がしていた。

 

「す、すまん!」

「んっ……平気やから。電気……消しますね」

 

 慌て飛び退きかけたアクアが逃げないようにしがみつきながら、みなみは枕元に手を伸ばし、部屋の照明リモコンを操作する。

 明かりが消えて暗闇が立ち込める。耳に入るのは夜の独特な喧騒のみ。

 二人はしばらくの間、体勢をそのままで動かずにいた。

 

「寿? 流石に重いだろ。横向きで寝ないか?」

「…………」

「……寿? どうした?」

「……あっ、すんません。何か……新鮮で」

「新鮮?」

「お兄さんは普段その、ウチの胸に顔埋めたりはするけど、それ以外で横になる時って、基本ウチがお兄さんに身体預けるやろ?」

「……そうだな」

 

 改めておっぱい枕で寝ている事実を本人に突きつけられて、なかなかにくるものを感じているアクアだが、みなみはお構いなしに話を続ける。

 

「せやから……何かこうやって、身体全体でお兄さんに覆いかぶさられると……ちょっとドキドキするねん」

「…………」

 

 うっとりしたような声色で、その上でアクアのたくましさを確かめるように、みなみはペタペタとアクアの背中や腕に触れる。そして――。

 再びその腕が、アクアを捕まえた。

 

「…………」

「…………っ」

 

 無言の時間が再び訪れる。ただ、アクアの手は未だにみなみを抱きすくめたままだった。引っこ抜くタイミングを完全に失ったともいう。

 顔が近い。みなみは頭に。アクアは首下に相手の吐息を生々しく感じていた。それは鼓動と共に徐々に早くなっていき……少しずつ、探りを入れ合うかのように二人は力を込めていく。

 

「……ぐっ……」

「んっ……ぁ……」

 

 電気を消していなかったら……どちらかが冷静になっていたかもしれなかった。だが、前回もそうだったが、真っ暗闇は二人にとっては免罪符となってしまっていた。

 

「……こと、ぶき……」

「お兄……さぁん……」

 

 切なげなアクアの声にみなみはたまらなくなり。

 甘えるようなみなみの囁きがアクアの理性を容赦なく削っていく。

 ぐしぐしと彼の胸板にみなみが頬ずりすれば、アクアは彼女の髪に顔を埋めた。

 双方の唇が時々服ごしの肌や髪をかすめるのは気が付かないふりをする。明らかにマズいラインのギリギリを責め合う二人は、当初の目的を既に忘れていた。

 そのまま完全に中毒なレベルで好きになった激しいハグを交わす。

 より密着感を求めて二人が身をよじれば、重なった身体の影響で、ベッドがギシギシと軋みを上げた。

 繰り返すが、電気がついていたらこの意味深な音でどちらも冷静になれていただろう。だが――。

 

「あっ……お兄さ……もっとぉ……」

「…………ああ、クソッ……!」

「へ? ……はうぅっ!?」

「……苦しかったら、言え」

「――っ! は、はいっ……!」

 

 残念ながら、それは今のアクアとみなみには、ただのスパイスにしかならなかった。

 身体をずらし、頬と頬をぴたりとくっつけて、いっそ痛いくらいに抱きしめ合う二人の理性はもう焼ききれる寸前だった。

 

『いやもう完全にこれ! セックスやんけぇ!』

 

 ……因みに寸前とは正常であるということを意味しない。要するに、もうお互いの思考がぐちゃぐちゃになっていた。

 結果、駄目になったみなみの脳内では、マネージャーが血涙を流しながら叫ぶのが見えていた。

 

「(ち、ちゃうねん! ちょっとお兄さんが、素敵なせいでハグが情熱的になっただけで……ウチ悪くないもん!)」

『あと、言い回しもねぇ! アレだけ気をつけろって言ったでしょうがぁ!』

「(わ、わざとやないねん! ちょっとドキドキして欲しいとかは思ったけど……ホントにわざとやないねん! ただ……ただ――)」

 

 好きな人からの強烈なスキンシップは、恋する乙女には猛毒そのものであった。その弊害がイマジナリーマネージャーへの脳内弁明なのだが、いっぱいいっぱいな彼女にはもうどうしようもなかった。

 

「ずっと……こう、したかった……またギュッてして……欲しかったのっ……お兄、さぁん……」

 

 うわ言のような、されど真っ直ぐな気持ちがアクアに叩きつけられる。

 それを聞いたアクアは少しだけ目を見開いて……やがて、何かを噛みしめるように瞼を閉じた。

 

「俺もだ……寿……。俺も、あの夜からずっと……こうしたかった……“こうしていたかった”」

 

 もっとくっつきたい気持ちに任せて、アクアとみなみは身体を絡み合わせる。

 ……結局。二人が我に返ったのはそこから一時間以上後のこと。

 その間、妙に軋むベッドの音は鳴り止まず。年頃な男女の甘い吐息や、互いを愛しげに呼ぶ声だけが、真っ暗な部屋の中を満たし続けていた。

 

 ※

 

 乱れに乱れたベッドの上で、星野アクアと寿みなみは猛省していた。考えることは一緒のこと。すなわち――。

 

「(やってしまった……)」

「(やってもうたわ……)」

 

 あの後、今度はみなみがアクアに覆いかぶさる形でハグ。

 体勢を入れ替えて、横向きでハグ。後ろからハグ(みなみリクエスト)。安定のおっぱい枕。他色々。

 気がつけば、汗だくで息は切らしているが、何かツヤツヤしてる二人が完成していた。

 

「スマン。本当にスマン」

「あ、謝るのはウチの方やで……お兄さん、疲れてはるのに……あんな……いっぱい……激しく……」

「寿、言い方。言い方がマズい。……何だろうな。身体は眠い筈なんだけど、妙に目が冴えて……」

「ウチも、何かテンション上がってもうて……。も〜。お兄さんのせいやで?」

「いや、俺のせいかよ。寿だってだいぶ……アレだったぞ?」

 

 因みにこの会話の最中も二人はピタリと寄り添いあったままである。アクアの腕枕に安心した様子で、みなみは柔らかなその身体を恋した男に委ねていた。

 ……有馬かなが宇宙を知る顔になること間違いなしな状況である。

 

「(…………もう、駄目なんだな)」

 

 内心で投げやりになりながら、アクアはぼんやりと天井を眺める。目が冴える理由も何となくわかる。つまるところ、あんなに最後と決意しておきながら、身体は未練がましくもこの安らかな時間が終わることを拒否しているのだ。

 いいや、理屈を捏ねるのはよそう。星野アクアは、きっと――。

 

「お兄さんが何考えてはるか、当ててみてもいい?」

「……え?」

 

 不意に柔らかい指が、チョンチョンとアクアの頬をつつく。部屋は暗いままなので、みなみの表情を窺い知ることは出来ないが、アクアは何となく、声色から真剣さを感じ取っていた。

 

「ウチに迷惑がかかるとか、その辺の理由で、来るのは最後にしようとか……思ってるんやろ?」

「なん、で……」

「こうしていたかった……なんて言うんやもん……それに、何だか時々声に元気もなかったし」

 

 存外に自分はわかりやすかったのかとアクアは密かに落ち込んだ。いや、この場合アクアの何気ない言葉を拾ってみせたみなみが凄いのか。多分両方だろう。

 

「お兄さんは……ウチと一緒にいるの、嫌なん?」

「……そうじゃ、ない。ただ……」

「ウチが迷惑に思ってないことは……お兄さんもわかるやろ?」

「……っ」

「そうやなかったらウチ、内心では嫌がりながらお兄さんとハグして、おっぱいもあげたことになるんやけど」

 

 その言い方だと俺がみなみに授乳されたみたいになるのだが? と反論しそうになるが、元から結構なことをやらかしていたので、アクアは口を噤むことにした。

 言うべきなのは、これからのこと。即ち……。

 

「これから先で……色々と無茶をする必要が出てきたんだ。寿個人が迷惑に思わなくても……何度も訪問してしまうのは……流石にな」

「何度も訪問したら、アカンの?」

「俺が先にする選択次第で、これまた俺の状態次第だが……時期によっては毎日とかも有り得てしまうんだ。それは……」

「……ん〜と、何か問題あるん?」

「……えっ?」

「……えっ?」

 

 気まずい沈黙がその場を支配する。アクアは混乱していた。

 いや、何でだ。明らかに迷惑で……。

 そこまで思った所で、微かに深呼吸する気配がしたかと思うと、急にみなみが離れていき……。

 

「電気つけるで〜。眩しいから目は塞ごな〜」

 

 不意討ちのような形で、甘い焼き菓子の香りがする、柔らかいもので顔全体が包みこまれた。

 おっぱいだった。おっぱいアイマスクである。

 大きすぎて目どころか顔面全部が埋まっているのはともかく、まさかの急な照明対策に使われる日がくるとは予想外過ぎた。

 

「…………何故こうなる」

「すんません、何かあまりにもお兄さんが……アレで……だから……ノリ?」

「お前のエセ関西弁じゃないんだぞ」

 

 ふわりと離れたみなみの顔は、ほんのりと朱に染まっている。恥ずかしいならやるなよと思いつつも、何の考えもなしにこういうことをするタイプではないと思っているので、アクアは「んん?」と首を傾げていた。

 あと、全くの余談だが、その感触は至高であった。

 

「お兄さん、ウチの胸好きみたいやから、喜ぶかと思うて」

「いや、待て。ちょっと待て。寿、お前までそれを言うか」

「でも、ウチが巻頭グラビアのミドジャン買ってくれはったし。もしかして勘違い、やったんやろか? ……嬉しかったんやけどなぁ……」

「うっ……ぐ……ぅ……」

 

 アクアは迷った。どう伝えるべきか。というか、かのミドジャンの購入は自然と流せたと思っていたが、そんなことはなかったらしい。

 まさか本人から話題をぶっ込まれるとはアクアも予想していなかった。

 

「……急にたくましくなるなよ。元から頼もしくはあるけども」

「そんなことあらへんよ。今、訳あってめっちゃ勇気振り絞ってる……途中やねん」

「勇気?」

「まぁそれはまだ置いとき。……ねぇ、お兄さん。内緒で教えて? ウチの胸……好き? それとも、おっぱいって言い方がええんやろか?」

 

 寿ィ! だからそういうとこだって言ってるだろ! と、アクアは内心で荒ぶりながらも、逃げられそうにないことを悟っていた。

 多分何かの話の前振りなんだろうな。そう考えながら、アクアは慎重に言葉を紡ぐことにした。

 

「興味を、抱いているのは事実だ。ただ、それは胸だけじゃなくて……その、グラビアモデルの寿みなみ個人にだ。君に助けられたから、気がついたら買っていたってのもある」

「……そっか。好きって訳やないんやね」

「それは……」

「……ん〜?」

「他の、その辺の奴らに比べたら、そりゃあ好きって範疇には間違いなく入るというか……」

「――っ! そっか! えへへ……そっかぁ……!」

 

 誘導尋問じゃねぇか。という抗議の視線を笑っていなしながら、みなみはベッドから降りると、そのままリビングの本棚から一冊の雑誌を引っ張り出してくる。

 取り出されたのは女性誌の一つ。グラビアには……こちらを振り返るような構図のみなみが載せられていた。

 

「これは?」

「最近のお仕事〜。来週発売なんよ。これは見本誌やねん」

「へぇ〜。……可愛いドレスだな」

「……ありがとう、お兄さん。これな。ウチにとっては新しく開拓した写真なんよ。表情だとか、色々な……」

 

 何処か誇らしげに話すみなみを横目に見ながら、アクアはもう一度雑誌の表紙を見る。残念ながら、みなみが過去にグラビアを飾っていた雑誌は持っていないので、比較は難しい。

 だが、みなみが言うならきっと何か特別な……。

 

「これな。お兄さんのお陰で、出来るようになったんやで?」

「…………えっ?」

 

 思わず彼女の方を見る。視線が交わされて、途端にアクアの胸は……心臓は、一際力強く拍動した。

 何故か目が奪われる。吸い込まれそうなと評するに相応しい何かが、みなみから発せられているのだけが、辛うじて理解できた。

 

「お兄さん、わからへんみたいだから、全部言うで? 迷惑やなんて思うたことない。嫌やったら、二人きりの部屋でお泊まりする訳ないやろ。抱きしめ合って、離れたくなくなる訳……ないやろ」

 

 みなみの声が震えている。勇気を振り絞る。その意味や、これから口にされる言葉をアクアが理解した時には……もう遅かった。

 

「今度モーニング食べに行こういわれて、喜ぶんやで? 耳元で囁かれただけで、ダメになりそうになるねん。ちょっとだけ、エッチな目で見てほしくて、胸押し当てたり、ボタン開けたり。キャミソール、着たりしてたんやで。……顔、くっつける時、唇当ててたの……本当は気づいてたやろ?」

 

 口が乾き、身体が震える。恐怖ではない。緊張と……多分これは、喜びなのだろう。そう気づいたら、アクアは拳を無意識で握りしめ、必死に言葉を繋げるみなみを見つめていた。

 

「カメラマンさんに言われたことをイメージして撮影したのが、そのグラビアやねん。その時ウチの想像にはな……お兄さんがいたんやで? 何て、言われたと思います?」

 

 可愛らしく首を傾げながら、みなみは悪戯っぽく笑う。

 アクアはただ「何て言われたんだ?」としか答えられなかった。

 

「……前にここでゴロゴロしながら話したの、思い出して。“ウチが関西弁話し始めた理由やで”」

「それって確か……」

「そんでカメラマンさんには……目線の先に彼氏や、好きな人がいるって感じの表情でお願い! やったんよ」

 

 聞いたのは、彼女が幼少期の話だった。それによれば、彼女がエセ関西弁を始めたきっかけは……。

 だが、アクアはすぐに思い出すのをやめた。そんなことよりも、目の前の少女から、こっちを見て! というエネルギーを感じたからだ。

 

「あんな、もう気づいてるやろ? ……ウチ、アクアさんのこと……めっちゃ好きやで」




みなみちゃんの「めっちゃ好きやで」を聞きたい方は『推しらじ』のみなみちゃん(中の人)ゲスト回を聞きましょう。飛ぶぞ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。